14「対決、略奪の魔王(2)」

「死んじゃえー!」


 彼女の怒号と共に、大量の炎の矢が飛んで来た。

先のファイアローに似ているが、大きくて量も多い。


(避けきれない……)


イズミのシールドモードに切り替え、防御態勢に入る。

シールドは炎の矢を防いでいるが、


【すいません……『反射』できません。

これは、さっきの魔法とは異なります。恐らくソウルウェポンかと】


ソウルウェポンは、人それぞれだが、

傾向があって、これは使い捨てで、大量に生成できるタイプの物らしい。


 しばらく撃ち続けたら、撃ってこなくなった。


(弾切れか)


と思ったら、


「まだまだぁ!」


そう言って、今度は炎の大玉を投げつけてきた。


「クッ!」


今度は防御せず咄嗟に避ける。


《これは、スキル『燃焼』ですね》


炎攻撃の連続で、まるで彼女の怒りを表すかのようであった。

なおこれも「反射」できないとの事。


 だが炎だけでなく、雷も降って来た。


「わわわわわわっ!」


当たっても死にはしないが、痛いのは間違いないので逃げ惑う俺、

咄嗟に武器はクラウに変えていた。

動きやすくするためだが、雷が降ってきているのに剣を手にするのは、

危険なんだろうが、この時はそんな余裕はなかった。


 余談だが、魔装故に剣に雷が落ちるごとはないし、

スキル「雷撃」でむしろ吸収が可能だが、

この時は、そんな事は思いつかなかったし、

一応クラウが教えてくれていたが、逃げるので必死で頭に入ってこなかった。

なお雷なのも、偶然かそれとも、彼女の怒りが反映されているかは分からない。


 そして雷がやんだかと思うと、転移なのか目の前に彼女が出現し、

炎を宿した剣で襲い掛かって来る。この剣もソウルウェポンらしい。


「!」


こっちも剣で応戦、あと咄嗟にスキル「氷結」を使い、

剣に冷気を宿し対抗する。


「このっ!このっ!このっ!このっ!このっー!」


彼女の繰り出す斬撃を剣で受けと止める。

相変わらず頭に血が上っているのか、

剣は怒りに任せて振り回しているだけである。

こっちは「習得」のお陰ではあるが、卓越した剣技で

攻撃を、的確に防御している。


 奴の圧倒的な攻撃力に、技で対抗しているというところ。


(向こうが冷静でないのが幸運と言っていいのか……)


そして剣と剣がぶつかり合い、つば競り合いとなり、

炎と冷気をまき散らした後に、お互い距離を取った。


「………!」


彼女は、歯を食いしばり怒りに満ちた目で俺を睨んできた。


 そして、彼女は無言で指を鳴らした。

すると複数の魔獣が姿を見せた。オーク、リザードマン、ワイバーン、グリフォン、

ガーゴイルなどだが、どれもそれっぽいものである。

どういう事かと言うと、みんな体に殻のようなものがついていて、

メカっぽさがあるが、ロボットと言うには生々しかった。

あと人形みたいな感じもする。


《これは、魔獣ではありませんソウルウェポンです》


ソウルウェポンには、本人の手を離れ、自立起動するものもあるという。

もちろん使い手の意のままに動くのであるが、

どうもその魔獣たちはそれらしい。

邪神戦で使った疑似生物魔法のスキル版と言ったところ。

ただあれよりも、長く存在できるらしい


 魔獣もどきと言っていいのか、とにかく襲ってくるそいつらに、


「バーストブレイズ!」


と攻撃を仕掛けた。炎が魔獣たちを焼き尽くしていく。

魔獣たちは特別に強いわけでは無かった。

殻に覆われているから、丈夫なわけでもなく、

だからと言って弱いわけでもない、ほどほどな強さだ。

だからバーストブレイズで次々と破壊していくが、

だが次々と補充されていく。


(さっきの炎の矢と同じだな……)


使い捨てだが、大量に生成できるという事らしい。

ただ補充されているんじゃない。

数は、どんどん増えている。こっちも、ひたすら撃ち続ける。

さっきの炎の矢だって、途中から撃たなくなったように、

魔獣もどきだって、限界があるはずだ。

俺はそう信じて、ひたすら攻撃を続けた。


 しかし、バーストブレイズも俺の体力を使うから、

限度がある。しかも相手はソウルウェポンだからか、

魔装で攻撃しても体力回復は見込めないそうだ。


(どっちが先に限界を迎えるか、勝負だな……)


と思った。


 なお彼女は、魔獣召喚後は、宙に浮かんだ状態で、

動こうとしない。何だか、そこを狙おうという気にはなれなかったが。


(魔獣もどきと連動して、攻撃とかしてこないんだな)


