19「暴走の果て」

 そして魔装軍団は、こっちの事は、そっちのけで潰し合いを続け、

ナナシが、どうにか収めようとしていた。


「あ~もうっ!」


と頭を抱えている。どうやら、さすがのナナシでも無理なようだった。

鎧は自家製とか言ってたから、ナナシが作ったんだろうが、

性格の悪い奴の事だ。あえて暴走を止められないようにしたんじゃないだろうか、

たとえそれが、ナナシ自身であっても。


 それを見た俺は再び兜をかぶり、その下で笑ってしまったが、油断はできない。

いつ奴らの攻撃がこっちに向くか分からないからだ。それに攻撃もできない。

攻撃する事で、こっちに注意が向きかねない。

そして、まだジークとルリさんの手合わせは続いている。

決着がつくまで二人守り抜かねばいけないから、

俺たち、奴らの状況に注意し続けた。


 だがしばらくすると、ナナシは魔装軍団に攻撃を始めた。

奴にだけでなく、潰し合いも含めて倒された奴は、元の姿に戻り消えていく。


《転移の様です》


前と同じ、敗北後の脱出用の転移みたいだが、それ以前にナナシの攻撃だ。

何をもってこんな事をしているかは分からなかったが

奴の事だ。よからぬことをしてるに違いない。


 最初は何をしているか分からなかったが、


「あっ!」


俺は気が付いて、その場を、と言うかできるだけルリさんとジークから離れた。


「どうしたんですか!」


と言うベル、


「奴は、シルヴァンとレベッカ以外を倒してるんだ」

「えっ?あぁ!」


とベルは状況を察したようだった。シルヴァンとレベッカ以外と言うのは推測だ。

ただナナシは、特定の男性型と女性型の団員を守るように、

攻撃しているように見えたからだ。

なお魔装軍団は、男性と女性の違いがあるものの、デザインが同じなので、

誰が誰だか分からない。

先に二人の事が分かったのは、向こうから声をかけてきたから。


 話を戻して、なぜナナシが守ってるのが二人と推測したかと言うと、

暴走してる連中は見境なしだが、この二人は戦い方こそ無茶苦茶だが、

攻撃対象がはっきりしている。俺だ。他の奴を処分して、

確実にこっちに攻撃してくれる奴を残す気だろうと思われる。


 やがてナナシは、シルヴァンとレベッカの邪魔となってる奴ら、

結局二人以外の、軍団全員を倒した。

邪魔が無くなったというか、互いが邪魔し合ってる状況だが、

もみ合いながらも、俺の方へと向かって来た。


(だったら、俺も利用させてもらう)


奴らの狙いは、俺だというのははっきりしている。

ならば、俺が囮になればいい。

そして勝負の場から引き離せばいいのだ。

だからこそ、あの場から離れ、遠くへと移動した。


 しかし、


「させないよ」

「!」


次の瞬間、俺は奴に羽交い絞めされていた。


「君には、拘束魔法が効かないだろうから、こうするしかなくてね」


ここで気付いたミズキ達や黒の勇者達が、もがくような動作をしている事に、


「お前、まさか!」

「拘束させてもらったよ」


と言いつつ


「本当は、使いたくなかったんだよ。何もできずに、潰されるよりも、

抵抗の果てに、潰される姿の方が見たいからね」


とも言った。その言葉に奴の性格の悪さが伝わってくる。


 あと動けなくなっているのは、シルヴァン達も一緒だった。

クラウによると、この二人からも、「反射」の気配がするそうだが、

かなり弱まっているらしい。

まあそれ以前に、ナナシの魔法も特別だろうから反射できないと思われる。


「何で、シルヴァン達まで……」


するとナナシは、意地の悪そうな言い方で、


「だって、君を運ばなきゃいけないからね。

この空間内じゃ、自分が転移するのはいいんだけど、

他人を転移させる場合はねえ、色々と制限が合ってねえ」


奴の話では、何度も使えないらしく、

ジャンヌさんや、それ以前に魔装軍団を転移させたから、

しばらく使えない。


「自由に使えないのは、腹立たしいね」


と言いながら、俺を、引きずって行く。

奴の力は神だけあって強く、こっちも藻掻くが、振り払う事が出来ない。


「何をする気だ……」

「君を勝負の特等席に連れて行こうと思ってね」

「まさか、二人の近くに……」

「その通りだよ。ついたら、皆の拘束魔法を解いてあげる。

もちろん、君を恨んでいるあの二人もね」


そうなったら、二人はジークとルリさんの戦いの場に突っ込んできて、

戦いに水を差すことになる。それだけは避けたかった。


 その後も、何とかして逃れようとするが、奴の力は強すぎて、全く歯が立たない。


(こうなったら……)


