第22話「冒険者ランキングの不正操作」

1「冒険者ギルドの新方針」

 さてカーミラが使っていたサマナヴィを回収していたナナシは酒場にやって来た。


(今日も、面白そうな出会いはないかな)


ナナシは、カーミラの一件以降、ジムが忙しくなったので

暇をしていた。そんなときは、酒場である。こういう所には、

ナナシを楽しませてくれる。人材がいるのだ。


 酒場を見回っていると、一人の男を見付けた。

短くもなく長くもない、特徴のない髪形。

若いが、美形ではない、かと言って不細工ともいえない。

あまりモテそうになさそうな顔立ちの男だ。


(彼は確か……)


知らぬ顔ではなかった。帯剣しているので、剣士のようだった。


 男は、酔って愚痴を言っていた。


「ちくしょう! なんなんだよ、ギルドの連中は」


ナナシは男の隣に座って話しかけた。


「どうしたんですか?」

「ああ? なんだお前」

「ただの通りすがりですよ」

「ふーん、まあ良いや。聞いてくれよ。

俺は、上級魔獣のレッドドラゴンの討伐に成功したんだぜ。

もちろん証拠だってある」


男が、懐からレッドドラゴンの牙の一部を取り出し、見せつける。

これは、討伐の証拠になる。


「へえ~すごいですね」

「ところがギルドの奴らは、ランクを上げてくれないんだよ。

『予定外の魔獣だから』って、

でも討伐したには違わねえだろうが!」

「確かにそうですね。それはギルドが間違っている」

「お前もそう思うか!?」


すると嬉しそうにする男


「どいつもこいつも、ギルドの味方でよう。お前が初めてだよ」

「そもそも、冒険者の常識が間違っているんですね」


と言った後、


「貴方、お名前は?」

「俺の名前か? 俺は、デリックだ。デリック・オーケルバリ」

「ではデリックさん、この常識を、貴方の力で変えてみませんか?」


と囁くように言うナナシ


「はあ? どういう事だ?」

「それは、ですねぇ……」


ナナシは、デリックの耳元で囁いた。その言葉を聞いた男は驚く


「おい、そんな事が出来るのか?」

「出来ますよ。これを使えばね」


そう言って、サマナヴィを取り出す。


「どうします?」


デリックはナナシからサマナヴィを受け取った。







 冒険者の常識と言うか、元は冒険者ギルド決まりだが、

冒険者ランクを決めるにあたって、成功した依頼の予測難度と数を見る。

例えば難度が高ければ、少ない数で、ランクアップするし、

俺が、いつも引き受けてるような難度が低い依頼は、

かなりの量をこなさないと、ランクアップは難しい。

まあ、俺はランクアップする気はないのだが。


 それは置いておくとして、予測難度は、あくまでも予測で

実際、以前のレックスドラゴンの様に、外れる事も多いし、

外れるにしても、俺が遭遇したデモスゴードや、グリフォンの様に、

予想外の強力な魔獣が現れる事だってある。


 そういう場合は、評価はどうなるのか、実はどうにもならないのである。

ランキングの上昇は、予想難度に従って行われる。

だから、予想が外れて、下級魔獣討伐の際に上級魔獣が出てきても、

運が悪いとしか言えず、評価に影響はない。

ただデモスゴードの時の様に、手配されている魔獣なら話は別だが。


 まあ、魔獣退治だけでなく、冒険者の仕事と言うのは、

予想外なことが多いし、そう言う覚悟がいるものだと、

これまで、何度も思っている事だが、結局は運だという事。

基本的には、平穏無事だし、楽な仕事だとは思ってる。

ナナシやジムが何かしなければだが、ただ予想外の出来事、

正確には予想外の魔獣をめぐってひと騒動となるのだった。


 さて、公爵婦人の仕事を受ける少し前の事、冒険者ギルドで、

ちょっとしたトラブルを見かけた。一人の冒険者が、ギルドの受付で


「だから、俺はレッドドラゴンを倒したんだよ!証拠も見せただろ!」


以前ダンジョンの第五区画で、遭遇した事もあるレッドドラゴンは、

上級魔獣なので、その討伐なら、かなりのランクアップが見込めるのだが、


「ですから、依頼外の討伐ですし、手配書も出ていませんから、

評価に反映できないんですよ……」


と馴染みの受付嬢が、困った顔で答えていた。

どうも、その冒険者は、仕事中にレッドドラゴンに遭遇して倒して、

その事を、評価に反映させるよう迫っているみたいであった。


 しかし、ギルドの決まりであるから受付で騒いだところで、

どうしようもないわけで、男の言動は熱を帯びて、

しまいには、受付嬢に手を上げようとした。


(危ない!)


