2「またまた閑話」

 奴と会った日の夕食を、全員で食べていたのだが


「しかし、面倒な話だな……」


と略奪の魔王の事を愚痴った。するとミズキが、


「あの略奪の魔王ですか、教団も被害に遭ってるんですよね」


教団の施設に乗り込んできて、色んなものを奪っていくらしい。

多くの教団施設では結界が張られていて、

「略奪」は使われないので、被害は最小限なのだが、


「結界が破壊された施設もあって、そこは被害が甚大でして」


しかも本拠地に次ぐほどの大きな施設で、そこに所属していた信者たちは、

全員、魔王の「略奪」の効果で洗脳されて支配化に置かれ、

反旗を翻す形になったので、教団は結構危ない状態になったという。


「そのまま、滅んでくれればよかったのに」


と思わず言うと、ミズキはしかめ面をするが、


「魔王が、直ぐに解放したんで、助かったんですけどね」

「解放した?」

「略奪の魔王は飽き性な所がありまして、

突然、信者たちに対する洗脳を止めて、逃亡してしまったんです」


ただその際に、施設内にあった資金や財宝や、武器、

マジックアイテムなどの物資は、すべて持って行ったので、

甚大な被害には違いなかったそうだ。


「有名な話ですが、彼女は両性愛者で、男女問わず寝取りするんですけど、

手に入れた途端、直ぐに捨ててしまうんですよ。

恐らくは略奪だけが目的で、達成したら興味を無くすみたいです」


なお物資は持っていったとの事だが、

魔機神など一部を除き活用された痕跡が無いので、

こっちも放置されていると思われる。

ちなみに噂であるが、彼女は魔王城ともいえる拠点を持っていて、

物資は、恐らくそこに保管されていると思われる。


 飽き性との事なので、


「放っておいたら、飽きるって事は?」


と聞くと、ミズキは


「ないでしょうね。飽きるのは奪ってからですから、

とにかく彼女は、『奪う』事に対しては、ただならぬ執着心ですから」


あと自動人形は、彼女には物資に相当するのか、奪っていくと戻ってこないという。


「でも、俺から奪う事は不可能なはずだ」

「それでもやめませんよ。ダメ分かっていても、

諦めないそうですから、諦めるとすれば、

対象を破壊しつくすか、あるいは自身が完膚なきまでに

叩き潰されるかのどちらかですよ」


つまり、俺の場合は破壊されることは無いから、

「叩き潰す」の一択だった。


「めんどくせぇなあ」


と思わず愚痴ってしまった。


 ここでベルが、


「しかし、その執着は、やはりスキルの所為でしょうか?」


俺は、


(他人事言えねえだろ)


と思うが、ミズキはしかめ面で答えない。俺が、


「どうなんだ?」


と聞くと、絶対命令もあって彼女は答える。


「それは、どうか分かりません。スキルが、

持ち主の精神に影響を与える事はありますが、

そう言うのは人それぞれですから」


俺への回答であるから、正直な意見である。


「そうなんですか」


と言うベル。話を聞いた俺が、


「つまりその執着心は、スキルと関係なく、元々の性格という事か」

「先も言いましたが、私は『略奪』に関して、

自身の精神への影響については、分かりませんからね」


とミズキは答えるだけだった。


 翌日以降、街に出ると、略奪の魔王に絡まれることが多くなった。


「見っけ、お命ちょうだい!」


と可愛らしい声で言って剣を抜いて襲ってくる。

腕前は確かなようで「略奪」が使えなくとも、

俺とベルを相手に立ち回れる腕前はあるようだ。


 ただところかまわず、それこそ衆人環視の前なので、

直ぐに衛兵やら、異端審問官が駆け付け、


「またね~」


と言って逃げていく。この繰り返しだ。

因みに一度、襲ってきた時に、俺とベルで応戦しながらも、


「お前、もしかして鎧姿の冒険者から、俺の事を聞いたか」


と聞いた。すると、


「うん! いろいろ教えてくれたよ。プレゼントまで貰っちゃった」


名前は聞いてないそうだが、そいつはナナシで間違いないだろう。

やはりナナシと繋がっていたのだ。

 

 ただ家に乗り込んで来たり、仕事中に襲って来ることはなかった。

奴と繋がっているようだが、家まで教えて無いようだった。

なおナナシは、過去に家の転移除けを壊していたと思われるから、

知っていてもおかしくないし、前も仕事先に現れたくらいだから、

仕事先を調べるのも容易いはずだ。


(わざと情報を教えて無いんだろうな)


