4「ルリと言う人」

 泊るための部屋は、用意してくれていた。俺とベルは相室だったが、

雨宮は、俺の事を暗黒神だとは言わなかったみたいだが、

元男だとは言っていたので、


「ごめんなさい。部屋がないから、男女同室になっちゃって……」

「良いんですよ。いつもの事ですから……」


俺と一緒だからか、ベルは妙に嬉しそうだった。

夕食は、三人で食べた。食事は彼女が作ってくれた。

雨宮ほどじゃないが、中々おいしい食事だった。その後、色々と雑談し、

特に、木之瀬鈴子を慕っていたから、ベルと話をするときは、妙に嬉しそうだった。


 夕食後、部屋に戻ると、


「そう言えば、ルリさんの旦那さん、いませんでしたね」


すると俺は、


「いたと思うぞ」


と言った。


「どこにいたんですか?私たち以外、誰もいなかったと思いますが?」

《いましたと、彼女の中に》

「えっ、どういう事」


クラウが、


《説明してもよろしいですか?》


事が事だけに、許可していいかわからなかった。

雨宮から聞いた時は、


「そんな事、俺に話していいのか?」


と思わず聞いてしまったくらい。


「どうせ、すぐわかる事だ、多分、魔装が気づくはずだからな」


と雨宮は言っていた。

しかし、ベルに話していいか分からず、彼女が既婚者とだけ言った。

実際は独身だが、彼女の現状は、これに近いから、

最初は、そう言っておいたのだった。

 

 少し考えたが、不注意な事をしないようにも、話しておくことにした。


「雨宮の話じゃ彼女の体は魔装と一体化してるんだ」

《我々とは、異なる魔装です》

「魔装……」


本来、七魔装は、使い手が負けることがあれば、

倒した相手に乗り換える。クラウが俺にやったように、

これは、クラウに限らず他の魔装も同じことで、

彼女たちは、強い使い手を求めるからだ。


 だが、ルリさんの時はそれが出来なかった。彼女にはすでに魔装が居て、


「コイツは誰にも渡さない」


と言って、邪魔をしてきたので、彼女を使い手にすることはできなかった。


「どんなものなのかは、雨宮もわからないらしい」

《我々も、把握できませんでした。自在に変幻する武器としか言いようがなくて》


クラウ達も、ハッキリとした事は、分からないらしい。

ただ、彼女が歳を取らないのは、この魔装の所為との事。


「何でも、持ち主への執着心が強いらしい。

雨宮が言うには、嫉妬深い夫と言う感じだ」


と俺が言うと


「だから既婚者ですか、それじゃあ、さすがに手出せませんね」


ベルは、俺が彼女に手を出すではないかと、気にしているようだった。


(お前の俺への執着心も、大概だと思うがな)


