11「対決、魔斧(2)」

 スキル「分身」を使い、二丁拳銃で挑む。なお、ただ撃てばいいわけじゃない。

向こうも衝撃波で、遠距離攻撃ができるので、基本的な戦法は、

回避しつつ、攻撃を叩き込むというのは変わらない。


 ちょうど武器を切り替えたタイミングで、レギナの周囲に小さな斧が出現した。


<あっちも分身を使ってきたようね>


出現した斧は、ギガントの分身で、よく見れば、

ギガントを小さくしたような形をしていた。

フレイのとは違いまったく同じ大きさの物を生み出せるわけじゃないが、

代わりに、無数に出現させられるよう。

分身たちは、ブーメランのように回転しながら、襲い掛かってくる。

俺は、「習得」で、軽々と避けつつも、二丁拳銃で、それらを迎撃していった。


 「習得」を使っているので、体が勝手に動いているような感じであるが、

修業の成果と言うやつか、まあ、修行中から、感じてはいたけれど

以前よりも動きが、洗練しているように、思えた。

これまでに増して、素早い動きで、より軽々と敵の攻撃を避けていき、

銃弾を撃ち込む。そして発射された銃弾は「誘導」によって、

ギガントの側面へと、命中する。なお正面だと、魔輪の時のように

弾自体が切り裂かれるからだ。


 なお分身は、正面からでも問題なく撃ち落としている。

ただ、撃ち落としても、すぐに補充される。



 そして使用する弾丸は、通常弾。一応スキルで威力を上げている

これは、その後、発動するであろう奥義との兼ね合いのためだ。

それに撃ち尽くしても、回復が早い。


 そして、フレイに切り替えてから、

これまでよりも素早い動きになったからか、レギナは見るからに、

いらだってる様子で、


「ちょこまかと!」


と声を上げる。これが、暗黒教団の連中だったら、

特に何も感じない。或いは爽快なのかもしれないが、しかし、彼女だと、


(なんだか、悪いことをしてるみたいだな……)


妙に罪悪感を感じた。


(でも、これも彼女のためだ)


と自分に言い聞かせつつ、戦いを続ける。


 そして、拳銃の奥義が発動する


「剛煌撃!」


単純に、威力と弾速を上げるだけの奥義。


「烈火剛煌撃!」

「氷刃剛煌撃!」


これらはそれぞれ、スキルで弾丸を強化したのと同じ効果を出すが

しかし、スキルで強化されているところに、使用することで

効果を倍加させることが可能だ。

またスキル同士を組み合わせられない場合でも、

片方を同等の効果を持つ奥義を使うことで、結果として

あり得ない組み合わせを作り出すことも可能。


 更には


「爆裂剛煌撃!」


気の力をもめて命中後、爆発する弾を撃つ煌月流の奥義だが、

はっきり言えば、爆裂弾だ。しかし通常弾と爆裂弾では、弾数が異なる。

威力が強烈なであるがゆえに、弾数も遥かにすくない。

だが奥義の方は、奥義であるがゆえに、体力は消費するが、

通常弾を使うので、実質通常弾の弾数で、

爆裂弾を撃てるも同然なので、それが利点なのは言うまでもない。


「くっ!」


 奥義の効果は、抜群のようでレギナは、苦しそうな表情を浮かべた。


(申し訳ない……)


そんなことを思った。罪悪感を感じる後味の悪い戦いだ。

相手は、病気の家族のために戦っているのだから。

 

(俺は、何のために戦ってるんだろう……)


 魔装が欲しいからか、別にそういうことはない。

レギナを救いたいからか、そういう気持ちはないわけじゃないけど、

いまいち必死になっている気はしない。

魔装から、この街を守りたいからか、そうでもない。

結局、自分を守りたいだけだ。そう俺自身の平穏を、守るためだ。

そう楽をするための戦いだ。狙われるという現状は、楽ができないから。


(最低だな……)


俺は、自己嫌悪を感じた。


 しかしだからと言って、戦いをやめるわけにはいかない。

そもそも、逃げられない。


(これも、奴の目的なのだろうか)


更に彼女の、


「負けてたまるかぁ!」


ここからは奥義を使ってくる。


「ライゲキダン!」


雷をまとった斧を叩きつけてきた。地面を蹴って、跳躍しつつ回避する。

ほかにも、炎刃薙や炎龍断も使ってきた。

斧は、剣の奥義が使えるようであった。


 ほかにもいくつが、奥義を使ってきたが、うまい具合に回避はできた

しかし、つらかったのは、戦う時の彼女の必死な姿。

それが、ますます俺の精神を削った。なんせバトルロイヤルの果てには、

何もないと言う事。彼女の願いは、叶わない事が分かっているから、

余計に心苦しいのだ。友人の話を聞かなくなってるくらいだし、

ほぼ他人の俺が、この場で真実を伝えた所で、信じてはくれまいし、

俺は口も上手くない。


 とにかく、今できる事は、彼女が魔装に毒される前に、

この不毛な戦いを終わらせることだ。

その為にもギガントを破壊しなきゃいけない。

俺は、彼女の方に向かって銃を向けた時、


<待って!今、『誘導』が妨害されてるわ>

(えっ!)


