15「カーミラとの決着」


 変身したカーミラは、巨体な上、素早い動きで俺たちに襲ってきた。

この状況に、ふとサタニキアの事を思い出しつつも攻撃を開始する。


「バーストブレイズ!」


俺の攻撃に合わせるようにベルが、


「ライティ・サンダー!」


雷をまとった光弾を撃つ。「カオスティック・ザ・ ワールド」の雷魔法だ。


そしてミズキは、


「リリフレイム!」


俺と同じ、炎魔法を使う。


「別に、貴女に合わせたわけじゃないですからね」


と、最初の一撃を撃った後に言った。


 俺たちの攻撃は、全弾命中し、相手はたじろいだものの、

まだまだ、倒すには至らず、引き続き襲ってくる。

敵の攻撃は、素手だが動きは妙に洗練されているように見えた。

攻撃を避けつつも、ベルは、


「何だかの、格闘技のようです」


メモリア自身の物か、あるいは歴代の使用者たちの誰かの力か、

それはわからない。


 俺は、「習得」のおかげで、ベルやイヴは持ち前の技能、

ミズキは、補助魔法で、素早さを得て、それでも、ギリギリな形で、

攻撃を避けるが、リリアは、ゴーレムに変身しているようだが、

彼女だけは、攻撃をもろに受けていて、


「ゴォォォォォ!」


という咆哮を上げたが、俺には


「なんで、アタシだけ~~~~~~~~!」


と叫んでいるように思えた。まあ実際そうだったらしいが。

ちなみに、変身時の戦闘中は、咆哮を上げるがしゃべれないとの事。


 攻撃は、どんどんと共に激化していった。

近距離攻撃に、スキルや、魔法陣が発生しているから

魔法による遠距離攻撃の雨あられが加わって来る。

しかも、これらを同時に使ってくるのだ。

避けるのが大変で、その合間にバーストブレイズで、

攻撃をしているといったところ、


(サタニキアの時みたいに、一人だったら大変だったな)


今は人手がいるから、大変だけどうまくいってる気がした。

まあイヴ以外、仲間とは思いたくない奴ばかりだけど、

それでも、この場にいてよかったと思った。


(俺は、大丈夫かもしれないけど、婦人は守り切れないかもしれないからな)


 そして途中、


「うわっ!」


被弾すると、ドッチボールで思いっきり球をぶつけられたような痛みだった

大したことは無いが、地味に痛い。するとベルが


「回復します」


と俺に回復魔法を使う。先も言ったように大した事はないし、

自動修復があるから、必要ないんだが、その事を説明しても使ってくるのだ。

まあ、ベルの自己満足なんだろう。

 

 一方で、


「くっ!」


ミズキも被弾したようで、攻撃を避けながら、回復しようとしていると、

ベルがミズキの方に人差し指を向けて、


「ヒールバレット」


ベルの人差し指から、光弾が発射され、ミズキに当たった。


「痛ッ!」


と言って体が仰け反るミズキ。そして、


「何をするんです!」


と怒号を上げると、


「回復魔法ですよ」





「ヒールバレット」

「カオスティック・ザ・ ワールド」の回復魔法の一つで、

自分ではなく、第三者専用で

対象に光弾の様なものを飛ばし、当たると、

回復するというものだが、

当たった時、相手が痛がるような動作を見せる。





ゲーム特有のネタ魔法の一つだが、効果はHPだけでなく、

状態異常も含めた全回復と回復魔法としては高位の魔法でもある。

ネットの動画で見たことがあるけど、使われたキャラは痛そうにしていて、

今のミズキと同じ動作をしていた。


 痛そうにするミズキに対し、


「怪我はないし、むしろ治っているでしょう」

「確かに、でも……」


一見危害を加えているようだが、実際は治しているので、

絶対命令の許容範囲のようだが、場が悪い雰囲気になる。


(なんだか、嫌な冒険者パーティーだな)


