5「追手と一旦の脱出」

 崩れた道を前にして、俺はハルに


「ほかに道はないのか?」


と聞くと、


「いえ、もう一か所あるにはあるんですが」


今いる場所とは、反対側にある場所で、かなりの距離がある上、

ここよりも老朽化が激しく、危険との事。それ故にこっちの抜け道を使ったらしい。


 だが、こちらが使えないならそっちに行くしかない。

俺は、ふと思いついて鎧を着た。ジュリエットが


「貴女が黒騎士だったんですか!」


と驚く。ハルは知っているので、驚いていている様子はないが、

知らない筈のアキラとルイズも無反応だった。


(アキラはエディフェル商会に住んでるから、

パゼットから話を聞いているかもしれないが、ルイズは……)


審問官の情報網の広さと言えば、それまでだろうが、

ナナシもこのこと知ってるわけだから、疑念が深まる。


 今はそれと問い詰める時じゃない。ここでハルが、


「どうして急に鎧を?」

「この鎧には『周辺把握』が付いているから、

もう一つの方が大丈夫か確認するんだ」

「中では、『周辺把握』が使えるって知ってたんですか!」


驚いているような声で言うので


「えっ、どういう事?」


ハルが言うには、ここを含めて人工的な地下空間には、

サーチ除けがされている場合が多く。ここも例外ではない。

そして本来は外からも中からも「周辺把握」は効かないのだが、

ただ土地的な問題で、この地下空間のみ特殊で、中で使う分には、

「周辺把握」が効くとの事で、

それを知るのは雨宮を含め限られた人間だけだという。



「そうなんだ……」

「知らなかったんですか?」

「ああ、鎧を使おうとしたのは思い付きだ」


これで違っていたら恥ずかしいなと思いつつも、周辺把握で状況を確認。

もう一つの抜け道はまだ使えるようだった。


 俺はそれを伝えるとハルは、


「それじゃ、行きましょうか」


と皆で移動することになった。


 しかし移動中は、ルイズが気になって仕方ない。


(もしコイツがナナシなら、何をしでかすか分からないからな)


何かあったときの為に、気を張っておく必要があった。

そして地下空間の奥のほうに進んでいくと、


「!」


俺は、「周辺把握」で大勢人が入ってきたことに気づいた。

強い人間なので、恐らく冒険者と思われる。

しかも、教会の方からである。その事を伝えると、ルイズは


「そんなに入り口はきちんと閉めて来たのに……」


と言っているが彼女がナナシなら、ワザと開けてきたはずだ。

ここでハルが、


「そう言えば、地下空間の事はジェニファーさんから聞いたんでしたよね」

「はい……」

「そのジェニファーさんは、どうなっています」

「『略奪の紋章』が出ていましたから、魔王の支配下です。あっ……」


支配されたジェニファーが、教えたという可能性もあった。

もちろん彼女がナナシでなければだが。


 とにかく入ってきた奴らと接触する前に脱出しようと、

先を急いだが、


「なあ、ここの事が知られたという事は、抜け道の先で、

待ち構えられてる可能性はないか?」


と思わず俺は聞いた。するとルイズは、


「ジェニファーさんは、抜け道がどこに出るかは、知りません」


ハルとは違い、抜け道の場所も詳しくは知らず、

ルイズは、依然聞いた曖昧な情報だけを頼りに、

それこそ、イチかバチかで抜け道を目指していたと言う。

引き続きクラウの感知では、嘘はついていないとの事だが、

それでも、警戒を解けずにいた。


 更に、悪い事が続くようで、


「大変だ!」


俺は、「周辺把握」で確認して思わず声を上げてしまう。

すると、みんな立ち止まり、ハルが


「どうしたんですか?」


と聞いてきて、


「魔獣が、しかも突然」


するとベルが


「まさか、サマナヴィ」

「恐らくな……」


魔獣の動きは、入ってきた人々を襲うような気配はなく、

一緒になって、俺たちを探しているように見えた。

そこからも、サマナヴィの可能性が高い。

 

 ナナシのサマナヴィは以前破壊したが、新たに新造した可能性がある。

それを、またプレゼントとして渡したか、

あるいは、カーミラの持っていたのとは別のがあって、

それを既に、持っていたか、あとはナタリア達も支配下で、

当然、現在カーミラのサマナビィを持つアルヴィンも支配下だろう。


 もちろん、略奪の魔王は魔獣を支配する事も可能らしいから、

暗黒教団の爺さんと同じく、

コントロール下の魔獣を魔法で召喚したのかもしてない。


 ここでアキラが


「何だか、わかんねえけど、魔獣相手なら容赦は、いらねえよな」


そう言うと、手に赤い剣が姿を見せる。

だがハルは、


「ダメだよ魔獣だけじゃなく人も来てるんだよ」


と言って制止させるも、そうこうしている内に、

人よりも先に魔獣が到達した。やって来たのは、ゴブリンだった。

魔獣は他にもいたが、奴らは比較的足が速いからだろうが、

しかも一部は先回りしたので、囲まれる形となった。その上、数も多い。


「こうなったら、仕方ねぇよな」


嬉々とした様子で、アキラは武器を手にゴブリンに向かって行った。

確かに倒さないと、先に進めないようだったが、

足止めされている間に、人が来られてはまずいので、


「ミズキ、初めて会った時に使っていた蜘蛛を倒した魔法。頼めるか」


すると腹立たし気に、


「今、使おうとしていた所ですよ!」


と言った後、持っていた杖を構え、


「ファイヤーエクスプロージョン!」


嘗ての蜘蛛の様に、周囲のゴブリンは火に包まれる。

その中には、アキラが戦おうとした奴もいて、


「あぶねえ!」


咄嗟に間合いを取ったので、アキラは大事に至らなかった。


 さてこれで、ゴブリンは全滅した。だが死体は消えてしまう。


(やはり、サマナヴィか……)


