3「修行に行こう」

 魔輪襲撃の翌日、俺は、電話ではなく雨宮の元を訪ねて、話をした。

なお話は、雨宮の自室で行った。


「七魔装が……関係あるかは知らんが、

街の外に女が錯乱して暴れてたと言う話を聞いたな。

ちなみに人殺しでお尋ね者の女だ」


お尋ね者だから衛兵に捕まったが、

かなりやつれていて、治療が必要な上、未だに錯乱してるらしい。


「その女が持ち主かは、分からないな。まともに話が聞ける状態じゃない。

まあ、生きてはいたが、末期の魔装使いって感じだ」


要は、クラウの前の持ち主と同じと言う事だ。

まあ運よく、女性は死んでいないが。彼女たちに聞いた所、魔輪の前の持ち主は女で

人殺しとの事だから、可能性は高い。

もし持ち主だったとしら、またも持ってる人間は、

ロクでなしだったと言う事になる。


 あと


「ナナシの関与があるみたいだから、アイツが呼んで来たのかな」

「多分、そうだろうな……」


と雨宮も同意したが、俺はふと、こうも思った。

女は、「引寄せ」でやって来たところ、ナナシが利用したと言う考えも出来る。


(俺の存在がこの街に危険を呼んでいるんじゃないか)


その先は、怖くて考えることは出来なかった。


 ちなみに、魔輪は、色を変えて白を基調にして、それぞれ、青とピンクのラインを入れてある。新しい名前、センリはリン、エイリはレイと名前を変えた。

今回は、上手く思いつかず、適当だったが、


〖〘マスターさん、ありがとう!〙〗


と本人たちは気に入ってるようだった。


 昨日の事を話す中、フレイの「習得」の話になった。


「なるほど、雨月史恵と、その配下から得た体術じゃまだまだって事か」


ちなみ雨宮は、レベッカこと雨月史恵の事は知っていた。

一応地元企業の社長令嬢だったらしい。

まあ、木之瀬鈴子と同じ進学校の生徒だから、お嬢でもおかしくはない。


「その体術が、どんなものかは分からないが、

まあ、他の魔装に比べれば見劣りするだろうな。

なんせ、他の魔装は500年の活動歴があるんだから」


と雨宮が言う。俺は、


「まあ、今回が初めてだよ。サタニキアやライラの時は、特に不便はなかったし」


と言ったが、雨宮は、考え込むような仕草をすると、


「そういやさ、お前の話を聞く限り、魔装で使ってる奥義って、

だいたいが、煌月流なんだよな」

「煌月流?オリジナルのカオスセイバーのパイロットと何か繋がりが?」

「そのパイロット、達也が使ってる武術だよ」


と言った後、


「実はな、この街の近くにも、使い手が居るんだ。

俺の古い知り合いでな。俺達と同じ世界と言うか、同じ街の出身だ」


つまり、異界人で、あと女性との事、雨宮は何処か自虐的に、


「でも本名を知ったのは、最近だったりするんだけどな」


と言いつつも、


「彼女の名は、ルリ・シャリクシア。

お前がダンジョンで会ったシズの師匠だ。本名は煌月瑠璃。

達也の叔母に当たる人物で、もしかしたら師匠になったかも知れない人物らしい」


何でも、山奥での修行を終えたら、弟子にすると言う約束をしてたらしいが、

いざ修行を終え、帰る途中で、ファンタテーラに飛ばされた。


 以来、この世界を放浪して、武者修行のような事をしていて、

武術の腕を磨いていた。そして今は、そう言った事もやめて、

この街の近くに身を落ち着けて、静かに暮らしているらしい。


「なあ、もし気になるなら、ルリさんの元で修行するのはどうだろうか?」

「修行って……」


この時、俺は、嫌そうな顔をしてたのか、


「修行と言っても、覚えさせるのは、お前じゃなくて魔装にだから、

直ぐに終わるだろうし、キツイことは無いだろうし、

ルリさんも長くは付き合えないだろうし」


とフォローするように言ったが、

魔装が、覚えると言っても、俺の体を通す必要があるから、

ある程度、俺が修行を受ける必要がある。


「何だか面倒くさいな……」


と俺が言うと、雨宮は


「まあ、今のままで、特に不便しないなら別にいいんだけどな

もしやる気なら俺に言ってくれ。ルリさんに、俺の方から話をしておくから」


との事だった。


 俺は、正直面倒だったから、その気はなかったのだが、

雨宮の元から帰って自室でベッドの上で横になっていると、


<修行の話、アタシはやりたいけど>