 ちなみに、リリアはゴーレムの姿のまま、特有の強靭な防御力で、

猪突猛進にカーミラに向かっていく。

そして、拳でダメージは与えてるようだが、結局は吹っ飛ばされていく。


(なんだろう、やけを起こしてるみたいだな)


何となく感じただけだが、後に聞いたが実際に自棄を起こしていたらしい。

 

 なおイヴは、攻撃を軽々と避けつつも、アサルトライフルの二丁拳銃で、

銃撃したり、時に、斬竜刀で切りつけたりと黙々と敵に攻撃を仕掛けている。


 なおカーミラは、変身後、


「グウォォォォォォォォ!」


咆哮を上げていて、人語はしゃべらないから、

実際はどうなのか分からないが、


《マスターと公爵婦人に対しただならぬ、敵意を向けています》


との事なので、一応、自意識はあるようだった。

それを裏付けるように、俺や、婦人対して攻撃を集中させている。

ただ、婦人への攻撃は、結界だけでなく、俺たちでもガードはしている。


 やがて、カーミラは空高く飛翔した。そして巨大な魔法陣が浮かび上がる


「おい、まさか!」


サタニキアとの戦いを思い出す。すると心を読んだクラウが


《魔法陣から見て、これも初めて見る魔法ですが、

あれほど、威力はありませんが、それでも強力な魔法です》


直ぐに巨大な、黒い塊のようなものが現れる。これは闇属性の魔法らしいが、

発射されたら、弾速は早く、高い誘導性を持つので、

回避が難しい上、サタニキアの魔法ほどではないが爆発力も強く、


《防御をお勧めします》


との事だった俺は、


「婦人の守りを固めないと!」


と声を上げていた。するとベルは、


「もちろんですよ」


ミズキも


「癪に障りますが協力します」


イヴは


「了解しました」


なおこの時、リリアはカーミラの攻撃で伸びていて、

元の姿に戻っていた。コイツの事はどうでもいいが、

でも放っておけなくて、こいつも連れて結局全員で婦人のもとに集った。


 俺は、イズミに切り替えて、シールドモードして、

婦人を背に、そう守るように、盾を構えた。ちなみにイズミは


【すいません……旦那様……あの魔法は、反射できません……

守るだけで……それも出来るかどうか……】


稀にだが、反射できない。つまりはダメージが蓄積できない魔法もあるという。

まあ守れるならそれでいいが、自信なさげなのが気になった。


 一方、ミズキとベルは、さらなる結界を張る。ミラーカ達も結界を張った。

そしてイヴは、「創造」で作って以来、

実践で初めて見る盾柄の防御ユニットを装備した。

見た目は腕に取り付けるまな板みたいな鉄板だが、

強力なバリアーを展開することができる


 これらを使って、俺たちは婦人と、ついでに伸びているリリアの

防御を固めた。そして塊が射出されると、直ぐに俺たちに襲い掛かってきた


「クゥ……」


敵の攻撃に、耐える俺たち、そして頑張って耐えたものの、


「うわっ!」


俺たち全員、衝撃で、軽く吹き飛んだ。自動調整でこれだから、

相当な威力だったんだろう。


【ごめんなさい……旦那様……】


とイズミが泣き声のような声を上げるが、

大したケガはないし、あと婦人も守りきれた。


 ただ、ミズキとベルが新たに張ったものや、ミラーカ達が張ったのを含め、

結界がすべて破壊されてしまった。


(まずい!)