するとその心を読んだクラウが、


《ソウルウェポンのコントロールに手いっぱいなだけだと思いますよ。

しかも、こんなに大勢だと余計にね》


単純に、攻撃命令だけでも相手に集中する必要があるとか。


《数減らせば、自分も動けて、連動攻撃も出来ると思いますが》


頭に血が上って、そこまで考える余裕はないと思われる。


 いくら倒しても補充され増えて、キリがないと思っていたが、

その後も、バーストブレイズを撃ち続けた。

接近されたときは、


「紫電一閃!」

「ミサキ切り!」


と「習得」からくる奥義で応戦し、やがて魔獣の数が減って来る。


「はぁ……はぁ……」


バーストブレイズだけでなく、奥義も体力を使うから疲れを覚え、

息切れし始める俺だが、更に残りの魔獣にバーストブレイズを撃ちこみ、

一気に畳みかけ、全滅させる。


 すると、再び彼女は歯を食いしばりながら、

こっちを睨みつけたかと思うと、


「まだまだぁ!」


彼女はそう言って、右手を上にあげる。

そして、新たな魔獣もどきが姿を見せた。


「ドラゴン!」


この世界に来て、ドラゴンは見てきたが、

他の魔獣もどきと同じく、全身が殻に覆われているから、

西洋の竜的なものと言う以外、何のドラゴンかは分からない。


 ドラゴンが攻撃を開始するが、お約束の如く火を噴いた。


「くっ!」


最初の一撃は避ける。直後、雷が落ちてきた。

再度逃げまどいながら、


(また雷か!)


今は、ドラゴンが一体だけだから、先ほどまでとは違って、

彼女も動けるだろうと考え、

最初は、彼女が使って来ているものと思ったが、


《これは、ドラゴンからの攻撃ですね》


クラウによると、一体だけだが、今度は強力すぎる故に、

コントロールに集中せざるを得ない可能性があるという。


《うまくやれば、連携できるんでしょうが、現状では無理でしょうね》


やはり頭に血が上っている所為らしい。


《やはり、マスターが彼女の心を乱しておいて正解でしたね》


別に意図したわけじゃないから、運がよかったというべきだろう。


 しかし、決定的に有利になったわけでもない。

なんせドラゴンは強く、火炎放射と雷は同時に行われ、

更に周囲に無数の氷塊が生成さて飛んで来た。


「!」


攻撃を避ける。更に目からビームのようなもの物まで撃って来る。

これも回避しつつ、バーストブレイズを撃つ。

さっきの魔物もどきとは違い防御力も強いようで、

効いてないわけじゃないが、大したダメージになってないようだった。


 更に、火炎放射や目からのビームを止めたかと思うと、

そのガタイの割には、物凄いスピードで接近してきて、

前足で襲い掛かって来た。最初の一撃は避けれたが、

その早さゆえに次の一撃は、食らってしまった。


「うわぁぁぁぁぁ!」


吹っ飛ばされる俺、地面に叩きつけられ、そのまま転がった。

即座「修復」が働き、怪我は治るものの、痛みは直ぐには治まらない。


 ここで、直ぐにドラゴンからの前足による追撃が来たので、

体を転がして避けつつ、立ち上がり間合いを取るが、

ドラゴンは一気に間合い詰めて来る。ここで俺は咄嗟に、


「テンペストパルム!」


迫ってくる前足に放った。向こうは、生物じゃないからか悲鳴は上げず、

あとサタニキアの時と違い、前足を吹き飛ばすには至らなかったものの

大きく怯ませることには成功した。


「バーストブレイズ!レーザプレイヤ!」


と鎧の専用魔法を連続で撃ち込んだ。

この組み合わせに意味はない。思い付きだった。

ドラゴンにはそれなりにダメージを与えているが、まだ決定打ではない。


(武器の必殺技はまだだよな……)


この闘技場はかなり丈夫そうなので、必殺技を使っても問題はないと思われる。

もちろんフルパワーはアウトだろうが。しかし使うにしても時間が足りない。

 

 そして接近戦に移行したと言って、

火やレーザーは撃ってこなくとも、雷や氷塊は引き続き襲ってくるので、

避けるのは、大変だった。


 やがてドラゴンが突進してきながら、口を大きく開けて噛みつこうとしてくる。


「くそっ!」


何とか避け、バーストブレイズを撃ちこみつつ、


(あれを使うか、アルティメットバニシングを……)


鎧専用魔法の中で最強の魔法だ。

七魔装がそろった事で攻撃力がさらに上がっている。


《使えば、運が良ければドラゴンはおろか魔王も倒せます》


ただし使えば、数日は使えないし、誘導性は無いから外す可能性もある。

だから安易には使えない、正に切り札だ。


 ただしその前に、武器の奥義も試したほうがいいだろうし、


(レインボミングが使えればな……)


切り札を出す前に使える魔法や技はすべて使いたかった。

ただ技の方は、すべてを理解できてないし

あとレインボミングは屋外でしか使えない。

屋内では雲を発生させられないからだ。すると、トールが


[だったらアタシに、お任せっす]

「はあ?」

[アタシにスキルを忘れたっすか?]


