12「魔斧の戦いの後」

 盾が砕け散ると、「融合」が発動し、その破片が、フレイの本体の方に

吸収される様に、取り込まれた。レギナは、目を丸くして


「何で……!」


自分が、死んでいないのに、魔装が一体化したから

驚いているんだろう。俺は「分身」を解き、ホルダーにフレイを仕舞うと、


「全てが嘘だって事さ」


彼女が死なずに、武器が一体化したのは、俺だけの事だが、

全てが嘘なのは事実だ。更に目がさっきとは変わっていて、

どうも、洗脳が解けているように思え、更にこの現状に違和感を覚えたようだから、

今なら、話を聞いてくれる気がした。ただ今となっては意味が無いだろうが。


「全ての七魔装を集めた所で、願いは叶わない」

「そんな……」


彼女は、悲痛な表情を浮かべるが、俺は、安心させるために、


「大丈夫、妹は助かる。俺の友人が手を尽くしてくれたからな、

そして君の友人のルナも……」

「えっ……」


ここで


《マスター、結界が消えました》


どうやら、外に出られるようだ。


「とにかく、ここを出よう。もう戦う必要はないんだから」


と言って俺は、自然と手を差し伸べていた。


 だが何かが崩れてくるような音がした。


《大変です。建物が倒壊しそうです》


こうなるんじゃないかと思っていたが、まさにその通りだった。

とにかく、彼女を連れて、外に出ようとしたが、思いのほか、倒壊が早かった。


(このままじゃ、二人とも下敷きになる)


