2「エディフェル商会の店員からの頼み」

 冒険者ギルドが新方針を打ち出してから、数日後、

俺は、鎧姿でベルと一緒に、仕事を探しに、冒険者ギルドに向かっていた。

その途中で、丁度、人通りの少ないところで、


「すいません、黒騎士さんですよね?」

「君はエディフェル商会の……」


声をかけてきたのは、エディフェル商会の店員、

ショートカットの髪型で、眼鏡を着用して、真面目な雰囲気の女性だ。

聞くところによると、若いが彼女が主人らしい。

なんでも、本来の主人から、譲ってもらったとの事。

後になって知るが、この本来の主人が、あの「斬撃の魔女」の姉になるらしい。


 話を戻して声をかけてきた店員は


「私の事を知ってるんですか?」

「何度か、店に通ってるから」


そう言うと、何の気なしに鎧を脱いだ。

いつもの、見習い魔法使いのような格好になる。


「貴女だったんですか?」


エディフェル商会では、何度か買い物をしたことがあるが、

いつも鎧は来ていない。


「それよりも、魔法の鎧だったですね」


 この時、殆ど人がいないとはいえ、俺は鎧を脱いで、

普段の姿を見せたのは、軽率だったかと思ったが、

俺の思いは、お構いなしに、


「ところで、先ほど鎧は、どこで手に入れたんですか?」


と聞かれ、本当の事が言えないので俺は困ってしまったが、


「知り合いからもらったんだよ。

そいつがどこかで手に入れてきたらしいんだけど、

誰が作ったかは、教えてくれなかった」


と言ってごまかす。


「その方は?」

「亡くなったよ。だから鎧の出自は、誰も知らない」


と我ながら、すらすらと嘘が出るものだと思ったが、


「そうですか……」


と彼女が残念そうにするので、心苦しかったが、


「あの、さっきの鎧をじっくりと見せてもらってもいいですか?」

「別にいいけど」

「ありがとうございます。実は、その鎧の複製品を作りたいんです」

「えっ!」


すると彼女が、焦っているように、


「もちろん、売り物にするつもりはありませんよ。

商品づくりの腕を磨くためです」


ここでクラウが、


《嘘は言っていませんよ》


と言うのと、著作権の問題もあるが、作ったのは刃条だし、

奴はもう死んだようなものなのと、奴への嫌がらせもかねて、


「それなら、いいよ」

「本当に、ありがとうございます。ここじゃ、何なんで、

もしよろしければ、店に来てくれませんか?」


と言われた。ギルドに行く途中だったが、

どうしても行かなきゃいけないわけじゃないので、


「いいよ」


と言ってエディフェル商会に向かった。もちろんベルも一緒だ。


店に行く途中、


「君、名前は?」


と聞くと、


「パゼットです。パゼット・ルセッティア」


と名乗った。


 店に着くと、工房に案内された。


(あれは……)


そこには、白銀騎士の鎧とそっくりの鎧が置いてあった。


「あの鎧は?」


と俺が聞くと、


「あれも、腕磨きのために作った鎧です。前にダンジョンに行ったときに、

見かけた冒険者の鎧が、印象に残っちゃって、それを元に作りました」


確かに、パゼットは以前、俺とパーティーを組んだ奴らと、一緒にいた。

もちろん、彼女が見かけた冒険者が俺であることは秘密である。


 その後、俺は再び鎧を着て、彼女が、真剣な眼差しで、

まじまじと鎧を見ながら、時折、メモやスケッチのような物を書いている。

この状況に、正直、恥ずかしかったが、

パゼットの真剣な様子に、熱意のような物を感じて、何も言わなかった。


 因みに、ベルは、パゼットの傍にいて、彼女の方を見ているが、

目つきが怖く。どうも彼女に嫉妬しているように思えた。


(帰ったら、変なことしないように絶対命令を使おう)


