7「レギナの事情」

 さて、その後、再度の襲撃もなく、翌日の早朝を迎え、

俺はinterwineに向かい雨宮とルナと合流した。

ちなみに、早朝で人がいないので、アパートから、

車に乗って移動した。そしてinterwineに着くと、二人は、店の前で待っていて、


「本物のカーマキシ、なんだかすごいですね」


と初めて車を見ただろうルナは、どこか興奮したように声を上げた。


 その後、助手席に雨宮、後部座席にルナを乗せて、発進した。

ちなみにベルはボックスホームにいる。なお移動中は、

特に会話は無かった。なお雨宮はフード付きのローブを着ていて、


「騒ぎになったら悪いから、俺のことは秘密にね」


と出発の際に言った。確かに雨宮は有名人だから、騒ぎになるだろうし、

ならなくとも、注目されると面倒と言う事もあるのだろう。


 そして、スキル「周辺把握」によるカーナビのおかげで、

迷うことなく、昼には、ルナの生まれ故郷である村に到着した。


「カーマキシってすごいですね。聞いてはいましたけど、もう到着するなんて」


と驚いているようだった。


 そして到着後、ボックスホームからベルが出てきたが、

不機嫌そうにしていた。理由は簡単、ミズキ達も連れてきたからだ。

理由は、あまり彼女を喜ばしたくないからだが、

大人数での移動は、目立つので、ベル以外の面々は、ボックスホームで待機。

まあミズキは雨宮が、嫌いだから、言わなくてもボックスホームから、

出てこないだろうが。


 到着後、カオスセイバーⅡは目立つので、宝物庫に仕舞って、

昼なので、昼食として、雨宮の作った弁当で食べた。

なおボックスホームにいる連中は、イヴが用意した食事を食べているはずである。

昼食後にレギナの家に向かった。彼女の故郷は、小さくはあったが、

村というよりも、町に近かった。

そして、レギナの家は、この国にはよくあるレンガ造りで、

大きくもなくば、小さくもない見るからに、中流家庭の家という感じだった。


 玄関を前にすると、


「こんにちは」


とルナは声を上げ、扉をノックした。しばらくして、


「ルナちゃん。久しぶり」


と年配の女性が出てきた。この人はレギナの祖母でクレオ・アルテナ。

見るからに優しそうな老婦人であった。

この人が、両親が亡くなってから、レギナと妹を引き取ったらしい。

どこか、疲れているような表情である。


「ごめんなさいね、今、レギナはいないの」

「知ってます。ところでミーナちゃんは?」


すると、クレオさんは辛そうな様子で、


「今、あの子、病気なの、胸の病で魔法でも治せないらしいの」


思った通り、妹に何かあったみたいだった。


 ここで、雨宮が、


「ちょっといいでしょうか?」

「貴方は?」

「レギナさんから、頼まれてきました。妹さんのことを診てほしいと」

「そうなんですか、でもレギナは?」


するとルナは


「レギナが、事故で」

「えっ!」


と驚くクレオさんに


「大したケガじゃないんですけど、しばらく安静にしなきゃいけなくて、

それで、私が案内を頼まれたんです」


もちろんこれは、嘘で、行く前に、こういう風に口裏を合わせようと、

決めていた事、これは、妹が病気だった場合で、

違うときは、ほかのパターンも用意していた。

ちなみに俺は、送迎担当の冒険者と言う事になっている。

まあ、これに関しては、間違いではない


 するとクレオさんは、何処か納得したように、


「なるほど、レギナは貴方を呼びに行ったのですね……」


と言っていた。彼女の話では、レギナは妹を治せる術が見つかったと言って、

家を飛び出したらしい。それは数日前の事で、


「ちょうど、この町からナアザの街に着くくらいだな」


と言う雨宮。


《恐らく、ギガントを手に入れて、その足でナアザの街まで来たと言った所ですか》


ナナシが、関与してるとすれば、恐らく奴が、ギガントを渡したが、

或いは、彼女が持っていた事を知って、俺の場所を伝えたか、

俺は、前者の可能性を支持する。


 そして雨宮はレギナの妹、ミーナ・アルテナと会った。

彼女は、レギナと同じブロンドだが、彼女はロングヘヤーで、

同じ青い瞳で、可愛らしい少女だったが、

病気の所為で、あまり顔色は良くなく、この日もベッドで横になっていた。


「それじゃ、『サーチ』を使うから」


すると彼女は、上半身を起こそうとしたので、


「動かなくていいから、そのまま横になってて」

「はい……お願いします」


雨宮は、サーチを使う。すると


「んっ?」


途中で、引っ掛かりを覚えている様な顔をしたかと思うと、

サーチを止めて、別の魔法を使った。


「トーンアウト!」


次の瞬間、ミーナの胸のあたりに魔法陣が現れたと思うと、

中心から、黒い棒状の物が出て来た。先が尖っていて、


(まるで棘みたいだ)


