7「村の闇」

 疑念は抱いたものの、確証とかは無いので、

今日の所は様子見とした。その日の夜、


《今なら、お風呂に誰もいませんよ》


と言うクラウの言葉を受けて、今のうちにと思い風呂に入った

もちろん、急に人が来た時の為に、タオルを巻いたままで。

イヴとベルも一緒である。


(今のうちに、体を洗って……)


湯船に浸からず、洗い場に向かおうとすると、急に脱衣場の方が、

騒がしくなってきた。思わず、湯船に入ってしまう。


「この声は……」


とベルが言う。そして風呂に入って来たのは子供たちだった。

子供だからか、女湯だけど男の子の姿もある。あとペンダントは付けていない。

そして、子供たちの事だから、大人しく風呂に入るはずもなく、

湯船で泳いだり、湯の掛け合いをしたりや洗い場で、走り回ったりと遊び始めた。

この様子を騒がしいと思う大人もいるだろうが、俺には、微笑ましく感じた。


 ただ、昨日みたいに目のやり場に困ることは無いものの、

遊びまわる子供が、怪我しないか心配であった。

子供たちとは、知り合いでもないし、正直無関係であるが、

それでも、大人として気になるもので、


(危ない!)


子供が、転倒しそうになるのを、湯船から上がって、助ける事が何度かあった。


 子供を助けて、湯船に戻った際に、ベルから


「今のうちに、体を洗われた方が良いと思いますよ。

子供たちから聞きましたが、あとから親御さんが来るそうです」


それを聞いて、親たちが来る前に、風呂を出ようと思い、

体を洗うために湯船を出た。周りいるのは子供たちだが、

念のためと言う事もあり、イヴもベルも一緒に出て、

昨日と同じ様にガードしてくれることになっていた。

しかしながら、周りにいるのは子供、故に油断しているところがあって、


「!」

「キャア!」

「………」


バスタオルを取られた。取って行ったのは、

ランドルフさんの家でイタズラしてきた子供たち、


「またしても、このエロガキ、待ちなさーい!」


タオルを持って走り回る子供を追いかけるベル。

今回は俺も、


「こら!待て!タオル返せ!」


とタオルを持って逃げる子供、ベルが追いかけている子供とは

別の子供だが、その子を、タオルを取り返すべく追いかける羽目に、

しかも、こっちもすばしっこい子供だから、

しばらく追いかける羽目となった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


どうにかタオルを取り返し、もはや意味がないかもしれないと思いつつ、

体に巻き、同じ様に取り返したベルと、

無反応故に、普通に返してもらったイヴが、ガードする中、体を洗い。

軽く湯船に浸かった後、風呂を出た。

そして今日もまた、風呂で疲れる羽目となった。

俺たちが身体を拭き、服を着たあたりで、大人たちが来て、

入れ違いに、俺たちは脱衣場を出た。



 一方、ダドリーの家では、そのダドリーと関係者が

ナナシの持つ「遠見の鏡」を食い入るように見ていた。


「うまくいったでしょう。子供たちを利用すれば、奴らも……」


何だか話を聞いてない様なので、


「はい、ここまで」


と言って鏡を取り上げるナナシ、ダドリー達は、名残惜しそうにするが、


「今ので十分確認できたよね?」

「ああ、確かにあの女は、アシンだったな」

「それでは、準備にかかりましょう」


慌ただしくなるダドリー、その様子を見ながらナナシは、


(どうやら、間に合ったねえ。さあ、最後の儀式だよ。後腐れが無いようにね)


