5「魔斧襲来」

 修行を終えたからと言って、何か変わったわけじゃない。

仕事で、修行で学んだことを生かせる場はあまりない。

魔装軍団以降、仕事でフレイを使う機会があったけど、

魔輪との戦いが大変だっただけで、

魔装軍団から得た体術だけでも、特に不便は無かったからだ。


 まあフレイは満足げで、いつも上機嫌、特に夢の中では、

良くわかる。とにかく修行の後、暫くは、何もなく、

もちろん魔装が襲って来る事もない。

これまで通り冒険者としての仕事、主に魔獣退治を続けていた。


 しかし、厄介事は何時も唐突だ。その日は、仕事は休みで、

いつもの様にベルは、イヴと買い出しに行き、

俺は、部屋でまったりとしていたのだが、

ミズキが家の掃除をしていて、リリアと揉めだした。


「貴女、またサボろうとして!」

「いいじゃねえかよ。人手は足りてるだろうが!」


ルドの時と同じようだ。


 様子を覗き込むと、二人が口げんかしていて、その横でラウラが、

我関せずと、掃除をしていて、さらにミラーカが掃除の手を止め、

ニヤニヤしながら、その様子を見ていたが、ラウラが掃除をしつつも、

穏やかな口調で、


「お嬢様、おサボりはいけませんよ。また『お仕置き』をご所望ですか?」


するとミラーカは顔を真っ青にして、真面目に掃除を始める。

なおミズキの嫌がらせで、使い魔としてはラウラの立場が上である。

そして、お仕置きがいかなる物かは、俺は知らない。


 さて、揉めているミズキとリリアを仲裁する気は起きなかったが、

気が滅入って来るので、俺は出かけた。

interwineに行こうかとも思ったが、特にお腹もすいてなかったから、

適当に、街をふらついていた。すると、


「こんにちは、カズキさんでしたっけ?」


ルナと会った。彼女は、雨宮から買い物を頼まれ、外出しているとの事。


「今日は、お休みですか?」

「ああ……」


向かっている方角が一緒だったので、行動を共にした。


 ふと俺は


(なんだろう、あまり緊張しないな……)


ちょっと前まで、女性と一緒だと、ドキドキだったが

最近はそう言う事も無くなって来た。


(アイツらと生活している所為だろうか?)


そんな事を考えつつも、ふと思った事を聞いた。


「そう言えば、君は冒険者なんだよな。

どうして、雨……クロニクル卿の所で働こうって思ったんだ?」


やはり、名を上げるためかと思ったが、彼女は、


「私、店を持ちたいんです」

「店?」

「はい、私食堂を開きたいんです。昔からの夢なんです」


彼女が祖母から料理を学んだのもその一環で、

冒険者をしていたのも、開店資金を稼ぐため。

そして、雨宮の店で働いているのも料理の修行の為で、

雨宮にも、その話はしているという。


「クロニクル卿の下で修業すれば、名が上がると言うこともありますけど」


どこか自虐的に言いつつも、


「でも私が開きたいのは異界料理の店なんで、

その筋で有名なのはクロニクル卿ですから、

だから募集を見たときは千載一遇の機会だって思ったんです」


と受付嬢と同じように、まっすぐで綺麗な目をしていった。

その様子に、単に名をあげることが目的だと思った自分を恥じた。


 ちょうどそんな時だった。


《マスター、七魔装の気配です》

「!」

「どうしました?」

「いや、ちょっと用事を思い出したから、それじゃあ」


と言って、その場を離れた。彼女を巻き添えには出来ないからだ。


 彼女と別れた後、俺はクラウの刃を鞘から少し出す。

敵の位置は、人気のない路地裏にいるようだった。


《ゆっくりですが、確実に、こっちに向かってます》


正直、相手にしたくはないが、向かってくるなら仕方ない。

また、人気のない場所に移動して、そこで戦おうと思った。


<いよいよ、修業の成果を見せるときかしらね>


とうれしそうな声で言うフレイ。


 だが、予想外の状況が起きた。


《転移したようです!右に居ます》


右を向くと、その魔装使いは、居た。


「女の子……」


歳は、ルナと同じくらいで、その顔立ちは可愛かったが、顔色は悪い。

髪の色は、ブロンドのショートカットで、瞳は青だった。

その背中には大きな斧を背負っていた。


《あれは、魔斧ギガントです!》


少女は、顔色こそ悪いが、クラウの前の持ち主に比べ酷くは無かった。

そして、少女は俺を睨みつけると、


「悪いけど死んでもらうわ!」


そう言うと、背中の大きな斧を手にした。


 俺も、剣を抜く。向こうも大きな斧、ギガントを手に飛び掛かって来た。


「!」


最初の一撃は素早く避けた。そして魔装特有の質量軽減の所為か、

彼女は、見るからに重そうな斧を、軽々と振り合わす。「習得」が発動し、

その体術で、攻撃をよけて、こちらも一撃と言いたいところだが、


(まずいなぁ)


