21「別れの時」

 数日後、使用人が戻ってきて、ライト達が国元に帰る時が来た。


「貴方たちのおかげで、大いに助かりましたわ」


この時、婦人の館の前でこれから、館を後にするところ、

因みに、かなり給料を渡している。


「こんなに貰っちゃっていいんでしょうか?」


と気が引けているライトに、


「いいんですよ。貴方たちはそれだけの仕事をしたのですから」


更にルリちゃんも、


「でも、お兄ちゃんの件で、休ませてもらって、迷惑を掛けちゃいましたのに……」


この時、彼女は骨壺を手にしていた。


「いいんですよ。ご家族の事ですから、お気になさらずに」


穏やかな声で、言う婦人。


 俺も館の前にいて、この様子を見ていた。なぜ俺がここにいるかと言うと、


「カズキさん、お二人をお願いしますね」


婦人からの依頼で、二人の国元までの、送迎を頼まれたのである。

隣国と入っても、車を使えば、途中泊りになるが、

二日で着く。まあ馬車とかでは、もっとかかるので、

俺がカーマキシを持っていることを知った婦人が頼んできたのだ。

まあ断る理由はなかったが。因みに転移ゲートでは地元までは帰れないとの事。


 あと送迎だけでなく、宿の手配も頼まれた。婦人は、

到着まで泊りになる事は、想定しているようで、

二人の宿泊分に相当するお金を先払いで渡してきたが、

ボックスホームを所有している事を話し、食糧費以外は不必要だから、

最小限のお金だけもらい後は、返そうとしたが、断られ、

半ば強引に受け取らされた。


 二人は、長時間の車と言うのはきついものだから、

ボックスホームに入ってもらおうとしたが、


「一度、カーマキシに乗ってみたかったんです」

「私もです」


という事なので、助手席にライトと後部座席にルリちゃんを乗せた。

余談だが、ボックスホームにはベルがいる。


 カオスセイバーⅡのナビがあるので、迷う事はなく。

一日目は、色々と雑談をしながら走り、

国境を越えた。なお隣国は同盟国で、更に条約で出入国審査がいらない。

夜はボックスホームで過ごし、翌日は、彼らの住む街を目指していた。


 その後も雑談をしていたのだが、突然ライトは、


「あの……確かナナシって奴でしたか?」

「そうだが、何か?」

「あの人、貴方の事を暗黒神って言ってましたけど、どうして?」


問い詰めるようなものじゃなく、軽い感じだったが、

聞かれるんじゃないかと思っていた。

ナナシはライトこと黒の勇者の前で、俺の事を暗黒神と呼んでいたのだから。


 俺は、


「アイツは、妙な奴でな、俺の事を何でか暗黒神って呼ぶんだ。

まあ俺だけじゃなくて、ジャンヌさんは光明神とか呼ぶし」


すると


「ジャンヌさんは、分かる気がします。名前だけじゃなく、

見た目も聖女様そっくりですし」

「でもどうして、光明神なんだ」


似てるというか本人なんだが、あくまで似ているのは聖女様で、

なぜ光明神となるのか。


「宗教画では光明神と聖女様を、そっくりに描いている絵って多いんです」


後に聞いたが、聖女ジャンヌは光明神の化身とされ、

一部の宗教画では似せて描くと言う事があるという。

実際は、まさにその通りなのだが。


 更に、ライトは、思いついたように


「もしかしたら、暗黒神の絵に、

貴方そっくりなものがあるのかもしれませんね」


と言うライト、実際はそうじゃないのだが、何と言うか、

上手く誤魔化せたようだった。


 ちなみに話題に出た原因であるナナシだが、シスターによると、

結局、逃したらしい。


 やがて、目的地となる二人が住む街にたどり着いた。

カーマキシは目立つから、注目の的になったが、

それは置いておくとして、二人はこの後、ジークの弔いの為、

ルリちゃんの地元に向かうらしい。地元まではさらに距離があるので、

そこまで送って行こうかと、打診したが、


「大丈夫です。あとは僕らだけで行きますから」


と断られた。


 別れ際、俺は、ふと思い立って二人に聞いた。


「なあ、お前らはこれからも続けるのか、従者を?」

