13「対決、カーミラ」

 カーミラと対峙する俺たち、最初に動いたのはカーミラで

奴は転移で移動したのか、目の前から姿を消し


「ギャア!」


と言う悲鳴と共にリリアが吹っ飛んでいた。

カーミラは、リリアの前方にいて拳を突き出していたから、

恐らく転移で移動して、パンチを仕掛けたんだろ、

次の瞬間、ミズキに攻撃を仕掛けたが、今度はいつの間にか、

カーミラは剣を握っていて、剣で切りかかる


「クッ!」


彼女は魔法障壁で、瞬時に攻撃を防ぐ。


 そして俺とベルは剣、イヴの刀を手に、三人で攻撃を仕掛けるが

向こうはこっちに手をかざしてきて、


「「!」」


魔法攻撃が来ると思い、俺たちはとっさに避けていた。

案の定、飛んできたのは、魔法攻撃だった。

放たれたのは、小さな赤い光弾、回避したが、着弾した場所には大きな火球が現れる


「これは、バーストブレイズ!」


と声を上げるベル。俺も、


(何で!)


と思ったが、冷静に考えたらおかしい事じゃなかった。


 俺は、カーミラに向かって言った。


「さっきの人形は、メモリアか!」

「よくご存じで」




「メモリア」

デモンズドールの一体、通常のデモンズドールとは異なり、

力を得た人間は数日で死に至り、そして死後、怨霊になる事は無く、

更には人形に力が戻り、再利用が可能になる。

メモリアから得られる力は、使用者のみであるが、

魔具、魔装に干渉するので、魔具や魔装が使えなくなる。




雨宮が言っていたシャレにならない人形。他の魔具や魔装が使えないとはいっても、

それらを必要としない程の強大な力がある。


 雨宮の話によると、力が戻る際に、力を得ていた人間の本来の力も

人形に吸収され、以後人形に力になるという。

そしてデモンズドールの力を求めるのは、力なき者とは限らない。

強大な力を持っていても、満足できず、さらなる力を求める貪欲な強者もいる。

そう言った人間たちの力が蓄積されている。元々、持っている強大な力に、

それらが加わるので、使われたらシャレにならないのである。


「私は、貴女とあの小娘を殺す為すべてを捨てることにしたわ。

一緒にあの世に来てもらうわよ」


どうもこの女の言う事が、癪に障る。売り言葉に買い言葉と言うわけじゃないが、


「あの世行きは、アンタだけだ!そしてあんたが殺した娘どもに詫び続けろ」


と自然と叫び。俺もバーストブレイズは、撃っていた。

そして向こうも撃ち返してくる。


 因みに、なぜバーストブレイズを彼女が使ってもおかしくないかと言うと、

実はメモリアも、他のデモンズドールと同じく、

「創造」の設計図に記録があった。そうかつての暗黒神、

即ち、刃条が作ったものだった。そして俺の鎧も奴が作ったもの

当然、それは専用魔法も同じだ。だからおかしい事じゃない。

まあそれに気づくのに少し時間がかかったが。


 そして、吹っ飛ばされたリリアがジェヴォダに変身して、

カーミラに襲い掛かるが、


「フッ!」


カーミラは余裕の表情で、剣で応戦する。ちなみに彼女の剣は、

ソウルウェポンらしい。もちろん俺たちも攻撃を仕掛ける。


「リリフレイム!」


ミズキが、バーストブレイズを再現したオリジナル魔法。

イヴは銃撃、俺とベルは、引き続き剣で攻撃する。


「………」


表情は余裕で、それでいて無言で、銃撃と魔法は、魔法で防御、

俺たちの攻撃には、剣で応戦。なおカーミラは表情こそ余裕だが、

押され気味であった。


 これも、雨宮から聞いた話だが、メモリアの力は、

完全に定着させるのには、個人差はあるが、大体の場合は、時間がかかる。

だから、雨宮からも、もし人形を使う事があれば、

急いで倒せと言われていた。


「恐らくカーミラは、不完全な状態、或いはお前たちの前で人形を使うはずだ。

完全に力が定着すると、自意識を保てなくなる可能性があるからな、

そうなったら、目的を果たせなくなる」


なお、保てるか保てないかは五分らしい。

それがわかっているから、不完全な状態で彼女は来たんだろう。


 しかし不完全で、押され気味ではあるが、

俺たちを相手に、渡り合ってる。まあこっちも、まだ最初のうちなのか、「習得」が

本気を出しかねてるところがある。時間が経てば強力な攻撃が出るだろう。


 ただ、やばそうなのは、わかるが、相手はまだ人間の姿をしているので、

お茶会の時は一対一と言う感じだから容赦なく行けたと思うが、

五対一だと、どうも卑怯な気がして、

まあ最初は、癪に障ったから容赦なくだったけど、頭が冷えてくると、

気が引けて来て、それがスキルに影響してるような気がした。


 他の奴ら、本気を出していないが、

ミズキは自分の力に驕れているようで、故に手を抜いてる気がする。

リリアは、単純にやる気がないように見える。一応戦ってはいるが、

ベルと、イヴは様子見をしているよう。


(ここで、躊躇するなメモリアを使った以上、こいつはもうお終いだ)


