10「まだ終わらない」

 合流場所に来ると、俺たちが最後だった。

なお俺もイヴも鎧は脱いでいる。

ここで俺たちがあの場を離れた後、設置してくれたのは、ハルとアキラだと知り、


「済まないな、後始末を押し付けちゃって」

「いえ、こっちこそ、貴方が略奪の魔王を引き付けてくれたおかげで助かりました」


と逆に礼を言われた。


 この後は、車を出して俺とベル以外はボックスホームに移動し、

俺は運転席に、例によってベルが助手席に座り、結界はまだかかるので、

少し離れた場所に移動し、その後、俺たちもボックスホームに移った。


 討伐隊の事は気になった。俺たちが出ている間に、

連絡は来たかもしれないが、


「あの時間まで、出発できてないならもう大丈夫ですよ。

到着したころにはもう結界は完成してますし、みんな元に戻ってますから」


とハルは言った。


 その後、一夜を過ごし、約束の時間にジュリエットを迎えに行き、

その後に街に戻った。すると町は大騒ぎだった。

住民たちは三日ほど記憶が無い上に、墓地が荒らされていて、

しかもアンデッドは倒しても、アンデッド化していた痕跡が残るので、

墓でアンデッドが大量発生してた事もわかり、騒ぎに拍車がかかっていた。


 俺たちの活躍は、伏せてもらった。あまり目立ちたくないからだ。

それはハルも同じようで、それを了承し、話すことはなかったが、

ただ墓場の事に関しては略奪の魔王の仕業だという話にはなった。

略奪の魔王が、あるネクロマンサーから奪う形で、

デッドバタリオンが使える事は有名だったからだ。

確かに墓場の一件は魔王の所為であるから、間違いではない。

ただ、誰かと戦った痕跡はあるから、俺たちが口を噤んだので、

誰が戦ったのかは謎のまま。


 あと、討伐隊は来ることはなかった。その理由は雨宮からの連絡で分かった。

電話に出て、開口一番に


「どうだった」

「ああ、みんなのお陰で、万事うまく行った」

「それはよかった……」

「そっちの方は?」

「まだ帰れそうにない。王女様の状況に変化はないからな」


ここで思い立って、


「結局、討伐隊は来なかったな」


と聞くと


「それなんだが、実は昨日、王都の近くに鎧の魔王が現れたんだ」

「えっ……」

「しかも、単身でだ」


鎧の魔王は基本的に魔界にいて、偶に、こっちの世界にもやって来る事もあるが、

基本的は軍を引き連れて来るという。

一人で来ることも稀にあるが、それは勇者との一騎打ちの時だけ。


「でも今勇者は遠方にいるし、単純に王都を攻撃しに来たとしか……」


こういう事は前代未聞だという。


「それで俺も、王の勅命で対処に向かったんだ」


当然ながら、例の過激派たちもそっちの対処に追われる形となって、

結果としてこっちに手が回らなかった。


 しかも単身で王都の近くに現れた鎧の魔王は、

そのまま王都に進行することなく、逆に王都から離れていったという。

自分が不利になったわけでは無く、


「俺が着いた時には去った後だったが、迎撃に当たった兵士は、ほぼ全滅だった」


むしろ圧倒的な力だったそうだ。


「最初は、ナアザの街の方に向かってるんじゃないかと思ったが、

実際は逆方向に向かった」


因みに現在、勇者がいる方向とも違うらしい。

なおその勇者は遠方なので、結局間に合わなかった。


 その後は、王都から離れ人家の無い場所に向かっていることから、

追撃は最小限で、雨宮も王宮に戻ったという。


「追撃には、例の過激派連中も勝手に参加して、死ななかったが、

全員、大怪我で、そっちには行けなかったそうだ」


まあ不幸中の幸いと言う所だ。


 その後、鎧の魔王はどこかに行ってしまったとの事だが、


「一体何しに来たんだろうな?」

「さあな?このタイミングだから、最初はナナシの関与を疑ったよ」


ナアザの街には略奪の魔王を、王都には鎧の魔王を嗾けたということ。


「そうだとしたら、少し変だよな」


そう、汽車の事があるからナナシが、

討伐隊をナアザの街に向かわせようとしいたはずである。

しかし、鎧の魔王がやって来たとなると、

それもご破算になるのは、目に見えているはずだった。


「まあ、神様の考えてる事なんて、俺たちの理解が及ぶことじゃないのかもな」


特にあのナナシは、何を考えてるか分からないところがある。すると雨宮は


「お前も神だけどな」


と言いつつも、


「久美ならこういうだろうな『神を理解するために神である必要ない』って」

「それって、偉い学者の受け売りだろ、元はシーザーがどうとかっていう」

「まあ、そう言う事だな。しかし今回の事は正直分からん」


結局、ナナシが何をしたかったのかは、正直分からない。


「でも今回の一件は、まだ終わった気がしない。

略奪の魔王は、まだ逃げているし……」

「まだ、警戒が必要だな」


と雨宮は言って、俺も同感だった。






 その頃、どこかの部屋でナナシは、