そう俺は思った。


 しばらく、鎧を見た後、満足したのか、


「もういいですよ。ありがとうございます」


と深々と、頭を下げた後、


「なにか、お礼をしないといけませんね」


と言ってきた。


「別にいいよ。鎧を見せただけなんだから……」


それに、ベルが嫉妬して、命令を下す前に、何かしかねないから、

とにかく断った。


「分かりました……」


彼女は、残念そうにしつつも、


「こんど、お買い物があるあら、サービスしますから」


と言った。


 その後、鎧を着たまま工房から出てくると、客が来て彼女が応対する。

客は、冒険者のようだった。


「ビデオカメラは、おいて無いかな?」

「すいません。今、売り切れてるんです」

「ここもか……」


と残念そうにして、その冒険者は、肩落としながら去っていった。


 話を聞いていた俺は思わず、


「ビデオカメラ、売り切れてるのか?」

「ええ、ここ最近ちょっと……」


と言いつつ、


「ご所望なら、すいませんが、うちにはもう……」

「いや、別に欲しいわけじゃないんだ」


ちなみに、ここで言うビデオカメラと言うのは、

映像記録魔法が使えるマジックアイテムの事。





「映像記録魔法」

特定の物を依りわらにして、その場の状況を映像として記録する魔法。

上級魔法で、修得が大変であるが、

異世界から来たカメラの技術を応用することで

同様の効能を持つマジックアイテムが作られており、

それを利用する形で、使う人間が多い。




なお、ビデオカメラと言うのは俺たちの世界由来の言葉である。


 パゼットの話では、最近になって急にカメラが売れ出し、

この商会だけでなく、他の店でも売り切れているらしい。


「ギルドが新方針を打ち出してからなんですよね。

大方、討伐の証拠に使うんでしょうが、

妙なんですよね。何かご存知ですか?」


と聞かれてしまった。


「特に、話は聞いてないけど……」


思い当たる節は無いわけじゃないが、

実際に、他の冒険者達から話は聞いてはいない。


「そうですか……」


と言いつつ、首をかしげる。


 ここで、ベルが


「何か、おかしいんですか?」


と言うと、パゼットは


「討伐の証拠は、映像だけではないでしょう。

魔獣の死骸の一部を持って帰ればいい筈です。角とか肉とか、

でも、急にカメラが売れ出している」


ちなみに、ギルドの新方針が、関わっているとはいっても、

乱入魔獣の討伐の証拠は、映像じゃないといけない訳じゃなく、これまでどおり、

死骸の一部を持ち帰って、提出してもよいとされていたはず。


 パゼットもこの事を知っているからこれまで通りの対処でもいいのに、

新方針が打ち出された直後から、急にビデオカメラが、

売れるようになったから、おかしいと思うに至ったわけである。


「全く、何がどうなってるんだか」


とパゼットは頭に手を当てて、話す。


 先も述べたが、思い当たる節がある。

雨宮が聞いたように乱入魔獣は倒すと、消えてしまうからだ。

そうなっては、死骸を証拠にすることは出来ない。だから、映像記録しかない。


 その後、俺たちはエディフェル商会を後にして、

当初の予定通り冒険者ギルドに向かうが、その途中にベルが、


「ビデオカメラが良く売れているって話、

やっぱり、乱入してくる魔獣が消えてしまうからでしょうか」

「だろうな……」

「という事は、やはりサマナヴィ……ナナシか、

奴とつるんでいるジムか……」


ふと思い立った俺は、


「ジムとは限らない。前のサモンドールのように、他の誰かの可能性もある」


あとサマナヴィは、雨宮の話では、数は少ないものの、

もちろん、ダンジョン由来で複数存在していて、

殆どが所在不明だから、そもそもナナシが絡んでいない可能性もある。


 そしてベルは、


「何者であれ、今回の一件が、何だかの意図で人為的に起きているんですよね?」

「そうだよな、ナナシなら、ただの遊びだろうが、他だとすれば……」


ここでクラウが


《そう言えば、襲われるのは、ある程度のランクの冒険者ですよね》

「ああ……」

《もしかしたら、使っているのは低ランク冒険者で、

高ランクへのやっかみじゃないでしょうか》


確かに一理ある。

だから俺のように低ランクの冒険者には手を出してこない。


「和樹さんどうします?」


とベルが聞いて来た。


「別に俺が火の粉かぶってるわけじゃないから、どうもしないよ。

まあ、大十字なら首を突っ込むだろうが」

「………」


大十字の名前を出したからか、ベルは不機嫌そうな表情になる。

あと、冒険者ギルドに行った後、

家に帰ってからパゼットに何かしないように「絶対命令」は使った。


 とにかく、俺には、関わりのなさそうなので、

正直面倒なので、まあナナシが関わってる可能性もあるから、

警戒はするが、これといって、何かするつもりは無かった。

だが、後に否応なしに俺は、巻き込まれる事となった。

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