その棘のような物が宙に浮かぶと、雨宮が手掴みし、握りつぶした。


 これを見ていたクレオさんは


「今のは……」


雨宮は


「シックニードルです」





「シックニードル」

魔法で作られた針を、特定の場所に指す事で

様々な病気を引き起こせる。

ただし、どんな病気を起こすかは分からないし、

何も起きない場合もある。

トーンアウトと言う魔法で針を抜くことができるが

刺されて病気になったとしても、

抜いて病気が治る訳では無い。


「契約」と同じくサーチでは見つけにくいとの事で、

雨宮の様な大魔導士でも見つけられるか分からないものらしい。


 ここで一旦部屋を出て、クレオさんに説明する。


「抜きましたが、病状が、多少緩和されるくらいで、

根本的な治療ではありません」


すると、クレオさんは、心配そうに、


「それじゃあ、あの子を治すことは」


雨宮は、


「大丈夫、治す術はあります」

「本当ですか!」


と期待している様に声を上げる。


「ただ、段取りを立てる必要があるんで、ちょっと出直してきますね」


そんな訳で、一旦、家を出た。


 そして、雨宮は俺に、


「なあ、もう少しだけ車を借りられるか、あの子を救うために」

「俺は、別に構わないけど、救うって何をするんだ?」

「あの子を、ホスピタルキューブに連れていく」

「なんだ、それ?」


俺は何のことか、わからなかったが、ルナは、思い当たる節があるようで


「もしかして、あのホスピタルキューブですか?」


とどこか驚いているように言った


「そうだよ。確かこの国の近くに来ているはずだ。

念のため、ドラゴス商会に連絡を取ってみる」


雨宮は、携帯電話型のマジックアイテムを取り出すと、

その商会に連絡を取り始めた。ドラゴス商会の事は、聞いたことがあるが、

ホスピタルキューブと言うのは、初めて聞く言葉だった。


 少し間、話をした後、どうも話がついたようで、


「とりあえず、明日彼女を連れていく」


なお彼女を運ぶ際はボックスホームを使いたいらしい。

俺としては別に、不都合はない。


「一日、足止めになるが予定とかはなかったよな?」

「特に、ないけど、お前の方はどうなんだ?店とか?」

「一日、二日くらいなら大丈夫だ。泊りになることも考えて、

ハルに後を頼んできてるから」


と言った後、


「それに、状況を確認したわけじゃないけど、多分魔装の毒も、回らないだろう」


そんな訳で、今日はこの村に泊まることになった。


 ルナは、


「それじゃあ、宿の手配をしてきますね」


なおここは、彼女の故郷だが、彼女の両親は、

ギガントの犠牲にはならなかったものの、父親は、魔獣に襲われ、

母親は病気でと、共になくなっていて、彼女には、ほかに家族はおらず、

天涯孤独で家も人手に渡っていて、住む場所はないらしい。


 そして宿を手配するとの事だが、

俺はボックスホームに泊まって、もらおうと


「それだったら、ボックスホーム……」


と言いかけたところで、雨宮が、


「それはやめとく、今日俺たちは宿に泊まるよ」

「大丈夫だよ、空き部屋もあるし」


と言ったものの。


「明日の事もあるから、騒動は避けたいんだ」


雨宮には、ミズキ達がボックスホームにいることは、話しているから、

特にミズキが、騒ぎを起こす可能性を懸念していた。


「それは、大丈夫」


とは言ったものの、雨宮は警戒していて、

結局、俺はボックスホームに泊まって、

雨宮はルナと一緒に、宿に泊まることになった。


 そしてルナが宿を手配しにこの場を離れている間に、


「ミーナちゃんに刺さっていたシックニードルは、

トーンアウトで抜くことはできたが、あれは未知の魔法だった」


正確には、シックニードルもどきと呼べるもので、

未知ではあったが、近い魔法ゆえに、抜くことができたのだという。


「未知の魔法って事は、もしかしてナナシ、奴が全部仕組んでいたって事か!」


妹を病気にして、その事で困っているレギナに、ギガントを渡して

諭したんだろ。七魔装を集めて、妹の病気を治すように願えと。

ここでベルが


「七魔装の使い手は、和樹さんを含めて二人だけだから、

時間もかからないとも言ったんでしょうね」


妹の事で、藁にも縋る思いだった彼女は、誘いに乗った。


「あの野郎……」


 もちろん、これらは推測に過ぎない。未知の魔法だからと言って、

あいつの仕業とは限らない。でもやりかねない奴でもあるし、

後に実際に、奴の仕業だと確定するが、

この段階でも、奴に対する怒りが込み上げて来るのだった。

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