11「魔王の城へ」

 結界を張って以降、街では警戒が厳しくなった所為か、

奴と遭遇する事は少なくなった。そうなると街の外で、

前まではしなかった仕事の邪魔をするようになった。

その内容はと言うと、魔獣退治の際に、強く強力な魔獣を召喚し嗾けて来る。

本人は現れないが、魔獣の顔に略奪の紋章があるから、彼女の仕業で間違いない。


 なお魔獣退治の場は人里離れた場所で

近隣の村に張られている「略奪」防止の結界の影響でているが。

防止はできても、無効化はできないので、

既に支配下の魔獣は、そのままであるし、また召喚できるのもその為。

しかし、魔獣は正気に戻ったとしても俺に襲ってくることは、

間違いないだろうが。あと魔獣は嗾けられているが、仕事には支障はない。なぜなら


「よしっ!倒したぜ」

「いつも済まないな。アキラ」

「いいって事よ。クロニクル卿の友達だって言うし、

あとパゼットさんもお世話になったみたいだしな」


と乱入してきたクイーンアラクネを剣で一刀両断したアキラが、

明るい顔で、言った。


 そう今、仕事にアキラが同行している。

実は、魔獣を嗾けられている事を、

interwineでベルとの会話の中で愚痴った事があり、

それをハルに聞かれて、ハルがアキラに頼む形で、

俺に同行し、剣とか槍とか、様々な武器を召喚して使いこなし、

乱入魔獣を倒してくれていた。


 まあ、ベルもイヴもいるし、あと七魔装がそろった現状では、

鎧の力も高まっているから、アキラが居なくても十分やっていけるが、

それでも、助かる事には違いないので嬉しかった。

なおアキラが抜けた後の用心棒は、偶然にもメイントとアルヴィンが行っている。


 因みに冒険者の失踪者の中でパーティーの一部が居なくなったのは、

この二人だけ、他の失踪者は、パーティーごと失踪している。

ともかくパーティーメンバーが居なくなって、

仕事ができず困っていると聞いて、ハルが雇ったとの事。


 その二人の仲間を含めた攫われた人たちの事。

その内、帰って来るとは言え、やはり知り合いがいる以上、

心配で、特に二人の事を思うと余計だった。そして夕食時の事、ベルが、


「あの人たちの事が、心配ですか?」


とどこか不機嫌そうに言う。心配している相手が女性だから、

嫉妬してるんだろうな。なんせストーカーだからな。そんな彼女に俺は、


「そりゃ、何度かともに仕事をした仲間だからな」


と答えておいた。


「どうだか……」


するとここでリリアが、


「なんだ、嫉妬か?でも……」


リリアはあることを話し、


「……の時は、気にしないのにな」


するとベルは顔を真っ赤にして、


「それとこれとは、話が別です!」


と声を荒げた後、


「和樹さん、今夜……」

「はいはい……」


と答える。するとミズキが、


「私も……」


その晩は何があったかは、記さないが、

とにかく、誘拐された人たちを取り戻したいという思いは抱いていた。

もちろん、ナタリア達の様に見知った人間がいたからで、

もしそうじゃなかったら、どうせ戻って来るんだから、

こんな思いは抱かなかっただろう。


 しかしいい案が浮かばないままで、魔獣退治に勤しみ、

そして奴が嗾けて来る乱入魔獣をアキラに頼みつつ、

魔獣退治の仕事を続けていた。そんなある日、

ちょうど魔獣退治を終えた後、


「あんたさ、強い割には何でこんな弱っちい魔獣とやり合ってるんだ?」

「別にいいだろ。強い奴が相手だと、面倒なんだからさ」


と言いつつも、


「厄介ごとを押し付けて悪いとは思ってるけど」


するとアキラが、笑いながら、


「気にすんな、乱入してくる魔獣は骨があって倒しがいがあるからよ」


その様子に、


「お前って、随分と好戦的だな」


と言ってしまった。


 するとアキラは急に暗い顔になって、


「そんな自分が嫌になるときがある……」

「えっ……?」

「俺の体には悪魔が憑り付いてるんだよ。

そいつが、俺に戦いを求めるのさ。時々飲まれそうになる……」


ここで、クラウが、


《そのようなものは、感じません》


つまり悪魔は憑りついてないようだった。


《おそらく本人が、そう思い込んでいるんでしょう》


と言いつつも、


《ただ、以前、言いそびれたのですが、あの方の体からは、魔武の気配を感じます。

まるで、ルリと言う人と同じです。

ただ魔装と魔武が違うだけでなく、似て非なるというか》


クラウでも判断が付かないものらしい。

しかも常時ではなく戦っている時だけらしい。

あと魔武だから、なんだかの意思を持っているわけでは無いらしい。


《あと……これも言いそびれていたのですが、

ハルと言う方も同じです。あっちは魔装ですが》


よりルリさんに近いらしいが、同じものではなく。

あと戦闘時にしか気づかなかったらしい。


(そういえばミズキが、ドラグコープスがどうとか言ってたけど)