原因は分からないが、恐らくはナナシの所為だろう。

しかし、困った。「習得」だけでなく、こっちにも頼っていたから

それが、無くなると、攻撃が当てられないんじゃないか不安になり、

一旦、攻撃をやめ、回避に集中しようとしたが、


<でも大丈夫。アタシ達は修行したんだから、射撃の基本は百発百中よ>


これまでとは違い煌月流射撃格闘術がある。

これによって、「誘導」が無くとも、当てられる技能が

「習得」で得ていて、事実「誘導」なしで、何度か命中させているとの事。

しかし、逆を言えば、まだ「誘導」に頼ってる部分があると言う事。


<意識をもっと、あの斧に集中させて、そうすれば、

誘導無しでも、やれるわ>


確かに、さっきから集中が途切れ気味だった気がした。


 そして俺は、襲い掛かる衝撃波や、斧自体の攻撃を

「習得」により、自然と出た回転を伴う、派出な動きで回避しつつ、


(斧、斧、斧、斧、斧、斧、斧、斧、斧……)


と改めて意識を、斧に集中させ、攻撃を行うと、

何度が、斬撃で弾かれたものの、ほとんどギガントの側面に着弾する。

あと、通状攻撃だけじゃなく、自然とでる奥義も、同様。

なお意識は集中させているものの、銃の照準を合わせているという感覚はない。

これまで通り「習得」特有の、体が勝手に動くという感じだ。

ちなみに、引き続き分身も飛んでくるが、それも斧とみなしているのか、

そっちの方もきちんと迎撃している。


 こっちの攻撃は、確実に彼女を追い詰めているのか


「ちくしょう……ちくしょう……」


と涙目で悔しがっているので、


(すまない……)


罪悪感を感じ、集中がと切れてしまうが、

これも彼女の為だと思い、再度、斧に集中した。


 そして、


「螺旋剛煌撃!」


交差する状態で持った二丁拳銃をから発射される剛煌撃の上位奥義。

発射された弾は剛煌撃と同じだが、

さら気の力で弾道を僅かに操作し、二つの弾を螺旋状に回転させながら、

まっすぐに飛ばすというもの、こうすることで、

回転によるエネルギーで、更に威力が上がる。


「キャア!」


その威力は強力だったのか、破壊には至らなかったが、

衝撃で、ギガントがレギナの手を離れ吹っ飛んだ。

 

 この時、チャンスだと思った。その意思を組んだかのように、


「疾風の型!」


俊敏性を上げる奥義が発動していた。

俺は、レギナよりも先に、ギガントを手にしようと思った。

取り上げてしまえば、あとはこっちの物だと、思ったからだ。

ちなみに、転移除けが発動しているから、

取り上げても、彼女の手には、戻らないと言う事もあったようだが、

その時の俺は、その事には、頭が回っていない。

なんせ、とっさの行動だったから。


 しかし、突然目の前に、鎧姿のナナシが表れて、


「駄目だよ、卑怯なマネしちゃ」


ふい現れた上に、同じくらいの俊敏さだったので、

回避はできず、鳩尾に蹴りを食らい吹っ飛ばされた。


「イテテ……」


奴の攻撃も、貫通効果があるのか、ギガントの攻撃よりはマシだったが

それでも痛かった。しかも「修復」が作用しないから痛みが残る。


《大丈夫ですか》

<ちょっとアンタ大丈夫?>


と魔装たちが次々に俺を気遣う声を上げる。


「大丈夫だ……」


痛いが大したことがなさそうだった。


《なら良いのですが》


と言いつつも、


《奴は、転移で現れたようです》

<ちょっと待って、転移除けしてるはずじゃ>


暗黒神専用魔法の転移除けが、俺自身は例外だから、

この転移除けも奴が張ったとすれば、奴の専用魔法だから

別段、おかしい事じゃない。なお奴の姿はもうない。


 ただ、イラっとする事として、奴が卑怯と言ったことだ。


(卑怯な奴ほど、自分の事は棚上げで、他人の卑怯にゃ、

うるさいんだから……)


まあ、我ながら、卑怯な事をしたと言う自覚はある。

でも、奴に卑怯だと言われるのは、納得いかない。


 一方、吹っ飛んでる間に、レギナは、ギガントを手にしていた。

卑怯な事とはいえ、折角のチャンスはふいになったが、

様子がおかしかった。

彼女は、わざわざギガントの側面をこっちに向けた。


(まるで、狙ってくれって言ってるみたいだな)


