12「孤独な魔王」

 準備と言っても装備とかは十分で、「略奪」は効かないから、

必要なのは人手だ。俺は家に帰って、リビングにみんなを集める。

一人で乗り込んでいくのが無茶だというのは、分かっている。

魔王を倒すんじゃない。あくまでも人を助けに行くんだ。

でもそれは一人では無理だ。魔王を相手にしている間、

人々を外へと誘導できる人間が必要だ。


「なあミズキ、お前『奪還』の魔法が使えるようになったって言ってたな」

「はい、私が作った魔法ですが」


 実は、あれからミズキは独自の「奪還」の魔法を作成していた。

嘗て、教団へ損害を与えた略奪の魔王への報復の意味もあるらしい。

もう前の事なので、気にはしていなかったが、

今回の一件でその思いが再燃したとの事。

とにかく彼女に人々を正気に戻してもらい。人々を誘導する。

なおボックスホーム内に例の結界を張ることは出来ないと、

ジャンヌさんから聞いている。


 なおジャンヌさんが、神の領域で調べたところ、

彼女の城の出入り口も、中からなら、誰でも開けれ、

攫われた人々は、彼女の支配下にあるわけだから、

自分で出ていくものは居ないので、対策はしていないとの事。


 それで、ミズキに頼むと、


「いいですよ。私としても、あの魔王に吠え面を書かせたいですから」


と言って快諾してくれた。ただ妙にうれしそうなのが癪だが。

後は、何時ものようにベルにも頼むが、


「言われなくとも、付いて行くつもりでしたよ」


と不機嫌そうに答える。一応、「絶対命令」があるから、

ナタリア達に危害は加えないだろうが、

その不機嫌さがどうも、不安を掻き立てた。

しかし、ミズキ一人と言うのも不安だ。なんせナナシの関与もあるんだから、

それに城に転移除けをしてないのも、来てくれと言わんばかりだから、

余計に警戒しなければいけない。


 ここでリリアが、


「アタシも良いかな。この前の落とし前を付けたいから」


と言い出した。


(落とし前と言うほど、酷い目に遭っているか?)


と思いつつも、まあ正直、人手はほしいので、

彼女も連れていくことに。


「よしっ!」


と言って喜ぶリリア。その時、何となくその魂胆が見えた。


 それはともかく、もちろんイヴも連れていくとして、全員で行くことに。

なお神の領域は、神とその契約者しか入れない。

その契約者も、すぐには入れず、ベルは最近は入れるようになった。

そして神の領域を使って向かう関係上、

契約していないハルやアキラは当然、連れていくことはできない。

とりあえず各自準備を整えてもらって、夜にジャンヌさんの家に向かった。

 

 ジャンヌさんの家に入ると、リリアが


「ここが神様の家とは、随分と地味だな」


ジャンヌさんの店舗兼自宅は、ごくごく普通な家である。


「お前、失礼な事言うなよ」


と俺が咎めると、ジャンヌさんが、


「別にいいのよ。自覚あるし」


と言いつつも、


「昔住んでいたとこは、酷かったわよ。あの頃は自暴自棄だったから」


失礼だが、汚い部屋で酒に溺れているジャンヌさんの姿を想像してしまい。

自己嫌悪陥った。


 そしてジャンヌさんは、神の領域で得た情報をもとに、

城の見取り図を書いてくれていた。

更に紙を用意し「創造」を使って、人数分作ってくれた。


「それじゃあ、準備はできてる?」

「早くしてください……」


と不機嫌なミズキ。


「はいはい。じゃあ、全員手をつないで」


言われたように全員で手をつなぐと、次の瞬間、俺たちは神の領域にいた。


「なんかすげぇな!」


と声を上げるリリア。


「久しぶりですね」


と言うベル。


「転生の時以来ね」


とジャンヌさんは言った。

ベルはここでジャンヌさんから転生に関する説明を受けたのだ。


 ここでミズキは、


「早くしてください。こんな汚らわしい場所……」


と言うが、ジャンヌさんは


「汚らわしいって、ここはかつて暗黒神がいた場所。

貴方たちにとっても聖域なのよ」


と言った。だがミズキは、


「今は違います。早くしてください」


と急かす。


「わかったわよ」


とジャンヌさんは言いつつ、


「じゃあ、行ってらっしゃい」


次の瞬間、俺たちは石造り建物の中、見るからに城の中と言う場所にいた。

あと転移したのは俺たちだけでジャンヌさんは居ない。

それと、ここは大広間のようである。


 ちなみに、転移の前にすでに鎧を着ていた。なお白銀騎士の鎧の方である。

いつもの鎧だと武勇伝がついてしまい。今後が面倒だからである。


(『周辺把握』は機能しているようだな……)