と思いつつ、明日から修行なので、早めに寝た。


 翌日は、早朝から修行かと思ったが、そんな事は無く、

起床は、朝の7時だった。起こしに来た彼女は


「おはよう、朝食出来てるわよ」


ご飯に卵焼きに、焼き魚と言う、和風な朝食だった。

そして食事を食べていると


「修業は、九時から行いましょう」


との事だった。なんとなく武術の修行と言うのは早朝からと

思っていたから、正直拍子抜けがした。


 そして、家の外にある広い高原で、


「先ずは、その武器の『習得』がどこまでか、見せてもらうわ」


とりあえず彼女と、軽く組手という事に。ベルはこの様子を見守っている。

なお、今回、武器は来た時から、フレイにしている。

そして、ルリさんは、左手に、オートマチック式の拳銃、

右手にリボルバーのようなものを手にしている。

彼女は、この世界で珍しいと言っている銃を正確には魔法銃と言う奴だが、

二丁も持っている。勿論練習なので、弾は抜いている。俺の方も


「空砲」


と言うと、シリンダーが動く、こうすると弾を抜いたような状態になる。

そして、「分身」で二丁拳銃にする。煌月流射撃格闘術は、

一丁でもできるけど、アクション映画のごとく、二丁拳銃と言うのが基本らしい。


「それじゃあ、『習得』を発動させて」

「はい……」


言われるがままに、スキルを発動させて、組手を行う。



 組手と言うのは、銃を持って、拳を交わすという感じ、

最初は、軽くで、やっていたが、徐々に熱が入ってきて、

激しいものになっていく。拳銃は空砲であるが、

何度か引き金は引いたが、その度に、彼女は回避動作を行い、


<かわされたわね>


と言う。こっちも、彼女が引き金を引いた時、自然と回避していた。


 途中までは、互角だったが、徐々に押されていき、

苛烈になっていく彼女の動きに、防戦の一方となり、最後は、


「!」


額に銃口を突きつけられ、その瞬間、空砲なのに、物凄く緊張感がした。


「ここまでね」


と言って彼女は、銃を下した。その瞬間、脱力して、地面に尻もちをついた。


「大丈夫ですか!」


と駆け寄って来るベル、


「ああ……」


と俺は答える。するとルリさんは、


「ごめんなさいね。やり過ぎちゃったかしら」

「いえ、大丈夫です」


と俺が答えると、


「そう……」


と言った後、


「奥義は使えないって聞いてたけど、取り敢えず、中の上って所ね」

「はぁ……?」


彼女の言葉の意味がいまいち分からなかったが、


「最初から、上の修業が出来るって事よ。良かったわね。最初からじゃなくて」


何でも、最初のいわば基礎を作る修行と言うのが大変で、

俺が抱く修行のイメージ、滝行とか、走り込みとか、

重たい荷物をもって、動き回るとかは、ここに、相当する。

最初は、こういう事を、長く続けなければならないらしい。

上の修行に移っても、こういうのはウォーミングアップ的に、

続ける必要はあるが、


「習得付きの武器に、教えるんだから、こういうのは必要ないわね」


との事。


 更にルリさんは、


「私の見立てじゃすべてを習得するのに、あと半年って所ね」

「半年!」


雨宮からも、修行に掛かる日数について、


「それに関しては、実際にやって見ない限り、正直分からない。

時間が掛かる事は、覚悟しておく必要がある」


とも言われていた。ただ彼女は


「まあ、スキルがあるから、一か月かな」


と言われて思わず。


「変な所から、魔法が出たりは」

「懐かしい、その漫画知ってるわ。アニメも見てたし」


と言って笑いつつも


「でも、七魔装なら一週間でもいいかもね」

「なんで!」


雨宮も伝えてないと言っていた。本人が魔装使いとは言え、

七魔装だと言えば、断られる可能性が有る。

なぜなら、これまで、七魔装の使い手と戦っているからだ。


「私は、これまで、六つの七魔装を相手にしているの、

気配で分かるわ」


 そして、フレイをまじまじと見ながら、


「その銃が七番目の魔装なのね。長年世に出なかったから、

力を付けてないと言う所かしら」


全て、お見通しと言うところだった。


「これまで、七魔装に使い手は倒して来たけど、さっきの組手で

七つ目も倒したって、解釈でいいかしら」

<そんなわけないでしょ!>


とフレイが言うと、ルリさんには聞こえてないけど


「『そんなことない』って言ってるかしら」

「ええ」


ホント全て、お見通しのようだ。


