6「疑念の芽生え」

 若者が、複数の人間を連れて、森に入っていく。


「いいんですかい、村長は手を出すなと」


若者に意見を言うものもいる。


「祖父さんは生ぬるいんだよ。それにあんな奴の言う事を聞いて」

「でも、御神体を取り返す、手助けをしてくれたんですよね」

「そうだが……」


若者は、まだナナシの事を信頼できていない。


「とにかく、俺たちの手で、確認するんだ」


そいうと、連中は皆、白い仮面被った。




 感知で捕捉したクラウの案内で、ランドルフさんの元に向かった俺たちだが

その途中、山の中にある。レンガ造りの家を見かけた。


(まさか、ここがランドルフさんの家では)


とふと思った。すると


《今は誰も、居ないようですね》


との事だった。そして、ランドルフさん自体は、


《今、森で薪を拾っていると思われます》


そのまま家を通り過ぎて、本人の元に向かう。


 クラウの言う通り、彼は、薪を集めていて、それを終えようとしていた。


「ランドルフさん」


と声を掛けると、何処か不機嫌そうに、


「お前たちか……」

「詳しい話が聞きたいんです」


と俺が言うと、話すことなど何もないと言わんばかりに、

集めた薪をもって、去っていく。俺達も後を追った。


 ランドルフさんの進行方向を見る限り家に帰るようであったが

その途中で、今度はベルが、


「私達も、仕事で来てるんですよ。それを放棄するとなれば、

それを相応な理由が必要なんです」


相応な理由、たとえば怪我を負って以来の遂行が不可能になったとか、

依頼者が嘘をついていた。情報を隠していたなど、

そう言ったものが無い限り、依頼を放棄して逃げたとなれば、

冒険者としての評判が、ガタ落ちになるのは言うまでもない。


「………」


少しの間は何も言わなかったが、相変わらず不機嫌そうに、


「……お前らの評判に傷は付かんよ。多分な」

「多分じゃ困りますよ」


とベルが言うと、


「多分、このままいた方が、お前らの評判に関わる気がするぞ」


とまた多分であるが、


「どういう事ですか?」


と俺が尋ねても、返事はない。そのまま例の家に到着した。

あの家は、やっぱりランドルフさん家だった。


 たださっきは、居なかった子供たちがいた。クラウによると、村の方から来たとの事だし、実際に村で見かけた子供もいるから、村の子供である事は間違いない。

子供たちは


「ランドルフおじいさん」


と口々に、声を掛けて来る。先ほどの不機嫌さは、何処へやら、

少々強面であるものの。愛想の良さそうな感じで


「どうした?約束の時間には、まだ早いぞ」

「だって、早くお話の続きが聞きたかったんだもん」


と子供たちは口々に言う。また俺たちの方を見ると


「あ~村に来た冒険者さん達だ!」


と声を掛けてきた。


「お姉さんたちも、おじいさんのお話を聞きに来たの?」


理解はしているが、女性扱いに違和感を完全に拭えずにはいるも、


「そうだよ」


と答える。子供の言うお話と言うのは、昔話的な物だろうが、

話しを合わせておいた。まあ聞きたい事があるのは事実であるが、

ベルも空気を読んだのか、


「はい」


と答え、「通信」でイヴに肯定するように命令し、彼女も。


「はい……」


と答えさせた。そして、ランドルフさんに


「俺達も、御一緒させてもらってもいいですよね」


彼は、何処か躊躇い仕草をしつつも


「……ああ」


と了承した。

 

 ランドルフさんの家に上がらせてもらい。広い居間に通され、

そして子供たちに、手製と思えるお菓子を、配りはじめ、


「手伝いますよ」


俺達も配るのを手伝う。それを終えると、ランドルフさんは、

本を手に、俺や子供たちの前に立ち、本を読み始めた。

どうやら、ランドルフさんは子供たちを相手に、読み聞かせをしているようだった。

 

