5「村での一幕」

 やって来た老人は、


「お前ら村の者じゃないな。他から来た奴だな。お前ら二人は冒険者か、」


そしてイヴの方を見ると


「そっちはハダリ―顔だが、もしやオートマトンか」


俺は、老人に対して


「そうですけど貴方は?」

「儂はランドルフ」


ベルが


「村の人ですか?」

「昔はな、ダドリーと揉めて、今は森で暮らしてる」


もしかして村長と揉めて、村八分になってるって感じかな。


「お前ら、ヤツに雇われたんだろうが、

今からでも、この仕事を断って帰れ」

「はぁ?」

「このままいると、後悔するぞ……」


ベルが冷静な口調で


「何故ですか?」


と聞くが、教えてくれず、ただ


「とにかく帰れ」


そう言って、去っていった。


「何だあの人……」

《私たちの事を、本気で案じているような気配ですね》

「だとしても、何で理由を言わないんですか?」


 俺は、これまでの経験から


「何だか理由で、言うに言えないとか、理由を言うと助けられなくなるとか、

理由が荒唐無稽すぎて、余計に説得が難しくなるか、

或いは、あの人自身が、何かしようとしていて、理由を話せば、

俺達が止めようとするかもしれないからとか……」


するとベルが、イラついた様子で


「どれも、大十字さん関係ではありませんか?」


確かにそうである。俺と共有した記憶から分かったのだろう。

ここでクラウが


《とにかくこの依頼は怪しいですね。ただこの村には、

我々に対し敵対意識を持つものは居ませんが》


ベルは


「今晩、食事に誘われてますから、話を聞いてみませんか?」


と提案した。俺は、とにかく不安を感じたものの、

今は様子見とすることにした。


 夕食時、俺たちは再び村長の家に向かった。

食事の場には、村長だけでなく村の有力者たちもいた。全員顔色が悪い。

そしてテーブルには、見た目だけならおいしそうな料理が並ぶ。


「どれもこの村の採りたて新鮮な食材で作った物です。

遠慮なくお食べください」


と村長は言う。客として来たので、表向き武器は装備する事は、

出来ないが、念のためと言う事でフレイに変形させ、懐に隠していた。

そしてクラウ曰く、


《食事から、毒の反応とかは無いですね》


との事。


 しかしながら、


「お気に召しませんか?」

「いえそんな事は……」


とは言ったものの、この世界特有の微妙な味で、

正直いい気分はしてないので、それが顔に出ていたものと思われる。

 

