6「ルナが知ってる事」

 さて、ハルが買い物から帰ってきて、少ししてから、

ルナが部屋から、出てきた。


「もう大丈夫かい?」


と雨宮が心配そうに声をかけると、


「はい、仕事に戻りますね」


と言って、厨房へと向かった。


 一方、俺は、彼女が心配で、店にいたが、彼女が部屋から出てくる前に、


「ここにいらっしゃったんですね。無事でよかった」


とベルが「interwine」にやって来た。

どうもまた遠見魔法の妨害があって、心配になって方々を探して、

ここにたどり着いたとの事だが、俺のことを見ていたというのが、気になるところ。

彼女のストーカー気質は相変わらずという事だ。


 隠しても、大勢の人が見ていたから無意味だと思い、

何があったのかを話した。


「そのような事が……また、護衛の必要がありますね」


と言っているが、彼女は妙にうれしそうである。

護衛という名のもとに俺と一緒にいられるから、うれしいのだろうが、


(そうはいかないからな)


もし、護衛となるなら、この前と同じようにしようと思った。


 さて、ルナは仕事に戻ったが、どうも心ここに在らずという感じ、


《先ほどの件が、よほど気になってるんでしょうね》


ルナは、魔斧を知っていたし、おそらくは、

その危険性もわかって居るからだろう。

雨宮も、このことに気付いているらしく、

店で少し食事をして、帰るときに、


「もうちょっと落ち着いてから、彼女に話を聞いてみる。

事によっては、連絡入れるよ。七魔装絡みだからな」


と言われた。


 そして実際に、その日の晩に、携帯電話で連絡を受けた。


「思った通り、虐殺でレギナは両親を殺されたらしい」


その時の使い手は、クラウの前の主人の時と同じで、

肉体がボロボロになった挙句、魔装に捨てられ、

最終的には衛兵につかまったが、留置場で死んだとの事。


 話を聞いた俺は、


「しかし、自分の親を殺した原因となる魔装を使うなんて……」

「ルナも、疑問視していた。ただな、レギナは、両親は殺されたが、

妹は生き残ったらしいんだ」

「それがどうかしたのか」


急に話が変わったから、疑問を感じた。

ちなみにレギナの妹の話は、以前に雑談の中で聞いた事で、

なんでも病弱との事。


「七魔装をすべて集め、一つにした者は、願いを叶えられるって話は?」

「ああ聞いてる」


以前も述べたが、七魔装を持つものは、戦う定めであるが、

その最終目的として、七魔装を一つにして、自分の願いをかなえること。


「前にも言ったけど、それ嘘だぞ」


そう、七魔装を一つにしたところで、願いがかなうことはない。

できることは、俺が使っている漆黒騎士の鎧が、

宝物庫から召喚可能というだけ。


 要するにデマなのだが、クラウの話では、

話を流したのはどうも創造主、すなわち先代の暗黒神、つまりは刃条である。

奴が、バトルロイヤルの仕掛人と言う事。


「まあ良くあるバトルロイヤル詐欺だよ」


 これは、物語等で良くある話だが、大十字絡みでも、遭遇した事がある。

要は美味しい報酬で、戦わせるが、実際はそんな物は用意していなくて、

実際は、戦わせることに意味があって、実際は全滅を想定している。

ハッキリ言って詐欺だ。けど参加者は、冷静に考えると、

おかしいと分かる事だが、参加する奴らは、欲に駆られていたり、

そうじゃなくと、後が無かったりして冷静じゃないので、誰も気づかない。

いや、気付いていても、冷静でも、僅かな可能性に賭けてしまっているから、

やめられない。


「大十字も、やめさせるのに苦労してたよな。それが、何か?」


と俺が尋ねると、


「ルナは、地元を出てから、レギナとは会ってないそうだ。

その病弱な妹が、どうなったかも知らない」

「まさか、妹さんに何かあって、それを助けるためか」

「あくまでも可能性だ。本人は何処かに行って、確認は取れないし、

まあ、確認の為にルナが地元に戻るから、暫く休みが欲しいって、

言われたがな」

「しかし、確認したところで、手立てあるのか。

肝心の主催者は死んでるんだぞ」


かつて、バトルロイヤルを止めさせるために大十字がしたのは、

主催者の元に乗り込み、説得と言う名の鉄拳制裁で、

参加者たちに嘘を白状させて、やめさせたのである。

