11「襲われるナタリア達」

 さて、とある村の村長から依頼を受けて、ナタリア達は森の中にいた。


「大丈夫かな……」


と不安げなアルヴィン。仕事自体は5人の身の丈に合った難度である。

だが上級魔獣の乱入を恐れているのである。ここでメイントが、


「ここ最近は、乱入は無いし、心配するなよ」


と元気づけるように言う。



「そもそも、乱入があれだけ続いたのが、おかしな話だったんですよ」


というルビィに、


「サマナビィだっけ、あれは人為的な起こされてたんだね。

まあ審問官が出てきて以降、起きなくなったみたいだから、

犯人も余裕がなくなったんだよ」


とノーラが笑いながら言う。


「そうだといいけど……」


と未だ不安そうな、アルヴィン。ここでナタリアが


「皆おしゃべりは、ここまでにして、準備するわよ!」

「「「「はい!」」」」


と4人は返事をして、全員で準備を始める。

 

 今回の討伐対象は、アーマーベアという魔獣。依頼を受けた際、アルヴィンは


「異界にはクマって言うそっくりな動物がいるらしいよ」


という話をした。しかし見た目こそ似ているがアーマーベアは、

熊に比べて全身を覆う体毛は、はるかに硬質で、

並の攻撃では傷つけることが出来ない。

加えて巨体で、その体から繰り出される攻撃は強力、

その体格にもかかわらず素早く動くため、厄介な相手と言える。


 討伐方法としては、殺虫用の結界を張って弱らせることである。

この結界は、害虫退治の物だが、アーマーベアにも効果があり、

結界内では魔獣は弱体化、特に硬質の毛は弱くなり、素早さも落ちる。

それでも、攻撃力や丈夫さは変わらないので、腕のある冒険者じゃないと倒せない。


 この5人なら、討伐できる腕前はある。

しかし結界は人間にも害があるので、討伐を行う5人は、

結界の影響を無力化するペンダント型のマジックアイテムを身に着けている。

だが、何も知らない人間が、入ってしまったら大変なので、

村人たちの協力の元、人払いをしていた。


 そして5人は、結界の準備を終えると、暗くなるまで待つ

そう討伐は夜に行う。アーマーベアは夜行性で、寝ているときは、

強力な防御スキルを発動させるので、起きているとき以上に、

攻撃が効かないし、結界の効果もないから起きているときに、

討伐するしかないのだ。


 夜になり、全員暗視スキル付きの眼鏡をつける。

その後、結界発動前に周囲に人がいないか最終確認を取る。

村で人払いをしている上に夜の森だから、

人は余計に寄り付くはずは無いと思われるが、念の為の用心である。


「あれ?」


見回りをしていたアルヴィンは、森の中に廃屋がある事に気付いた。


(こんな建物あったけ?)


