15「勝負の日へ向けて」

 ジャンヌさんのマキシのボックスホームは、カオスセイバーⅡとは違って、

豪華そうな調度品はなく、特に変わった所のない普通の洋風な家であった。


「こっちよ」


と言って、ジャンヌさんは俺たちを案内する。

そして、廊下のような場所を歩いていると調度ある部屋から

一人の女性が出ていた。長い黒髪で、鋭い目つきクールな雰囲気の美女で、

実は初めて見る顔じゃない。


 女性は、俺達というか、ジャンヌさんを見て、


「状況はどう、リディア?」

「主よ、ジーク様の状態は落ち着いています」


このリディアと呼ばれた女性は、ジャンヌさんの店で働いている店員。

彼女がジークの面倒を見ているという。その雰囲気に通りと言うべきが、寡黙で、

花屋の前を通るとよく見かけるが、

話をしてる姿を見ることは無く、彼女が話す姿を見るのは、

今回が初めてなくらいである。


ジャンヌさんの話では、彼女はジャンヌさんと契約してるらしく、

光明神の使途という事になる。

ただ、どういう経緯でそうなったかは俺は聞いていない。


「これから、面会をするから、貴女は休んでいて」

「分かりました……」


リディアは、その場を後にした。そして俺たちは、部屋に入った。


 部屋に入ると、ジークがベッドで上半身を起こしていた。

彼は、俺たちの姿を見ると、


「アンタらか……」


と言いつつも、


「ジークさん……」

「お兄ちゃん……」


するとジークは気まずそうに、


「お前ら……」


目を背けながらも


「なんで、コイツら連れてきたんた……」


そしてルリちゃんの方をチラッと見ると、


「こんな姿、特に妹の前で見せたくなかった……」


と辛そうの言うジークだったが、ルリちゃんは、


「これは、私たちが望んだことなの……

話は聞いてるよ。お兄ちゃん病気なんでしょ。

それに私だって、魔装を手にすることがどういう事か分かってるから……」

「………」


ジークは黙り込むが、ルリちゃんは続ける。


「あの人に、勝っても、お兄ちゃんはもう……」


涙ぐむルリちゃん。


「私は、本当はお兄ちゃんに生きていてほしいよ。

でもお兄ちゃんの夢が叶うんだから、応援したいの……」


と言って彼女は作り笑顔を見せる。


「だけど、その前にゆっくり話がしたい。前に会った時は、

そんな時間がなかったから……」


と言うルリちゃん。


 そして、ライトは


「僕も、ジークさんとゆっくり話をしたいですが、

でも今は、兄妹、水入らずで……」


するとライトは、こっちを向いて


「良いですよね?」


と言ってきたので、察したジャンヌさんは


「そうね、一旦私たちは、外に出ましょう」


俺も察していたので


「そうですね」


と言って、三人で一旦外にでた。そしてしばらくして、


「ライト君、いいよ……」


と扉を開けてルリちゃんが、呼ぶので、今度は、ライトが部屋に入った。

そして、更にしばらく時間が経った後、


「もう構いませんと」


とライトが扉を開けて呼んできた。

俺たちが外に出ている間、どんな話をしたかは知らないし特に知る必要もない。


 

