6「アキラの事、今後の事」

 車をだいぶ遠くまで走らせて、


(もう大丈夫だよな……)


と思った俺は、ボックスホームに向かった。皆、リビングに集まっていた。

ハルは、


「ボックスホーム付きのカーマキシとは、まるでカオスセイバーですね」


と驚いているようで、どうも雨宮は彼に、魔機神の事は話してなかったようである。

あとハルは「まるでカオスセイバー」と言っているが

実のところ、そのカオスセイバーを再現したもの。


 夜も遅いんで、寝ようかと思った。ただハルたちが寝てもらうには、

もう部屋はないんで、ボックスホームを増設しようと思った。

やり方は、「教え要らず」で頭に入ってきていて、

加えて、本来なら増設には素材が必要だが、

俺の場合は、「創造」が連動して、素材無しで増設ができる。


 とにかく部屋を二つ増設して、一つにはベッドを二つ用意して、ハルとアキラに、もう一方はベッドを一つで、ジュリエットに使ってもらう事にした。

その後、お風呂は女性陣たちを先にして、

次はハルとアキラ、最後に俺と言う形にした。


「カズキさんは、皆さんとご一緒されないんですか?」


とハルから聞かれ


「俺は最後で良いんだよ。気を使って仕方ないから」

「そうですか……」


ハルは雨宮から、俺が両性具有という事は知らないだろうが、

元男と言う事は、知っているのかは分からない。


 女性陣が風呂から上がってきて、ジュリエットは、


「では、おやすみなさい」


と寝室に向かって行き、リリアも欠伸をしながら、


「アタシも寝るわ」


と言って寝室に向かって行くが、前の事があったせいか、

自分が寝ようとしている寝室を指し示しながら


「おい無能、この部屋でアタシは寝るからな。また夜這いしに来るんじゃねぇぞ!」


と言って扉を閉めた。


「行きませんよ!それと、もう無能じゃない!」


と怒号を上げるミズキ。


 そして、


「全く……」


と言って頭を押さえるミズキだが、ふと思い立って、


「そう言えば、アキラ君って、斬撃の魔女の甥っ子なんですよ」

「らしいな」

「ご存じでしたか」


彼女が知っているのは、斬撃の魔女と一時的に、

協力関係にあった所為だろうか、その事を聞こうとするも、先に彼女が話を始める。


「ですが、彼が赤の女王の息子と言うのは?」

「なんだ?赤の女王って」

「オウガ国、最初で最後の女王ですよ。因みに斬撃の魔女の姉でもあります」


そして一万の兵士を一人で全滅させるほどの戦士だという。


「オウガ国、特に王室は男尊女卑が酷かったのですが、

そんな中、圧倒的な力を持ち国民の支持を得て、

これまで、男しか王になれない慣例を打ち破り、初の女性の王となったんです」


とミズキは語るが、


「けどアキラの母親は、元はアイテム屋の主人と聞くぞ。

姉は姉でも、別の姉じゃねえか」


王族には他に姉弟はいただろうから、


「兄は居ても、姉は一人だけです。そのアイテム屋、エディフェル商会の女主人が

赤の女王なんですよ」

「はぁ?どういうことだ」


赤の女王は、善政で圧倒的な支持を得ていたものの、

長く地位にいてはいけないという思いから、退位して、国を出ていったという。


「そして、この国に流れ着き、アイテムショップを開いたと言う所ですね。

その後、店で雇っていた職人の一人と結婚して、子供を二人もうけた」

「二人?」

「ええ、男女の双子。アキラ君は、その片割れでしょう。

もう一人は遠方で冒険者をしてると聞きます」

「へぇ……」


まあ雑談以外の何物でもない話だが

少し興味はそそられた下賤な好奇心だな。


「しかし、随分と詳しいな、やっぱり斬撃の魔女と関係があったからか?」

「それもありますけど、赤の女王も退位したとはいえ、

その甚大な力は健在ですから、監視対象にはなりますよ」

「その赤の女王はどこに、今店にいないみたいだが?」


するとミズキは


「多分、家族の敵討ちでしょう」

「敵討ち!」

「彼女が留守の時に、強盗が入って夫が殺され、

子供たちも攫われたそうです。まあ、子供たちは生きていましたが……」


何とも重たい話になった。


「強盗犯は今も不明ですが、子供たちを攫ったのは、斬撃の魔女です」


その話を聞いて、


「強盗も、そいつの仕業じゃないのか?」

「その疑いはありますが、

本人は子供たちを助けたと言い張ってましたね。

自分が駆け付けた時には、夫は死に、子供たちは瀕死だった。

だから子供たちを連れ帰り助けたって」


ただ、その助け方というのが、二人を実験体にする事らしい


「それって、助けたって言えるのか」

「本人は助けたつもりらしいですけど……」