「クソッ!鎧の魔王め!余計な事をして、

お陰で、せっかくの楽しみが台無しだ!」


と地団駄を踏む。


 実は、鎧の魔王はナナシとはかかわりが無かった。

ナナシの目的は、略奪の魔王を倒す為に、

住民を犠牲にするような過激派の討伐隊を送り込むことで、

事をかき乱し、その中で右往左往する和樹たちの様子を見て、楽しむつもりだった。


 だが突如として鎧の魔王が王都付近に来たことで、計画はご破算となった。


「せっかく汽車まで直したのに、まあこのお返しは、

いずれさせてもらうとして……」


まだ略奪の魔王は、健在でその上まだナアザの街の付近にいる。


「状況は、まだ続いてるみたいだから、もうしばらく楽しませてもらうよ」


といっているが、予定を潰されたせいか、不機嫌そうな言い方だった。







 とにかく略奪の魔王から、街は取り返したが、

全てが、元通りではなかった。墓場は荒らされたので、

その片づけも必要な状態だし、何より気になったのは、

街で失踪者が何人かいる事だった。どうもあの日の間に居なくなったと思われる。


 この事は、馴染みの受付嬢から聞いた。


「ギルド職員にも居なくなった人がいるんです。おかげで仕事が増えて、

大変なんですよ」


と言って受付嬢は苛立っている。

あと行方不明者の中には冒険者もいてナタリア達もいた。

ただアルヴィンとメイントは無事で、冒険者ギルドであった時、


「皆大丈夫かな」


と心配そうにしているアルヴィンに、


「大丈夫だよ。アイツらなら、その内戻って来るさ」


と言って励ますメイント。


 因みに、メイントは髪の毛を下ろしてストレートにしていた。

気が付いたらこんな風になっていて、ツインテールは、

ナタリア達に強制させられていたので、本人たちがいないので戻す気はないらしい。

髪型が変わっていたのは、略奪の魔王のせいかもしれないが、


(まさか自分と被るのが嫌で変えたのだろうか)


と俺は思った。


 だが問題は、失踪者の事である。電話で未だ王都にいる雨宮に話すと、


「略奪の魔王の線が濃厚だな。過去にそういうことを、したことがある」


攫って行ったのは支配した人間だけでなく、スキル使わず誑かした人間も含まれる。


「ただ飽きたら、解放するはずだ。自動人形でない限りはな」

「飽きたらね……どれくらいだ?三日か?」

「状況による。俺のきいた話じゃ、早くて一日、

遅くとも一年かな、誑かしなら三か月とか」


余談だか、略奪の魔王はバイセクシャルで、

相手は男だろが女だろうが関係ない。


「しかし、一年となれば人生に影響するよな」

「そうだろうな」


アルヴィン達が、困るだろうし、やはり探しに行かないといけないか。


「ところで、奴はどこに人を連れて行くんだ?」

「過去に、攫われていた人間の話じゃ、城らしい」

「そういえば奴は城を持ってるんだよな?」

「ああ……でもどこにあるが、どんな姿をしているかはわからない」


証言者は、みんな内装しか見ていない。

そして解放の時は、転移ゲートから外に出される。

おそらく転移ゲートは城から離れた場所と思われ、

外に出ると城がなかったという。


 謎の「略奪の魔王」の城。雨宮は、


「これは俺の推測なんだが、転移ゲートの側には、

いつも奴の車、カーマキシがあるんだ」


前に俺が見た黒い車だろう。


「車は人型を加え様々な変形形態を有してる。だから実態は魔機神だ。

俺も見たことはあるが、変形シークエンスは無茶苦茶だがな、

大きさも変わるし」


ただそれは変形能力を持つ魔機神にはよくある事らしい。


「あの魔機神は変形機構の多さじゃ『キュウビ』に似てるが、全くの別物だ」

「『キュウビ』?」

「現存する魔機神の一つで、キュウとはついてるが、

実際は11の形態を持っている」


キュウビと言う魔機神の事は置いておくとして、


「ただ、奴は自分の魔機神の事を、『カオスセイバー』って呼んでいて、

自分で作ったと言っている」


いうまでもないが、

かつて煌月達也の乗っていた『カオスセイバー』とは別物で、

勝手にそう呼んでいるだけ。


「魔機神の記録には載っていないから、自作と言うのも本当かもしれない

そしてカオスセイバーと同じくボックスホームを搭載してたとすれば」

「じゃあ、彼女の車が城だっていうのか」

「あくまで推測だ。転移ゲートとボックスホームの出入り口は、

区別がつかないし、もしかしたらって思ってな。

それに毎回車の側だし……」


わざわざカオスセイバーと言うくらいだから、

そういうのもあり得るかもしれない。


 しかし、実際にそうだったとしても、

ボックスホームに突入する方法は正直わからない。知り合いが関わっているから、

どうにかしたいという思いがあるが、そうすればいいか分からなかった。

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