俺は武器を、リンとレイに切り替えた。このチャクラムは、

自立起動ができるから、奴の背後から、攻撃してもらおうと思ったのだが、


「無駄だよ」


と奴は言う。その言葉通り、背後で金属がぶつかる音がするが、

奴が俺を掴んだ状態を維持して、変化がないので、

攻撃を物ともしていないという状態だった。


 それでも、俺は諦らめず、足掻き続けた。だが奴は余裕なようで


「君がいくら頑張っても、無駄さ」


その言葉通りどうにもできないまま、ナナシに引きずられて行った。


(くそっ!)


そう思ってると、急にナナシが、


「バカな!」


と声を上げた。そして急ぐように俺を引きづっていく。


何事かと思ったが、理由は、直ぐにわかった。

黒の勇者が、拘束を解いたようで、

俺を助けに、こっちに向かって来ていたのだ


「まさか、こんな事って!」


妙に狼狽しているので、奴にとっても予想外なんだろう。


 俺を掴んでいるので、転移もできない様子で、

その上、俺が抵抗しているから、移動速度も上げられず、


「大人しくしろ!暗黒神!」


と声を荒げる。さっきまでの余裕はどこへやらって感じだ。


 やがて、黒の勇者は俺たちの側へとやって来た。

すると奴は、方針を転換し、


「動かないで、コイツの命はないよ!」


俺を人質に取り、いつの間にか、首元にナイフがあった。


「このナイフは強力だよ。鎧の上からでも、首を切れるんだ」


更に奴は


「それに神は、神を殺せるんだよ」


と言った。


「何のことだ?」


と言う黒の勇者に、俺も


「何の話をしてる?」


訳が分からないから聞いた。するとナナシは、


「ほう君も、まだ知らないのか、あとで光明神に聞くといい。

まあこの後無事だったらね」


と意味深に言った。


 すると黒の勇者は、訳が分からいと言う仕草を見せたものの、

彼は俺の方に手をかざし、


「カズキさん、すいません」


急に謝罪の言葉を言う。


「少しばかり、怖いでしょうが大丈夫ですから」


すると、手に光が収束し始める。


「おい、何する気だ!こっちには人質が!」


と言うナナシに対して、黒の勇者は動じていない。


 俺は一見、黒の勇者が俺の事はお構いなしに、

なんだかの攻撃をしようとしているように見えた。

俺は、怖かったし、


《本当に大丈夫でしょうか?》


と言うクラウのこえもあったが、

だけど彼の大丈夫という言葉を信じる事にした。


 そして光が最高潮に達すると、


「ジャジシング・パニッシュ……」


という言葉と共に、無数の光が発射された。

ナナシは、俺と掴んだままどうにか避けようとしたみたいだが、

光は追尾し、ナナシを俺ごと貫いた。

しかし痛みは、感じない。貫いているとは言ったが、

そう言う感覚もない。まるで光がすり抜けているようだった。だがナナシは


「ギャア!」


と言う悲鳴を上げ、俺の体から離れた。

俺も素早くその場を離れ、振り返るとナナシが、吹っ飛んでいた。


そして黒の勇者の側に行く。すると彼は、


「すいませんね。怖がらせてしまって、

あの魔法は、当てる対象を選べるんですよ」


つまり俺には影響なくナナシだけに攻撃を仕掛ける事が出来たという。


 そのナナシは、


「畜生、ツイてねぇや……」


兜で素顔は見えないが、悔しがっているであろうと思える。

そして、ナナシは剣を抜き、


「直接相手をしてやる」


と剣を向けてきた。俺も黒の勇者も身構える。


 だが、ナナシの不幸は重なってるようで、

次の瞬間、空間が割れて、強大な鉄の手が出てきた。


「巨大ロボット!」


本体は、空間の外にあるのか巨大な腕だけで、全体像は判らない。


(もしかしてジャンヌさんの……)