しかし、どうすればいいか思いつかなかった。そこに


【えっと、あの……私を使ってください!】


と言う見知らぬ声が聞こえた。


「えっ?」


だが次の瞬間、「パチン!」という、指を鳴らすような音が聞こえた。

すると、倒壊が止まる。そして、出口の方から、


「早く出て、長くは持たない!」


見知らぬ女性の声だったが、俺は思わず、


「はい!」


と返事をして、レギナを連れて、外に出た。

そして、外に出ると、建物が完全に倒壊した。


 そして、外には、浅黒い肌の修道女がいた。初めて見る顔で


「アンタは?」

「私は、シスター・ナイ」

「倒壊が止まったのは、アンタが?」

「まあね」

「ありがとう」


俺が、礼を言うと、


「礼には及ばないわ。本当はもっと早く助けたかったんだけど、

奴の、今はナナシね」

「えっ?」

「アイツの結界のおかげで何もできなかったから……」


どういうわけだか、ナナシの名を知っていた。


「アンタは一体?」

「私は、ジャンヌから話を聞いて、ここに来たの」


つまり、このシスター・ナイって人が、神々の粛清官。


 更に


「レギナ!」

「ルナ……」


加えて、雨宮やジャンヌさんもやって来た。

彼女が、ルナや雨宮を、呼んできてくれたようだった。


「大丈夫だったか?」


と声をかけてくれる雨宮


「ああ……」


と返事をする。


 それと


「クロニクル卿」

「ナイさん……」


雨宮とシスターは知り合いで、俺は会った事は無かったが、

たまに店に来るらしい。後に知るが、雨宮は、シスターが、

ジャンヌさんの知り合いであることまでは、知っていたが、

粛清官であることまでは、知らなかったとの事。


 この後、interwineに移動し、宿の開いている部屋で、事情を聞くことにした。

内容は、思った通りで、妹の病気になり、医者から匙を投げられて、

そこに、鎧姿の冒険者。要はナナシが現れて、奴から、ギガントを渡され、俺の事を聞いたと言う。


「七魔装を集めたら、願いが叶うと言う話は、以前から聞いていました

そして、残りは二人なので、直ぐに倒せるだろうって、特に貴女」

「俺が何か?」


と聞くと


「あの人が言うには、貴女はまぐれで、五つ集めたような人間で

まともに戦えないだろうから、楽に5つの魔装が、

手に入ると」


すると


《なんだか失礼な話ですね》


とクラウは激昂するが、あながち間違いじゃない。

俺が、魔装使いとまともに戦ったのは、

トールの時とレイとリンの時くらいで、クラウの時は死にかけだし、

他の魔装は、魔獣が呑み込んでいたり、刺さっていたりしたものだから、

使い手と戦ったと言う感じじゃない。


 ここでルナが


「ミーナちゃんの事があるからって、よりによって

ギガントに頼るなんて、一歩間違ったら、レギナまでギガントの

犠牲になってたんだよ」


しかし、レギナは


「分かってる。でも、あの時はそうするしかないって思ったの!」


妹の事で、藁をもつかむ状態だったんだろう。

そこにナナシが付け込んだ。まあ妹の病気もナナシが仕組んだ事であったが。

その後も、彼女に接触をし、色々と、煙幕を張って逃亡の手助けをしたり、

隠れ家を提供したりもしていた。更にはルナや雨宮の事を信頼できない様に、

ナナシは、二人が俺と組んで、

レギナの事を陥れようとしていると吹き込んだらしい。


「何で、あんな事を信じちゃったんだろ。ルナがそんな事するはずないのに、

しかもクロニクル卿が関わってるなんて荒唐無稽な事を」


雨宮は、一般人には雲の上の存在みたいなところがあるから、

普通なら、そんな馬鹿なと思うらしいが、

信じてしまった。恐らくは一種の洗脳状態にあったが故だろう。


 そして雨宮は、レギナに魔法の痕跡の事やそれが、ナナシと言うか、

鎧姿の冒険者の仕業だと話した。


「そんな、何で……」


すると、この場に同席していたシスターが


「私は、そいつを永年追ってるんだけど、

何分、奴は気まぐれだから、ただの遊び。

正直、貴女は運が悪かったとしか言いようがないわ」


と言っているが


(違う、俺の所為だ)


奴は、俺への嫌がらせの為に、今回の事を仕込んだのだ。


 そして、レギナは俺やルナ、あと雨宮に


「すいません、迷惑かけて……」


と頭を下げるが、申し訳ないと思うのは俺も同じだった。


 この後は、ルナとレギナの二人を宿の部屋に置いたまま、

俺たちは、雨宮の住居の部屋に移った。

ここからは、あの二人には聞かれたくない話をするからだ。

そしてジャンヌさんと会ってからの出来事を話した。


「そんなことが……ちょっと確認させてもらってもいいか?

お前にかけられてる魔法」

「ああ……」


雨宮はサーチを使う


「こいつは、ちょっとわかりにくい魔法だな。

事前に、話を聞いてなきゃ分からない」


するとシスターも、


「私にも、みせて」


と言って彼女もサーチを使ったようで、


「この魔法は、特定の波長をもつ者には、察知しやすくなってるわね」

「特定の波長?」


と俺が聞くと、


「多分、ジャンヌが気づけたのは、その所為よ。

こいつは、光明神の波長に合わせてる」

「何のために?」


とジャンヌさんが言うと、


「奴に理由を求めるだけ無駄だけど、多分、貴女を巻き込む為、じゃないかしら」

「私を……」

「今回は、貴女も奴の掌の上だったのかもしれないわね」


その話を聞いて、不機嫌そうに黙り込むジャンヌさん。

ちなみに、この魔法は雨宮だけでなくシスターでも解くのに数日かかるらしい。

とにかく、ここ数日は気を付ける必要がある。


 ここで、雨宮は


「この件に、ナナシが関わっていたとすれば、先の魔輪の事も、

もしかしたら奴が……」


するとシスターは、


「その辺は、わからないわね。なんせ奴は、なかなか尻尾を見せないから、

分かった時には、手遅れってのがほとんど」


たとえ分かったとしても、逃げられてしまう。

この前の、サモンドールの一軒でも、審問官が動いていたが逃げられたらしい。

ちなみに、審問官はシスターだけでなく、ほかにも居て、

先の一軒で動いていたのは、別の審問官との事。


「まあ、ルシファーが一度、ラビュリントス刑務所の近くで、

奴に接触できたけど、結局は逃げられたし」

「ルシファーって堕天使の?」

「いや、その堕天使の名前を勝手につけられた神で、

私と同じ粛清官よ。私よりも永くナナシを追ってて奴との因縁が深いわ」


そしてラビュリントス刑務所の名前を聞いて、


「もしかして、ダンジョンの一般開放の日ですか?」

「そうよ、その日の朝に、奴の気配を感じ取ったの、

これはかなり珍しいことでね。ルシファーが一番に向かったんだけど

先も言ったけど逃げられたわけね」


やっぱり、あの時、宝物庫に手を出したのはナナシらしい。

 

