16「勝負の日」

 しかしながら、この三日間、何もなかったわけじゃなかった。

ジークと面会した翌日に奴が動いたようだった。

雨宮が、この国の王家からの呼び出しを受けたのである。

急な話であったが、王家の呼び出しとあっては、そっちを優先せざるを得なかった。


 詳細は、夕方に電話で聞いた。因みに王都から連絡をしているとの事で、


「王女が、妙な術を掛けられ、意識が戻らない。

既存の魔法を元にしているが道の魔法だ」

「じゃあまさか、ナナシが……」

「その可能性が高いな」


その魔法はかなり強力で、対処のために雨宮を含めた国中の大魔導士が、

招集されたという。その中には雨宮の娘もいるらしい。


 そして今は、交代で解呪に当たっていて、今、雨宮は休憩時間との事。


「見込みだが、解呪には一週間はかかるな」

「そんなに……」


ライトたちの予定を考えると先延ばしは難しいし、雨宮も


「先延ばしは、しない方がいい」


と言い。


「これが俺を惹きつけて置く策だとすれば、

その後もなにかを起こして、引き伸ばしにする可能性がある」


と言う懸念を示した。確かに奴ならやりかねない。


 もともと、雨宮は途中で退場させられる可能性があったから、

居なくともどうにかできると思い。日取りはそのままにした。


 ただ、事は雨宮に留まらなかった。雨宮からの連絡を受けた直後、


「ナイさんが行方不明になったのよ」


とジャンヌさんが俺の元に伝えに来た。リビングで話を聞く。

彼女は、神の領域から、雨宮が王家に呼ばれ街を離れた事を知り、気になって、

他の面々の状況を確認したら、シスターの所在が分からなくなったという。


「なんだかの用事で、この世界から出るようなことがあれば、

私には連絡を入れてくれるんだけど、そう言うのもないみたいだから……」


他にも粛正官がいるが、こっちも所在不明だと言う。


「こっちもナナシだな……」

「無事だろうけど、今は身動きが取れない状況なのかもしれないわね」


おそらくナナシによって、何処かに閉じ込められているかもしれないとの事。

もちろん奴の妨害で、居場所は神々の領域でもわからない。

兎に角、早々に雨宮とシスターが離脱する事になった。


 そしてジャンヌさんは、


「おそらく、私も時間の問題よ」


恐らくジークが彼女の元にいるのは、分かっているはずだろう。

あの時、遠見防止はしていなかったのだから。

ただジャンヌさんは、ジークを連れてくる役目があるから、

それが終わるまでは、何もしないんだろう。


 しかし、疑問も、


「粛正官の方が、閉じ込められたとして、雨宮の方は緩いというか」


するとジャンヌさんは、


「クロニクル卿が、居なくなったとなると、

手合わせどころじゃなくなるからじゃないかしら?」


確かに、それは言えてる事だった。


 そして当日を迎えた。連中に気づかれないように、

現場に向かう為に、小手先であるが、策を講じた。

まず前日からルリさんには、キャッスルトランクに滞在してもらう。

俺たちは、ジャンヌさんの魔機神のボックスホームに泊まった。

ナナシは、俺の家も知っているだろうし、ルリさん所も同じだろう。

そこで、前日から家からの追跡を避ける為にこういう風にした。


 なおキャッスルトランクを使ったのは、ジークとの鉢合わせを、

避けるためである。会うとジークの方が抑えきれなくなって、

いざ勝負となりかねないからだ。それとジャンヌさんの魔機神を使うのは、

カオスセイバーⅡにはない。ある機能があるためだ。


 ライト達は、婦人の元での仕事があるので、当日の朝に迎えに行き、

そして、婦人宅近くの荒野に向かった。

実は昨夜からジャンヌさんの魔機神はカーマキシ形態で、

ここに停車していた。ライト達を迎えに行き二人をボックスホームに入れて、

再びここに来た。今は、運転席にジャンヌさん、後部座席に俺とベルが座っている。


「どうやら、敵が集まって来たわよ」


魔機神の『周辺把握』で魔装軍団が集まってきているのが分かる事。

ただ山を張っていたのか、既に前日にも数人の人間がいたらしい。

そいつらか、ナナシに連絡を入れたものと思われる。


 ただ集まって来たものの、一定距離から近づいてこない。

恐らくは、対戦が始まってから、襲撃すると思われる。


「十分引き付けられたわね。行くわよ」


次の瞬間、俺たちの乗った車は、本来の場所に転移する。

ジャンヌさんの魔機神は、長距離の転移ができるという。

ただし、一日に何度も使えないし、あと飛行形態が、

高速で飛行できるので、使ったことがほとんどないらしく。


「ヤツも知らないじゃないかしら」


との事だった。


 まあ奴も転移が使えるから、事態を知ってすぐに行動すると思うから、

小手先の対処法でしかない。転移を終えると車から出て、

例のマジックアイテムを使用し、疑似空間を展開。

この後、全員外に出た。そして外に出ると、

ジャンヌさんは魔機神を収納空間に仕舞った


もちろん、この場にはミズキもいた。

話を持ち掛けた時、ジムに一泡吹かせられると意気揚々としていたが、

光明神の元で、一夜を過ごす羽目になって


「私は、どんどん汚れていきます……」


と不機嫌だった。


 そして一緒に出てきたジークは、


「あの人は、何処に?」


俺は、


「今連れて来る」


と言ってキャッスルトランクを取り出し、入り口を開け、

彼女を呼んだ。直ぐに準備万端と言う感じのルリさんが出てきた。