ここは人通りの多い街中で、大勢の人が居て、

彼女が攻撃を仕掛けてきたので、騒然としてる。


(とにかく、他の人の迷惑にならない場所に誘導しないと……)


と思っていると、丁度俺の後ろの方から


「レギナ……」


そこにいたのは、ルナだった。すると少女も


「ルナ……」


レギナと言う少女と、ルナは知り合いのようだった。更にルナは、


「それは、ギガント!何でそんな物を持ってるの!」

「………」

「それは、貴方の両親を……」


この一言にレギナは、一瞬だけ気まずそうな表情を浮かべると、

武器を仕舞い。


「あなたに答える義務はない……」


と言って、こっちに背を向けて去ろうとする。


「ちょっと待って」


とルナが言った瞬間、「ポンポン」と言う音と共に周囲を煙が覆った。


「何だこの煙!ゴホ!ゴホ!」


思わず咳き込んでしまう。


《ただの煙じゃありません。感知を妨害しています》


その後、煙が晴れると、少女の姿は消えていた。

そして、クラウの感知が妨害されてた為に、後を追う事も出来なかった。


 しかしクラウの感知スキルが妨害されえたと言う事は、


(まさか、ナナシか……)


そんな事を思っていると、


「和樹さん……」


と声を掛けられ、その方を向くと、


「ルイズ……」


このタイミングでルイズがいた。偶然居合わせたような感じだが、


「今の煙は一体?」


コイツが、もしナナシならば、今の言葉が物凄く白々しく感じた。


「分からない……」


と答えつつも、俺は、


「なあ、お前は、ナナシなのか?」


と聞いた。するとルイズは、


「何言ってるんです。私にはルイズ・サーファーと言う名前がありますよ」


とキョトンとした様子で返して来た。

この反応から、どう判断していいか分からなかった。


「おかしな事を聞いてスマン。忘れてくれ」


と彼女に詫びを入れると、


「はぁ……?」


と答える。


 それよりも、ルナの事が気になった。彼女は、


「レギナ……どうして……」


悲痛な表情を浮かべる。そんな彼女に俺は、


「あの子は誰なんだ?知ってるようだけど」


と聞くと、


「ええ……私の幼なじみです……」


彼女は、相当ショックを受けてるらしく、

買い物どころではなさそうなので、「interwine」に彼女を連れて行った。


 店に戻って、雨宮に事情を説明すると、


「仕方ないね。買い物はハルに任せるから、君はゆっくり休んでいて」

「はい……」


そう言うと彼女は、休憩所と言うかスタッフルーム的な場所に、

引っ込んだ。そして、雨宮はハルに買い物を頼み、ハルが出かけた後で、雨宮が、


「レギナと言う子の事は知っている。ルナの幼なじみで、仲が良くて、

時々話を聞くから知っていたけど。まさか、こんな事が起きるなんて、

しかも、よりによってギガントとはな」

「何かあるのか、因縁のような物があるというか、特にレギナって子の両親と、

関わってるみたいだが、何か聞いてるか?」

「特に何も、その子の話はするけど、親の話までは、しなかったから、

けど彼女の故郷は、昔、ギガントを持ったものによる大量殺人が起きた場所だ」

「大量殺人……」

「七魔装に限らず、魔装がらみじゃよくある話だ。

もしかしたら、レギナの両親も……」


犠牲になった可能性は、高い。そんな、レギナに関しては、


「ルナの話じゃ、レギナと言う子は、優しくて良い子らしいんだけど」


そう、七魔装の使い手は、たいていはろくでなしのはずである。

ここでクラウが


《私の見立てでも、いい子なのは確かですね。マスター以前の

持ち主たちとは大違いです》


これは、これまで人間の主人がいなかったフレイ以外の魔装たちも

同じらしい。とにかくレギナは、七魔装の使い手としては珍しいとの事。


 あと例の煙幕に、転移、ギガントにも自身を転移させる力はあるが、

持ち主までは、転移させることができないらしい。

そして後に知るが、レギナも転移スキルは持っていないとのこと。

ただ、煙幕の事、この前の遠見の妨害もあって、


「今回の件は、やっぱりナナシが関わってるのかな」


それを聞いた雨宮は、


「目的は……」


と言いかけて、


「いや、考えるだけ無駄か……」


いつもの如く、遊びのようなものだ。


「おおかた、ジムが忙しいとかで、暇を持て余してるんだよ。

この前のサタニキアの時のように……」


 すると雨宮は、深刻な顔で、


「しかし、ジムが忙しい理由は何だろうな?」


相手は暗黒教団だから、ろくな事じゃないのは確かだ。

元審問官だから、気になるのだろうし、俺も関わってくることかもしれない。

しかし、今は魔装の事をどうにかしないといけなかった。

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