 ランドルフさんが読むのは、白騎士の物語。内容は、白騎士が、鉄の巨人共に、

魔物たちを成敗する話。恐らくは、ジャンヌさんの実体験が誇張されたものだろう。

それにしてランドルフさんは、朗読は、なかなかうまいもので、

セリフに合わせた声色の変化や、

場面に合わせて、力の入れ方を変え、臨場感を出すなど、

子供たちは、聞き入っているが、俺たちも物語に引き込まれていった。


「はい、今日はここまで……」


思わず、俺は拍手をしていて、ベルや、子供たちも含め、イヴまでも、

拍手を始め大喝采と言う感じになった。


 その後も、子供たちはお菓子を食べたり、おしゃべりしたりしていた。

そんな中、クラウが、


《マスター、イヤらしい考えを持った子供が近づいています。

まあイタズラをするつもりでしょうが》


そう言われて、子供が何をしようとしている、何となく、

分かったので、あえて身を任せる事にした。そしてイタズラは実行される。


「!」


最初は軽く驚いた。その後はくすぐったいくらいの感じで、

心の中が男故にか、それ以上、何も感じなかった。しばらく、なすがままだと、


「お姉さん……あの……」

「もう放してくれるか」

「はい」


その子供は、つまらなげに答えた後、俺を解放し、何もしなくなった。

イヴも別の子供に似たような事をされているが、自動人形故に、

そう言った感情に、欠如していて反応はゼロ、

だから、その子供もつまらなさそうにしていた。

 

 そしてベルも、別の子供に、俺たちと同じ目に遭い、

俺たちとは違って、至極あたりまえの反応を見せる。すなわち顔を真っ赤にして


「こら!エロガキ!待ちなさーい!」


と叫びながら、子供を追い回すが、子供もすばしっこいし、

子供相手だから、本気を出せないのか、結局、捕まえられずじまい。


 ベルがエロガキを追い回してるなか、俺は別の子供に聞いた。


「君は、此処に来ることは、親には?」

「言ってるよ」


それどころか、親からの勧めらしい。これは、予想外だった。

俺は、ランドルフさんは、村長と揉めて村八分になっていると思っていたが、

でも、そんな人間の元に子供を送り出すなんてしないはずだ。

その後、子供たちが、帰った後、後片付けを手伝いながら、


「ランドルフさん、あの子達は……」

「ヤツの嫌がらせだよ。儂が子供たちに読み聞かせをするのが、

好きになのを知ってのな」

「どういう事です?」

「奴らは子供たちが穢れるのを、儂に見せつけて、苦しめるつもりだ」

「穢れる?」


 だかそれ以上は話してはくれず、


「手伝ってくれてありがとう」


とお礼の言葉は言ったものの、


「早くこの村を、離れるんだ。いいな」


と言うだけで、理由を話してはくれなかった。

俺達は一旦、ランドルフさんの家を出て、帰路につこうとした時、

念のため、クラウの刃を少し出していたのだが、


《マスター!敵です》

「えっ?」


クラウによると、俺たちに敵意を持った奴らが、突然現れたという


「転移でしょうか?」


と言うベルに対し、


《いえ、何か違う気がします。とにかく気を付けてください》


 そして、俺の死角から、


「ギャア!」


と言う悲鳴が聞こえた。声の方を見ると、仮面を着けた男が吹っ飛んでいた。

吹っ飛ばしたのはイヴ、そうクラウの警告を受けイヴを戦闘モードにしていたのだ。

その後、白い仮面を着けた奴らが次々と出てきた。俺は剣を抜くし、

ベルも武器を構える。


(『斬撃』0)


向こうもナイフのような物を持って襲って来た。


 敵は、はっきり言って弱かった。

こっちは、「習得」に身を任せていたし、ベルやイヴもいたけど、

以前のゴロツキよりも弱い気がする。


《はっきり言って素人ですよ》


イヴには、敵を殺すなと言ってあるし、ベルも俺の想いをくんでいるようで、

痛めつけるだけだった。


「クッ……!」


リーダー格と思える奴をぶちのめすと、仮面が外れて、

顔色の悪い若い男だった。すると後ろの方から、


「ルド……」


と言う声がした。声の方には、ランドルフさんがいた。

どうやら、騒ぎを聞きつけてきたようだった。


 この直後、煙が発生


「ゴホゴホ……」


思わずせき込んでしまう


《感知スキルに異常が起きてます。敵を捕捉できません》


なお、自動人形であるイヴもせき込んでいる。そして、煙が張れると、

敵の姿は無かった。


「煙幕か」

《オートマトンに影響を与え、私の『感知』を妨害するとなると、

かなり強力ですよ》


兎も角、敵には逃げられた。


 そして、ランドルフさんが相手の事を知っていた様なので話しを聞いた。


「ルドって誰です?」

「ダドリーの孫だ……」

「えっ!」


更に悲し気な様子で


「あの子も穢れてしまった」


ただ、この穢れについては、教えてはくれなかった。


 俺たちは、村に戻る事にするも


「どういう事でしょうか?村長の孫が私達を襲うとは……」

「さあな、とにかく村長に話を聞きに行こう」


同時に、俺は疑念を感じていた。それは、仮面の事。


(そういや、サモンドールを、盗んだ奴も仮面を着けていたよな)