その後、トランクは宝物庫に仕舞う。


 出て来たルリさんは、懐かしそうに、


「久しぶりね。すっかりに立派になって……」


一方のジークは、


「あのころと変わってない……」


と言ったかと思うと、懐かしむ間もないと言う様子で、


「では早速……」

「いいわよ」


と言いつつも、


「先に言っとくけど、あなたが魔装を持ってるようだけど、私も持ってる」

「ええ、キシンから聞きました」

「そう、七魔装なら分かるわね。

もしかしたら、うっかり使ってしまうかもしれないけど、その時は勘弁してね」


と言って、拳を構えるルリさん。


「こっちも魔装を使ってますから、構わない……」


ジークの方も拳を構える。


 その様子を見ながら、装備を整え、事前に決めていた持ち場へと移動する俺たち、

そして二人は、対峙したまましばしの間、動かなかったが、


「「いざ、勝負!」」


同時に、叫んだかと思うと、二人の拳による戦いが始まった。


 疑似空間の中は、荒野であるが、元々の場所も荒野なので、

使う前と後で、あまり変化はなかった。

そして二人の拳がぶつかり合うたびに、ものすごい音がする。

周りを気にしつつも、二人の事が気になって、時折見ていた。


(何だか、バトル漫画のようだな)


ここで、ジャンヌさんが声をかけてくる。


「ルリさんの強さは、健在ね」


なお彼女は白騎士の姿である。俺も白銀騎士の鎧を着ているので、

白騎士が、二人並んでいるような状態だった。


(白の魔王もいるから、白が三人もいるな)


ふとそんな事を思った。すると、ジャンヌさんが、


「その鎧での活躍のお陰で、身に覚えのない功績が増えちゃうのね。

まあ別にいいけど……」


別にいいと言ってる割には、苛立ってる様子だった。


「でも今はそんな事より、二人の戦いを見守りましょう」


俺がジャンヌさんに言うと、


「そうね」


と応じてくれた。


 ジークとルリさんの戦いは、さっきも思ったけどバトル漫画のように、

熱くて、拳と拳がぶつかる度に、大きな音が鳴る。

そして、しばらく打ち合っていると、


「やっぱり、あなたの力は、あの時のままの様ですね」


とジーク言って、一旦距離を取る。


「ジーク君の力も中々の物よ。この力は、魔装の物じゃない貴方自身の力ね」


ジークは、魔装の力を、最小限にとどめて戦いに際しては、自身の技で戦っている。

それは、ルリさんも同じことだ。


 そして、


「バスターガンズ!」

「剛煌弾!」


両者は、気弾を撃ち合う。ルリさんが使う「煌月流」に対し

ジークが使うのは「エンプマーシャル」と言う拳法だ。



「エンプマーシャル」

ファンタテーラに存在する武術でも、かなり古い歴史を持つ流派であり、

アーツの源流とされる。元は魔法が不出来だった者が、

肉体を鍛錬する事で、魔法に匹敵する力を生みだそうと試みた結果、

生まれたものである。格闘術だけでなく、剣術、槍術、弓術など多岐にわたる。



 

 ファンタテーラ版の「煌月流」と呼べるもの。


(雨宮の話じゃ、あの煌月達也と肩を並べる冒険者もこの流派の使い手だったな)


そんな事をふと思った。


 その後も気弾のぶつかり合いが続き、再び接近し、

拳と拳、時に蹴り交えた戦いとなる。

戦いは白熱するし、こっちも見ていて熱くなる。


「これは、どちらが勝つのかしら……」


ジャンヌさんがつぶやく。俺は、


「まだ分からないと思います。でも勝っても、負けても気持ちいい、

後腐れない戦いになるでしょう」

「それは確かでしょうけど……」


それはこのまま、戦いが続けばの事。邪魔は唐突にやって来るのだ。


 突如、後ろから、


「やってくれたね……」

「!」


振り返るとナナシがいた。どうやら、もう気づかれたようだった。

そして次の瞬間、ジャンヌさんが消えた。


「ジャンヌさん!」

「大丈夫、転移だよ」


と言うナナシ


「光明神を一撃で、葬る事はできないからね」


と言った後、


「今回は、癪に障る事ばっかりさ、ジーク君はこっちの言う事は聞かないし、

黒の勇者たちは現れるし、その上、君たちの出し抜きと来た。

それにこの空間に入るのに、骨を折ったよ」


ナナシの登場に気づき、ベルたちが、こっちに来ようとしたが、咄嗟に俺は、


「来るな。持ち場を離れるな!」


と叫んでいた。

 

 するとナナシは、離れた場所に転移で移動し、


「賢明な判断だよ」


そう言うと手にノートパソコンのような物を出現させた。


「サマナビィ……」


俺は、直ぐに


「バーストブレイズ!」


と奴を攻撃したが避けられ、奴はサマナビィを操作した。

次の瞬間、周囲に多くの魔獣が出現した。


「連中の転移には時間が掛かるんでね。こいつらの相手をしてもらうよ」


俺は、ハッとなって、ジークとルリさんの方を向くと、

この事態に、一旦勝負を止めているようだった。

 

 そんな二人に俺は、


「ここは、俺たちでどうにかしますから、そっちは戦いを続けてください!」


そして、クラウを鞘から抜いた。黒の勇者達も、ベルたちも臨戦態勢に入った。

そんな俺たちに、


「何処までもつかな?」


と厭味ったらしく言うナナシに俺は、


「二人の戦いを、邪魔させない」


魔獣たちに剣を向けながら宣言した。

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