この時、本気で忘れていた。


 そしてしばらく敵の攻撃を避けながら


「あっ!」


スキル「気象操作」の事を思い出した。

俺は武器をトールに切り替える。

ただ屋内で、雲を発生させられるかは半信半疑だったが、

相手の攻撃を避けつつも隙を見て、ハンマーを上に掲げて、

スキルを発動させると、本当に雲が発生した。


(雲ができたからって使えるかは、わからないけど……)


俺はさっそく、


「レインボミング!」


直後、雨が降りだした。そしてドラゴンの体の雨に触れた部分と、

魔王の周辺で爆発が起き始める。

どうやらうまく発動できたようだった


 そしてドラゴンは声を上げないものの苦しそうに悶え、


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


爆発に巻き込まれてる略奪の魔王は悲鳴を上げる。

そこにと言うか、特にドラコンに向かって、追い打ちとして、

バーストブレイズを打ち込んだ。


 やがて雨が止むと、ドラゴンはボロボロになっていて、

ゆっくりと、ゼンマイ仕掛けの人形が、

そのゼンマイが切れかけのような動きで、こっちに向かってこようとして、

やがてピタリと動きを止めた。どうやらドラゴンはこと切れたようで、

すぅっと姿を消した。


 その直後、


「ウワァァァァァァァァ!」


という声とともに、炎の剣を手にした略奪の魔王が、襲い掛かってきた。


「クッ!」


とっさに、ハンマーで受け止め、


「とりゃ!」


自然と出てきた掛け声で、そのまま押し返し、吹き飛ばす。

しかし彼女は、素早く体制を整えて、向かってくる。

俺も、自然と武器をクラウに切り替え、

炎に対して「氷結」を使い、迎え撃つ。


 剣と剣がぶつかり合う中、


「何よ私へのハンデのつもり?」


今の彼女はさっきの爆発のおかげでボロボロな姿をしている。

見た目だけならハンデをくれてやりたいが、


「別にそんなつもりはねえよ……」


彼女がまだ健在なのは、クラウから聞いて理解していた。


 彼女の動きは怒り任せで、振り回しているだけ、

完全に精細さをなくしている。

魔獣もどきたちを倒されたことで、ますます頭に血が上っているようで、

その傾向が余計にひどくなっていた。


 そんな彼女に、対して自然と奥義が出た。


「氷刃一閃!」


紫電一閃の氷版と呼べるものらしい。

「氷結」を使い冷気をまとっている関係上、技の効果が倍加して


「クゥ……!」


彼女を追い詰める。


《さすがです。マスター》


とクラウが賞賛するが、別に意図したわけじゃない。

彼女の炎の剣に対して、自然と反応しているものだと思われる。

その後も、「炎刃薙」の氷版「氷刃薙」、「炎龍断」の氷版「冷龍断」、

そして、「炎刃突」の氷版「氷刃突」と言うように奥義が繰り出される。


(なんか、あの嘘つき剣士のときみたいだな)


もちろんこれらの技が出たのは偶然で、氷なのは先も述べた通り。


 だが、これらの攻撃が肉体的にだけでなく精神的に、

追い詰めてるようで、使うたびに、


「またルリの技を使って!」


と泣きながら声を上げた。煌月流は、彼女が手に入れてないというか、

奪えなかったが故に、余計に悔しいんだろうが、


「なあ、技を身に着けたところでどうする気だ。

その力で武を極めるか?」

「………」

「どうせ使わないままじゃないのか、あの部屋にあったものたちのようにな」


すると彼女は、


「うるさいっ!」


と声上げ、剣を振り下ろしつつ


「ルリだって、ほとんど使ってないじゃない!」


剣を受け止めながら、


「あの人は、やり切ったからだ!長年の武者修行でな」


と言いつつ、


「お前も、あの人と同じよう武者修行をするのか?」

「それは……」


彼女の動きが鈍る。だがそこを突くことなく、打ち合いをしながら、


「お前が、俺を殺し『ハダリー』を手に入れようとするのは、

手に入れて、何かしたいわけじゃない。ただの衝動だ。

どうせ手に入れた後、冷めて、あそこに置いていくんだろ」


これまでの自動人形のように。


「どうせ、冷たい目でハダリーを見てるだけだろ」


と俺が言うと、


「うるさいって、言ってるでしょ!」


と声を上げながら剣を振るう。

その様子から彼女もそうなることがわかってるんじゃないかと思った。


 俺は彼女の剣を受け止め自然と、


「お前が本当に欲しいものはなんだ?」


と聞いていた。


「ハダリーに決まってるじゃない」

「違う、それは衝動だ!本当に欲しいものじゃない!」


そして俺は、自然と大声で言った。


「お前が、心の底から欲しいと思えるものだ。

心の隙間を確実に埋めて、心の底からよかったと思うるもの、。

ずっととは言わないが、長きにわたって大事にできるものだ」


すると彼女の動きが止まった。


「私が……私が……欲しいもの……」


次の瞬間、既に泣いてはいたが、更に涙があふれた。

そして、彼女の手から剣が消え、彼女は顔を抑え嗚咽を上げる。


《彼女は戦意をなくしたようです》


見ればわかる事だった。


 とにかく俺は、勝利したと言えるが、彼女の嗚咽を上げる姿を前に

後味の悪い勝利であった。

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