仮面だけで連中と、結びつけるのは強引な話だ。

やましい事をしようとする奴が、顔を見られたくない訳だから

仮面をかぶる事は、普通な事だから。

しかし、一度考えに取りつかれるとどうにも、打ち消せなかった。


 村長の元に行くと、何と急病で倒れたとの事で


「この村では、治せないので、他の町に搬送したんです

一週間は、戻ってこないでしょう」


応対したのは、この前の夕食の席にいた男で、村の有力者の一人。

小太りで、顔色は悪い。彼は村長から留守を頼まれたという。


「ところで、村長のお孫さんは?」


と俺が、聞くと、


「いないんです。我々も、村長がこんな事になったので探しているのですが」


と言った後、小声で


「彼、何かしましたか?」

「何かあるんですか?」


と聞き返すと、少しためらうような仕草で、


「こっちへと」


と言い館の外に俺たちを連れて行き、


「彼、素行が悪くて、悪い仲間たちと、女の子と強引に手を出しては、

村長が、尻拭いしていたんです」


するとクラウは


《我々を、狙っていたのは確かですが。そんな感じじゃないと思います》


そして、


「貴女たちは、お綺麗ですから、もしかしたら彼が何か」

「ええちょっと……」


と言うと、彼は急に土下座し、


「申し訳ございません。村長に代わってお詫びします」


いきなりの事に、思わずたじろいでしまう。


「お願いです。どうか仕事をお止めにならないでください!どうか!どうか!」


と土下座し泣きながら嘆願するし、


《この人、心の底から申し訳ないって思ってますよ》


と言う事もあるので、


「そう事はありませんよ。話を聞きたかっただけです。

居ないんじゃしょうがないですよね」


その場は立ち去るしかなかった。







 和樹が立ち去った後、男は村長の家に戻っていく。奥の部屋に行くと、

急病で搬送されたはずのダドリーと、若者こと、ルドと鏡を持ったナナシの姿


「なかなかの名演技だね。これで十分、誤魔化せただろう」

「昔は、劇をしていましたから」


ナナシたちは、手にしている鏡を通して、事の成り行きを見ていた。

そしてダドリーは、


「全く余計な事をしおって!」


とルドを叱るが、


「まあまあ、焦る気持ちも分かる。」


となだめるナナシ。


「重ね重ねすいません。あなたの手を煩わせて」


実は、あの時の煙幕は、ナナシによるものだった。


「別に良いんですよ。連中に知られて困るのは、こちらも同じですから」


と言いつつも


(連中に気づかせたんだけどね)


途中でクラウが気づいたのもナナシの仕業である。そんなナナシは


「さてこの遠見の鏡も、使えるようになったことだし、一つ妙案があるんだけど」


とその案を話した。




 そして村長の家から宿に戻る途中ミニアが、


〔さっきの男、たぶんあれは演技ね〕

「どうしてそう思う?」


彼女は、あの時と同じ様に、色っぽい声で、


〔だから女の勘よ〕

「また勘か……」

〔前も当てたでしょ。ねえ~ベルちゃん〕


この一言に、ベルは申し訳なさそうな顔をする。

確かに、彼女の勘は早い段階でベルの正体を当てていた。


《ですが、あの男の謝罪は本気でしたよ》

〔感知が当てにならない時があるのは、ベルちゃんの一件で、

よく分かったはずだけど〕

《それは……》


そして宿の部屋に戻った後、ベルが


「ペンダント……」

「えっ?」

「風呂場いた人たちがしていたペンダント。

さっきの人もしているかはわかりませんが

もしあれが奴のキーホルダーと同じ働きをするのだとすれば」


それが意味する事は、


「ちょっと待て、この村にナナシが関わってるってのか」

「もちろん確証はありませんが……」

《あっ!》


と声を上げたクラウは、


《この村の人々の顔色についてですが……》


俺達にある恐ろしい事を話し、


《気配を感じ無かったので、違うと思い。話しませんでしたが

でもナナシは『感知』を誤魔化す術を持ちますから》


ベルの言う通り確証はないものの、俺は初めてこの村に疑念を感じたのであった。

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