第26話「ミズキと血縁者」

1「製薬の魔女」

 暗黒教団の施設にジムの姿があった。

彼は階段をゆっくりとした足取りで降りている。

そして階段を下りた先にあるのは牢で、女性らしき人物が捕まっている。


「しかし、こんな所に幽閉していたとはな」


彼は、この施設を所有していた神官が異端審問官に捕まったので、

施設の処分の為にここに来ていた。

ただ使えそうなものは貰えることになっていた。

しかし施設内は、大したものは置いておらず。

どうやらこの女性を閉じ込めておくためだけの施設のようだった。


(しかし、神の子を産んだとはいえ裏切者の女を今日まで生かしておくとは、

しかも、斬撃の魔女の力を借りてまで……)


ジムは所有者の強い執着を感じていた。


(しかし、此奴は使えそうだな)


そしてジムは牢屋に向かって、


「お前、まだ娘に会いたいか?」


と問いかけた。その声を聞くと、囚われの女性は顔を上げた。

そしてジムは仮面の下で邪悪な笑みを浮かべた。







 その日も、仕事帰りにベルと一緒にinterwineに行ったのだが、

店に入るなり雨宮から、


「ちょうどよかった」

「なんだ、雨宮?」

「実は、今さっき手紙が届いてな。ちょっとこっち来てくれるか?」


雨宮は俺を、スタッフルームに誘った。因みにベルも付いて来る。


 そしてスタッフルームに入ると、

雨宮は封筒を見せ中から手紙を出してくると、


「これは、メディスさんからの手紙だ」

「その人ってミズキの祖母かも知れないっていう」

「そう……そのメディスさんがこっちに来るんだって」

「なんで?」

「旅行だってさ」


雨宮の話では二週間後にこっちに来るらしい。

なお手紙は宿の予約を頼む手紙でもある。


 ちなみにメディスと言う人は、前に王女が呪いを掛けられた時に、

この国に来ていたという。その時は本国で用事があるとかで、

王女が治ったら、早々に帰ったそうだが、


「次は旅行でこっちに来たいとは言っていたが、

こんなに早くその時が来るとはな……」


メディスと言う人は好奇心旺盛で、

その所為でおかしなことをしかねない人間でもあるが、

来てもらって困るわけでもないという。


 ただ彼女が来るにあたって、俺に頼みたいことがあるという。


「念の為メディスさんのいる間、ミズキを会わせないようにしてくれないか」


ミズキは母親と瓜二つだから、雨宮がそうであったように、会ったら確実に分かる。

大魔導士だと、認識阻害の魔法も効かない可能性もあるし、ここで横にいたベルが、


「確かにお孫さんが、カルト教団にどっぷりとハマってるなんて知ったら、

ショックでしょうね。娘さんの事もありましたし……」


なおベルトはメディスと言う人の話をしていないが、

恐らく俺との記憶の共有で知ったと思われる。


 更に雨宮は、


「旅行とは言ってたが、もしかしたらまだ娘と孫の事をあきらめてないんだろうな」

「どういうことだ?」

「言いそびれていたが、娘と孫が消息を絶ったのはこの国なんだ。

だから今もこの国にいると思って……」


実際ミズキはこの国にいるが、彼女は暗黒神官として、

世界中を駆け巡っているし、それこそメディスと言う人の国にもいたことがある。

ともかく今、この国にいるのは偶然だ。


「まあ、以前に諦めたとは言ってたから、実際にただの旅行かも知れない。

この地には俺を含めて、知り合いも多いからな」


その知り合いには、ルリさんや伯爵婦人も含まれている。

雨宮は、最近会ったばかりだが、他は長いことあっていないとの事だから、

久々に会いたいという事もあるのかもしれない。


 ただミズキを会わせられないというのは、俺も同感なので、


「とにかく、会わせないように俺も、気を付けておくよ」

「頼むよ」


と雨宮は言いつつも、


「すまんな面倒を掛けて」


と申し訳なさげに言うんで、


「別にいいんだよ。大したことじゃないんだから」


と俺は言う。確かに大したことじゃなかった。


 ここで気になった事があった。


「そう言えば、お弟子さんも来るのか」

「ああリリィちゃんね。彼女は来ないみたいだ」

「そうか……」


リリアの事があるから尋ねた。

まあ二人はもう既に顔合わせをしているし、

その時は何も感じていなかったから、

特に問題はないと思うが、少し気になってしまった。


 リリィは来ないとのことだが、

彼女の護衛役というか、お目付け役という感じで、

男女の冒険者が来るらしい。あと俺はふと思い立った事があって、聞いてみた。


「そういえば、俺、メディスって人の顔を見たことないな」

「そうだったな……」


見た目が分からないんじゃ、気を付けようにも、気を付けることができない。

ここで俺はメディスという人の容姿を聞いた。


「本当にそんな姿なのか?」

「ああ、俺よりも年上だがな」


知らないでいたら驚きそうな外観だった。


 話が終わった後は、店でいつものようにベルと一緒に、

軽く食事をして、店を後にしたが、


(また厄介ごとにならなきゃいいが……)


