10「対決、魔斧(1)」

 神の領域にて、俺はジャンヌさんに怪我を治してもらっていた。


「ありがとうございます。助けてくれて」

「いいのよ。元来、光明神は人助けが本文だから」


と言ったのち、笑いながら、


「暗黒神を助けるとは思わなかったけどね」


と言いつつも、険しい顔を見せて、


「やはり、魔装の傷は、治りにくいわね」


痛みは引いていくから、治っているには違いないようだ。

しかし、本来なら「自動調整」と「修復」で擦り傷程度、

それでも、地味に痛いが、とにかく軽く済んでいたところ。

しかし、二つのスキルがうまく作用していないから、今の俺は、普通の人間と同じ。


 少し時間はかかったが、


「これで、完治できたわ」


と傷はどうにか治ったようだった。そして俺は気になったことがあったので、


「ちょっとすいません。武器を素振りいいですか?」

「別にいいわよ」


ちなみに神の領域と言うやつは、思いのほか広く

武器を振り回しても、大丈夫のようだった。

そして、クラウを抜くと、自動調整が働き攻撃力が上がる。

どうやら、働かないのは防御に対してのようだ。

その後、武器を切り替えながら、軽くであるが、

使ってみたところ、能力調整を切って、フルパワーになるまでの間のように、

うまく戦えないと言う事は無いようだった。


 とにかく戦えることを確認すると武器をクラウ戻して、

鞘に納めた。するとジャンヌさんが、


「ナアザの街が見えるようになったわ」


モニターの様なものが、俺の目の前に浮かび上がり、

そこには、レギナの姿が、映っていた。彼女は廃屋で、座っているようだった。

その廃屋の場所が、頭に入ってくる。


「どうする?今すぐ彼女のもとに行く」


ここから転移で、彼女のもとにすぐに行けるとの事。


 だが、彼女の姿を覆い隠すように、鎧姿のナナシが現れ、


「暗黒神と光明神、君たち見ているね」


と言って、こっちに向かって指をさした。


「お前は、どこぞの吸血鬼か!」

「それは知ってるよ、君の世界で有名な漫画だね。別に真似したわけじゃないよ」


と言った後、


「そうそう君たちは、そこから、ここには来れないからね」


すると、ジャンヌさんが、険しい顔で、


「確かに、飛べないわ……」


神の領域からの転移は、暗黒神専用の転移避けを使っている俺の住居以外は、

どこにでも飛べるはずだが、今は、レギナの居場所だけでなく、

ナアザの街のほとんどの場所に飛べないらしい。


「場所は判っているだろうから、早く来た方がいいよ。

スキルの効能は強化してるから、今日中には、手を遅れになるだろうからね

それじゃあ、頑張ってね」


次の瞬間、映像は消えた。そうまた状況が見えなくなったのだ


 これからどうするか、ジャンヌさんは、


「とりあえず、クロニクル卿に連絡すべきなんだろうけど」


神の領域は、神が啓示を与えるように、あらゆる場所や、

人間と交信ができるが、それも出来なくなっている。

あと、街には飛べる場所もあって、


「私の家には、飛べるけど……」


との事で、僕らは、仕方なく飛んだが、

ジャンヌさんの家と言っても、押し入れだったので、


「ちくしょう……」


窮屈な場所で、外に出るのに、少し難儀した。


 そして押入れを出た後、ジャンヌさんは、

携帯電話型のマジックアイテムを使う。神々の粛正官と連絡を取るらしい。

そいつらが、ナナシを追っているからとの事。

俺も、同様アイテムで雨宮に連絡を取るが、未だに繋がらなかった。

イヴへの連絡も、取れなかった。そしてジャンヌさんの方も連絡が取れないらしい。


「私は、粛正官のところに行ってくるから」

「俺は……」


雨宮のところに行って、相談すべきだと思うが、急がなきゃいけない気がして、


「レギナのところに行ってきます」

「そう……頑張って」


俺とジャンヌさんは、彼女の店舗兼自宅を出ると、

その場で分かれ、俺はレギナの元に向かう。


 神の領域でわかったレギナの居場所は、街はずれにある廃屋で、

派手に戦っても、大丈夫な場所。奴は、ちょうどいい場所を選んだことになる。

行き方は、領域で居場所が分かった時に、自然と頭に入って来た。


 遠方だったから、車を使いたかったが、道が狭いから使用できない。


(バイク、せめて自転車でもあれば……)


と思ったが、無いものは仕方なく、必死で走った。


(あの野郎、俺が必死な姿を見て嘲笑ってるだろうな)