最初は彼女の魔機神かと思ったが、ナナシは


「模造品の模造品!」


と何とも訳の分からないことを叫んでいた。


 直後、彼女は「転移」で現れた。


「ごめんなさいね。こうしないと、この空間には、

転移でも入れないから」

「シスター・ナイ……」


彼女は、ここに来るのに苦労したのか、その修道服はボロボロで、

髪も乱れていた。


 シスターの登場にナナシは、


「もう逃げだしてきたのか!」


と奴にとっても予想外の事が起きたようで狼狽してるようだった。


「ええ……大変だったわよ」


そう言うと、以前の時と同じリボルバーとオートマチックの

二丁拳銃を装備し、ナナシに向けながら、


「ルシファーには悪いけど、私がアンタを始末するわ」


なお粛清官による神の始末は、早い者勝ちだと言う。


 ナナシは、やけくそな様子で


「やれものなら、やってみろ!」


と声を上げるナナシだが、

直後、巨大なロボの手が空けた穴から、糸が伸びてきて、

ナナシに絡みつく。


「これは、アトラク・ナクアの糸か」


なお、この糸に絡まれると転移が使えないと言う。


「こんなもの!」


その糸を直ぐに、ナナシは引きちぎるも、転移で姿を消した。


「逃げられたわね。私は奴を追うわ。あとは頑張って」


そう言うとシスターも転移で姿を消して、

巨大なロボの手も引っ込んでいき、

空けた穴も、引っ込むと同時に消えてしまった。


 ナナシがこの場から完全にいなくなったからか、

全員の拘束魔法が解けたようだった。

なお白の魔王も少し遅れたが、ナナシが居なくなる直前に

自力で、解いたらしい。


 ただ、拘束魔法が解けたと言う事は、


「「グオオオオオオオ!」」


と咆哮を上げて、シルヴァンとレベッカが向かってきた。


「こっちの相手は僕がします!」


そう言うと、黒の勇者は、チェーンソーのような大剣を装備し、

シルヴァンの方に向かって行った。

そして必然として、俺がレベッカの相手をする羽目に、

どちらも乱闘の影響で、鎧はボロボロになっていた。

ただ、鎧を着た巨大な悪魔としか思えない見た目には違いない。

あとレベッカの方は女性的な体つきをしている。


(化け物とはいえ、女性に手を上げづらいという事だろうか?)


それ以前に黒の勇者こと、ライトは、俺を女だと思っているから、

こっちに任せてきたのだろうか。


 黒の勇者にシルヴァンは、邪魔をするなと言わんばかりに、

強大な拳で殴り掛かるが

一方の黒の勇者は軽々と避けつつ、チェーンソーのような大剣で切りかかり、

数回切り付けた後、シルヴァンは、怯み、そこを突くように


「ヘルフレム・ギガンスラッシュ!」


と言う必殺技を使う。それは剣が蒼白いを炎に包まれ、切り付けるという感じで、

その技を胴体に食らって吹き飛ぶシルヴァン。


 俺の方は、「反射」が弱まってるとの事なので、


(大丈夫だよな)

《大丈夫ですよ。マスター》


と言うクラウの言葉を信じ、俺は、ボロボロとなって、棒のようになった武器を手に

向かってくるレベッカに


「バーストブレイズ!」


レベッカは猪突猛進で向かって来たので、放たれた魔法は、数発が全弾命中し、

シルヴァンと同じ方向に吹っ飛んだ。

その方向は、手合わせの場の反対方向なので、手合わせには支障はない。


 そして吹っ飛んで行った二人は、他の連中と同じく、体が小さくなっていき、

本来の鎧姿に戻ったと思うと、転移で消えてしまった。


(これで終わったか……)


魔装軍団も撤退した。後は、ルリさんとジークの戦いを見守るだけだった。

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