18「魔装軍団の暴走」

 さて状況を見ていたナナシは、


(状況は芳しくないねぇ)


ナナシは、だいぶ頭が冷えていて、サマナビィを修復しつつも、

状況を確認していた。黒の勇者と白の魔王の力は、相当なもので

二人で、大人数の連中を追い詰めていた。


(オートマトンは、強力なのを用意しておいたんだけどな)


あれから、あまり時間が経ってないので、

魔装軍団の力は多少強化された程度だったが

オートマトンは元々が強力なので鎧の力を出し切れなくとも

十分な力を発揮できるはずであった。


 しかし、黒の勇者に、白の魔王が加わったこともあるが、

恐らく、黒の勇者だけでも十分だと思われ、チェーンソーのような大剣を、

軽々と振り回し、軍団を、薙ぎ払っていた。

しかも多くは、先の連中よりもはるかに強いオートマトンだ。


 一方、白の魔王も、先がドリルの槍を巧みに使いこなし、

こちらも次々と薙ぎ払う。ただ鎧は完全じゃなくとも丈夫ではあるから、

破壊には至っていない。


(勇者シリーズ、『黒き騎士の鎧』『白き凶戦士の鎧』、

ここまで成長しているとはね)


和樹とその契約者、更にはジーク、ただルリは微妙なところだが、

この戦力で十分だと思われた。もちろん勝つつもりはなく、苦しめる程度である。

特にジークとルリの勝負を滅茶苦茶にして、和樹が悔しがる姿を見たかった。


(サマナビィが壊れなければ)


サマナビィは、黒の勇者に白の魔王の事も考慮したうえで、使用していたのだ。

先行して魔獣を召喚し、そこに魔装軍団が来れば良い追い打ちになるはずだった。


 しかし、一つ目サマナビィが破壊され呼びも故障したことで、

状況は悪くなっていた。これはナナシにとって予想外だった。

急ぎ予備の方の故障を直していたが、直ぐには治らなかった。


(本気の力が出せれば……)


ナナシは、和樹と同じように力を押えている。

そうしないと、居場所が粛清官たちに気づかれてしまうからだ。


 ナナシは手合わせの邪魔になる神々の粛清官を不意打ちで、閉じ込めたが、

粛清官は大勢いる。蹴散らすことはできなくもないが、

その時は、ファンタテーラは滅茶苦茶になるだろう。

もう少し、この世界で遊びたいナナシはそれを避けたかった。


 しかし、本気が出せねば、サマナビィの修復には時間が掛かるし、

現状はよくならない。


(別に勝つことは考えてないけど)


一番の目的であるジークとルリの勝負の邪魔さえ、出来そうになかった。


(現状では、暴走するだろうが、アレを使うか。どうせ使い捨ての連中なんだしな)


しかし普段のナナシなら不利な状況でも楽しむものだが、

最初にジークの拒否を引きずっている上に、今回の出し抜き、

更には、最初のサマナビィを壊されたこともあり、

頭は冷えたものの、かなりイラついていて、

和樹たちに一泡吹かせないと気がすまなくなっていた。




 シルヴァンとの戦いは、その後も剣の撃ち合いだったが、

相手が武器をハンマーに切り替えたので、

こっちもトールに切り替えて、ハンマー同士のぶつかり合いになっていた。


(ハンマーにも変形できるのか……)


向こうの魔装は、中々の物で、中々重たい一撃だったが、


[アタシも、負けてないっすよ!]

(そうだな)