と思っていて、兜の下では笑っているようだった。


 翌日、先ず魔獣の様子を見に森に行った。そろそろかと思ったが

まだ魔獣に動きはない。だがクラウによるといつ動き出してもおかしくないらしい。

この後は、もう一度、ランドルフさんの元に向かう。

クラウから得た話を突きつけて問い詰めて見ようと思ったのだ。

ただ、気配を隠した追っ手を考慮する必要があった。

そうナナシ関与の疑いが出てから、


《連中は、転移ではなく私の『感知』を誤魔化していた可能性があります》


そして、接近した事で誤魔化しが効かなくなったという感じだろう。

今日は、いるかは分からないが、追っ手をまくために俺は、魔獣がいる場所にて、

フレイで、煙幕弾を使い煙に紛れて、その場を離れた。

これでうまくいったかは定かでないものの、気休め的なところはあった。


 さてクラウの「感知」からランドルフさんが外出中なのは分かっていた。


《状況から見て、今度は森で食料を取りに行っているようです》


俺達は、外出先に直接向かうつもりで、

その途中、ランドルフさんの家の前を、通ったのであるが、ベルが、


「あの人は、頑なでしょうから、正攻法は無駄だと思いますよ」


そう言うと、彼女がランドルフさんの家の方に向かって行く。


「おいお前、何する気だ」

 

彼女は、家の方に向かうと、スキル「解錠」を使ったのか、

扉を開け勝手に家に入ってしまった。完全に不法侵入だ。


「おいベル!」


俺も後を追って、中に入ってしまった。


「追い勝手には行っちゃだめだろうが」


と言ったが、彼女はどこ吹く風と言った様子。


 そして、何故か彼女が主導権を握り始め、


「とにかく、日記を探しましょう」

「日記?」

「あの人が日記をつける癖があるか分かりませんが、」


日記には人には言えない秘密を記すことが多い。そこに答えがあると

彼女は思ったらしい。それは俺も思うし、経験もある。

あと日記を書く場所と言えば書斎との事で、取り敢えず書斎の場所を探す。

そして俺は、流されていた。


 口じゃあ、ああは言ったが、内心では、この状況を望んでる自分がいた。

あの話を突きつけたとしても、あの人は正直に話してくれる保証はない。

ベルの言う通り、正攻法は無駄。こんな手しかないのかもしれない。

恐らく、「絶対命令」を使っても許容範囲になって、

この状況は止めらえないだろう。


(そう言えば大十字も同じことをしてたな)


