9「墓地にて」

 略奪の魔王との遭遇、こうなる事は分かっていた。

本人は偶然みたいだし、実際そうかもしれないが、

ナナシがそう仕向ける可能性もあったからだ。


「そこに居るのはハダリーだよね?惚けてもだめだよ。私知ってるんだからね」

「例の冒険者から聞いたのか?」


だが返ってきた答えは、


「ううん、前から知ってたよ。まさか完成しているとは思わなかったけど」

「えっ?」


一般的にハダリーは、戦闘能力はないとされていたから、

彼女の武器や鎧、ヴァルキュリアも作った人間と、

「書き換え」を行った俺しか知らないと思っていた。

しかし略奪の魔王は少なくともイヴの鎧の事は知っているようだった。


「どうして知ってる?」

「教えてあげる。私、ハダリーの作者の手記を持ってるから、

あと、ハダリーの姉妹の事も知ってるよ」


と自慢気に言うが、


「姉妹?」


と初耳の事を言う。


「そうだよ。戦闘経験を積むだけの戦闘用のオートマトン。

その経験はすべてハダリーに送られる」


確かにイヴにはどこからかデータを得ている記録が残っていた。

それが何であるかは分からなかったが、どうやらこの事らしい。


「そっちの方も、いずれ手に入れるよ」


と言った後、魔王はこっちをじっと見て、


「その前にハダリーを貰うから、契約を解くためには、

アンタに死んでもらわなきゃ」


と言い放った。


 俺は直ぐに、武器をフレイに切り替えた。


「花火」


シリンダーが「カチッ」という音立てて動き、そしてフレイを空に向け発砲、

次の瞬間、大きな花火が上がった。

魔王は、花火に気を取られる。その隙に、ある事をした後、

その場から走り出した。


「逃がさないんだから!」


そう言うと魔王も追って来た。


(付いて来い)


戦いを避けるのは、諦めている。だから戦っても被害が出にくい場所に誘導する。

催眠剤の効果なのか、以降、魔王以外の人間と出くわさずに済み、

加速系のスキルも使い、追いつかれないようにしつつも、

逃げ切らない様に距離を保ちつつ、町はずれにある墓地まで来た。

ここを突き抜けて、人気のない開けた場所へと誘導するつもりだった。


 しかし、


「うわっ!」


見えない壁のようなものにぶつかって、思わず転倒する。


《これは、結界です》


背後から息切らせながら、


「はぁ、はぁ、はぁ……逃げられると思った?」


魔王がやって来た。


「あぁもぅ、結界の発動に時間が掛かるのよ!」


と地団太をしながら、文句を言う。

結界を使って足止めのつもりが、発動に時間が掛かって、

ここまで来たという感じか。また、その姿に俺は、


(魔王と言うよりわがままな娘って感じだな)


と思い苦笑してしまう。


「まあいいわ。墓場は好都合よ」


と言う彼女。確かに俺的にも人気が無い場所には違いないし、

人家への被害もない。ついでに言えば、

彼女の結界のお陰で人は来ないだろう。


 だけど、


(祟られはしないか……)


墓を荒らすことになるには違いないから、少し心配になった。


(一応、神様だけど……)


暗黒神である俺を祟れるかは不明だが、それで気になるものである。

ミラーカの一件もあるし、それ以前に過去に大十字がらみで、

怨霊と出くわした事があるから。


 しかしそれは置いておくとしても、


(しかし、彼女も好都合って言っていなかったか?)


略奪の魔王が言った言葉が気になった。

彼女は笑みを浮かべると、早口で呪文のような物を唱えた。

あまりの速さで、邪魔する暇もない。

そして最後に、早口ではなく力の入った口調で


「デッドバタリオン!」


と叫んだ。彼女を中心に白いガスのようなものが広がり墓地に充満する。


《まずいです。マスター!》


クラウは彼女が何をしたのか気づいたようだった。


《あれは死霊魔法です》



「死霊魔法」

ネクロマンサーが使用する

死体や死霊を操る魔法の総称。



墓場でそれを使うという事は、何が起きるが容易に想像がついた。


 やがて墓場の土が盛り上がり、中から死体が起き上がって来る。

生ける屍、ゾンビってやつだ。ミラーカの一件以来だが、


(白いガスとゾンビって昔の洋画みたいだな。

そのうち砲弾が飛んでこないだろうな)


ふとそんなことを思ってしまった。

そして地中からはゾンビだけでなく、スケルトンまで現れた。


 そして略奪の魔王は、俺の方を指さして、


「やっちゃえ!」


と言うとゾンビとスケルトン、即ちアンデッドはこっちに早足で向かってきた。

その際に


「でも、ハダリーには手を出さないで」


とも言っていた。


 俺は既に装備していたフレイを「分身」で、二丁拳銃にする。


「除霊弾……」


再びシリンダーが「カチッ」という音立てて動く。

なお、ミカーラの一件の事もあって無意識に弾を選んだが、


《いい選択ですね》


とクラウは言う。


 そして、俺は襲い掛かってくるアンデッドたちは、結構素早い動きだったが、

俺は「習得」で自然に出てくる煌月流射撃格闘術による二丁拳銃で応戦する。

その体術を駆使して、敵の素早い動きからくる攻撃を軽く避けながら、

基本的に攻撃は「誘導」によるヘッドショット、

つまりは攻撃を避けながら、頭部に弾を叩き込み

弾が当たったアンデッドは、倒れて動きを止める。


 ただミラーカの時と同じく、知らない人間ばかりだったが、

元は同じ町の住民とあって、その時点で縁ができている気がして、


(すいません……)