スキルに影響してるかは、わからないが、そう自分に言い聞かす。

その所為なのか、あるいは、時間経過で「習得」の調子が出てきたのか、

彼女に強力な攻撃を使いつつあった。


 俺だけでなく、イヴやベルも状況に応じて、攻撃を強めていく

ミズキとリリアも、同じく攻撃を強めているが、ミズキは


「その表情、腹が立ちますね」


とカーミラの余裕な表情が、癪に触ってるよう。

一方魔獣に変身しているリリアは、唸り声をあげながら襲い掛かる。


「グオオオオオオオオオオオオオオ !」


さっきまで、俺たちの中で、彼女が、攻撃をもろに受けているからか、

怒っているようで、攻撃が積極的になって行った。

ただ、攻撃を受けているのは、彼女が猪突猛進だからであるが、


 カーミラは力がなかなか定着しないのと、俺たちが攻撃を強めつつあるので

彼女の余裕さ失われつつあった。

このまま一気に、行ければと思ったが、そうは行かないようで


「五対一とは卑怯じゃないかい」

「!」


「習得」の影響なのか、俺は奴の一撃を受け止めていた。


「やるじゃないか」

「ナナシ……」


ナナシの登場に、ミズキは、


「まさか、この空間に転移してくるとは……」


と奴の登場に驚いていた。彼女の作る空間は、

本来、転移では逃げられないが、入り込むこともできないのだ。


 奴は、間合いを取った。兜で、奴の表情はわからないが、

意地の悪そうな笑みを浮かべているような気がした。

カーミラは


「またお前か、助けは不要だ」

「このままじゃ、定着前に、やられちゃうからね。

そうなったら面白くない。悪いけど、助太刀させてもらうよ」


そして、ナナシの手にサマナヴィが


「お前、いつの間に」


と言うカーミラに


「これは、こっちで用意したもので、貴方の物じゃない」


直後、周囲に魔獣が現れた。ゴブリン、オーク、リザードマン、

スライム、ミノタウロス、ワーウルフ、グリフォン、スケルトン、

何だか知らんが、妙に縁のある巨大蜘蛛。


「蜘蛛はおまけだよ」


と人を馬鹿にしたような言い方で言う。


 魔獣はカーミラを守るように配置された。

なおレインボミングは、まだ使えないので、魔獣の一掃はできない。


「余計な事を」


と言うカーミラに対し、


「悪いですが、助太刀いたしますよ。このままじゃ面白くありませんから、

貴女に拒否権はありませんよ。でも黒騎士と伯爵婦人には手を出しませんよ。

貴女の手で本懐を遂げてください」

「当然よ!」


と腹立たし気に言うカーミラ。


 一方、ミズキは、この状況に、


「一掃してあげます」


そう言うと、最初のゴブリンの襲撃の時のように、杖を上に向けて掲げると


「サテレイズ・ライト・イクス!」


と叫んだ。すると空に、無数の魔法陣と共に照明のような光が無数に出現した。


「させないよ」


次の瞬間、魔法陣は次々と破壊されていき、光も消える。


「厄介な魔法は封印させて、貰ったよ。根源分析を使っても

解くのは容易じゃないよ」

「クッ……」


ナナシは、魔法を防いだだけでなく、一時的に使えなくしたようだった。

加えて、カーミラが


「貴女は、ミズキ・ラジエル!」


どうやら認識阻害の魔法も無力化したようだった。


「なんなのその姿は」


と言って笑うカーミラ。


「どうでもいいでしょう!」

