8「夜の街にて」

 だが翌日になって厄介な事態になった。早朝から、雨宮からの連絡を受けたのだ。

なお、連絡が取れるようにナアザの街から離れた場所に車を停め、

一夜を過ごしていた。


 そして問題は、その連絡の内容だ。例の反魔族過激派の王族が動き出したという。

討伐隊を組み準備をしているのだと。


「それに合わせたみたいに汽車が復旧したんだ」


それは時間が無い事を意味した。


「今は対『略奪』の準備をしてるから、直ぐじゃないが、

汽車は既に貸し切りの状態。早ければ今夜にも到着するだろう」


なお連中は、夜中でも関係なく行動を起こすとの事。


 そして雨宮は、


「修理に時間が掛かると言っていた汽車が、こんなに早く直るとはな。

もしかしたらナナシか」

「だろうな、こっちも……」


石材や催眠薬の材料が買い占められていたことを話す。


「相変わらず、腹の立つことをするな」


と憤慨する雨宮。


「とにかく急ぐ必要はあるだろうが」


しかし今から動けば、みんな起きているから、

大勢の人間を相手にしなきゃいけない。

今回使う催眠剤は、大人数を相手するものじゃなく。

また寝ている人間を、起きてこないようにすると言う目的もある。

だから、大人数だと効果が薄い。そうなれば、人々に手を出さざるを得ない。

例の過激派の様に俺たちも住民たち怪我させる事になるかもしれない。


 だから夜以外に時間の変更は難しいが場合によったら、

やむを得ないかもしれない。

奴らが来るよりかは、マシなような気がするから。


「とにかく、こっちも状況を確認して、奴らが動き出したら連絡をいれるよ。

それじゃあ、街を頼む」


そう言って連絡は切れた。あわただしい事になる気がした。

そうやって、慌てる俺たちを見て、

ナナシは楽しもうという魂胆なのかもしれない。


 雨宮からの電話を切った後、みんなが起きて来ると、

俺は皆に事情を説明した。ハルは、


「多少は、傷つけてしまうかもしれないけど、討伐隊よりはましだと思う」


討伐隊は、街の人間を容赦なく殺す可能性があるという

なお「略奪の紋章」が出た状態で死ぬと痕跡が残って、

支配下に置かれていたという証拠が残るので、余計に容赦しないという。


 ここまでの話を聞いていたジュリエットが神妙な面持ちしていた。

彼女には、ここまで手伝ってもらったが、この先は、関わらせることでできない。

まあ強い力を持っているとの事だが、彼女は一般人にだからだ。

その事を伝える前に、彼女から


「私は、これ以上は足手まといだと思うので、

近くの街で降ろしてくれませんか、

そこに私の知り合いがいるので、しばらく避難しています」


との申し出があった。それに従って指定された場所で、

彼女を降ろすことになるが、


《彼女、嘘をついてますよ》


指定の街で降りたいという思いは確かだが、それ以外はすべて嘘だという。


《悪意は感じられません。彼女なりに何かしようとしていると思われます》


ジュリエットは足手まといでも、知り合いがいるわけでもなく、

なんだかの目的の為に、その街に行くようだった。


 ただその街は、ナアザの街からは遠方だから、何かできるとは思えないし、

彼女を一緒に行かせるわけにはいかないので、

結局、彼女の言う通りの場所で車を停め、

ボックスホームの扉を開けると、出ていくジュリエット。


「それじゃ、ご武運を……」


そう言うと彼女は深々と頭を下げ、去って行った。


 その後は、直ぐに動けるように、町の近くで待機した。

通信は使えないがアイテムを通して、魔法で合図の様の物は送れるらしい。

それは携帯電話が光を発するだけものだが、

もし連中の、出発準備が整ったならそれを送るという。


 合図がきたら、たとえ明るい内でも俺たちは動く手はずになっている。

そして合図が分かるように、携帯はボックスホーム内のリビングの

テーブルの上に置き、みんなが見えるようにしていたが、

何時になっても合図は来なくて、日は落ちて、

本来の決行の時間を迎える事になった。


(どうしたんだろ?)