本人は怒るだろうが、俺は彼女に、昔の大十字の姿を重ねていた。

案外、二人は似た者同士なのかもしれない。


 ランドルフさんの家は狭くはないが、広い家と言う訳でもなかったので、

書斎はあっさり見つかった。日記帳も、机の上に無造作に置かれており、

魔法による鍵があったが、彼女の「解錠」で開けた。

あとで知るがあの手に日記帳の鍵はかなり強力で

本人以外がスキルや魔法で、無理に開けようとすると、

本体ごと破壊するという凄いものらしいが

ベルのスキルの前では、無力のようだ。


 俺は、少し気が引けたものの、内容をベルと一緒に読んだ。

最近の内容では、俺たちの事に触れていた


「……冒険者たちがやって来た。初めて見る冒険者だ。事情は何も知らんだろう。

まさかこの時期にやってくるとは、ガサ入れに、

巻き込まれなければいいのだが」


と書いてある。


「ガサ入れって……」

「確か、異端審問官の家宅捜索の事ですよね」


この言葉も、俺たちの世界由来である。


「クラウの考えが当たっているなら、

ガサ入れは村全体に、行われる可能性があるな」

「そうなったら私達でも巻き込まれると言う事ですか」


しかしこういう記載もあった


「理由を伝え出ていってもらいたいが。だが、連中も事情を知っていたとしたら、

そうなったらダドリーすべて知られる。そうなったらすべてがお終いだ」


つまり、俺たちが何も知らず、ただ雇われたのか、

それとも村長とグルなのか判別がつかず、事情を説明できなかったようだ。


「この内容を見る限り、あの人は、教会に密告したんでしょうか」


とベルが言う。確かに、ガサ入れは相手に逃げられたらいけないから、

一般人が事前に知ることができない。あたりまえだな。

しかし知っているとすれば密告者しかありえない。


 更に日記帳を、遡ってみると、こんな記載があった


「今日、教会へ手紙を出して来た。クロニクル卿の改革で、

もう昔のようなことは無いだろう。いやそんな事はとうの昔に分かっていた事。

もっと早く出すべきだった。

だが、私は見たかった。私の忠告を無視した奴らが、自滅するところを

そう審問官の手に寄らない完全なる自滅。

私はその瞬間を、見届けながら笑い飛ばしたかった。

でも30年、兆候はあるのに、その時は訪れない。

その間に無関係な子供たちが、穢れていった。

これは私の罪だ。黙っていた事の罪。

もうこれ以上、子供たちが穢れていく姿は見たくない。」


ランドルフさんが密告を行った事を裏付ける記載であるが


「30年前、何があったんだ?」


この事が気になってしまった。

あいにくこの日記帳には、そこまでの事は、書かれていない。


「過去の日記帳を探してみましょう」


と言う事で部屋を探したが、

ランドルフさんは、子供たちに読み聞かせを行うだけあって、

書斎は本で一杯なので、本棚に入りきらず、

一部や、山のように積んでいた。おかげで探すのに苦労した。


《まずいですね。戻ってきますよ》


 そうこうしていると、ランドルフさんがこっちに戻ってきているという。


「一旦、家を出るぞ!」


と俺が言うと、ベルは、よりによってこのタイミングで


「見つけちゃいました……」


過去の日記を仕舞ってある場所を見つけたという。


「場所が分かったなら、また後で……」


この直後、俺は本の山を崩してしまった


「やべっ!」

「何やってるんですか!」


取り敢えず、二人にも手伝ってもらって本を片付けるが


《まずいです。いま出ていくと鉢合わせます》


ここでベルが


「私が転移で外に出て、時間を稼ぎます」


なお彼女の転移は、自分以外を移動させることができない。


「では……アレ?転移が」

「転移除けだ……」


彼女の策は早速失敗した。


「どうしましょうか?」

《もう家に入ってきますよ》


どうしようと思っても、こうなってはいい案がない。


(ランドルフさんに、土下座するしか)


そんなこと思ったが


「あっ!」


俺は思い出した事があり、キャッスルトランクを取り出し、

そして俺たちは、一旦書斎から出た。




 家に戻って来たランドルフは違和感を覚えた。

あちこち見て回るが、特に変化はない。書斎も確認する。


「ん?」


本の位置が変わっている様な気がしたが、特に何かを盗られているような

気配はない。日記帳も無事だ。

物置も確認するが、特に変化は無いように思えた。


「気のせいか……」


そう言って物置の扉を閉める。さて物置には旅行鞄があるが、

それが一つ増えている事に、彼は気づかなかった。




 「うまくやり過ごせたみたいだな」


 宙に浮かび上がるモニターで、ランドルフさんが物置から出ていくのを見ていた。

俺達は、キャッスルトランクの中にある居間にいる。

書斎を探す際に、物置の事を見つけていた俺は、

咄嗟にキャッスルトランクに入って、物置に隠れる事を思いついた。

物置に入ると、


「あの辺が良いんじゃないですか」


とベルが、鞄を置いてある場所を見つけたので、そこに置いた後

入り口を開けて中に入った。


「取り敢えずしばらく機会をうかがうか」


キャッスルトランクには「感知」と「周辺把握」で周囲の状況が、

分かるので、それを使って状況を確認しつつ、暫くは待機。

この前、ミズキが使ったとは言え食糧類はまだまだあるので

長期戦も対応できるが、機会は昼過ぎに訪れた。


 ランドルフさんは、物置から釣竿を持ち出して、家から出ていった。

どうやら釣りに出かけたようである。

その隙に俺たちは再び外に出て、トランクは、宝物庫に仕舞い。

書斎に向かい。30年前の日記を探した。

まあ、場所を見つけていた上、きちんと年代順に並べていたので

直ぐ見つかり、ベルが「解錠」で鍵を開け、俺とベルは一緒に読んだ。


「やっぱり」


そこには、クラウの予想を裏付ける事が書かれていた。


 この日記が書かれた数年前から、同時の村の農産業は酷くなっていた。

理由は、家畜や野菜の伝染病に、異常気象など複合的な要因らしい。

まあ更に過去の日記をさかのぼれば、詳しい事が書かれてそうだが、

その辺は、置いておくとして、日記が書かれた当時は、どうにもできない状態で、

当時のランドルフさんは、そんな中でも村を助けようと奔走していたが、

そんな最中、村長は、恐ろしいものに手を出してしまった。

その時の事はこう書かれている。


「何と言う事だ、あれだけやめろと言ったのに、

その危険性を分っているはずなのに、悪魔と契約してしまうとは」

そう、村は、悪魔と契約しているのだった。

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