そう思った次の瞬間、婦人はバリアーの様なものに包まれた。

本能的に、結界じゃないと思った。

そしてそのまま体が宙に浮かび、カーミラの元へと引き寄せられていく。

この時、魔法を使い終えたカーミラは、地面に着地していた。

そして、婦人を引き寄せて殺そうとしているのだと感じ、

止めようと、後を追いつつ、奴に攻撃を仕掛けようとした。

ところが、婦人が短剣を抜きかけたかと思うと、バリアー消え、


「婦人!」


彼女が、落下してきたので、どうにか受け止めようとして、


「!」


婦人の下敷きになった。まあ婦人は大丈夫だったが


「大丈夫ですか!」


と素早く体を避けながら、心配そうに声をかけてくる婦人。


「大丈夫です……」


と言って、俺は立ち上がった。


「和樹さん!大丈夫ですか」


とここでベルが声を上げつつ、伸びているリリア以外の

面々が駆けつけてきた。心配しているのはベルだけだろうが。


 やってきたベルに


「俺は大丈夫だから、婦人に新しい結界を頼む」

「はい」


新たな結界を張るベルとミズキ。更にミラーカ達も守りを固める。

一方で、カーミラは間合いを取っていた。

短剣を抜こうとしたところで、引き寄せるのをやめたところを見ると、

向こうも、「刺し違えの刃」に気付いたと思われる。

カーミラも刺し違えのつもりなんだろうが、相手からやられるのは、

嫌なんだろう。


(もっとも刺し違えはさせないけどな)


婦人が事を起こす前に、倒さなければいけない。


 結界の張り直しは、直ぐだったから、

カーミラの攻撃の再開には、間に合った。

そして奴は、「刺し違えの刃」を気にしたのか、

遠距離攻撃が、主体となった。さっきと同じ、スキルやら魔法やらの、

様々な攻撃だ。そして連中の攻撃再開に対し、こっちも、攻撃を再開した。


 俺は、さっきの攻撃で、イズミを使う事を思いついた。

そうシールドモードによる「反射」だった。

さっきの攻撃は、反射は出来なかったが、今の攻撃には作用していて、

シールドで防いだ攻撃は、蓄積させず、即、カーミラに撃ち返した。

もちろん、時折、


「バーストブレイズ!」


とこっちも攻撃を仕掛ける。こうする事で、敵の攻撃を防御するだけでなく、

攻撃頻度を上げることもできる。


(もっと早く思いつけばよかったな)