何も起きないのでかえって不安だったが、

かと言って連絡は取れないので、確かめようがない。


 とにかく行動を起こす。まずは4チームに分かれ、街の東西南北に石を設置する。

これだけで「略奪」の力を半減させることができる。

次に北東、南東、南西、北西に設置する。

なお結界の発動は、ルーン文字が彫られた石に、

出発前にハルが呪文を唱えて下準備をする。これができるのは、

この場ではハルだけらしい。

その後は、指定の場所に置いて、最後に簡単な呪文を唱えるだけ、

これは誰でもできるという事で、俺も呪文を教えてもらっている。


 石を運ぶにあたっては、俺は、宝物庫があり

ベルも収納スキルを持ち、ミズキも魔法で得ている

ただイヴは収納スキルを持つが、大きいからもう入らないし、

ハルとアキラも収納スキル付きの鞄は持っているが、石は入れられない。


 そこでチームを、俺とイヴ、ベルとリリア、

ミズキは単身だが使い魔あり、そしてハルとアキラ。

四つの内、三つには収納スキル持ちを配備。ハルたちは、台車を用意した。

なおハルとアキラが組んだ理由は、アキラの場合は、

住民と戦う事に躊躇をしないところがあり、

設置そっちのけで住民と戦いだしかねないので、


「もし揉めるようなことがあったら、僕が抑えないといけないから」


との事。それと俺と組めないことに、ベルは不満げだったが


「台車を増やすと、妙に目立つだろ。

ハルの申し出の事もあるし、それに囮にもなるしな」


そう俺とイヴで組むのは、略奪の魔王の目を引くためでもある。

彼女は、イヴことハダリーにご執心だし、

それを手に入れるために俺を狙っているからだ。

場合よったら、彼女を引き付けるつもりだった。


 ベルは渋々であったが、「絶対命令」を使うことなく、引き受けてくれた。

ちなみにリリアは報酬で釣り、

ミズキは「略奪の魔王」に過去に教団が襲われたので、

その報復という事で、快く引き受けてくれた。

ただ、その際にミズキは嬉々としていたから、少しイラっとした。


 そして深夜、


「それじゃ、行ってきます」

「じゃあ、行ってくるぜ」


と二つの石を乗せた台車を引いて街に向かっていく二人。

二人が担当するのは、西と北西である

俺達も、バラバラに分かれて違う場所から街に入った。

なお俺とイヴは北と北東を担当する


 夜の街は静まり返っていたが、

全く人がいないわけじゃなく、何人かうろついていて、

まるで見回りをしているようだった。因みに俺は、漆黒騎士の鎧をまとっている。

黒く、迷彩代わりになると思ったからだ。

そしてイヴには、オプションパーツである鎧を身につけさせていた。

ヴァルキュリアはまだだが、この鎧はようやく使えるようになった。


(単体での使用は初めてだな。それにしても、特撮ヒーローみたいだな)


デザインは、ファンタジー的というよりも近未来的で、

シルバーの装甲は、メタリックでかっこいい。

因みに、装甲の色は変更可能で、シルバーはあくまでも基本、

色は、変更可能で今は、俺と同じく黒くなっている。


 そして俺たちは、見回りの人々からうまく身を隠しながら、

街を進んでいく。何度か見つかりそうになって、

慌てて物陰やら、時にはゴミ捨て場のゴミの山に潜り込んでかわすなど

ヒヤッとする場面があった。


(行ってくれたか……)


そう安堵しながら、ゴミの山から出る。なおイヴは近くの物陰に隠れている。


(鎧のおかげで、においはしないけど)


それでもゴミの中であるからいい気分はしない。


 そしてふと、


(それにしても、ハルたちは大丈夫かな)


と思った。俺は宝物庫があるし、

ベルやミズキは「収納」があるから身一つで動けるけど、

ハルたちは台車で運んでいるから、見回りをかわすのも容易でないはずだった。

後に、心配は無用だったことを知る。

なんせ二人は、この町で生まれ育ち街の構造を熟知していて、

人に見つからず目的の場所に行く方法をいくらでも知っていたのだった。


 そんなことも知らない俺は、心配しつつも目的地に向かった。


(ここだな……)


俺はハルが用意してくれた手書きの地図を確認した。

スキル「暗視」のおかげで、暗闇の中でも見る事かできるし、

あと「周辺把握」のおかげで自分の現在位置もうまく分かった。更にここで、


(あれは……)


真っ二つに割れた石碑を見つけた。

これが、この町に結界を張っていたルーンストーンだろう。


 俺は、割れた石碑をイヴと一緒に除けて、

宝物庫から新たなルーンストーンを取り出し設置した。

それなりの大きさがあって重たいが、宝物庫から出す際に、

設置場所に出現するように取り出した。


 石を設置すると、教えてもらった呪文を唱える。

内容は簡単とはいえ、ややこしいので、割愛させてもらうが、

呪文を唱えると、石碑が少しの間、ぼんやりと光った。これで完了だ。


(よし次だな……)


今度は、北東に向かう。


 ここまでは、危ない瞬間もあったものの、順調に来ていた。

次の場所も、見回りとなっている人々を避けつつも、

最初の場所に向かう時とは違って、あまり危ない瞬間はなかった。


(今度は、順調だな)


そんなことを思っていたが、世の中甘くはないわけで。


 とりあえず次の目的地である、北東にたどり着いたが、


(ここだな)


地図を確認し、同じように割れた石碑を確認し、

新しい石碑を置こうとそれを片付けようとした時、


「何してるのかな~?」

「!」


声のする方を向くと、


「略奪の魔王……」


彼女は笑いながら、


「眠れなくてさぁ、散歩してたんだよね。

まさか君たちを見かけるとは思わなかったよぉ」


と言う。


 彼女の言葉が正しいなら偶然という事だが、

まさか魔王と遭遇するとは、何事も順調にいかないものだ。

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