10「神の世界から帰ってきて」
悠陽とのデートを終えて、戻って来ると、まだそんなに遅い時間じゃないものの、ミズキとリリアは、既に床についていて、起きて待っていてくれたのは、
ジャンヌさんとベル、そしてイヴだけだった。
そんなベルは、不機嫌そうに、
「創造主とのデートは楽しかったですか?」
と言って来た。俺が出かけた後、
ジャンヌさんは、創造主の事が話せるようになったので、そこで聞いたらしい。
「まあ、楽しかった……」
するとジャンヌさんは、
「それにしても、浮かない顔をしてるわね」
「実は……」
俺は、悠陽から聞いた俺の本来の体の事を話す。
「そんな事が……私は、あの時、暗黒神の復活を察知して、
神の領域で、確認はしたけど、貴方の方に集中していたから、
そっちの方は見てなかった」
そしてベルは、驚いたように、
「じゃあ、刃条君も生きているって事になりますよね。
それにナナシが囲っているという事は……」
彼女も、俺と同じ考えに達したようだった。
「とにかく戻ってから、雨宮とも相談しようと思う」
ジャンヌさんは、
「明日だけど、早々に帰る?」
「そうしたいですけど、急いで戻っても意味はないようですし、
今後、雨宮に迷惑をかけるかもしれないんで、
それで、お土産でも買っていこうかと……」
「そう、じゃあ予定通りね」
実は最終日は、お土産を買ってから帰る予定になっていた。
俺の本来の体の事は、戻ってからという事にして、話題を変えて創造主の事に、
「それにしても、創造主様って、あのような姿をしてるんですね。
なんか思っていたのと違うというか」
実は最初に悠陽の正体に気づいた時も、「まさか」と思ったくらいだった。
するとジャンヌさんは、
「もしかして、創造主様から聞かなったの?」
「何の事ですか?」
「創造主様は姿を自在に変える事ができるの。
私が最初に会った時は、立派な髭を携えた男の姿だったわ」
「えっ?」
しかも姿に合わせて、口調や仕草も変えるらしい。
ただ気配は変わらないので、神々は見た目は変わっていても、
創造主である事は、分かるという。
俺は初対面で、気配を覚えていなかったから、分からなかった。
「ただ、創造主様の本来の姿を知っている神は、殆どいないみたいね」
なお、創造主はその時の気分に合わせて、姿を変えているらしい。
あの姿も、そう言う気分だったという事になる。
「まあ、あの方は、気まぐれで周りを振り回す事が多いから、
今回もその一環ね。そんなに迷惑は掛からないんだけど」
今回のデートもその気まぐれなのは、分かっている事だった。
翌日、お土産を買うために、ショッピングモールに来ていた。
ここで売っているものは世界の外に持って行っても問題ない。
そして、お土産コーナーで商品を物色する。見た感じ日本のものから、海外のもの、
ファンタテーラで見かけたようなファンタジックなものもあるが、
これは、ここでわざわざ買っていくものじゃないだろう。
(やっぱり和菓子かな、洋菓子もいいかな)
雨宮は、羊羹とか饅頭といった和菓子も好きだが、
カステラといった洋菓子も好きだ。
ファンタテーラでも、俺たちの世界から持ち込まれる形で、
和菓子や洋菓子は売っているけど、
ナアザの街では和菓子はあまり売ってないし、
洋菓子はケーキ類がメインでカステラとかは売っていない。
ともかく俺よりも異世界生活が長い雨宮には、
俺たちの世界の物が懐かしくて喜ばれるだろうと思い。
和菓子は特に雨宮の好物だった薄皮饅頭やどら焼きに、そしてあんころ餅。
(まさか伊勢名物があるとは……)
と思いながら買う。
洋菓子系はカステラに、
これも雨宮や、俺も好きなクリームを挟んである洋風煎餅。
他にもいろいろ売ってたけど、洋菓子系はナアザの街でも手に入るのが多いので、
これくらいにしておいた。
あと雨宮だけじゃなくて、
(ルリさんや公爵婦人にも買っていくか)
前にお世話になったルリさんや普段から世話になっている公爵婦人にも、
買っていくことにした。ただ事情が分かっているルリさんはともかく、
事情を知らない公爵婦人は、渡すときに一工夫いるだろうが。
とりあえずお土産を買って、それとは別にふと思い立ってお菓子売り場に行った。
そこには、数多世界のお菓子が並んでいて、
俺たちの世界のお菓子もあった。こっちの世界に来て所為で、
長い事食べてないものがあったのと、こういうのも雨宮に喜ばれそうだと思い、
ポテトチップスに、チョコ菓子、ソフトキャンディーなどを買い込んだ。
買い物を終えた後、その足で俺たちは元の世界に帰る事にした。
なお荷物は、宝物庫や各自の収納空間に入れている。
そして、来た時とように皆と手をつなぐと、
「待って」
と声を掛けられた。声の方には創造主こと悠陽の姿があった。
「見送りに来たの」
タイミングが良いのは、やはり全知全能故だろうか。
「悠陽……いや創造主様と言うべきか」
「悠陽でいいわよ。これからもあなたの前では、この姿で行くから」
と言いつつ、
「また来なさいよ」
「ええ、機会があれば」
と俺が答え、そしてジャンヌさんが、
「それでは、さようなら。創造主様」
そして俺たちは、神の領域に移動し、ファンタテーラに戻って来た。
神の世界で一週間だが、この世界では出発してから、一秒もたっていないのに、
俺の気持ち的なものだけど、街が以前と違っているように見えた。