ハルと同じくアキラが、「略奪」が効かないのは、

その所為じゃないかと思ったが、


「どんな実験だったんだ?」

「それは知りません。ただ彼が実際にそうかはわかりませんが」


と前置きをしつつ、


「斬撃の魔女の実験体は、アシンになってる事が多いんで、彼もそうじゃないかと」


確かに、ルドやライラは亜神だった。ハルやアキラもその可能性があるらしい。

だから二人は女性的な顔をしている。


 更にミズキは、


「彼に使っているソウルウェポンが、何か関係があるのではと思うのですが」

「ソウルウェポン?アキラが使っていた剣や槍がか?」

「はい、まあ単純にルーンを描いているだけかもしれませんが、

赤の女王や斬撃の魔女も知ってるでしょうし」


ここで思い出したように


「ちなみにルーンはオウガ国、王族の秘匿魔法だそうですよ」


なおそのルーンは、刺青として体の一部に書かれるそうだが、

書かれた後に形が変わってしまう。

その形は人によって異なり、それを真似て体に書いたとしても、

ソウルウェポンは発現しないという。そして元になるルーンは、王族しか知らない。


「でも、何か違う気がするんですよね」

「何がだ?」


と聞くと、


「根拠はありません。なんとなくですけど、

『根源分析』を使えば何かわかる気がしますが」


俺は、気にはなるがこれ以上は知るのは、

下劣だと思ったので、


「許可しないぞ」


と俺は言った。絶対命令による『根源分析』の使用制限には、

俺が許可すれば可能というのもある。


「そうですか、残念ですね」


と言いつつも、彼女もちょっとした好奇心なのか、

そんなに残念そうにはしていなかった。


 更にここで、思いついたように、


「そういえば、ハル君の武器もソウルウェポンみたいですね」

「そうなのか?」

「ただ、異形の魔装『ドラグコープス』にそっくりなのが気になりますが」

「なんだそれ?」

「魔獣の血肉で作られた魔装の一つです」


ドラグコープスは、とあるドラゴンの血肉で作られた剣らしい。


「威力は強力ですが、振るうたびに必ず怪我をして、

数回振るうだけで死に至ります」


なおハルは、今回の戦いで死に至る以上の分は使っていたらしい。

もちろん本人は、生きているだけでなく、怪我さえしていない。



「偶然似ているだけかもしれませんが」


と言いつつも、ミズキは気になる様子だった。


 ここで二人が風呂から上がってきたので、話はここまでとなって、

俺は風呂に入った。一人湯船に入っていると、ほっこりしてきて

何よりも、その広さに解放感も加わって、余計に心地いい。

略奪の魔王の事など忘れてしまいそうになる。


(やっぱり広い風呂は最高だな)


と改めて思い、満足感に浸っていたが、風呂の扉が開いて、


「お背中流しましょうか?」


と言いながらベルが入って来た。俺は彼女に背を向けながら、


「お前、もうお風呂に入ったんじゃ……」

「いいじゃないですか、二度入ったって」


音から、どうも湯船に入って来たようだった。


「いや、そういう問題じゃなくてだな」


ゆったりとした時間は終わり、余計に疲れるような状況となった。


 その後、どうなったかは置いておくとして、

翌朝、備蓄していた食料で作った朝食を食べつつ。今後の予定を話す。


「とりあえず、クロニクル卿に連絡を取りつつ、

準備を整えて、僕らで結界の張り直しをしたいんです」

「俺たちでか……」

「はい……ルイズさんが行ってしまった以上余計に」

「どういう事だ」

「ルイズさんは、増援を呼んだはずです」

「別にいいんじゃないか、今は人手がいるだろ」


街全体が敵になってしまった状況なのだから。


「問題なのは、その中に反魔族の過激派がいるかもしれないんです」


ここでミズキが、


「ああ、なるほど……」


と納得したような様子なので


「そう言う事だ?」


と聞くと、


「ああいう連中は、魔族を倒す為なら手段を選びません。

市民を巻き添えにすることもいとわない連中ですから」


それを聞いて、


「なるほど、そう言う事か」


多分尊い犠牲とか言ってる。

大十字がいう所の「犠牲至上主義者」じゃないかと思った。


 そしてハルは


「連中は、町ごと略奪の魔王を葬ろうとするはずです。

そうなる前に、事を納めなければいけません。手伝ってくれますか?」


俺としても、この街を失うのは嫌だし、

何よりも雨宮が悲しむだろう、それは嫌だった。


「わかった。協力するよ」


正直面倒だと思う気持ちはない訳じゃないが、ハルを手伝う事とした。

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