クラウを抜くことで「感知」との連動で、

人々の位置はわかる。支配下に置いているからが、

牢獄に捕らえるという事はしておらず、自由にさせているようだった。


 俺は、ジャンヌさんからもらった見取り図を皆から借りて

動いているから暫定的であるが、大体の人々の位置を、

全員分の地図に、書き入れて返した。


 とりあえず作戦だが、魔法はミズキしか使えないのと、

一度の複数人に使えるものの、結界のように広範囲に使えないので

ミズキの所に、人を連れてこなければならない。なお本人曰く、


「もう少し時間があれば、もっと広範囲に使えるのを作れたんですが」


時間と言っても、かなりの日数なので、そこまで待っている余裕はなかった。


 とにかくミズキはここで待機し、イヴも正気に戻った人々を、

出口に案内する案内役として待機する。

なおよくある顔とはいえ、素性がバレると面倒なので、

ミズキに認識阻害魔法を使ってもらっている。

俺たちとミズキの代わりに使い魔たちが、手分けをして、

人々をおびき寄せる。全員、連絡用のマジックアイテムの他、

連絡手段を持っている。


「さぁ!早速行こうぜ!」


妙に積極的なリリア、そんな彼女を、


「ちょっと待った」


と俺は呼び止め、絶対命令で、


「この城で、盗みを働くな!」


と言った。


「……!わかった……」


略奪の魔王は、貴金属類も奪っているというのは有名な話で、

リリアが妙にノリノリだから、彼女の性格を考えると、

この期に乗じて、金目の物を盗んでいくのは間違いないと思った。

事実、公爵婦人からハダリーを盗み出す時も、

目的外の、金目の物を盗んでいたという事もある。

そもそも、彼女はがめつい。実際絶対命令をした時も、

かなり悔しそうにしているので、まず間違いないようだった。


 ただやる気をなくされても困るので、

仕事をこなしたら、俺の宝物庫の財宝をやることを約束した。


「約束だからな……」


どこか不本意そうに、この場を後にした。


「大丈夫ですかね」


と普段は着ない漆黒騎士を模した赤い鎧を着たベルが、

心配そうな声を出す。確かに不安だが、


「とりあえず、俺達も行こう」


俺たちも行動開始し、分かれて人々を集めてくる。

なお周辺把握で確認したが、

リリアはキチンと仕事をこなしているようである。


 とりあえず、分かれてから人を見つけた俺は、


「よぅ!」


と声をかける。返事はなく、虚ろな表情で顔には略奪の紋章がある。

そして返事はないが、こっちに向かってきた。

そんな人々を誘導し、ミズキの元へと連れていき、

奪還の魔法をかけてもらう。すると人々は、


「あれ、何してたんだろ」


と正気に戻る。なおこの魔法をかけるとずっとではないが、

数日は、「略奪」が効かなくなる。


 正気に戻った人々に、ここは略奪の魔王の城であること、

助けに来たことを話し、あとはイヴに託すが、


「あなたは、もしや白騎士様……」


と何人かに言われたが、


「とにかく今は、はやく脱出してください」


と脱出を促す。

先も述べた通り、この城は中から外へは誰でも出られる。


 こんな感じで、ベル、リリア、ミラーカ達が人々を、

次々と連れて来て、ミズキが正気に戻し、人々を脱出させる。

なお、ミズキとリリアも、イヴと同様に、

認識阻害の魔法を使っているので、

後日、会うことがあっても、人々は気づかない。


 そして次々と人々を脱出させていった。

なお略奪の魔王はまだ気づいていない様だった。

そしてもう一つ、問題があった。未だに、ナタリアたちが見つからないのだ。


(まさか、この気配が……)


