9「創造主」

 俺の質問に対し


「どうしてわかったか、聞いていい?」

「みんなの様子を見ていれば、一つ上の存在だってわかる。

あと、みんな貴方の事を話せないって言うのが決定的でした」


ただ口留めじゃなく、なんだかの特殊な力が作用している。

神々に、そんな事ができるのは、神々にとっての神、創造主しかない。


「なるほどね」


と言いつつ、不敵な笑みを維持する。


「それより質問に答えてくれます?どうしてデートを、

もしかしてデートを通して、俺の人となりを知りたかったのか?」

「そんなものは、分かってるわ。と言うかデートくらいで、

分かるわけないでしょ」


そりゃそうか。


「ただ、貴方とデートしたかっただけよ」

「それだけ?」

「そうよ」


神様の気まぐれと言ったところか。


 それにしてもこの状況、まあ今日一日チャンスはあったけど、

今がその時な気がして、質問してみようと思った。


「なんで、世界を創造しようと?」

「それに関しては、本能としか言いようがないわね。

何もない所から生まれて、何をしていいか分からなかった私は、

本能の赴くままに世界を生み出し、生きとし生けるもの生み出した」


そして生まれた生き物が、神だという。

正確には創造主が、創りだすものは、人間から見れば、すべて神になってしまう。

それと、生きとし生けるものとの事だが、意思を持つものと言う意味であり、

生物以外も含まれるとの事。また意思を持たない宿し神も、この時生まれたとの事。


「物心つくようになってからは、自制しているわよ。

今は神が死んだ時と、私が見込んだ人間を転生させる時、

あとは、ものづくりね」

「ものづくり?」

「武器とか、機械とか、芸術品とかね。

まあフルスクラッチのプラモづくりのようなものね」


神殺しの武器やシスターナイが使っていたロボなど、

意思を持たない神と言うのが、それらしい。

本人はプラモづくりだろうが、創造主の強大な力故に、

創られるのはプラモどころの物ではないが。


「きちんと保管はしていたんだけど、奴に持っていかれるとは思わなかったわ」


と悔し気に言う。


 そして話は変わって、


「俺の人となりは分かっているとの事ですけど、粛清官から聞いたのですか」

「いいえ、私は全てを見る事ができるから、それであなたの事を知ったの。

因みに今日の会議の状況も把握しているわ。結論は出なかったみたいだけど」


正に全知全能の神と言うところ。


「でも、ナナシの奴は私の目を逃れる術を身につけてしまった上、

それを、仲のいい神に教えたもんだから、奴らの悪事は把握できないのよ」


と悔しそうに言う。あのナナシと仲良しなのだから、

当然、ロクデナシだ。ともかく、創造主が把握できないゆえに、

粛清官達が動き回らなければならない。

なお神は気配で、相手を判断する為、顔は覚えていないとの事で、

気配も誤魔化しているだろうから、探すのは大変らしい。


 それと粛清官のもう一つの必要性としては、


「正直、私が直接手を下してやりたいんだけど、

私の『能力調整』はこの世界でしか作用できないの」


現在も、『能力調整』で力を抑えているとの事だが、

神の世界の外に出ると、フルパワーになってしまい、

そのままだとナナシを滅ぼそうにも、多く世界ごと滅ぼしかねないという。

だから粛清官が代わりに神罰を執行する必要が有るという。


 この時、ゴンドラは頂上まで行き、街の全貌が見えた。

都会の街並みと言った感じで、神々の世界と言う感じはない。


「ちょっと拍子抜けしたでしょ?」

「まぁ……でも懐かしいですし、いい風景ですよ」

「そう言ってくれれば、創った私としては、嬉しんだけどね」


と言って笑いつつ、


「この世界は、私にとって大事な場所。それは神々とて同じこと、

だからみんなには、自由でいて欲しいし、争い合って潰し合ってほしくない」


故に「他の神に危害を加えない」と言う掟がある。

絶対的な、まさしく鉄の掟であるけど、

自由でいて欲しいゆえに、多少の許容範囲があって、

例えば、互いが合意の上での手合わせとかなら、

多少の怪我を負わせてしまっても危害を加えたとはならない。

ただしナナシは許容範囲さえも遥かに超えた存在なので、

完全な処罰対象で、情のようなものも無くなったという。

その為、ナナシを殺しても掟に抵触しない。


 更に悠陽は、


「それと、貴方たち人間を含めた知的生物も大事に思ってるわよ。

