14「予期せぬ客人」

 カーミラが怪物化する中、ナナシが、


「それじゃあ、ゲストだよ」


指を鳴らすと、少し離れた場所に光と共に姿を見せたのは、


「これは一体?」

「公爵婦人!」


ナナシは、この場に公爵婦人を転移させてきた。

しかも、手には鞘に入った短剣の様なものを握っている。

恐らくあれが「刺し違えの刃」だろう。

元より使う気はなかったが、フルパワーがますます使いにくくなった。


 思わず、


「大丈夫ですか!」


と思わず、婦人のもとに駆け付けていた。同じようにベルたちもやって来る。


「ええ、大丈夫ですわ。それより……」


婦人は、化け物となったカーミラの方を見て


「あれが、カーミラ……」


と言ったので、


「どうして、分かるのですか?」


今のカーミラは、すっかり変わり果てているから、

あの姿から、連想するのは不可能である。


「先ほどから、貴方たちの戦いの様子が、頭の中に流れ込んできていたのです」


婦人は、何故かは分からないようだが、

俺にはナナシの仕業と言う事は想像がついた。


「奴が、変身する様子も……」


そして手の中の短剣を強く握りしめる。

短剣自体は、何か装飾があるわけでもなく、デザインも地味で

特別なものと言う感じはしなかったが、


「その剣は、『刺し違えの刃』ですか」


すると婦人は、驚いたように、


「よくご存じですね」


と言った後、短剣をじっと見つめ、


「我が家の家宝ですわ……何かあった時は、これで……」


この時の婦人は、決意に満ちた顔をしていた。


 そんな婦人に対し俺は、


「間違っても、そんなものは使わないでくださいね」


すると、婦人は


「大丈夫ですよ。私に何かあっても、きちんと報酬は支払われますから」


とズレた事を言うので、


「そう言うんじゃなくて、命は大切にと言うか、とにかく使わないでください!」


婦人から短剣を取り上げた方がいいとは思ったが、

相手が相手だけに、やりづらかった。

まあ、短剣の力の発動準備に入ったら、さすがに取り上げようと思うが、

そんなときが来ないように、一刻も早く奴を倒す必要がある。


 ちなみ、ミズキは


「メギドレイン!」


正確には、根源分析で、作られたメキドレインもどきと言える魔法で

リリアは、引き続きゴーレムの姿で攻撃をしていた。

余談だが、この時、リリアはデモスゴードに変身したかったが

出来なかったとの事、恐らくナナシが何かしたと思われる。


 しかし、二人の攻撃はナナシの魔法障壁で防がれていた。

そう、まだ完全な変身を終えてない様だった。

攻撃の開始までは、時間があると思った俺は、ミズキを呼び寄せ


「この空間を一度解除して、直ぐに張りなおす事はできるか?」

「出来ますよ。でも何故です?」

「婦人を脱出させたいんだ」


元々は婦人を巻き込みたくないから、この空間を用意するように頼んだ。

でも、その婦人がここにいるとなると、意味がない、

むしろ婦人を危険にさらす事になる。それに、


「空間を解除しないと、脱出は出来ないよな?」

「はい……」

「じゃあお願いできないか、駄目なら……」


絶対命令を使うと言いたかったが、


「心配しなくとも、やりますよ。その方に死なれては、

奴を喜ばす形になりますからね」


そしてベルには


「ミズキが空間を解除したら、婦人を連れて、この場を離れてくれ」


イヴだと婦人は、良い気分はしないだろうし、

他の二人に任せるのも、なんか心配だ。

ベルの事も気になるが、他の二人に比べればマシだと思った。


 しかし、ここで婦人は


「私は、逃げませんよ」

「えっ?」

「この場に残って、全てを見届ける。そうすべきだと、私は思うのです」


と堂々として、胸を張っていった。


「もしもの時があれば、私の手で……」


そう言って、短剣を握りしめた。


 俺は、気が引けてはいたが、ここは勇気を振り絞る様に、


「駄目ですよ。あんな奴の為に、これ以上、貴方が犠牲なってはいけない」

「でもこれは、私の闘いでもあるんです」


ここからは済まなそうな様子で


「でも、私は弱いから、私だけでは戦えない。

だから貴女たちを巻き込んでしまった。すまないと思っていますわ」


そして、決意に満ちた目で


「ですが、最後は、私の手で終わらせなければいけません」


だが俺は、


「すいませんが、貴女を最後まで守り切るのが、

俺たちの仕事です。それに、例え奴に勝っても、

貴方が犠牲なっては、それは敗北と同じ、あの世で奴が笑うでしょう」

「カズキさん……」

「とにかく、奴を倒し、貴女が生き残る。それ以外にないんです!」


ここまで言って、


(大十字も同じような事を言うだろうな)