しかし、始めたと思われる刃条は、死んでいる。


「まあ、戦う理由を、つぶせばどうにか……」


 これが意外と、大変だったりする。欲にかられた連中なら、

放っておけばいい話だが、それ以外の、やむにやまれぬ事情の場合は、

そっちの方もどうにかしないと、解決とは言わない。

主催者を倒せばいいというわけではないのだ。大十字もここで苦労していたし、

俺も雨宮も、無力で、結局、バトルロイヤルを止めることは出来ても

後味が悪い結果になってしまう。


 そして、もう一つ注意点がある。


「それにレギナが、ルナを見て

引いたという事は、まだ間に合う。魔装の毒は回っていない」


そう魔装には、武器自体に、使い手の身を亡ぼす要因がある。

戦う必要が無くなっても、武器の所為で戦いをやめられない。

七魔装の場合は、その原因として複数のスキル、「人格変更」や「快楽」がある。

俺は、「書き換え」でこれらをクラウから除去し、融合後も、

これらは引き継がれないようになっている。






スキル「人格変更」

文字道理、人格を変えてしまうスキル。多くは攻撃性に関わる事が多く

例えば、攻撃性を高めたり、逆に弱体化させ、腑抜けにさせるという事もある。


スキル「快楽」

特定の行動に対し、快楽を感じるようにさせるスキル


本来の七魔装は、「人格変更」で好戦的にし、「快楽」によって

麻薬の様に、敵を殺すことで、持ち主に、中毒性のある快楽を与え、

結果、快楽殺人鬼のように変えてしまう。

加えて、生命吸収が使い手自身からも吸収するので、

肉体が衰弱していく。なお吸収した生命力は、外部に放出されるらしい。

なお生命吸収は、書き換えていないから、

俺も、生命力は吸収されているが、「生体タンク」が受け皿兼、

ストッパーとなっているので、タンクが一杯になると、

俺から、生命を吸収される事は無い。


 ただし、これの効果は、直ぐには出ず、時間がかかるもの。

ただシルヴァンは、まだ影響が少なかったが、

クラウの前の主人や、魔輪の主人も、その末期となっている。

レギナは、顔色こそ悪いが、まだ余裕はあるらしく、クラウも


《しかし、レギナという少女は、ギガントを手に入れて、

まだ日が浅いと思われます》


と言っていた。確かに、もし手遅れならば、

あの場で引くことは無く、

恐らく俺たちに襲い掛かって来た可能性があるという。


 そして雨宮は、


「今なら、戦う理由が無くなれば、魔斧を引き渡してくれるはずだ

そして、魔装自身によって、彼女の手に戻る前にどうにかすればいい」

「まあ、俺が破壊して、一体化させればいいという訳か……」

「そうなるな……」


少しの間があって、


「すまんな、お前を魔装の捨て場所みたいな扱いにして」

「良いだよ、どうせ七魔装とは、やり合わなきゃいけないんだから」


この後さらに、


「あと、急で悪いんだが、明日、車を貸してくれないか、

俺も彼女の地元に行きたいから」


雨宮が行って、レギナの抱えているであろう問題を、

解決したいらしい。まあ直接の関係は無いにせよ。

入ったばかりとはいえ、従業員が関わる事なので、黙ったられないらしい。


「もちろん、俺にどうにかできる事じゃないし、

そもそもレギナの妹が関わっているかも、わからないんだかな」


なお車を使いたいのは、彼女の地元はここからだと、数日かかるが、

車を使えば一日で往復できるからとの事


「あまり時間をかけると、魔装の毒が回ってくるだろうし、

そうなったら何をしでかすかわからないからな」


ただ、出発は早朝だから、これから、車を取りに来るという。


 俺は、ここで


「だったら俺も行くよ。車は俺が運転する」

「それは、悪いよ。しかも早朝だし」

「良いんだ。そもそも、狙われてるのは、俺だからな。

お前に任せっぱなしと言うのも気が引けるからな」


と言った後、俺は、


「まあ、気にするなよ」


と言う。とにかく、俺もルナの地元に行くことになった。


 なおこの時、俺はリビングで電話をしていたので、

遠見を使われる事なく、ベルにこの事を知られ、


「貴方の事が心配ですから、御一緒させてください」


と言い出し、強引な感じで、彼女も同行する事となった。

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