この言葉に、見合うように俺は、


「どっせーい!」


と言う掛け声とともに、ハンマーを押し返しつつ、


「雷撃滅煌打!」


と奥義を使う。


「クッ!」


奴は、瞬時に武器を盾に切り替え、こっちの奥義を防ごうとする。

盾に、雷を纏ったハンマーがぶつかると

真横に火花が飛び散る。距離は取っているから、

手合わせしているジークとルリさんには影響はないはずである。


 そして俺はここで、思い付きで、スキル『雷撃』を使った。

この事で奥義の電撃が高まり、ハンマーの物理的な衝撃は盾で防いでいるようだが、電撃防ぎきれなくなったのか、


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


とシルヴァンは感電したようで悲鳴を上げた。


 やがて電撃が収まると、敵の盾は黒ずみ、鎧からは煙の様なものを上げている。

何と言うか、ギャグ漫画の感電後のような状況になって、

立ったまま、動かなくなっていたが、


《敵は、まだ無事です。注意してください》


との事で、俺は間合いを取った。


 そして案の定、


「畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!」


と叫びながら、ハンマーを振り回してきた。


「!」


今度は、こっちが盾、イズミのシールドモードで防いだ。


「このこの、このぉ!」


と乱暴にハンマーを打ち付けてくる。更には、


「ボルティックストライク!」


炎纏ったハンマーを叩きつけてきた。


「……!」


中々の衝撃だったが、先のライトニングクラッシュよりも

強くなかった気がするが、踏ん張って、堪える。

そして周囲に炎が飛び散ったものの、今回も、距離があるので、

ジークとルリさんの手合わせの邪魔になっていない。


 今回は、咄嗟だったので「反射」を使うということまでは、

当初は、頭になくて、向こうがヘタって、

攻撃が、止むまで、待つつもりだったが、


(あっ、そうだ反射を使えば……)


と途中で思いついた。


 早速使おうとしたが、ここでナナシが大声で、


「デモンモード、発動!」


と叫んだので、気を取られてしまう。すると、シルヴァンの攻撃がやんだ。

あからさまに、奴が何かしたと思った俺は、直ぐに間合いを取った。


(何をした?)


 シルヴァンは動きを止めていた。いや奴だけじゃない。

レベッカも、他の連中もだ。俺以外も、この状況をおかしいと思ったのか、

ベルも、用心して間合いを取っている。黒の勇者たちも異変に気付き、

一旦攻撃をやめ、間合いを取った。

あとイヴも同様、ミズキは元より間合い取って攻撃をしているが、

今は様子見の為にやめている。

そして今、狼型魔獣ジェヴォダに変身しているリリアも、

野生の勘なのか、その姿のまま間合いを取っていた。


 すると魔装軍団に異変が起きた。鎧ごと体はみるみる大きくなっていき、

形状も、平凡なデザインから、厳ついというか、

おどろおどろしいものへと変わっていく。


「悪魔……」


そう全員、巨大な鎧を着た悪魔のような姿になっていた。


 そしてナナシは、


「こいつらが来ている鎧は、自家製でね。

デモンモードは、この鎧の切り札さ。装着者を魔物に変えるんだよ」


と言ったのち、


「本来なら装着者の意思で出来るんだけど、急ぎだから、

創造主による強制起動さ」


と聞いてもないのにベラベラしゃべる。ナナシは、それだけ余裕という事だ。


「強制だから、準備に時間が掛かってねえ、そうそう……」


奴は、少し間を置き


「強制起動の場合は、暴走するよ」

「えっ!」

「そろそろ暴れ出すね」


と言ってた通り、悪魔の鎧を装着した奴らは、


「グオオオオオオオオ!」


という雄たけびとともに、無差別に暴れ出した。


 その巨体で拳を振り回す奴もいれば、巨大な武器を装備、

無茶苦茶に振り回す奴の他、火炎弾、雷と言った属性攻撃を乱射し、

メキドレインの様な攻撃をする奴もいた。


(おいおい、コイツはまずいぞ……)