「ええ」


とライトは答え、ルリちゃんが


「私は」


ライトが


「僕は」


そして、二人は息ぴったりに


「「あくまで、従者ですから」」


と答えるのだった。






  暗黒教団の拠点で、ワインを飲んでいるジムとナナシ。

しかし、先の一件があったからナナシは不機嫌そうであったが、

ジムは、どことなく機嫌がよさそうだった。


「随分と機嫌がいいね。どうかしたのかな……」


不機嫌さを感じられる口調で言う。


「先日の戦いにの映像を上層部に見せたところ、

思いのほか、評価が良かったんです」


実は、先の和樹との一件の一部始終を自動人形から送られてきた映像を、

記録する形で残していた。


「デモンモードの評判がいいです。暴走はしてましたけど、

黒の勇者たち相手に、あそこまで渡り合ったのが評価されてて」

「そうなんだ……」


とナナシは素っ気なく答えつつも、


「そう言えば、奴と因縁があるあの二人はどうなった」

「史恵……レベッカとシルヴァンですか?」

「そう」

「二人とも戻って来てから、失敗を悟って、逃亡しましたよ」


余談であるが鎧には、回収の転移スキルがついている。

鎧が深刻な損傷を受けた場合と、外部からの操作で発動できる。

装着者ごと転移はするが、あくまでも回収が目的である。


 そしてナナシは


「どうするんだい?」

「どうもしませんよ。あの二人は何もできないでしょうから、

レベッカが居なくなったのは惜しいですけどね。夜の相手が減りましたから」


するとここで、ナナシは、いじわる気な言い方で、


「案外、奴に寝取られたりして」


するとジムは笑いながら、


「それはないでしょう。奴に、強制契約する度胸はありませんよ」


と言った後、ここからは


「これまでだって、奴はまぐれで、ここまで来たんだ……」


と低い声で言った。


 そしてナナシは、思い出したように、


「そう言えばシルヴァンって奴、妹さんいたんだっけ、

確かタツヤって奴に関わって、身を滅ぼした」

「ええ、確か今回も煌月家の人間が関わってましたから、兄妹で、妙な縁ですね」


と言うジム。


 更にナナシは、


「そう言えば、ナアザの街の近隣での、『略奪の魔王』の目撃情報が、

耳に入ってきたね」

「『略奪の魔王』がですか」

「このまま街に来てくれたら面白いんだけど」


機嫌の悪かったナナシの機嫌が少し良くなっているようだった。





 気が付けば、俺は道場の様な場所にいた。


(夢だな)


とすぐに思ったが、


「その通り!」


と言う声が聞こえ、声の方を向くと、

ポニーテールの髪型で道場着を着た美人がいた。


「お前、夜叉か?」

「いかにも」


鬼神は、例によって外見を変更、と言っても色を黒から白に変えただけだ。

鬼神は、別名「漆黒の手甲」だから、色を変えるだけでも十分で、

名前も、声が女性だったから女性の鬼で、夜叉とした。

本人も気に入ってるようだった。


 そして現れた道場着の女性の声は夜叉のものだったし、

見た目も声から想像した夜叉のイメージそのものでもあった。

因みに、夜叉はフレイや、ミニアもそうだったが、他とは違って、

俺だからと言って、口調を変えることはない。


 俺は、夜叉に


「この状況はどういう?」

「わが主は、理想の主にはまだ一歩たりん」

「はあ?」


するといつの間にか、彼女の手には竹刀が握られている。嫌な予感がした。

彼女は主人を選ぶにあたって妥協しないところがあるからだ。


「なので、理想の主になってもらうため、徹底的に鍛え上げることにした」

「えっ、ちょっと!」

「我が主と言えど、拒否権はない!」


 自分で選べなかったから、俺に変われと言う事だろう。

夢の中であるが、俺は彼女に、シゴキを受ける羽目となって、

あと絶対命令をすっかり忘れていた事もあって、

しばし楽が出来ない日々を送るのだった。

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