しかし、さっきまで、使ったことがなかったんだから仕方ない。


 やがて、俺への遠距離攻撃が跳ね返されているから、

他の連中への遠距離攻撃をしつつも、こっちには

近距離攻撃、さっきまでは素手だったが、今度は、

剣を使って来た。その剣はさっき彼女が使っていた剣が

巨大化した様なものだった。


「!」


思わず俺は盾を構え、防御していた。大した衝撃は無い。

その後も、振り下ろしてくる剣を盾で防ぎ続けた。


【旦那様……このソウルウェポンは、反射できます】


ちなみに反射できるかはソウルウェポンによるらしい。

ただ、今回の場合は反射と言っても、蓄積した力を、

本来の姿である斧の斬撃力に上乗せするだけで、

魔法やスキルの遠距離攻撃のように、即座に跳ね返すことは出来ないという。


【蓄積には、限界がありますから、その……私の合図で……

斧に切り替えてください】


時間は立っているから何時でも斧に切り替えられるほか、

また、こういう形で反射の力を使うと、

何故か、変形可能なるまでの待ち時間が、ゼロになるという。

なお蓄積の限界を超えると、魔装が崩壊するらしい。

まあ、俺との契約で再生はするが一定時間は、使えないという。


 なお今回は良かったが、本来なら、あの巨大な剣だから

防ぎきれる訳がないので、カーミラの攻撃を防御しつつも。

その事に気づいて、ぞっとしていた。


 そして以降も、俺は、基本的に防御に徹しつつ、時折

バーストブレイズを撃ち続けた。とにかく、俺と婦人への恨み故か、

他の奴らよりも俺への攻撃がすさまじい気がした。

奴は、言葉を発していないが。


「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!」


と言っているように思えた。

スキルとかじゃなくて、その強い殺意を感じ取る事が出来た。


 やがて、


【旦那様、今です!】


丁度、攻撃の合間、俺は盾を本来の斧に切り替え、


「うおおおおおおおおおおおおお!」


と思わず声をあげながら、斧を振るった。

向こうは巨大な剣を振るい、二つはぶつかる。

カーミラの剣は、斧よりも遥かに大きく、普通なら勝ち目はないのだが、

剣はあっさりと折れた。そのまま奴を斬りつけると、

その体は大きく切り裂かれた。


「!」


奴から受けた攻撃を返す形になるのだが、

ここまでとは思わなかったから、俺自身も驚いた。


「キシャァァァァァァァァァァァ!」


という咆哮をあげ、動きが大きくひるむ。


 この状況を好機と見たのかミズキとベルが


「「いまです!」」


と二人が行きピッタリに声を上げて、ミズキは


「メテオ・テンペスト!」


ミズキのオリジナル魔法で、

先に使っていたメテオレインもどきの強化版だそうだ。

ベルは、


「ドラゴンキリング!」


魔王時にも使っていた強力な炎魔法。

今の姿でも使えるらしい。

どちらも、なおドラゴンキリングの方は魔王時以外では、

消費魔力の高さと発動までの時間がかかるので、切り札だった。


 ミズキが放った属性攻撃の嵐とベルの放った強大な火炎弾は、

仲良く同時にはなたれ、カーミラに直撃した。

奴にさらなる大ダメージを与える


 一方イヴは、4連ロケットランチャー「タイラント」を装備。

それをとどめと言わんばかりに全弾発射し、すべて命中、


「………!」


咆哮は上げなかったが、効果が抜群のようだった。


 このように、イズミによる一撃を皮切りに、

俺たちは一気に畳み掛けに入った。そして俺は、相手が巨体だから、

それに合わせて、斧を装備したまま


「炎龍断!」

「雷撃断!」


自然と奥義を使っていく、

バーストブレイズ、テンペストパルムと言った専用魔法も忘れない。


 未だに伸びているリリア以外での、大技による集中攻撃の影響か、

カーミラは反撃もできずに、ボロボロになって行った。


【旦那様……今なら……その……必殺技で……】


とどめがさせる。そう思ったが、最後に一波乱があった。最初に


「キャア!」


ミラーカ達の悲鳴の後、


「はい!注目!」


それは、ナナシだった。声の方を向くと、そこは婦人のいる場所で、

奴は、婦人の傍にいた。しかもミラーカ達が倒され、彼女以外は全員消え、

彼女自身も倒れていて、更に結界は解除されている。


「しまった!」


カーミラに集中していて、奴はノーマークだった。

駆け寄ろうとしたところで、奴は転移で婦人とともに消えた。


「こっちだよ」


声は俺の近くから聞こえた。それはカーミラがいる方、


「!」


声の方を向くと、案の定、カーミラの近くに、婦人はいて、

ナナシの姿はなかった。そして、婦人は短剣を抜いていた。

しかも刀身が輝き始めていた


「ダメです!」


それは、刺し違えの刃が、発動しかけていることを意味していた。


 近くにいたから、直ぐに駆け寄り、その腕をつかんだ。


「離して!これじゃあ奴を殺せない」


刃で殺せるのは一人だけ、しかも一番近くにいる奴を

効果があるので、このままだと、危ないのは俺である。


「ダメですよ!もう奴は倒せるんですから」

「せめて最後は私の手で!」

「だから、貴女が死んじゃ駄目なんです。あの世で奴が笑いますよ!」


やがて、短剣は婦人の手から離れる。俺は素早く拾い。


「返してください」


と言われたが


「ダメです、言ったでしょう奴が死んで貴女が生き残る。

そうじゃないと負けなんです」


すると婦人は黙り込む。


 この直後、刀身が異様な輝きを見せ始める。


(まずい!)


暗黒神である俺が持ったことで、異常が起きてるようだった。


「和樹さん離れて!」

【旦那様、お逃げください!】


ベルとイズミが同時の声を上げる。この時カーミラの手が、俺に迫ってきた。


「!」


思わず俺は、短剣を奴の手に突き立てていた。

次の瞬間、目の前が真っ白になって、

気づくと、短剣からは輝きは失せていて、

更にはカーミラの姿は消えていて、代わりに


「誰?」


そこには見た事のない老婆がいた。

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