20「勝負の終わり」

 ルリさんとジークの戦いは、山場と言ったところで、

お互いに死力を尽くした感じで、魔獣や魔装軍団、

ナナシとの戦いに集中していたので。

すべてを見れてはいなかったが、良い戦いだったのは、

二人の様子から見て確かなようだった。


「ルリさん……そろそろ決着をつけます…」

「そうね、私もきつくなってきたし」


二人とも拳を構える。次の一撃で勝負を決めるつもりだろう。


「いきますよ!」

「ええ、こっちもいくわ!」


そして二人は互いの渾身の一撃を繰り出す。


「超撃剛煌拳!」

「アルティ・パンチャー!」


どちらも、オーラを纏った拳であり、そして拳による奥義としては、

最強の奥義である。両者の攻撃はぶつかり合い、辺りに衝撃波がまき散らされ、

その衝撃波で、俺たちは転びそうであったが、何とか耐える。

そしてまばゆい光に包まれ、周りが真っ白になった。


 視界が戻り、衝撃波が収まった後、

二人は拳をぶつけたまま、しばし動かなかったが


「ぐぅ!」


ルリさんの方は、地面に膝をつき、


「どうやら私の負けかしら」


しかしジークは、


「いえ、俺の……負けです……」



そう言うと、ジークは仰向けに倒れた。そう勝負は決したのだ。


 俺たちは、もう大丈夫と思い、鎧を脱いでいた。そして、ルリちゃんが、


「お兄ちゃん!」


と声を上げ、駆け寄り、俺たちも、後を追うように駆け寄る。

地面に倒れたジークは、笑顔だった。それこそ気持ちのよさそうな顔をしていた。

その表情が、後腐れの無い、

そう勝っても負けても気持ちいい戦いと言うやつだった。


 ジークは、俺を見ると、


「もう、思い残すことはない。約束だ。キシンはくれてやる。

ひと思いにやってくれ」


七魔装を渡すと言う事は、本来なら命を奪うと言う事だから、

殺してくれと言う事なんだろうが、もうその必要はない。

俺は、ジークの手から鬼神を外した。


 そして地面に置くと、武器をトールに切り替えて


「とりゃ!」


と自然と出た掛け声と共に叩き潰した。ジークは、驚いたように、


「お前……」

「これでいいんだ」


と俺は答える。そして、


《スキル『融合』が発動、キシンと一体化しました》


こうして、すべての七魔装が俺の手に入った。


 だが七魔装を失った影響で、一気に病状が進んだのかジークは、吐血した。


「お兄ちゃん!死んじゃやだ!」


と涙を流しながら悲痛な声を上げるルリちゃん。

そしてライトは再び黒の勇者になり、回復魔法を使うが、状況は良くならない。

更に白の魔王も加わり回復魔法を、使うものの、ダメだった。

それは、もう手立てがない事を意味した。


 ジークは、


「いいんだ。もうこのままで良い。俺は満足だ……」


と言いつつも、


「ごめんな、ルリ……」


と悲しむルリちゃんに詫びる。この後、そのままにできないので、

俺たちはボックスホームに運び込んでベッドに、寝かせた。


 その後、空間は解除され、

更にナナシに遠くまで飛ばされていたジャンヌさんと合流した。

ナナシは、直ぐに戻ってこれないように、神の領域を使った転移を封じた上に、

彼女の収納空間を封印して、魔機神を取り出せなくされていて、

今は解除されていて、彼女は神の領域を通して、

俺のいるボックスホームに直接やって来た。


 なお今、ジークが安静にしている寝室にはライトとルリちゃんがいて、

俺を含めた他の面々は、リビングにいた。

ジャンヌさんが現れたのもここである。因みにジャンヌさんが、

突然現れた事に対し、ルリさんは、特にリアクションがなかった。


 俺は、ルリちゃんの様子を見てたから、事情を説明して、


「ジャンヌさん、その……どうにかならないいんですか」


と言うが、


「ルリさんとの戦いを終えた今、彼は延命を望んでないんじゃない?」

「ええ……」

「じゃあ、彼の意思を尊重するわ」

「そんな……」


さらにルリさんも、


「彼は、満足しているわ。有名な漫画の様に、生涯に一片の悔いなしところよ。

このままにしてあげた方が幸せだと思うし、それに妹さんも看取ってくれているし」

「………」


すると、ミズキが


「助けたいなら、あなたが助ければよろしいのでは」


と言われたが、それができないことは彼女も知っているのだろう。


 暗黒神の「創造」では、生物を作ることはできない。

材料を揃えれば別で、あと既にある肉体もいじる事はできるが、