「それにしても貴女、何してるか分かってる?

これは教団への裏切り行為よ」

「信仰心もないくせに、教団で偉そうにしている貴方が許せないだけですよ

貴方のような老いぼれは、牢屋で朽ちていればいいんです」


すると、カーミラは顔を真っ赤にして


「言ったわね!」


そう言うと、バーストブレイズを撃つ。


「リバス・プロテクション!」


ミズキが魔法障壁を張ったかともうと、その障壁に魔法が吸い込まれ、次の瞬間

本人に向けて、魔法が発射された。





「リバス・プロテクション」

攻撃魔法を、相手に向けて反射する魔法「リバス」を基に、

根源分析で、防御魔法と組み合わせて作り出した魔法。

「リバス」は発動時間が極めて短いので、

相手の攻撃に合わせタイミングよく使わなければいけないが、

こっちは長時間の発動が可能。ただし普通の魔法障壁よりも

魔力消費は激しい。


反射するとは言っても、近距離ならともかく、

遠距離なら、反射まで、タイムラグがあるので、跳ね返したバーストブレイズは、

魔獣たちに防がれ、カーミラには届かなかった。


「チッ!」


暗しさで舌打ちをするミズキだが、カーミラも、ナナシの呼び出した魔獣に

助けられた故、あまりうれしそうにしていない。


 俺の方は、魔獣相手に苦戦とは言えないが、少々手間どっていた

ミノタウロスやグリフォンと言った元々から強いやつだけでなく、

ゴブリンや、スライムと言う下級魔獣でも、

スキルで高めた斬撃や、バーストブレイズを使うが、

敵は、通常の個体よりも強めの上級個体ってやつみたいで、

普段なら一撃で倒せるところ、直ぐには倒せず、難儀した。


(やはりナナシが使ってるだけはあるな)


サマナヴィを使っているのが神様だからこれだけの力が出るのだろうか。


 あと敵は、積極的な攻撃はしてこない。あくまでも足止めが目的のようで、

カーミラに近づこうとすると、その巨体で襲い掛かって来るし、

魔法も、身を挺して、防ぐ。しかもバーストブレイズが、全くじゃないものの、

効きが悪い。


(ダンジョンの時の様だな)


あの時は、バーストブレイズの力が弱まられていたが、今回は、

魔獣が強くなってるという事だろう。


あと、ゴブリンや、スライムといった小型の下級魔獣や、

オークやリザードマンのような、人間大の魔獣は、襲い掛かっては来るが。

先も言ったとおり攻撃ではなく、こっちの動きを抑え込もうとしたり。

足払いをして来たりと、邪魔がメインのようで、

その上、スライムは絡みついて来たり、

ゴブリンは集団で抑え込みにかかったり、

中にはいやらしい事が目的なのか、鎧を脱がそうとしてくる奴らもいた。


(こいつら、うっとうしくて腹立つな。

なんだか、ナナシの意地の悪さが伝わって来るみたいだな)


とにかくこいつらが邪魔で、無視して先に進むという事が出来ないのだ。

俺は体にしがみついてくるゴブリンや、絡みつくスライムを振り払い


「このぉ!」


剣で切り裂いたり、


「バーストブレイズ!」


魔法で焼き尽くしたりとした。

なお、俺だけじゃなく、他のみんなも、絡みつく下級魔獣を、

何度か振り払い、倒していた。


 数は多いうえ、その上、ナナシが時折、サマナヴィを操作していて、

中々数が減らないから、おそらく補充してるんだろう。


(レインボミングが使えれば、一網打尽に行けるんだが)