 そして、


「それじゃあ、それじゃあ修行を始めましょう」


ルリさんは、俺の持っている武器が、七魔装であると知っても、

稽古をつけてくれた。「習得」のおかげで、普通よりも

覚えが早いとはいえ、楽じゃなかった。


 お昼休憩を挟み、夕方まで続けた。


「今日は、ここまで」

「ありがとございます……」


一日終えて見て、結構疲れた。そして、ここでルリさんは


「昔なら、一日で済んでたかもだけど、私の方も限界だから」

「そうなんですか」

「昔はね。もっとできたんだけど、なんせ一回の戦いで、全て盗られたから」

「全てですか!」

「正確には、特定の系統だけだね。例えばダーインスレイヴなら剣、

ルインなら槍って感じでね。それぞれの戦いで、

すべてを出し切っていたから、でも今は出来ない。私も歳だから」


ここで、立ち会っていたベルが


「貴女はまだお若いじゃありませんか」


と言うと


「体はね。心は老いてしまったわ。もう昔みたいなことは出来ない。

今は、静かに過ごすだけよ」


と言った後、


「それじゃあ戻って、夕食にしましょう」


そんな感じで、この日の修業は、終わった。


 翌日も、似たような感じで、稽古をつけてくれて、

彼女の言う通り、一週間かけて、煌月流射撃格闘術をマスターした。

感想は、面倒くさくて疲れたとしか言いようがない。

まあ、武術をマスターしたわけだから、骨折り損じゃない分、悪くはない。


 さて、この一週間に、彼女に尋ねたことがあった。


「あの、貴女は七魔装と戦ってきたんですよね?

どうして、七魔装と分かって稽古をつけてくれるんです?」


すると彼女は、笑いながら、


「私は、別に七魔装を、目の敵にしてるわけじゃないの

あの頃の私は、強者との戦いを望んでいた。

そして七魔装も強者を望んでいるわけだから、その結果衝突した。それだけの事」


と言いつつ、


「後は、雨宮さんの頼みということもあるけど、貴方だからかな」

「俺だから?」

「貴方、銃を含めて、七魔装を五つ持ってるでしょう?

そして、それらは一つになっている」

「そこまでわかるんですか!」

「七魔装が、最終的には一つになるというのは知ってるし、後は気配ね。

内訳はダーインスレイヴ、ルイン、ミョルニル、

あとセンリとエイリね」


まさにその通りなので、感服した。


「良ければ、手に入れた経緯を話してくれる?」


すべてを見通されてたから、思わずすべてを話していた。


「ミョルニルと、センリとエイリの件は変ね。使い手を殺してないのに、

一体化したなんて」


そう言われて、「しまった」と思った。

「書き換え」のおかげで使い手を殺さなくてもいいが、

しかし、それを説明しづらかった。暗黒神であることまで

話さなきゃいけない気がしたからだ。


 しかし彼女は


「まあ、バトルロイヤルは嘘にまみれてるから、

使い手を殺さなきゃいけないというのも、嘘なのかもしれないわね」


と言って、納得したようで事なきを得たが、彼女は、


「でも、貴方だから、そう思えるのかも」

「どうしてです?さっきも、俺だからって言ってましたけど」

「これまでに会ってきた魔装使いとは違って、

血生臭さを感じないのよ。貴方が人を殺してきたようには思えない」


まあ確かに、俺は直接、人を殺したことはない。

ベルは一度殺したようなものだけど、あの時は邪神だったから

人を殺したって感じじゃない。


「それに魔装に使われてる感もないしね。貴方は特別な存在だと思う。

だから貴方には教えてもいいと思ったの」


確かに、俺と魔装たちはいい関係なの確かである。


「それに、これまでは盗られてきたけど、あえて教えるというも

一興と思ったということもあるけどね」


とも言った。


 そして、修業を終え、帰り際に、


「これからどうするの?残りの七魔装を集めるの?」


と言われ、


「いえ、そのつもりは無いですよ。

これまでも、集めようと思って、集めてきたわけじゃないですから」


ミョルニルの時は、こっちから出向いたが、

それ以外は、向こうから来たわけなのだから。


「確かに、魔装は魔装を引き寄せるところがあるからね

まあ、とにかく頑張ってね。魔装のことだけでなく、

冒険者としてもね」


こうして、一週間の修業は終わった。

そして、すぐに新たなる魔装との戦いが待っているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る