斥候であるノーラからは、こんな建物があるとは聞いていないし、

ここには、明るいうちに来ているが、

その時には、こんな建物は無かったはずだった。

しかも、ぼんやりと明かりも見える。中に人がいるようだった。


 さて、このパーティーに人間は、みんな良い人である。

中でもアルヴィンは、お人好しで警戒心が足りないところがあった。

こういう場合は、ほかの面々は警戒して、中の様子を確認するものである。

中にいるのがどんな人間か分からないからだ。

まともな人間がいる場合ならいいが、

こういう場合、高い確率で盗賊というならず者が多いからだ。


 先も述べた通り、アルヴィンは警戒心が足りないところがあるので、

廃屋に人がいると思った彼は、近づいて、


「これから、殺虫の結界を張るんで、しばらくこの場から離れてくれませんか?」


と呼びかけをしてしまった。


「これからアーマーベアの討伐を行うんで、

出来る限り、早く終わらせますから……」


と言っていると、


「ウ……」


と言う唸り声が、


「!」


声の方を見ると、


「みっ、ミノタウロス!」


しかも、至近距離にいた。夜とは言え結構な巨体だから、

ここまで接近に気付かないのも、おかしな話だが、

それに気づくことなく、アルヴィンは、とっさに魔法で煙幕を張って、

その場から逃げだした。しかし、とっさだった故に魔法の加減が効かず、

大量の煙と、発生時に大きな音がしてしまった。


「どうしたの?」


とナタリアが声を上げ、やって来るし他の仲間たちも集まって来た。


「大変だ、ミノタウロスが現れた!」


とアルヴィンは叫ぶ。


「この辺には、ミノタウロスはいないはずよ」


とルビィが言うが、直後、


「グォォォォォォン!」


という咆哮が聞こえる。ノーラが血相を変えて、


「アルヴィン君の言う通り、これミノタウロスの声だよ!」


と叫ぶ。


「まじかよ……」


とメイントが呟くと、再び、


「グォォォォォォン!」


という咆哮。


 ルビィはナタリアに、


「どうします?」


と聞くと、


「いったん引きましょう。幸いアーマーベアは、現れてない」


何時もは、討伐対象との戦闘中に乱入されているから、

逃げらえなかったが、今回はそうでないので撤退を決断した。

加えてアーマーベアの討伐も今日じゃなく、後日改めて行えばいいだけだ。


 しかし、


「なによ、これ?!」


と声を上げるノーラ。


「どうし……」


と言いかけて、絶句した。逃げ道を防ぐようにサイクロプスがいたのだ。


「嘘でしょ……こんなことってあるの?」


とルビィが言う。サイクロプスは、巨体なので、

この距離まで気付かないはずは、無いのだ。


「信じられないけど、急に現れたの……」


驚愕の表情で言うノーラ。


「まるでダンジョンで、疑似魔獣が現れたときみたい」


と続けていった。


 それを聞いたナタリアは、


「疑似魔獣……まさか、サマナビィ!」


サマナビィの事は最近聞いた。それによって呼び出される魔獣は、

ダンジョンの疑似魔獣と似ているという事。

そこから最近、乱入してきた魔獣はそれによるもので、

何者かによって、仕組まれていたという話を聞いていた。

 

 ナタリアがサマナビィの事を口にした瞬間、アルヴィンが頭を抱えながら


「僕の所為だ、僕が声をかけたから……」


アルヴィンが廃屋を見つけ、声をかけたことを話した。


「あの中に、サマナビィを使っていた犯人がいたんだ」


状況から考えて、危ない人間がいてもおかしくない場所で、

アルヴィンの行動は軽率かもしれないが、

それでも、人間に害のある結界を張るわけだから、

避難を促すのは、当然の事。だから、彼を責めるわけにはいかなかった。


「とりあえず、ここを切り抜けることを考えましょう」


とナタリアが、落ち込んでいるアルヴィンを励ますように言った。


 前はサイクロプス、後ろからはミノタウロスが迫る。逃げ道は左右しかない。

しかし、ここは森の中、前後には林道があったが、左右にはなく、

木々が邪魔をして、 逃げるのは困難であった。

ここに追い打ちをかけるように、右に行こうとすると


「ゴブリン……」


左には、


「オーク……」


どちらも群れで、サマナビィによって出現したようだった。

とにかく逃げ場はない。


 ナタリアは、


「皆、右に行くよ!」


と言って剣を抜いた。あくまでも、退避優先。この中で、ゴブリンが一番弱いので、

倒しながら進もうと言う判断である。

しかし、ここでミノタウロスが、


「グォォォォォォン!」


と咆哮を上げて、突進してくる。


「避けるよ!」


と叫ぶナタリアだが、ゴブリンが大勢で邪魔してくるので、

進めず間にあいそうになかったが、


「グォ!」


という声を上げ、ミノタウロスがひっくり返った。

何かが飛んできて、命中し爆発その衝撃で倒れたようだった。


 この状況に、


「何が起きたの?」


と言うノーラ。するとアルヴィンが、


「あれはロケットランチャー、異界の武器だよ」


と言った。アルヴィンは、以前に、ロケットランチャーを見たことがあった。

彼が見たのは、魔法で弾を打ち出すように、この世界で改造されたものである。


 そして、ナタリアも同様の物を見たことがあったが、


「しかし、誰が……」


直後、サイクロプスも、ロケットランチャーによる砲撃を受けて倒れた。

そして、砲撃が来た方を見ると、


「えっ?」


と声を上げるメイント。


「なんで、貴女が……」


と驚くルビィ。


「カズキの所のオートマトン……」


そこに居たのは、自動人形のイヴだった。

彼女は多連装ロケットランチャー「タイラント」で攻撃したのだった。

そして彼女は淡々とした口調で、


「通りすがりです」


とだけ言った。


「どういうこと?」


とルビィが聞くと、イヴは表情を変えず、


「通りすがりです」


と繰り返すだけである。


「ありがとう助かったわ」


とお礼を言うナタリアに対して、


「気にしないでください。通りすがりですから」


と返すイヴ。そしてナタリアは、すべてを察していた。


 そして、イヴは青白く光る刀「村雨」を装備し

オークの群れに向かっていった。

そしてナタリア達はゴブリンの相手をするのだった。







 俺は、イヴからの通信を聞きながら、車を走らせていた。

実は、5人が仕事に行くのを知って、イヴにひそかに5人を

守るように命じていた。そして助けに入るときは、通りすがりと答えるように、

言っていた。そうしておけば、最初から仕事に参加しているわけではないので、

俺が立ち会わなくとも、問題はない。これこそ俺が打っていた手で、

以前も言ったようにズルなのだが、功を奏したようだった。


(俺が着くまでに持っていてくれよ)


 ただ、襲ってくる敵の量は、想定外だったし、ナナシの事もある。

とにかく俺は逸る気持ちを抱えながらも車を走らした。

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