と思わず止めようとしたが、その前に周りの冒険者たちに

止められて、最終的にはその冒険者たちになだめられる形で、

ギルドの建物から出て行った。


 この冒険者は、その後、何度も街中で見かけたが、酔って


「俺は、レッドドラゴンを倒したんだぞ!」


と一人で騒いでいた。その度、俺は、


(まだ言ってるよ)


と思っていた。何度目かに見かけたときに、知り合いらしき奴から

名前を呼ばれてて、男がデリックと言う名前である事を知った。


 さてデリックの事は置いておいて、

公爵婦人の一件の後、しばらく経った頃だ。

ギルドの規約の変更があって、ギルドの建物に

大きな張り紙で内容が張り出されていて、

それによれば、今後、評価対象ならなかった依頼外の討伐について

依頼された仕事の前後、あるいは仕事中の事なら、

評価の対象になると言う。他にも予測難度が外れ、

手間がかかった場合は、その分も評価に反映するとの事だった。


 この話を、interwineに行ってカウンター席に座り軽食を食べながら

雨宮が手の空いたときに話すと、既に知っていたようで


「俺も話は聞いてる。これは大きな変更だな、

これまでも、そういう声は、上がってたんだが、

ギルドは、水増しを恐れて、頑として聞き入れなかったからな」


評価を上げるために上級魔獣と遭遇したと嘘を言う連中が出で、

冒険者ランクの信用が、敷いてはギルド自体の信用低下を、恐れていたのだった。


 もちろん騒いでる人間が少数だったこともある。

予想外で、それも評価に係わるだけの魔獣の乱入なんて、

そうあるわけじゃないから、多くの冒険者は不運で済ませていたからだ。


 この状況について、俺は思い当たる節があった。


「やっぱり、魔獣の乱入が続いたからか」


俺自身は体験していないものの、ここ最近になって魔獣討伐時に、

予想外の上級魔獣の襲撃が相次いだのである。

これを勝手ながら乱入魔獣と呼ぶことにする。

これまでは、偶にある程度だったが、それがしょっちゅうになって来た。


 ただある程度ランクの高い冒険者に多く、俺みたいな低ランクの冒険者には

そう言う事はなかったが、それでも、多くの冒険者に対し起きるので、

ギルドではその話題で持ち切りになり、

その内、こういったことを評価に反映するよう訴える冒険者も増えてきた。

 

 さらに雨宮は言うには


「特に高ランク冒険者からの訴えは大きかったみたいだ。

それにギルドの難度予測が、ことごとく外れた形になるから

そっち方面での非難もある」


と言った後


「ただ、難度予測は、ギルドが依頼書の内容を分析して

定期的な管轄地域の調査の内容を加えて、割り出しているから、

依頼ごとに実地調査をしてるものじゃない。

だから、急な魔獣の流れてきた場合は予測できない」


デモスゴードやミニアが刺さっていたグリフォンとかがそれらしい。

ただデモスゴードは、目撃情報からギルドが察知し

手配をかけていた。


 ここで、雨宮が思い出したように、


「そういえば、カーミラのサマナヴィはどこに行った?」

「どうなんだろう、ナナシが使っていたけど、

あれは、自分で作ったって言ってたし……」


この時、俺の横には例によってベルがいて


「大方、ナナシが持っていったのでは、あるいはナナシから、

ジムの手に渡った可能性もありますが」


俺は、急な話に


「なんでサマナビィの事を?」

「実はな、これは店に来た酔っ払いの話だから真偽は定かじゃないんだが、

なんでも、乱入してきた魔獣が、倒した途端、消えてしまったそうだ。

ダンジョンの疑似魔獣の様にな」

「それって……」


サマナヴィと同じという事だ。

なおサマナヴィは、雨宮や婦人、ミズキの様に知ってる奴は知ってるけど、

一般的にはあまり知られてないらしい。


「ただ、他から、そんな話を聞かないんだ。

もしかしたら消えたって言うと、おかしくなったと思われるから

言わないだけかもしれないが」


と雨宮は言う。

なお雨宮はギルドから、乱入魔獣に関し相談を受けていたので、

この状況を、気にしているとの事。


 ここで、ベルが、


「もし奴が関わっているとしても、

まあ目的は、遊び何でしょうが、それにしても私たちは、

魔獣の乱入されたことは、ありませんよね」


と疑問を呈した。確かに奴なら、俺たちに手を出しそうなのに、

現時点では、俺たちは一見、何事もない。


「今は何事もなくとも、もし奴の仕業なら、必ず、何かあるはずだ」


とにかく、警戒する必要が、有りそうで、

なんだか、楽ができそうにない気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る