乱射してる奴は、距離があるから、

幸いジークとルリさんの元には届いていない。だが移動しているので、

射程範囲に入るのは時間の問題だろう。


  拳や武器を振り回してる奴も同じだ。

その威力は途轍もなく強く、拳による攻撃をよけ、

地面に叩きつけられると、地面にクレーターができ、

同じように、叩きつけられた武器が、地割れを作るなど、

その威力の高さを、感じさせる。


 なお俺は、この状況を化け物となったシルヴァンの、

相手をしてる中で、確認した。そしてシルヴァンには「反射」を使って、

盾に蓄積してたダメージを、撃ち出すが、

相手をたじろがせるものの、有効的な攻撃とは言えなかった。


 奴は拳を振り回す方だった。俺は、その拳を避けつつ、

トールに切り替えて、隙を見てハンマーを叩きつけ、時には、


「烈火滅煌打!」


と奥義も使う。因みにトールを使っているのは、

硬そうな鎧をたたき割れそうな気がしたからだ。


 先も述べた通り、俺は戦いながら時折、状況を確認している。

正直、状況は芳しくないようで、イヴは重火器、ミズキは引き続き魔法、

なお『反射』を無効化するオリジナルの魔法を、使っていたらしい。

リリアはゴーレムに変身し、ベルは、拳銃形態のメタシスと


「エクサダークネス!」


とこっちも魔法による攻撃を行っていた。魔王の時に使っていた魔法で、

ゲーム中では反射不可だったからこの世界でも同じと判断し使ったと言う、

確かに反射はされなかったが、魔王時に比べると、

規模は小さく威力は低めに見えた。


 そして、黒の勇者と白の魔王だが、黒の勇者は、チェーンソーに加え、

シンプルなデザイン大剣も装備し、二刀流で挑んでいて、白の魔王は、

武器を大砲ような物に切り替えて、砲撃をしていた。

両者は、巨大になり強くなった複数の敵を相手に、

渡り合ってはいたが、さっきまでの圧倒的とは言いがたかった。


 ただ、救いと言っていいのか、暴走故に、足並みがそろってなくて、

時々同士討ちをすることがあった。

しかし、無茶苦茶な動き故に、先が読めないという問題があった。


 この状況に、さらに追い打ちがかかった。周囲に魔獣が現れたのだ。


(サマナヴィが直ったのか……)


たださっきよりも規模は小さい。魔装軍団が居るからと言って、

手を抜こうなんて思ってるやつじゃないから、

直りきってはないんだろう。まともに魔獣を召喚できるが、

規模は少なめと言うところか。それでも低級から上級までそろってるし、

状況が悪くなったには変わりない。


 シルヴァンの相手をしつつ、魔獣が、手合わせの場に近づかぬよう

倒していかなければならず、結構面倒だった。そんな中、クラウが


《シルヴァンとレベッカでしたか、この二人は他とは違いますね》

「どういうことだ?」

《他の者たちは、無差別に攻撃していますが、

この二人は、明らかにマスターを狙っています》


なお感知が上手く働いてなので、推測らしい。


 シルヴァンは、俺が目の前にいるから、攻撃してるようにも見えなくもないが、

レベッカは、確かに俺の方に向かおうとして、ベルに邪魔されてるという感じだ。


(もしかして、俺への憎しみの強さゆえに暴走しつつも、

俺へと向かって来ているという事か)


そう言えば、大十字がらみで、そんな事があった。

その時は、恨まれていたのは大十字だったが。


 俺は、大十字がその時やったことを思い出し、

それを真似することにした。


「ベル!攻撃をやめて、レベッカから離れろ」


彼女は、攻撃を続けながらも、


「どうしてです?」


と返してきたが、ナナシが何かして来たら悪いので、


「いいから!」


と言って理由は言えなかった。

最悪、「絶対命令」を使うつもりだったが、ベルは、


「分かりました。貴方を信じます」


信じてくれるのはいいけど、彼女に言われても、

あまりうれしくない。


 ベルが攻撃をやめ、離れると、レベッカは、こっちに向かって来た。

そこで俺は追い打ちをかける事とし、

シルヴァンから、間合いを取ると、俺は兜を取った。


(さて、どう出る?)