《すませんが、私はドラグコープスの事は知ってはいますが、

見たことも、気配も知らないのでどうとも言えませんが》


ただハルは、魔装に毒されてるような気配はなかった。


 この時、俺は、あとで思えば言ってはいけなかったのだろうが、

つい聞いていた。


「それは、斬撃の魔女の所為か?」

「多分な……」


と言いつつ


「何処まで知ってる?」

「お前が斬撃の魔女に何かされたって事くらいで、詳しくは知らない」


実際その通りだった。


「そうか、俺もあの女から説明されたが、全然分からない」


なんとなくだが、斬撃の魔女が専門用語を並べて、

説明している姿が、思い浮かんだ。多分俺でも理解できんだろう。


「あの女の話じゃ、俺には悪魔は憑りついてないらしいが」


それに関しても、説明があったそうだが、

こっちもアキラにはチンプンカンプンだったそうだ。


「まあ正直、あの女の事は信用できない。

だから俺は、悪魔が憑いてると思っている……」


と辛そうに言う。クラウの「感知」では、

斬撃の魔女のいう事が正しい事になるが、あの女の所為で、

アキラが苦しんでいるのは違いない。


 この場は、暗い雰囲気になっていたが、アキラは急に笑顔になって、


「悪いな、暗い話をしちまってよ」


と言って無理に明るく振舞おうとしていた。


「こっちこそ、余計な事を言って悪かったな」


この雰囲気のきっかけは、俺の一言が切っ掛けなので、

俺もその事を詫びた。同時に、斬撃の魔女の罪深さを、

知る事となった。


 斬撃の魔女の事は、今は置いておくとして、

問題は「略奪の魔王」の事だ。攫われた人や、それにアキラ、

本人は気にして無さそうだが、いつまでも頼るわけにはいかないので、

状況をどうにかしなければという思いを抱いていた。


 その後も、妙案は浮かばぬまま日々は過ぎていき、

ある朝、目を覚まし、カーテンの隙間から漏れている光を見て、


「あっ~~~!」


と思わず声を上げていた。


「どうしました?」


と目をこすりながら、眠そうな様子で言うベル。


「起こしてすまん」


と謝りつつも、


「いや、思い出したんだ。『神の領域』の事を」


そう神の領域を使えばどこにだって行ける。

ボックスホームも例外じゃなかった。


 ナタリア達に関わる事だから、ベルは不機嫌そうにするが、

そんなのは、どうでもよかった。

俺は、朝食をさっさと済ませると、ジャンヌさんが営む花屋に向かった。

もう帰って来ていてもいい時期だったからだ。


 店に行くと、丁度ジャンヌさんは開店準備をしていて、


「どうしたの?こんな朝から」

「頼みたいことがあって」


彼女は何かを察した様に、従業員の女性に店を任せ、


「中で聞くわ」


という事で店の中に入った。


「略奪の魔王の事は聞いたわ。大変だったわね」


と言いつつも、


「もしかして、それに関わる事かしら」

「はい、連れ去られた人間を助けたいんです。

その為に神の領域を使いたいんです」

「確かに、『神の領域』を使えば、彼女の城には行ける。

だけど助けに行かなくたって、待っていれば、無事に帰って来るわよ」

「そうかもしれませんが、知り合いがいるんです。

それに不安に思っている奴もいる。あと一年になる事があれば、

人生を狂わせるには十分だと思いますが」

「まあ確かに、それも言えてるけど、

でも城の中じゃ、奴は最強なのよ」

「知ってます……」


と俺は答えた


 そう雨宮から聞いた話だが、城の中は結界が無いのと同じ、

略奪の魔王は本気の力が出せる。


「貴方も強くなったみたいだから、実際は分からないけど、

最悪、本気ならなきゃいけないかもしれない

そうなったら、攫われた人たちも巻き込むかもしれない」


更に彼女は、


「それに略奪の魔王の城はボックスホームなのよ」

「雨宮から聞きました」

「彼には、教えてないけど……」

「推測していました」


そう言うと、


「さすがクロニクル卿ね。もしかしたらカーマキシの中だって事も?」

「はい」


雨宮の推測は当たっていたようだった。


 そしてジャンヌさんは、


「ボックスホームの破壊はダンジョンの破壊と同じよ。

本気の力を使えば、攫われた人だけじゃない。

周りにも影響が出るわ」


ボックスホームの破壊に関しては初耳だったが、

フルパワーを使ってはいけない事は、分かっていた。


「それでも行くの?」


と彼女は念押しする。確かに不安はあるが俺は、


「はい」


と答えていた。


 するとジャンヌさんは俺の目をジッと見つめた後、


「わかったわ。ただしきちんと準備していきなさい」


と言った。


「わかりました」


と答えると、思い出したように、


「この件は、ナナシが関わってる可能性は、

粛清官から聞いてるから、行けるかどうか確認してくるわ」


奴なら、神の領域からの転移を防ぐ術がある。


 この後、確認の為にジャンヌさんはいったん姿を消し、直ぐに現れ、


「問題はないわ……」


俺は城に乗り込むための準備を始めるのだった。

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