恐らく奴の性格から考えて、情報をあえて教えず、

状況を長引かせて楽しんでるんだろう。

相変わらず、腹の立つ野郎だ。


 その後、衆人環視で襲われている関係もあって、

略奪の魔王に襲われている事は周知の事実になったので、

衛兵から、監視されるようになった。

審問官の時とは違って、事前に連絡はなく、

クラウの「感知」で分かった事である。


《マスターへ疑いの眼差しはありません。同情のようなものを感じます。

ですが同時に、利用しようという感じもします》


俺の所にやってきたところを捕まえようという事なのだろう。

個人的には、協力するが人に見られている関係で、

落ち着かない日々を送る羽目となった。


 しかし、衛兵に監視されるようになると

するとどういう訳が、襲ってこなくなった。


(多分、ナナシが入れ知恵したな……)


完膚なきまでに叩き潰すのは面倒だし、

それにお尋ね者であるから、早く衛兵やら、

審問官やらに捕まってほしいのだが、そうはいかないようだった。

なお審問官の方も、魔王の事は追っているようだが、

前のように護衛という事はしない様だった。

後に、護衛に人員が割けず衛兵に任せていたことを知る。


 その日の夕方、雨宮から連絡があった。

どうも略奪の魔王の事が、向こうにも伝わったらしい。

なお連絡の際は、雨宮は休憩時間との事。


「厄介なことになったな。俺も含め、

結界が破壊され、『略奪』されたときに対処できる人間が、

全員こっちに集まってる状態だからな……」


雨宮を含め「奪還」の魔法を使えるものは、

全員、王都で、王女に掛かりきりの状態。


「ナアザの町と王女じゃ、王女の方が優先される」

「やっぱり、そうなるわな」


と俺が言うと、


「王女なら、自分の命よりも街を優先してくれるだろうけど」


なおこの国の王様も、民を想う立派な人で

民の為に命を投げ出せる人だそうだが、


「家族の事となると、父親としての部分が強く出てしまうんだろうな。

娘を持つ俺としては、わかる気がする……」


俺は家庭を持っていないが、その気持ちはわかる気がする。

大十字も、昔流行ったホラー小説を読んで、


「主人公はラストに人類か、家族かを天秤にかけるの、

そして家族を取るわ。もし同じ選択肢を私が突き付けられたら、

同じく家族を取ると思う」


とそんな事を言っていた。


 王女の事はとにかくとして、


「奪還の魔法がなくとも結界には、奪還の効果があるし

結界自体は、高位の魔法じゃないから、

張れる奴は大勢いる」


そう結界を張りなせば、「奪還」の魔法は必要ではないとの事。


「でも時間がかかるからな、妨害もあるし……」


雨宮によると、奪還の魔法は結界の張り直しの際に、

略奪の魔王が支配した人間を嗾けてくるから、

そういった人間を正気に戻し、

邪魔を少なくするために使うという。


「とにかく俺が、戻るまでに、状況が好転していてくれれば、

せめて結界が破壊されなければいいんだが……」


と不安げな雨宮。

なお雨宮のような大魔導士には「略奪」は聞かないとの事。

理由は、はっきりしていないらしい。


 今忙しい雨宮を、心配させたくないと思い、

俺が狙われていることは言わなかったものの


「ところで、相手は一応魔王なんだから、勇者は、対応してくれないのか」


魔王と言えば勇者。しかし魔王が現れたというのに、

勇者の話は聞かなかった。


「略奪の魔王は、確かに魔族で元魔王だが、

今は魔王じゃないから、勇者の討伐の対象外なんだ。

それに『略奪』防止の結界が普及した現状では、

彼女は、鎧の魔王ほどの脅威とはみなされていないからな」


もちろん、結界が壊された「略奪」を使う時は、かなりの脅威であり、


「その時は、勇者の出番だろうが、それでも鎧の魔王の方が優先される」


とにかく現状では、略奪の魔王の対応は衛兵か、

審問官が行うことになる。


 そして俺は、雨宮にもミズキに聞いたように、

略奪の魔王の性格はスキルによるものか聞いてみたが

回答はミズキと同じだったが、


「ただ『略奪』の持ち主は、他にも知ってるが、

あんな性格の人間は、アイツだけだ。俺の個人的な意見だが、

略奪の魔王の性格はスキルとは関係ない、彼女自身の性格なんだろ」


と俺と意見が一致した。


「略奪の魔王の親も、族長、つまり魔王だ。

どんな奴だったかは聞いたことがないが、

娘を甘やかして育てた可能性は大いにある」


つまり彼女は、単にわがままに育ったお嬢様という事らしい。


 この後、雨宮は休憩が終わりという事で電話を切った。

そして、この電話の翌々日に事態は大きく動くのだった。

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