 そして雨宮は


「とにかく、警戒は必要だな、七魔装は、まだ一つ残ってるし、

今、和樹が襲われたら、まずい」


するとシスターは、


「でも、私が駆けつけたのは、奴も気づいてると思うから、

多分警戒して、当分は何もして置ないと思うけど」


奴も、粛清官の事は気にしてるらしい。

ともかく実際は、どうか分からないので、

しばらく警戒するって事で話は纏まった。


 その後は、シスターに一連の出来事を話し、彼女からも色々と話を聞いて、

一旦お開きとなった。そしてミズキ達に連絡を取って、事が終わったことを伝え、

家に帰った後、ベルは、


「それはよかったですね」


と言いつつも、どこか残念そうに、


「私も一緒に戦いたかったな……」


とも言う。


 一方、リリアは、笑みを浮かべながら、


「ところで、七魔装もあと一つなんだよな。願い事は決めたか?」

「だから、それは嘘なんだって」

「そんなこと言って、願いを独り占めにする気だろ」


一応、こいつにも、願いがかなわないことは、話してはいたが、

信じてくれてない。なおミズキは、嫌味な口調で、


「貴方が今回うまくいったのも、暗黒神ゆえであることを、お忘れなく」


と言われた。神の力があったから、解決したと言いたいんだろう。

確かに暗黒神の力がなければ、七魔装と絆を結ぶことはできなかった。

故に、自分のおかげだと言いたいんだろうが


「俺が、ナナシに目を付けられたのも、暗黒神だからだよ。

今後も、ナナシが関わることの元凶は、すべてお前だって事を忘れるなよ」


ミズキは不機嫌そうに黙り込んだ。


 その後、表向きは怪我をしたと言う事にしているので、

少しの間、レギナはナアザの街に滞在し、地元へ帰ることとなった。

俺が、車で送っていった。

送迎だけなので、俺と半ば強引に付いてきたベルだけで行う。


「すいませんね。あんな事したのに、カーマキシで送ってくれるなんて」


と道中、すまなそうに言う彼女に、


「別にいいんだよ。悪いのは、あの冒険者で、君も被害者だからね」


それに、ある意味、俺の所為でもある。

彼女を送って行った後、俺は、街に戻った。

なお、シスターの話では、彼女と仲間の粛清官が、しばらく彼女を見守るとの事。

彼女を守ると言うよりも、ナナシが手を出しに来たところを押えるためらしい。

粛清官は、神々の事が管轄で、人間の事は管轄外だそうだ。


 その後は、特に何事もなかったが、俺への嫌がらせのために

ほぼ無関係な人々が、巻き込まれたかと思うと、心が痛んで

暗い気分ですごした。


 そして、ミーナの退院の日を迎えた。ホスピタルキューブの寄港地に

雨宮とルナと共に迎えに行き、そしてレギナの家へと向かう。


「ただいま!」


凄く元気な声上げるミーナをレギナが迎えた。


「ミーナ……」


病弱な体質も改善され、すっかり元気になった彼女は、

レギナに抱きつき、


「ありがとうお姉ちゃん!」


と声を上げた。一応表向き、あの彼女が、

ミーナを救うために奔走したことになっている。

あながち間違いじゃない。


「ミーナ……良かった」


嬉しそうであるが、彼女がしでかした事があるから

複雑そうにしていた。なお彼女の家から持って出た車椅子も

この時に渡している。


 その後、ルナと身分をかくした雨宮が

レギナと一緒に出迎えたクレオさんと話をしている。

どういう話かは分からないが、お礼を言われてるようだった。

俺は、あくまで運転係として、軽く挨拶する程度で車の側で、

この様子を見ていた。


 レギナも複雑そうだが、俺も複雑な気分だ。

俺の事で他人が巻き添えになったんだから。

巻き添えと言えば、あの村の連中も一緒だと思うが、

アイツらは、ろくでなしだから、対して心は痛まなかった。

レギナはそうではなくて、落ち度のない良い子だから、心が痛む。


 ここで、


「随分と、複雑な顔してるわね」

「シスター・ナイ」


ナナシを押えるためにレギナを見守っているであろうシスターが

声をかけて来た。


「あの家族幸せそうね」

「ええ、でもあの姉妹が俺の所為で、迷惑が掛かったと思うと……」

「でも、結果的には、よかったんじゃない。

誰も傷ついてないし、病弱な妹さんの体質の改善してるわけでしょ」

「そうですけど……」

「今回は結果オーライでいいじゃない」


でも、どうもモヤモヤとしたものが残る。


 確かに今回はよかったかも、知れないけど、

これからはどうかわからない。

この時、早くナナシをどうにかしなければという思いに駆られるのだった。

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