するとクラウが、


《まずい、シールドモードです》

「シールドモードって……」


事前にクラウから聞いていた事だが、魔輪、魔斧、魔手の三つは、

魔装自体が、変形形態を持つと言う。

魔輪には、ツインブレードモードと言って、

本体が大きくなり把手が付いて、

そこを掴んで振り回すことができるようになる形態がある。


 そしてギガントには、三つの形態があって、通常の斧と、

残りの二つの内一つが、盾形態で、今、目の前で把手が縮んで、

頭の部分が大きくなり変形して、丸くて巨大な盾に変形した。


《まずいですよ『反射』を使ってきます》




スキル「反射」

受けた攻撃を蓄積し、それと同じだけの力を撃ち返すスキル

どのような形で返して来るかは、各保有者、保有物で異なる。




ちなみに蓄積は、本来の斧形態で受けた分も含まれる。


 そして、盾から光弾のようなものが打ち出された。

これが、俺がこれまで、与えてきたダメージそのものらしい。


「!」


俺は、攻撃の第一波を回避する。


《蓄積した力を使い果たすまで、逃げ続けた方が得策かと思います。

下手に攻撃すれば、その力が、跳ね返されますから》


とクラウも回避を薦め、そしてレギナは盾をひたすらこっちに向け、

砲撃の雨あられが俺を襲い、「習得」により、これまでと同様の

映画のアクションシーンのような回転動作を含めた妙に派手な動きが、

勝手に出て、回避を続ける。


 やがて、砲撃がおさまったが、向こうはシールドモードのままである。


《まずいですね、ギガントが回復していきます》


シールドモードでは、自己修復機能があって、

自動的にギガントを治しているとの事。

俺は、慌てて武器を構えるが、


<ダメよ。また反射されるわ>

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!」

《反射の弱点は、素手による攻撃です。これらは跳ね返せません》


ここでふと思い出したことがあった。確かルリさんは、

ギガントを最後は素手で倒したと言っていた。

俺は、すごい事しか思わなかったが、

もしかしたら反射への対策としての戦いだったのかもしれない。


 更にクラウは、


《同じ素手でも、魔法とかは吸収されますし、

手足になんだかの武器をつけていた場合は別ですが……》


ちなみに俺の鎧は違うらしいが、ものによっては鎧も武器になるらしい。


<だったら、手はあるわよ>


俺はフレイの提案に


「大丈夫か?『習得』じゃどんな技が出るかわからないんだぞ」


すると、どこかあきれてるかの声で


<アンタねぇ、一緒に修業したでしょ>

「だから何だよ。『習得』で技が使えても、俺自身は、技は使えねえぞ」

<でも知識はあるでしょ、出したい技を念じれば、勝手に出るわよ>

《確かに、可能です》


そうこれまでは、技の知識がないから、赴くままに出していた。

だけど、今回は違う、一応修業したわけだから、

技の知識がある。だから出せれる技を自分で選べると言う事らしい。

それなら、フレイの言うとおりにできる。


「分かった、やってみる」


 俺は、さっそく実行に移す。鎧を脱ぎ、


「空砲……」


シリンダーが動き、俺は盾の方に向かっていき、


「爆炎蹴!」


盾に対し炎まとった飛び蹴り後、空砲による射撃。


「豪風脚!」


風をまとって回し蹴り盾に食らわせた後の後、空砲による射撃。


「爆電蹴!」


雷をまとった蹴りを盾に当てた後、空砲による射撃。


 これらは徒手空拳の奥義だが、

射撃格闘術の奥義でもある。ただ最後に射撃を行うという違いがある。

これらの技なら、反射の心配はないから、これを使えというのが

フレイの提案、なお最後に必ず行う射撃は、反射されるが、

空砲にしておけば弾は出ないのでその心配もない。


 もう一つシールドモードの弱点は、すぐに斧に戻れないと言う事。

そもそも変形できる魔装は変形したら、

一定時間は、その形態を使う必要があるが、

ギガントはそれが長めなのである。


 ただ、自己修復能力があるから、俺は、ひたすら攻撃を続けた。

しかも、修復の限度を超えた攻撃は必要なので、

奥義を繰り出す必要があったが、一方的だから、罪悪感がした。


 やがて盾にひびが入ってきた。最後に使った奥義の影響で、

俺は自然と間合いを取っていた。


<そろそろね。今なら爆発蹴が使えそうだから、一気に決めちゃいましょう>

「ああ……」


あまりいい気分はしてないが、あまり長引かせるのは、

レギナの為にもならない。だからフレイの言う通りにした。

俺は、走りながら向かって行き、


「爆発蹴!」


ヒビのど真ん中に飛び蹴りを食らわせ、その後、宙を舞いつつ、空砲を撃ち、

間合いを取る形で着地する。次の瞬間、爆発が起きる。


 これは蹴った場所に、気力で作った爆弾の様なものを仕掛け、

少し後に爆発を起こさせる奥義らしい。

無論、威力は半端ないが、直ぐには使えない。

なんでも、闘争本能の高まりが必要との事。


 さて効果は抜群で、盾は砕け散った。


「そんなぁ~!」


と悲痛の声を上げるレギナ。勝った物の後味は物凄く悪かった。

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