神々が創り出すものもまた、私の流れを汲んでいるんだから」


故に、お眼鏡にかなう者たちを神に転生させていると言う。


「だからこそ、その両方を傷つける。ナナシは許せない……」


と低い声で言った後、


「ナナシの事に関しては、出来る限り粛清官に任せておきなさい。

まあ、向こうからやってくるわけでから、無視できないのは分かるけど、

せめて、こっちから打って出るような真似はやめなさい」

「俺は基本、楽したいんで、そう言う面倒な事はしませんよ」

「その『楽がしたい』が為に、必死になる事があるじゃない。

ナナシを倒せば、楽できるわよね」


確かに、俺はナナシをどうにかしたいという思いを抱いている。


「でもね、ナナシは例え、光明神の力を借りたとしても倒せる存在じゃないの。

つまり、貴方に勝ち目はないのよ」


神にとっての神である創造主の言葉故に、その言葉はかなり重かった。


「言っとくけど『やってみなきゃわからない』のレベルは越えているわ。

無謀中の無謀よ」

「………」


その言葉に返せる言葉はなかった。


 やがて、ゴンドラが下降してくると、ここからは何故か神の会話で


『でも、手がない訳じゃない』

『えっ?』

『それこそ、やってみなきゃわからないんだけど……』


すると彼女の俺の目を見て、


『アナタが自分の体を取り戻せば、どうにかなるかもしれない』

『取り戻す……』

『正確には、今の貴方は暗黒神の中に魂が入っている状態だけど、

そこに体も取り込むの』


そして、


『それができれば、神の力が飛躍的に高まるから、

かつて転生石となったアイツの様に』


転生石を生み出した神も、元は人間で意思なき神に取り込まれて、

神となった。しかも俺とは違って肉体も取り込まれたという。

ただこれができるのは、意思なき神だからできる事らしい。

あと他人の体ではできないし、そもそも取り込めない


 ナナシに勝つために必要な事がわかった。


『でも、俺の体はもう……』


ミズキの隠れ家には、残ってなかったし、もうあれからだいぶ経っているから、

既に朽ちているはずだ。


『多少朽ちていても大丈夫と言いたいけど、

それ以前に、貴方の肉体は生きているわ』

『え!』

『貴方が暗黒神になって、あの場を離れた後、

貴方の肉体が起き上がったのを確認しているの。

一時的な物じゃないわよ。生きている気配を感じたから。

でも、その後の所在は分からないわ。多分ナナシが匿ってるんだと思う』


ここまでの話は神の会話なので、嘘はない。

なぜ生きているかは、所在不明になったせいで分からないという。

ただ俺の体が、まだ生きている。

それだけでも驚きだが、それはある恐るべき事実を意味していた。


 ここでゴンドラが、地上に到着した。ゴンドラから降りた後、


『先代の暗黒神は生きている……』

『ええ、彼の魂は貴方の元の体にいる』


神でなくなったから、何かするつもりはないし、

粛清官にもこの事実は伝えていないらしい。ここからは普通の会話で。


「どうやら、デートどころじゃなくなったみたいね。

でも、まだデートは終わりじゃないからね。

それに、時間の流れが変わってるから、慌てて帰る意味もないしね」


確かに、この世界に来ている間はファンタテーラの時間がほぼ止まっている。

この時間の流れには神であっても逆らえないから、急いで戻る必要はない。


 その後もデートは続いて、レストランでの食事や、

ゲームセンターで遊んだりしたが、先代の暗黒神の事が気になって、

心から楽しめずにいた。そして、


「今日は付き合ってくれてありがと、ナナシに関しては色々大変だろうけど、

まあがんばって」


と言いつつも、


「粛清官に任せて、楽してくれていいからね。じゃあ」


と言って背を向けて立ち去ろうとするが、突然足を止めて、


「そうだ」


何かを思い出したように、振り向き、転移で目の前に来て、

そのままキスをした。


「やっぱり、デートの締めはキスよね。それじゃあ」


そう言って、今度こそ立ち去って行った。


 こうして、人生初めてのデートは終わったが、

刃条の事があって、余韻に浸る事は出来なかった。

それに、ナナシが匿っているという事実から、


(まさか奴が)


一つの可能性に辿り着いたのだった。

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