 周辺把握によると三人の人間が、

略奪の魔王と思われる反応のすぐそばにいるのだ。

魔王のいる部屋の奥にいる。

そこにたどり着くには、略奪の魔王の側を通るしかなかった。


(彼女たちがナタリアたちと決まったわけじゃ……)


と思ったが、次々と救出していき、ついに残り三人となってしまった。

もう消去法で、ナタリアたちしかなかった。


 方法としては、面倒だが俺が奴を引き付け、

その隙にミズキに三人を頼む。残り三人なので、

彼女に直接動いてもらう事にした。

略奪の魔王を出し抜けるから、引き受けてくれそうな気がしたが、

ダメなら絶対命令で頼むつもりだった。


 そして、


「なあ、ミズキ……」


と言いかけた時の事だった。奴が部屋を出たのは、

それを「周辺把握」で察知した俺は、急いで駆け出した。

その後、誰にも見つかることなく、その部屋に辿り着いた。


「ここだな」


部屋に入ると、そこは宝物庫だった。貴金属類の他、芸術品。

他にも武器や、自動人形もあったが起動している様子もない。

あと俺がいた世界から持ち込まれたと思われる。

カメラやらテレビや冷蔵庫もあった。あと部屋の真ん中には椅子がある。


 ここには更に奥に扉がありその先の部屋に、

三人はいるようだったが、


(まずい!)


魔王が戻って来るのを察知した。出ていって出直そうと思ったが、

ここまで来てという思いがあって、俺は物陰に身を隠した。

するとしばらくして、略奪の魔王が戻ってきた。

彼女は、宝物庫を見渡しながら、


「はぁ……」


とため息をついて、椅子に座った。


 いろんなものに囲まれて、さぞ満足かと思ったが、

彼女はものすごく寂しそうな顔をしている。

宝を見ている時も目の凄く悲しげに見えた

その表情が彼女の本質を突いているような気がした。


(多くの物を奪い続けてきたが、満たされることはない。むしろ……)


ここで、近くにあった宝石の山を崩して、音を立ててしまう。


「そこに居るのは誰?!」


どうやらバレたようなので、俺は姿を現す。


「白騎士……いやカズキね」


白銀騎士の鎧の方も知ってる様だった。恐らくナナシが話したんだろう。


「どうやって入って来たの?」

「神様の道引きかな」

「ふざけないでよ!」


ふざけるも何も、ジャンヌさんは神様だから間違いじゃない。


「まあ、いいわ。飛んで火にいる夏の虫ね。

ここは私の領域よ。アンタに勝ち目はないわ」


と余裕の表情だが、俺は彼女に対して、今感じたことを述べる。


「お前、他者から多く物を奪って満足なのか?」


と尋ねると、


「何の話をしているの?」


という答えが返ってきたが、


「奪えば奪うほど、心の穴は大きくなっていくんじゃないのか?」


と重ねて問いかけると、


「………」


返事は無いがつつける。


「大方、お前は魔王の娘として、不自由ない生活をしてきたんだろ?

でも満たされることはなかったんじゃないのか?」


引き続き返事はない。


「そして、魔王になってからはどうだ?敵味方問わず、

奪い続けて、結果どうだ?お前は独りぼっちじゃないか?」


ここで彼女は


「うるさい……」


と可愛らしくも低い声で言う。


 そんな彼女に俺は、


「お前は、奪う瞬間にしか、喜びを感じられない。

その後に待っているのは、満たされない思いと孤独だけだ。違うか?」


次の瞬間、彼女は、


「うるさいっ!うるさいっ!うるさいっ!うるさいっ!うるさーいっ!!」


と激昂し指を鳴らすと、当たりを光が包み、


「ここは……」


光が収まると、闘技場のような場所にいた。

転移させられたのだ。ただ城と言うか、ボックスホーム内である


 そして、略奪の魔王が姿を見せた。


「ここなら思う存分戦えるわ」


そして憎悪に満ちた目で、睨みつけながら、


「ここで、アンタを殺してやる」


そう言って、剣を手に襲い掛かってきた。

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