 俺たちは、二人の面会だけで来たわけじゃない。

ジークとルリさんの手合わせに関する打ち合わせもあった。


「だから、余計なお世話だと……」


と言うジークに対し、


「そっちが望まなくとも、少なくとも、俺は関わる事になるはずだ。

ナナシって奴によってな」


ここで、ライトが、


「そのナナシって人は何者なんです。ロクでなしという事は、

聴きましたが」


詳しい話は、神々の事に触れるので話せなかったが、

それ以外の部分を話した。内容としては、強い力を持っていて、

それを利用し、自分の楽しみの為に悪事を働いている事や、

暗黒教団とも通じている事を話したほか、

鎧姿で、素顔は見たことがないと話した。


 すると、


「その鎧、どんな鎧だ?」


とジークが聞いてきた。


「奇抜なデザインじゃないな。地味と言うか、

量産品って感じで、アイテムショップに安く売ってそうな感じだ」


するとジークは


「そいつ、会った事がある」

「えっ?」

「俺の所に来て、『手助けをしたい』とか言ってたが、

怪しげだったから断ったけどな。ただ何度も俺の所に来て、しつこい奴だった」


もしかしてと思ってはいたが、やはり奴はジークと接触してたようだった。


 するとジークは思い立ったように、


「もしかすると、俺が断ったから、嫌がらせってわけか……」


俺は、


「たとえ断って無くなって、状況は変わってないと思う。

むしろ、事は奴の掌になって、益々状況が悪くなっていたと思うから」


ここでベルが、


「私も、奴の口車に乗って、罪を犯してしまいました」


と暗い顔で言う。そして俺は、


「俺が知る限り、奴の口車に乗らなかったのは、お前が初めてだ」


俺には凄い事だと思ったが、ジークは興味が無いようで、


「そうか……」


と言うだけであった。


 俺は、


「とにかく、そっち取っては、余計なお世話かもしれないが、

どうせ関わらなきゃいけないんだから、やらしてもらう」


正直、面倒だが、巻き込まれる形になるよりかは、

ある程度こっちの制御下なんだから、マシな気がする。


「ルリさんにも、許可は取ってあるし、それに幾ら、蹴散らせるからと言って、

勝負に横やりを入れられるのは嫌だろ?

それにこの戦いは、アンタにとって、大きなものだなんだろ」


ジークにとって、夢がかなうかどうかの事なのだから。


 俺の言葉に、

 

「………」


黙り込むジーク。そしてしばらくしてから彼は


「分かった……勝手にしろ……」


とぶっきら棒に答えた。


 この後は、手合わせの場所や、警護の状況などを話した。

雨宮の事は、一応、有名人なので、ジークは、心配はないとは思うが、

気を遣わせたら悪いので、伏せていた。


「ようやく、あの人に会える……」


余談だが、ルリさんはナアザの街の近隣に住んでいると言うのは、

知られているが、具体的にどこに住んでいるかを知っている人は

少ない。ジークはこの街まで来たはいいが、

居場所が分からないと言う状況が続いていた。なおナナシの手助けには、

ルリさんの居場所を教えると言うのもあったが、それでも断ったと言う。


 さて、まだ決まっていないのは、日にちの調整である。

これはジークの体調の見極めが必要となる。本人は、


「俺は、明日でも行ける……」


と言うが、ジャンヌさんは、彼に手をかざし、サーチのような物を使った。

これは、ジャンヌさんと言うか光明神特有のスキルとの事。


「まだ、あと少し時間がかかるわ。最低でも三日ね」

と言うが、ジャンヌさんは、彼に手をかざし、サーチのような物を使った。

これは、ジャンヌさんと言うか光明神特有のスキルとの事

それを使って体調をあらためて確認したという


「まだ、あと少し時間がかかるわ。最低でも三日ね」


ちょうど三日後は、俺の方も予定はないし、

ライトたちの方も、婦人がらみを含め予定はないという。

ジャンヌさんも予定はないし、


「ルリさんを含めた。他の面々の方が分からないけど、

もし予定が付けば、三日後って事で」


ジークは


「俺は構わないぜ」


と具体的な勝負の日取りが決まったからか、どこか嬉しそうに答える。


 この後、日取りについて、雨宮やシスターにも話をした。

どちらも個別にであるが、共にボックスホームで話した。

これは、ナナシを気にしての事、とにかくどこで聞いてるか、

分からないからだ。遠見の妨害も、あてになるか分からないし、

ここなら安全だと思った。


 ただ雨宮からは、


「敵は網を張ってるだろうから、事が始まれば気づかれるだろうな」


マジックアイテムをその気配を察知される。

たとえ使わなくとも激しい戦いになるのだから、察知されやすい。

それに俺たちがやろうとしている事は、ボックスホームの外で話をしている。

殆どは「遠見」防止が処置された家の中だったが、ナナシの事だから、

それもあてにできないし、そもそもジークと会った時は、

屋外で話をしている。うっかり遠見防止もしていなかったし。

だからナナシは知っていておかしくないし、

そこから暗黒教団にも知られているはずだ。


「あの場所は、穴場と言うわけじゃないからな、

連中が山を張ってる可能性もあるし……」


同じことを、シスターにも言われた。


 ナナシに知られないようにしている事は、

無駄なあがきなのかもしれないが、それでもやらないよりはマシな気がした。


 その後も、打ち合わせはボックスホームで行いつつも、

三日後、その日を迎えるのだった。

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