 森での事を切り出そうとしたが、運よく向こうから話を振ってくれた


「今日の下見はいかがでしたかな?」


クラウの事は伏せつつも、「感知」で得た結果を、サーチを使った事にして話した。


「なるほど、一週間以内は確実ですか」


この後、人為的に埋められていた事について聞こうとしたら。


「ところで森で、ランドルフと名乗る奴と会いませんでしたか?」

「ええ、会いましたが、何か?」

「奴は、森に住んでおるのですが、少々気が触れてましてな。

森に入る者に、声を掛けては、おかしな事を言うので、

あまり関わらない方が良いかと」


ここでクラウは


《村長は、嘘を言ってます》


との事だが、ここは話をあわせて、


「分かりました」


とだけ答えた。


「ところで、魔獣について何ですけど……」


ここで、引き続きサーチで分かったと言う体で、

魔獣が人為的に埋められた事や、どうして埋められていたのか、

分かったのかを聞くと、村長ではなく村の有力者の一人が


「この村の農産物は良く売れますから、

それをよく思わない連中も多いんです。」


なお例として近隣の村の名前を出した。更に何故わかったかについては、

別の有力者が、


「私の娘が野草を摘みに行った際に、物を無くしまして、

それを探すのにサーチを使ったのです」


探し物は見つかったが、その際に、休眠中の魔獣を見つけ、

その後、話を聞いた別の村人が再度サーチで詳しい調査をしたという。


「いやあ、早い段階で気づけて、幸運でしたよ」


クラウによれば


《どちらも嘘はついていません。魔獣の発見については、こういう事も、

ありえない事では、ありませんしね》


と言いつつも、


《村長が、妙に緊張しているのが気になりますが》


との事。




 宿に戻ってくると


「酷い料理でしたね。せっかくの食材をあそこまで、壊すとは……」


と文句を言う。俺も好きではないが、やはり舌の肥えたお嬢様には、

この世界の料理は、余計にお気に召さないと見える。


 一方俺は、別の事が、気になっていた。

夜遅い時刻に、俺はクラウを抜き、「感知」で確認をさせていた。


「お風呂の方には、まだ人が居ますね」


この宿には、大浴場と言うか露天風呂があるのだが、宿泊客だけでなく、

村人にも、入れる。いわば銭湯のような物であった。

しかも、24時間使えるせいか、時間の割には、未だに客がいると言う。


「今日は、お風呂やめとこうかな」


と言うとベルは、


「ダメですよ!そんな事言ったら、明日も明後日もいれないかもしれない

最悪一週間、風呂に入れないじゃないですか、そんなの不潔です」


と妙に力を入れて言う。


「でも、俺の体が他人に見られるのは、ちょっと」

「タオルで隠せば大丈夫ですよ。それに私とイヴちゃんがいますよ

私達で、全力でガードします」


結局、ベルに押されて、俺は風呂場へと向かった。


 この体の所為で、女湯に入るしかないが、漫画とかじゃ女湯ってのも

男の夢なんだろうが、俺的には妙に気まずい。

脱衣所で服を脱ぐときは、その時点で周りに人が居るので、

ベルと、俺が命じる形でイヴが、人々から、俺の裸が見えない様に

上手い具合に立ち回る、俺は服を脱ぐと、素早くタオルを体に巻き付ける。

大丈夫と判断したベルとイヴも、入浴準備を整え、いざ大浴場に、

そこには、時間的なこともあってか、子供は居なかったが、

老人から、若者までの女性が結構な人数いたので気まずい。

とにかく、みんなは、タオルはまいていないので、

目のやり場に困る上、余所者だからか、注目されていた。


 そわそわしながらも湯船に浸かると、俺と同じくタオルを巻いているベルは


「目のやり場に困るなら私の方を見てください。

私ならいくら見られても平気ですから」


あの一件以降、見慣れてはいるが、いくらタオルを巻いているからって

気まずさが残ってはいる。そもそも彼女はおろか、

イヴにもタオルを巻いてもらっているのは、その気まずさ故である。

ただ、彼女の言葉には、自分以外の女の裸は見ないでと言っているようでもあった。

まあできる限り誰もいない場所を見たが。


 しばらく湯船に浸かった後、洗い場で体を洗う上半身は、腰にタオルを巻く事で

どうにかなるが、問題は下半身である。俺は、絶対じゃないが、昔から、

基本的に、下半身を洗わないと眠れないのである。

再びイヴとベルが上手く立ち回って、皆、見えない様にしてくれているが、

俺としては気が気じゃなかった。


 なんせ、亜神、実際は本物の神だが、亜神として知られたとしても、

狙われの身になりかねない。死ぬことは、ないかもしれないが、

面倒な日常になって、楽とは縁遠くなると思われるからだ。


(落ちつかない……)


体を洗い終えると、再びタオルを巻き、軽く湯船に浸かった後、

逃げる等に大浴場を出た。イヴとベルも一緒に出る。

その後身体を拭き、服を着ると落ち着いたが、


「疲れた……」


風呂と言えば、疲れを癒す場所の筈だが、俺は余計に疲れていた。


 宿の部屋に戻るとベルが、


「そう言えば、風呂場にいた人たちは、みんな同じペンダントをしてましたね」

「そうだったのか」


俺は見ないようにしていたから気づかなかった。

ただ、気疲れで、その事を気にする余裕はなく、俺はベッドに横になった。

余談であるがカオスセイバーⅡやキャッスルトランクには、

風呂が付いているわけだから、それを使えばよかったのだ。

しかし、それに気づくのは、全てが終わった後であった。





ダドリー宅


 村長のダドリーは、風呂場にいた女性達から報告を受け、


「分からなかっただと!」


声を上げた。


「一緒にいる娘たちが邪魔をするもので」


と女性の一人が言う。


「だとしても、もっとどうにかならんかったのか!」


と激昂したようにいうダドリーに対し、側に居た鎧姿のナナシが、


「まぁまぁ、まだ時間があるんだから、気長に行こうよ。」


と言う。部屋には若者の姿もあって、


「まどろっこしい、捕まえて直接確認すれば」

「奴は、性格的な事もあって、低ランクを甘んじているけど、

実力は、凄まじいんだ。君なんか足元にも及ばないよ」


納得いかなそうにする若者。


「あと間違っても、寝込みを襲ってもだめだよ。

一緒にいるオートマトンが、起きて来るだろうから」


するとダドリーが、


「マジックアイテムで気配が消せるのでは?」

「限度があるよ。特にあのオートマトンはね。多少離れた位置ならともかく、

部屋の中となるとまずい。マジックドール・スリーパーも無いしね」


と言いつつ、


「マジックアイテムと言えば、村長さん、貴方は、連中に会わない方がいい」

「何故です?」

「村長さんは、マジックアイテムの効きが悪い。そのうちボロが出る」


と言いつつも、


(もう知られてるかもだけど)


と思うナナシ。


「しかしどうして?」

「多分、貴方が、悪魔の影響を大きく受けてるからだよ。」


多分と言いつつも、自信たっぷりに言うナナシであった。




 翌日、魔獣の様子見の為に、再び森に向かった。状況に変化は無し

しかし俺は思い立って、抜いた状態のクラウに、


「ランドルフって人の位置は分かるか?」

《ちょっと待ってください……捕捉しました》


すると、一緒にいたベルは


「会いに行かれるのですか?」

「昨日の言葉の意味を知るためにな」


厄介ごとに、足を踏み入れそうだが、あの人が言っていた。


「このままいると、後悔するぞ……」


つまり何もしなくとも厄介ごとになる事を暗示してる

なら逆に動いてみた方が、厄介事をうまく回避できるかもと思ったのだ。


「私も気になってましたから、同行します」


と言って付いて来る。

なお自動人形故に、イヴは特に了承を取る必要はない。


 とにかく俺たちは、ランドルフさんの元も向かうが、

その後の事を考えると、この事があってもなくても、

たぶん厄介ごとに巻き込まれることとなる。

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