という思いを抱いた。先も述べた通り、メディスという人は好奇心旺盛なので、

トラブルを起こしかねない部分があるという。

ただ自制はできる人とのことで、

やってきたからと言って騒動を起こすとは思えないが、

しかし、不安はぬぐえない所があった。


 仮にも大魔導士がやって来るんだから、

その周辺で、何かが起きても不思議ではないからだ。

ミズキの事もあるし、ナナシが何かをしかねない。

そんな不安を感じながらも、二週間は何事もなく過ぎていった。

あとメディスさんの訪問は、仮にも大魔導士なのだから、

ちょっとした話題になりそうであったが、

お忍びと言う部分があり、話題にはなってなかった。

ただ有名人を宿泊させる訳だから、interwineはどこか忙しそうだった。


 そして、いよいよ当日を迎えた。

ミズキには、しばらくの間、外出を控えるように、

どうしても出かけたい時は、顔を隠すようにとも言った。


「どうしてですか?」


と理由を聞かれたものの、話したくなくて、理由は言わず、

絶対命令を使おうとも思ったが、


「別にいいでしょう。特に気になる事でもないですし」


そう言って、承諾して理由を聞いてこなくなった。

何だか引っ掛かりを覚えたが、

こっちも聞くのが面倒だったので、詳しくは聞かなかったが、

念の為、イヴに見張りを頼んだ。


 そして、この日は仕事もなく、俺は街をうろついていた。

なおこの日は、一人でいたい気分だったので、

ベルには内緒で出かけた。まあ直ぐに、気づかれておって来るだろうけど、

そこは、装備しているクラウの力で、うまく避けていくつもりだった。

実際に、彼女は俺の外出に気づき、俺を探し出したが、

クラウが、感知で彼女の位置を把握し、うまく回避しながら散歩を続けた。


 駅の方に向かった後、interwineに寄って、

お茶でもしようかと思っていた。

それで、駅に着いた時には、ちょうど汽車が到着した時だった。

俺は何の気なく、駅から出てくる乗客を見ていると、

三人の少年少女が出てきた。三人は親しげなので、

連れなのはわかる。人間二人とダークエルフ一人と言う構成で、

金髪ショートカットの人間の少年と、

ポニーテールのダークエルフの少女は、

同じ年くらいで高校生くらいと言う感じがする。格好からして冒険者の様に見えた


(少年の方は剣の使い手で、少女の方は弓の使い手かな)


少女の方は弓だけでなく、腰の拳銃のようなものも携帯しているようだった。

それと目の色がアキラと同じ、

バイオレットとエメラルドグリーンのオッドアイなのも気になった。



 そして残る一人は、人間で見た目では二人よりも年下のようで、

小学校高学年か、中学生くらい、可愛らしい少女だ。

髪はストロベリーブロンドって言うのか、

ピンク色にも見えるが、そんな髪色のショートカット、

服装は西洋の貴族の娘の様なひらひらの洋服を着ている。


 冒険者を思わせる二人の顔は知らなかったが、

残りの人間の少女の事は、思い当たる節がった。


(もしかしてあの人が……)


思わず三人の方を見ていたら、少女がこっちに向かってきて、


「お姉さん、interwineってどこにあるか知ってますか?」

「えっ……ああ」


今の俺は、正確には両性具有だが、見た目的には女性なので、

女性として声を掛けられることは日常茶飯事だけど、

でも元男故か違和感を覚え反応が、おかしくなる事が偶にある。


「ちょうど、今から行くんで、一緒に行く?」

「うん!」


と笑顔で元気よく答える少女。ただ一緒にいた二人は、

気まずそうな顔をしていた。

当然だろうな、今、少女が悪戯をしているようなものなのだから。

取り敢えず、俺は彼女たちとinterwineに向かう。


 そして店に到着すると、


「ここがinterwineですよ。製薬の魔女様」


と俺が言うと少女はがっかりしたような様子で、


「なんじゃ、気付いとったのか」

「ええ雨宮……クロニクル卿からは話を聞いてましたから」


そう少女こそが製薬の魔女メディス・ラジエル。

ミズキの事があって事前に話を聞いていたが、初めて容姿について聞いた時は、

正直驚いた。ただ最初は、大魔導士は歳をとらないから、

幼くして大魔導士になったと思ったからだ。

実際は、若返りの薬を飲んだかららしい。

とにかく、俺は彼女と護衛と思われる冒険者たちを連れて、店に入るのだった。

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