と思わず心の中で謝っていた。


 そして俺は次々と倒していくが、

途中に妙なことに気づく、イヴも銃器で俺を援護してくれているのだが、

俺の攻撃とは違って、イヴの攻撃はあまり効いてないようで、

しかもヘッドショットで、頭を吹き飛ばされることがあっても動き続けた。


(なんで……)


すると、


《デッドバタリオンで操られるアンデッドは、

通常の攻撃では、それこそ灰にしたり、

燃やさなくと、かなり細かくしない限り倒すことは出来ません》


デッドバタリオンは死霊魔法の中でも、上位の魔法との事、そのことを聞いて、


(ますます昔見たホラー映画のゾンビだな。

そのうち脳みそを欲しがるんじゃないよな)


と思っていた。


 ただ除霊弾を使った場合は頭部や胸など、

普通の人間なら致命的になる部分に当てる事で、倒すことが可能だという。


 これが、彼女が良い選択と言った理由であるが、

一つ問題が、弾には限りがある。撃ち尽くせば補充はされるが、

一定時間は撃てなくなる。


《聖水弾も有効です》


これの場合はどこに当てても、一撃でアンデッドを倒せるという。


 途中で弾切れを起こすと、今度は聖水弾に切り替え、

撃っていくが、ナアザの街の墓地は大きく、多くの人間が葬られているから、

それが次々と起き上がって襲ってくるので、

聖水弾の方もあっという間に切れてしまう。


「あらあら弾切れ?どうするのかなぁ~」


と煽ってくる略奪の魔王。


 そんな彼女に、イラっとしつつも、


「バーストブレイズ!」


アンデッドたちに向けて放った。すると奴らは吹き飛び、

ゾンビは火だるまになりながらも、

立ち上がって駆け足で向かってくるが、吹き飛ばし怯ませてはいるので、

時間稼ぎにはなった。


 そうやって時間を稼ぎつつ、補充が完了したら、

除霊弾での銃撃に切り替えるが、ふと思い立って


「爆裂剛煌撃!」


そして、発射された弾丸が命中と共に爆発し、

複数のアンデッドを倒していく。


(思った通りだ)



除霊弾に、この奥義を組み合わせる事で、除霊爆裂弾の完成だ。

これで、一度に多くのアンデッドを倒す事が出来て、

一気に数を減らす事が出来る。また聖水弾でも同様の効果があった。


 一方、略奪の魔王は


「その技は、ルリの!私が奪えなかった技!何でアンタが使えるのよ!」


と悔しそうに声を上げ地団駄をした。

どうやら彼女はルリさんと面識があるようだ。

奪えなかったという事は、ルリさんも「略奪」が効かないようだ。

もしかしたら、彼女と一体化している魔装のせいかもしれないが。

それと、今の彼女の姿は妙に可愛く、戦いながらも、


(アニメか漫画に出てきそうな、ツンデレ娘の様だな)


そんな事を思いつつ、


「一応、俺はルリさんの弟子だからな」


弟子と言うにはおこがましい気がするが、

すると、向こうはますます悔しそうに


「私も、あの技を使いたかったのに!」


と叫んでいた。


 やはりその姿は可愛く、手配書を持っていく人間が多いのも頷ける。

あと小耳にはさんだ事だが、彼女が寝取った者たちは、

全員がスキルの所為ではなく、彼女の魅力に懐柔された者も多いという。

まあ、見て目や仕草がどれだけ可愛くとも、

あの性格が悪さじゃ、俺は好きにはなれない。


 その後、俺はイヴの援護、まあ倒せなくとも、

怯ませてくれているので、その手助けもあって、

アンデッドの数を減らしていき、そして遂に、最後の一体が倒れると、


「所詮は、死人ね。役立たず!」


と悪態をついたと思うと、彼女も何処からか拳銃のような物を取り出す。


「まあいいわ。私が相手してやるんだから」


と言い出した。まあ元よりそのつもりだったんだろうが。


 俺も身構えたが、正直、戦いづらかった。

魔王で武器を持ってるとは言っても、

見た目だけなら普通の女の子なのだ。

さっきの戦いでも、アンデッドよりも、彼女を狙えばよかったのだが、

その姿故に、気が引けてしまったのだ。


 しかし、彼女はやる気満々で、


(戦うしかないよな……)


と覚悟を決めるものの、突如、魔王は、


「えっ、あっ!」


と声を上げ、彼女は後ろを向く、

俺はそこを狙うという卑怯な真似はせず、視線の先、

市街地の方を見ると、光の柱が上っていた

それは対略奪用の結界が張られようとしていることを示していた。

実は、俺が打ち上げた花火は、略奪の魔王が現れた際の合図で、

同時に、後を頼むという事を知らせるものだった。

 

 実は、事前にハル達と打ち合わせしていて、

もし魔王が出現した場合は、ルーンストーンを置いて

魔王を引き付けるから、その隙に設置を頼むとしていた。

彼女が、花火に気を取られている間に、ルーンストーンを

宝物庫から出している。なお俺が引きつけた後、設置したのはハル達との事。


 ともかく結界はまだだが、光の柱が上がった以上、

もう止められない。彼女は、墓場の結界を解除すると、


「覚えてなさいよ!」


と言って大慌てで立ち去ろうとしたが、


「逃がすか!鳥もち!」


鳥もちで拘束しようとしたが、

彼女の力は、まだ健在だからか、弾かれて、


「!」

「イヴ!」


弾かれた鳥もちはイヴの方に飛んでいき、彼女の体に絡みつく。

そしてイヴに気を取られた隙に、逃げられてしまった。

ナナシのプレゼントとやらの所為か、気配を追う事も出来なかった。


 その後、イヴの鳥もちをはがした後、結界はまだで完成までの間は危険なので、

一旦街から出る事は決めていて、俺たちはこの場を去り、合流場所へと向かった。

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