それら無茶な使い方をするから、必ずおかしな事になる。大体は怪物化だ。

それでは治せても、本人も周りも不幸になる結果になる。


 ここでルリさんは、俺に、


「この際だから、聞いてもいいかしら?」

「ええ、何ですか?」

「和樹さんは、暗黒神じゃないですか?」

「えぇ!」


さらにジャンヌさんにも


「違いますか?」


俺は、


「どうしてそう思うんです?」


と尋ねると、


「私は、貴方からジャンヌさんと同じものを感じましたから」

「まさか、貴女……」

「知ってますよ、ジャンヌさんが光明神である事、

そして神々の真実もね。ただナナシと言う奴の事は初耳でしたけど」


するとジャンヌさんは


「確かに、彼女にはすべてを教えているわ」


と答えた。それは、俺がこの世界に来る前の事だから、

俺が暗黒神であることまでは伝えていない。


 更に彼女は、


「ベルさんも含めた貴方が連れてきた人たちは、契約者ですね?」


ここまで言われると隠しきれないと思ったのと、ライト達がいないから、


「確かに、俺は暗黒神で、そして皆、契約者です」


と答える。


「じゃあ、貴方もジャンヌさんと同じく、生贄にされて、

暗黒神になったのかな?」

「ええ」


俺はミズキを指さしながら、


「この世界に来たばかりの頃、そいつに生贄にされました」

「生贄転生ってやつね」


なおルリさんは、雨宮の生贄転生の研究に協力していた。

つまり研究の当事者の一人らしい。


「私の弟子の一人が、それなのよ」


との事で、協力していたと言う。


 そして、


「雨宮さんはこの事は?」

「知ってます」


と俺が言うと、


「そう……」


と言うと、


「貴方が、暗黒神であろうと、私は何かするつもりはないわ。

まあ色々あるだろうけど、私には関係ない事。

話を聞いたのは私の好奇心だから」


この後、ライトが、用を足しに部屋から出てきたので、

話をやめ、それ以降は、この話はしなかった。

ルリさんの「何もしない」と言う言葉は、信頼できるとは思うが、

俺は何とも言えない気分を味わうのだった。


 この場にいると、来ないとは思うが奴らが戻って来て、

面倒な事になっても困るので、車を適当な場所に移動させた。

そしてジークの事が心配で、今日は帰る気になれなかったので、

その日はボックスホームで、皆で過ごした。


 ジークはその晩に、ライトとルリちゃんに看取られて亡くなった。

事を聞いて、状況を確認したが、ルリさんとの戦いの後と同じ、

穏やかな死に顔だった。


 その後の処理は、ルリさんとジャンヌさんが行った。

これも、決めている事だった。ジークが病人なのはわかっていた事だから、

こうなる事も予想できる事だった。とはいえ、実際に起きると気が重いものだ。


 婦人には、ルリさんが話をして、ライトとルリちゃんの休みをもらった。

幾つか誤魔化しを入れたものの、不幸が起きたので、

休みが伸ばしてほしいというもので、肝心な部分に嘘はない。婦人は、


「もちろん、休んでもらって構いませんが、

私も何かお手伝いいたしましょうか?」


と言われたが、迷惑はかけられないので、手伝いは断ったという。

勝負の翌日に、簡単な葬式をして、ルリちゃんの家の宗派もあって、

ご遺体は火葬とし、遺灰はルリちゃんが実家に持って帰って、

そこで本格的な葬式をするという。火葬には、俺とベルも立ち会った。

雨宮はまだ王都から帰って来れないのでいなかった。


 さて街はずれに火葬場がある。この辺では土葬が基本だが、

異種族や光明教団でも宗派によって火葬にする必要が有るからだ。

そしてジークの火葬を終えるまで、

ルリちゃんは終始、暗い顔で、誰とも口を利かなかったが、

彼女は遺灰を骨壺に入れて、手にすると、


「これで、お兄ちゃんも幸せだったと思います。

武闘家として、最期を迎えたいって、よく言ってましたから」


ここで一旦言葉を詰まらせつつも


「それに、お兄ちゃんは、二度と帰らないという決意で、

家を出ていきましたから、死に際を看取って、

遺灰を持って帰れるだけで良かったです……」


そう言いつつも、目には涙が流れていた。


「ルリちゃん……」


と言ってライトは、彼女の涙を拭き、慰めていた。

俺も慰めの言葉を言いたかったが、良い言葉が思いつかなかった。

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