ナナシの所為で、まだ使えない。だがふと思いついて、

俺は武器を、フレイに切り替えて、「分身」を使い、二丁拳銃にする。


<賢明な判断ね>


と言うフレイの言葉を聞き流しつつ、敵を撃ちまくった。

ナナシの所為か、カーミラの方には「誘導」が効かないどころか、

狂わされて、彼女には当たらないが、周囲の敵には、効果があるし、

レベッカとその配下の体術と、煌月流射撃格闘術のおかげで、

魔獣のつかみかかって来る魔獣たちを避けつつ、

時に振り払いながらも、両腕を開く、時に交差させる形で左右、

上方、下方、前方と肩越しに後方、そして移動しながら、

時に回転しながら、敵を撃ち続ける。

  

 これは、習得による動作であるが、さながら射撃の舞、

なんだかダンスを踊っているようライラとの戦いでも経験があるが、

それよりも洗練されているようで、あと魔斧の時とは違い、

大勢の敵を相手にしているから、動きが派手に感じた。


「ギガントの時に比べて、見ごたえがあるね。なかなか凄いよ」


とナナシが拍手をしながら言うが、コイツに褒められてもうれしくない。


 俺に触発されたのか、ベルもメタシスを銃形態にして、

銃撃をしている。イヴは違うかもしれないが、二丁拳銃で戦っている。

リリアはアイアンナチュラゴーレムとかいう魔獣に変身し、

その拳で、魔獣たちを叩き潰している。

そしてミズキは、杖で右手の杖で、魔法を、

左手には、前に見せた剣を装備し、敵を切り裂いていく。

普通の剣じゃないので一振りするだけで、ミサキ切りのように、

同時に複数の敵が切り裂かれている。


 俺が銃撃を始めたころから、一気に敵が、減り始めたような気がした。


(銃撃で一気に敵が減っているからか、それとも)


奴が魔獣を補充しなくなったという事。


「あと少しでたどり着けるよ。がんばってね」


とナナシが余裕ぶっていうので、弾切れ的なものじゃない。


(まずいな)


俺は危機感を抱いた。ちょうどゴブリンたち下級魔獣や、

オーク、ワーウルフ、スケルトンと言った人間大の魔獣は

は全滅していないものの。数が減ったので、無視して進めようになった。

ただミノタウロスやグリフォンのような大型魔獣は、

まだ健在だったが、だいぶダメージを受けてるようなので、

一気に決めようと、


「爆裂弾」


シリンダーが「カチッ」という音立てて動き、


「爆裂剛煌撃!」


爆裂弾と同等の銃撃を撃てる奥義、それを爆裂弾と組み合わせれば、

効果は倍となり、


「グォォォォォォ!」

「キシャァァァァァァァァ!」


と言うような咆哮を上げながら、大型魔獣たちは次々と、倒れていき、

先に進んだ。


 カーミラには弾は当てられないので、武器はクラウに切り替え向かっていくが


《待ってください!敵の力が増大しています》

(来やがったか)


どうやら、力の定着が進んだようだった。

次の瞬間、カーミラの体に変化が、


「ぐあぁぁぁぁぁ!」


と言う声を上げながら、カーミラが苦しみ始める。

それは、まるで体が引き裂けそうな痛みを、

味わっているようにも見えた。

そして背中から、蝙蝠のような羽が生え、体が大きくなっていく。

その痛みは、変化に伴う痛みだ。


 雨宮の話じゃ、メモリアの力を得ると、

人間の姿を保ったまま力を行使する場合もあるが、

彼女の様に化け物に変身する場合もあるという。


「バーストブレイズ!」


変身途中を狙って、攻撃を仕掛けるが


「はい、卑怯な真似禁止」


とナナシが言い、奴が作ったと思われる魔力障壁で防がれた。


 やがて巨大で、カーミラは怪獣と言いたくなるような

何とも醜い化け物へと姿を変えた。

美貌に執着した彼女が嫌いそうな姿であった。

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