「え?」

<だから修行がしたいって言ってるのよ!>

「はぁ?」


フレイの思いがけない申し出だった。でも俺は、


「悪いな、面倒だ」


と断った。理由は、既に述べた通り。


 その後、少し横になっていると、突然、ツインテールの少女が、

覆いかぶさって来た。


「ねえ、どうしても駄目なの……」


言うまでもないがこの少女はフレイで、ここは夢の世界。

いつの間にか俺は眠っていたようだった。


「だから言ってるだろ、面倒だって……」


と言ったものの


「お願いよぉ……」


フレイは、涙目で必死になって懇願して来た。

俺は、こういう頼まれ方に弱く、結局、押し切られることになった。



 数日後、雨宮が話を付けてくれたので、ルリと言う人物に会い行った。

近くと言っても、人里離れた場所で、雨宮とのやり取りは、

通信スキル付きマジックアイテム、

普段雨宮が使っている携帯電話型とは違う奴だが、それで行ったらしい。

俺は、カオスセイバーⅡで向かった。あとベルも一緒、

彼女は半ば強引に付いて来た。


 到着する、そこはログハウスがあった。俺達は、車を停め降りた後、

宝物庫に仕舞う。そして、ウッドデッキに椅子を置いて、

座って寛いでいる一人の女性に気づいた。

その人は、見た所20代後半くらいで、ショートカットの髪型で、

穏やかな表情の美人で、洋服姿をしていた。

ただ、その若さとは裏腹に、どことなく年寄りくささを感じた。


 その人は、俺達に気づくと立ち上がり、こっちに来て


「貴方が、和樹さんで、そっちがベルさん、いえ鈴子様かしら、

初めまして先輩、私がルリ・シャリクシア、本名は煌月瑠璃」


聞いてはいたが、思いのほかルリさんは、若かった。

彼女は、雨宮とは違うある事情から、歳を取らないらしい。

それと彼女が、ベルの事を知っているのは、

ベルが付いていく事を推測いて、雨宮が連絡したため。


 しかも、彼女は木之瀬鈴子を慕っていたとの事で、彼女が喜ぶから、

その事も話したらしい。あと「先輩」と呼んだのは、

彼女が、俺が通っていた高校の、後輩である為。

しかし、雨宮と同じく、ファンタテーラと、元いた世界との時間差もあり、

彼女の方が年上になっている。


 あと、元いた世界では、雨宮や俺とも面識は無かったが、

大十字とは面識があったらしい。

ただ煌月達也の叔母、正確には、公園で会った少年が、

彼女の甥である事を知らなかったそうだ。


「雨宮さんの話では、煌月流射撃格闘術が学びたいのね」





「煌月流射撃格闘術」

煌月流の武術の一つで、明治期に生み出された武術で、

拳銃による射撃と、煌月流の既存の格闘術を組み合させる事で、

射撃による遠距離だけでなく近距離攻撃にも対応し、

またその体術で、敵の攻撃をすり抜けつつも、

確実に、攻撃を当てていくと言う物。


良く映画とか出て来るガンアクションと言うところだろうか、

一応レベッカたちが使ってた体術と似たような物だが、

こっちには、奥義と呼べるものがあり、数段上を行くらしい。


 なお早速修行と言う訳では無く、武術の説明を軽くするだけで


「元いた世界でもそうだけど、この世界も、銃は珍しい武器だから

あんまり使った事のない技だから、

上手く教えられるかどうか……」


と不安げに言いつつも、


「本格的な修行は明日からね」


との事だった。


 丁度話を終えたあたりでクラウが


《あの人ですよ。かつて私の持ち主が戦って勝てなかった剣士は……》

「やっぱりか」


そうクラウやミニアが出会った女性剣士。

彼女が使う技が煌月流である事、その人は旅の者で、

ルリさんも武者修行していた。そして彼女の抱える事情もあって、その女性剣士が

ルリさんではないかと思っていたが、その通りだった。


[アタシもあった事があるっすよ]

〖〘私達も〙〗

「えっ?」


クラウとミニアだけでなく他の魔装もあった事があるらしい。


(言われてみればトールの奥義も煌月流っぽいな)


もしかしたらフレイ以外の他の七魔装も同じなのかもしれない。


 ともかく、明日から、修行が始まる。当然仕方なくなので、


(ホント面倒くさい)


と憂鬱な気分だった。

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