するとレベッカは


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


更にものすごいスピードで向かってくる。

あの時、戦った人間が、俺である事が分かれば、

その怒りが増すことは判っていたからだ。


(あとは……)


俺は、シルヴァンを引き付けつつ位置を調整し、

レベッカが向かってくるのを待ち受け、そして


「!」


レベッカは、シルヴァンを突き飛ばした。

そう俺は、シルヴァンをレベッカの邪魔になる位置に、

引き付けたのだ。


 そして俺に向かってくるレベッカを、

突き飛ばされ、倒れたシルヴァンが、足を掴んで、

レベッカを、転倒させた。そして両者は、もみ合いとなった。

お互い、獲物を横取りするなと言いたいのだろう。


(思い通りだ)


暴走してるがゆえに、足並みは揃ってないだけでなく、

一部は、同士討ちをしている。

シルヴァンとレベッカは、正気ならどうかは判らないが、

今なら、獲物をめぐって、揉めると思った。実際そうなっている。

まあクラウの指摘があっての事と、そもそも大十字の真似でもある。

過去に大十字が同じような事をしていたのだ。


 俺は、この状況をさらに利用しようと考えた。

これも俺のアイデアと言うよりか、大十字の真似だが、


「おいお前ら!」


俺は大声を上げた。すると連中は、こっちを向き、

そして、手招きをしながら、


「こっち、こっち……」


と奴らを誘った。

 

 もみ合っていた、両者は止めて、こっちへと向かって来た。

ただ仲よくと言うわけではなく、お互いに邪魔をしながらであるが。

そして俺は、まずは魔獣が多くいるところへと向かって行き、邪魔してくる魔獣達を、


「とりゃ!」


と自然と出た掛け声とともに、トールで吹き飛ばしながらも、

群れをすり抜けていく。


 そして後から追ってくるシルヴァンとレベッカだが、

魔獣を避けようとせず、邪魔になる魔獣達を、吹き飛ばす。

場合によったら、排除しながら、向かって来た。

そうこれが俺の狙い、奴らを利用しての魔獣たちを倒し、


「みんな、魔装軍団から離れろ!」


と言いながら、暴走している魔装軍団の一部、

丁度ミズキが戦っている連中だったが、

そいつらの元へと向かっていった。なお俺の言葉で、何かを察したのか、

ミズキは攻撃をやめている。


 そして、俺は軍団と戦わず、魔装の「習得」の力もあって、

うまくすり抜けるが、追ってきた二人は、その巨体と、

暴走状態故に、激突し、そしてこっちの企み通り、

同士討ちを始めた。更に俺は、この状態で


「ほら、ほら、こっちだよ~」


と意地悪い感じに、連中を挑発する。

すると二人は、挑発に乗って、俺の方へ来る。

そんな二人を追って他の連中も来る。

結果として、互いも含めて、他の奴らともみ合いながらも、

俺の方に向かってくるのだ。


 その後も、同様に次はイヴとやり合っている魔装軍団の元に向かう。

イヴは俺の命令を受けて、軍団への攻撃はやめて、その場を離れた。

ただ魔獣への攻撃は続けている。


 次は、リリアだが、彼女は察しが悪く、

それ以前に、ここまでの状況を見ていないのか、

若干逃げ遅れてしまい、小型の魔獣に変身することで、

抜け出せたもの、一時的に巻き添えにとなっていた。


 一方、黒の勇者と、白の魔王は、察しがいいだけでなく、

頼んでないけど、二人は戦っていた軍団たちを美味い具合に、誘導してくれた。

結果、魔装軍団全員を、乱闘させること成功した。


 あとは魔獣どもだけだが、ツキはこっちにあるようで、


「おい、皆、やめろ。お前らが争ってどうするんだ!」


とナナシは魔装軍団に呼びかけるだけ、どうやら暴走する連中を

ナナシはコントロール出来ないらしく、

どうにか、状況を収めようと、していたようだが、

この後、魔獣との戦いを優先していたので、どうなったのかは

分からなかったが、少しして、


「あっ!」


と言う声がしたかと思うと、

ちょうど俺の所にサマナヴィが飛んできた。

俺は、武器をクラウに切り替えていて、狙ったわけじゃないが、

魔獣を倒そうと剣を振るって、そのままサマナヴィごと魔獣を、

真っ二つにした。


 おおかた、乱闘を止めようとして、攻撃を受けて、

本人は大丈夫だったが、サマナヴィが吹っ飛んだんだろう。

サマナヴィの破壊に伴い、魔獣は消えた。

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