と思った。


 しかし、ここでミズキが、


「すいませんが、この空間を解除することは出来ません」

「どういうことだ?」

「何者かの、妨害を受けています」


俺は、今、カーミラの側にいるナナシに方を見た。

奴しか考えられない。これでは、婦人を脱出させることは出来ない。

こうなっては、この場で婦人の安全を確保するしかない。いろいろ考えて、


(そうだカオスセイバーを使えば)


カオスセイバーⅡのボックスホームに入ってもらって、

そのまま宝物庫に入れれば安全は確保できる。


(いや、カオスセイバーは戦いに使うか)


この日は珍しく、カーミラとの戦いにカオスセイバーⅡを使う事を思いついた。


(そうだ、キャッスルトランクだ)


これを使えば同じことができる。早速取り出そうとすると、


(あれ?)


どういうわけか取り出せなかった。


 この状況を見越したように、


「宝物庫は封印させて貰ったよ」

「!」


ナナシは転移ですぐそばに来ていた。


「さっき君が、攻撃を受け止めた際にね」


と言った後


「でも安心して、以前、君の宝物庫から、食料を盗んだ時のように、

対策されるだろうから、もう二度とこういうことはないからね」

「何が、安心だ!」


と剣で一撃、喰らわそうとしたが、転移で離れた場所に逃げられていた。


 奴を追うとしたが、それよりも婦人の事が重要だった。

思いついた手が、尽くダメだった為、


「どうすれば……」


と口にいていた。次の瞬間、婦人の体がバリアーの様なもので、

覆われる。そしてベルが、


「結界を張りました。どれくらい持つかはわかりませんが、

無いよりかは、マシでしょう」


もちろん、思いつかなかったわけじゃなかったが、

カオスセイバーⅡやキャッスルトランクを使う事に比べれば、

かなり不安だが、無いよりはましである。


「ありがとう、ベル」


とりあえず礼を言い、彼女も、


「どういたしまして」


と答える。


 そして、ここでもう一枚バリアーが張られ、ミズキが、


「私も結界を張っておきましょう。より確実に、

お守りできるように、あとこいつらも」


ミラーカと三人の殺人鬼も現れ、守りを固める。

彼女が、婦人を守るのはカーミラへの嫌がらせ、なのだろうが、


「ありがと……」


ここは、一応例は言う。


 何はともあれ、婦人の安全を確保したので、俺たちは、カーミラの元へと向かう。

この時、


「イヴ、ヴァルキュリアを使え!」


カオスセイバーⅡは使えないが、ヴァルキュリアがあることに気付いて、

イヴに使うように命令したのだ。しかし、


「ヴァルキュリアを呼び出すことはできません」

「えっ?他の武器は」

「鎧は呼び出せませんが、それ以外は大丈夫です」


どうもナナシが、何かしたようだが、俺の宝物庫とは違い。

特定の装備が呼び出せないだけで、

武器が入れてある収納空間自体を封じられたわけではなさそうだった。

とにかく、楽にはいかせないと言う事だろうか。

まあ、いつもながらタチの悪い野郎である。


 さてゴーレムの姿で殴っていたリリア、ここまでは、

魔法障壁に攻撃が防がれていたが、ちょうど俺たちが接近した際に、

彼女の攻撃が通った。しかし魔法障壁を破壊したんじゃない。

発動しなかったのだ。だが直後、ゴーレムはパンチを食らい吹っ飛ばされた。


(またか……)


と思いつつも、どうやら変身が完了したようで、カーミラは、


「グウォォォォォォォォ!」


咆哮を上げながら襲い掛かってきた。

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