それは同時に、厄介な事態を引き起こした。


「またゴブリンが……」


ゴブリンが瞬時に、俺たちの前に現れたのだ。

サマナヴィの力ならば魔獣を瞬時に補充できる。

更に今の戦いで、こっちの位置が完全につかめたからか、

狙って出現させているようだった。


「何度でも、相手にしてやらぁ!」


とアキラは叫びながら嬉々として、敵に向かって行く。

ミズキは、


「ファイヤーエクスプロージョンは、連発はできませんよ」


と嫌味に聞こえる言い方で、俺に言ってきた。


 俺は、


「戦いながら進もう!」


と提案した。この状況で戦わずに逃げるのは無理だし、

だからと言って、ゴブリン退治にかまけるわけにはいかなかった。

戦いを最小限にし、前進を優先するのだ。 


ハルも、


「そうですね……」


と賛同するし他の面々も同じ、ただリリアは、


「そうだな、面倒だし」


との事で、アキラに至ってはゴブリン退治に夢中で、

俺たちの話を聞いていないようだった。


 俺は、クラウを抜いてゴブリン達を、切り裂いていった。

しかし倒しながらも敵の数は増えていく。


(考えたな……)


敵に思慮があるかは不明だが、ゴブリンは低級の魔獣故に、

サマナヴィによる召喚の消費魔力は少ないと思われる。

だとすれば、その分、多く呼びだせ補充も早いはずだ。


 そして倒しても補充される敵に対し、


「クソッ!キリがない」


と思わず、言ってしまう。イヴが銃器、ミズキは魔法、

リリアはジェヴォダに変身して、ベルは銃形態のメタシスで、

アキラは、剣から槍に変更し戦っている。


 そして、ハルもいつの間にかどこか生物的で、

不気味なデザインの剣を手にしていて、

手際よく敵を倒していく。中々の腕前だ。


(なるほど、店の用心棒も務めているわけだ)


と俺は思わず納得していた。

 

 みんな総出で戦っているから、キリがなくとも前に進めていた。

それでも進行速度は遅く、人々に追いつかれそうだった。

この状況で、バーストブレイズを使いたかったが、

ここで使うと、地下空間を壊しそうで使いづらかった。


 それに今はゴブリンだが、後ろの方には、オークにスケルトン、 オーガなど、

強力な魔獣が控えている。

そんな中でも幸運なのは、魔獣たちはやって来た人々には攻撃しないものの、

大勢いるせいで、進行の邪魔になっていた。

加えてこっちの位置がハッキリわかった為、

こっちに人々も集中させている所為か、人同士も邪魔になって、

混雑している状態でもあった。


 これらは周辺把握で確認した事であるが、


(なんだか、考えなしだな)


魔獣と戦い進みながら、そんな事を思った。その思いを受けてか、


《これは、噂で確証はないのですが……》


とクラウが前置きしつつ、


《略奪の魔王はおバカだそうですよ》


と言った。確かに現状から、その可能性も高いようだ。

 

 そのバカさに助けられたかは分からないが、

どうにか外に続くであろう出口までやって来た。

このまま行けば外に出れるが、

アキラが魔獣と戦う事に夢中になっているようで、


「おい!」


と呼びかけても、嬉々とした様子で戦いに興じていて、

反応しなかった。


 するとハルが、アキラに手をかざし


「マインドコルド!」


と魔法をかけた。心落ち着かせる魔法との事で、

アキラは、ハッとなったようになって、戦闘を止め、


「すまん、夢中になっちまった」


と顔を赤くしながら謝りつつ、一緒に出口から脱出しつつミズキに、


「足止め頼む」


と言うと、またも悔しそうに、


「今やろうと思っていた所です!」


と同じことを言って強力な結界を張り、後方からの敵を防いだ。

なお召喚の範囲外なのか、周辺に魔獣が召喚されなくなった。

 

 抜け道は、途中壁になっていたが魔法で開き、そこから洞窟に出た。

さらにそこから出ると、外は荒野だった。

ここは最初の抜け穴のある森の反対側にある場所らしい。

洞窟を出ると、もう遅い時間だが、


「私はこれで」


と言ってルイズは走り去る。


「ちょっと待ってください!」


とハルは止めようとするが、追いつけず。結局彼女はどこかに行ってしまった。


 残された俺たちは、とりあえずここなら、カオスセイバーⅡを出せると思い、

取り出して、ハルたちはボックスホームに入ってもらって、

鎧を脱いだ俺とベルが運転席に乗り、出来るだけ遠くまで走った。

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