その後、雨宮の元に、丁度手が開いている時間に向かった。
「わざわざ、ありがとうな」
持って来たお土産を喜んでくれた。
土産用のお菓子はもちろんだが、一番喜んでくれたのは、
お菓子売り場のお菓子だった。
「ポテトチップスも、この世界にはあるけど、やっぱり、この味が一番だな」
と懐かし気に言う。
そしてお菓子を食べながら、神の世界の話をした。
主に出会った神々の事や、悠陽こと創造主とのデートの事とかだ。
更に買った本も二人で読んだ。
「面白いけど、なんか生々しいな」
雨宮の人生は、異世界転移ものを地で行ってるわけだし、
また知り合いには、異世界転生ものを地で行く人もいるし、
この手の異世界ものは、雨宮にとっては、
いや、俺にとってもリアルな話なのかもしれない。
「この手の話が、将来的に流行るというなら、
俺の体験談を書いたら売れたりしてな」
「ありえそうだな。タイトルは、この手の作品の様に、長々しくなるかな」
と言うと、雨宮は笑いながら、
「まあ、書くつもりないけどな」
と言った。
ここまでは、楽しい話をしていたが、本題に入る事にした。
悠陽から聞いた自分自身の肉体も取り込むことで、神の力が高まる事を話しつつ、
俺の本来の肉体が生きていることを話した。
生贄転生に詳しい雨宮なら、そこから刃条が生きていることは、察したようだが、
「そうか……」
雨宮は深刻そうな顔をしたものの、驚いた様子は見せなかった。
「まさか、お前……」
「すまない。実は知っていた」
と前置きしつつ、
「実は、以前駅で、刃条と同じ気配を持つ奴とすれ違った。
しかも、そいつは、俺の本名を知っていた。間違いなく刃条だ。
体はお前の体だろうが」
そして俺はさらに言った。
「そいつは、仮面をかぶってなかったか?」
「ああ……和樹、お前……」
「ナナシが匿っているって聞いて、
それに奴は俺の事を知っていたから、もしかしたらって思ったんだ」
と言いつつ、
「雨宮、お前がすれ違ったのは、ジム・ブレイドだな?」
「俺も直接会ったことが無いから、正直確証はない。
ただお前から聞いた話から、そうなんじゃないかと思うくらいだ」
と言った。
そして雨宮は、頭を下げて、
「黙ってて、済まなかった。事が事だけに、
話しづらかったんだ。ジムだと気づいてからは余計にな」
「気にするなよ。俺もお前の立場なら、間違いなく話せなかった」
俺より勇気がありそうな雨宮でこれなら、
もし俺が同じ立場なら、余計にはなせないだろう。
そう思うと雨宮を責める事は出来ない。
それはともかくジムの正体は、先代の暗黒神、
つまり刃条のようだった。そう思えば、俺の事を知るのも、
フレイの事を知っていたのも合点がいく。
密告の事はナナシに聞いたか、
「借用の儀」の仕様を知っていたかのどちらかだろう。
あと暗黒教団にて短期間で、のし上がったのも、
元暗黒神と言うなら、封印されながらも繋がりはあったんのだから、
組織の内情について知っていて、それを利用したに違いない。
「奴が仮面をかぶっているのは、俺の顔が嫌だったことかな」
「アイツ、お前の事を嫌ってたからな」
それこそ殺したい程にな。
「それに、レベッカが嫌っている事もあるのかもな」
レベッカこと雨月史恵は、魔装軍団、つまりはジムの元にいた。
それはかつての彼女だったからに、自分の手元に置いたに違いない。
そして俺の顔で接触したら、拒否されるのは分かっていたから、
そう言う意味でも仮面をかぶっているのだろう。
そして雨宮は、
「しかし、なんで体が蘇ったんだろ?」
「創造主様でも分からない事だから、何とも言えないけど」
「起き上がってくる瞬間は、見れたんだから、
ナナシの関与はないんじゃないか?」
もしナナシの仕業なら、起き上がる段階から、隠していたはずだからという。
「可能性としては、力の一部が一緒に移った可能性がある」
生贄転生では、悪魔が人間と入れ替わった際に、力の一部が、僅かだが、
移る事があるという。それが作用して体が蘇生したんじゃないかという事だが、
あくまで可能性だし、暗黒神の力がどう作用して、
蘇生に繋がったかは分からないという。
復活の謎については、この際置いておくとして、
「とにかくナナシに勝つには、ジムとやり合わなければいけないって事か」
と言う雨宮に、
「体の事が無くても、やり合う事になるのは目に見えてるがな。
まあ、粛清官に任せっぱなしにしたいけど、
向こうから来るんじゃ、どうしようもないしな」
と俺が言うと、
「まあ、今後も何かあったら俺も手伝うよ」
「すまないな」
「いいんだよ。俺とお前の仲なんだから」
とにかく今後も、雨宮は手伝ってくれそうだが、
ただ、今後も楽ができそうにないようだった。
蛇足だけど、お土産はルリさんと公爵婦人にも届けた。
ルリさんは、神の世界の事も知っていて、そのままでよかったが、
公爵婦人は、そうもいかないので、別に入れ物を用意し、
旅行に行って来たと誤魔化した。
二人とも、お土産を喜んでくれた。
公爵婦人の方は、使用人の分も買っていき、そちらの方も好評だった。
そして公爵夫人は、日本茶を好むので、買っていったお土産は、
ちょうど日本茶とよく合うので、
「珍しい上、中々おいしいお菓子ですね。ありがとうございます」
とお礼を言われた。
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