と思いながら走り続けた。


 幸い特に何事もなく、現場にはたどり着けた。

直ぐに戦えるように、鎧は途中、人気のない場所で着ておいた。

いつもの漆黒騎士の方だ。そして、建物の側に来ると、剣を抜いた。


(しかし、大丈夫だろうな……)


なんせ、ナナシの誘いだ。なんかしてないか不安だった。


《ギガントと使い手がいるだけで、特に何もありませんが……》


相手が相手だから、クラウの声も不安気に感じた。


 とりあえず、中に入るとレギナだけが居て、


「来たわね、あの人の言う通り……」


彼女は、背中に背負っていたギガントを手に取った。そして次の瞬間、


《結界です。閉じ込められました。あと転移除けも発動しています》


ナナシの仕業だろう。そして、レギナは、鋭く、それでいて虚ろな目で


「逃げられないわよ」


と言った。なんとなくだが、あの目は雨宮の言うように、

一種の洗脳状態だろうと感じた。


 そして彼女は、ギガントで襲い掛かって来た。

速くて、それでいて、重たい一撃、俺は、その攻撃を回避する。

今の俺は防御面では、人並だから、喰らったらシャレにならない。

その上、「修復」もされないだろうから、かなりまずい。

まあ俺は、普段から、臆病で回避は基本であるから、

普段通りと言えば普段道理なのだが。


 このまま、回避を続け、とりあえずクラウで攻撃を叩きこむが、

ギガントは、見るからに丈夫そうで、

ダメージを、与えられてるような感じはしなかった。


 加えて、暗黒教団の連中とは違って、

今回は事情が分かっている分、かなりやりづらかった。

そしてクラウを抜いた時点で、一応、「習得」は発動済みで


(斧、斧、斧、斧、斧、斧、斧、斧、斧……)


なおギガントは丈夫なので、通常の斬撃だと傷一つ入らないので、

必然と「斬撃」をあげておく必要があった。

彼女を傷つけず、ギガントだけを破壊するために、

斧に意識を集中させ無ければいけなかった。


 ギガントの攻撃は、最初は単純に攻撃を叩きこんでくるだけだったが

その内、攻撃に衝撃波を帯びるようになってきた。

要はスキル「風撃」だが、「収集」で得たものではなく、

ギガント自身が持つ力で、こっちの持っているのよりも、遥かに強力である。


「クッ!」


衝撃波を回避したが、回避しきれず、軽くかすった。

ミョルニルと同様、攻撃に貫通効果があり、

鎧越しにもかかわらずメチャクチャ痛かった。

喰らったらヤバいという事を、改めて実感した。


 あと、ギガント自体による攻撃と、衝撃波が、

廃屋のあちこちに当たっているが、ナナシが何かしているのか、

建物自体が、壊れるような気配はない。


(まさか、戦いが終わった途端、崩れてはこないだろうな)


そんな不安も感じていた。


 そして、叩き込む攻撃に、


「紫電一閃!」

「ミサキ切り!」

「烈火破砕斬!」


と奥義が出てくる。だが極斬嵐が出そうになって、


「!」


技名を言わないように歯を食いしばった。

極斬嵐は、どこに当たるかわからず、レギナを傷つけかねないから、

ここはこらえた。この技は発動時に自分の意志で、

技名を言わなきゃいけない分、堪えることもできる。


 ただ不安も感じた。極斬嵐以外、「習得」では勝手に技が出るのだ。


「まずいなぁ……」


技によっては、極斬嵐のように、彼女を傷つけかねないものもある。

先も述べた通り、とにかく奴らとは違って、出来る限り怪我をさせたくないからだ。


 ここで、フレイが


<敵の動きは読めたわ。アタシに変わって>

「えっ、でも……」


近距離武器に、銃は卑怯だという思いに駆られ、躊躇した。


<今こそ修行の成果を見せる時よ!>


そうは言われても、気が引けた。しかしクラウも


《僭越ながら、彼女に切り替えた方がいいと思いますよ。

今、防御面で、不安でしょう》


確か、防御の自動調節ができない以上、近距離はリスクが高い。


<さっきの一撃、かすっただけだったけど痛かったでしょ>

《それに、使い手を傷つけたくないのなら、高い威力で

攻撃範囲の小さい銃の方がよろしいかと》


なおリンとレイでは攻撃力に不安があると言う。

ともかくクラウのアドバイスもあり、正直、気は引けたが、

結局フレイに切り替えた。

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