4「とある村からの依頼」

 人形の一件から数日は、特に何もなく、いつも通りに過ごしていたが、

ある日の事、


「カズキさん、指名依頼が来ていますよ」


仕事を探しに冒険者ギルドに行くと、受付嬢から声を掛けられた。

依頼主は、とある村の村長である。ただその村は、俺の知らない村であった。

俺の場合、冒険者指定の依頼は、過去に仕事を受けた場所から、

いわゆるリピーターが基本である。でも、知らない場所からの依頼も、

無い訳じゃなかった。


 雨宮やベルの話では、低ランクで低難度の仕事しか受けない割には、

高ランク冒険者並みの手際の良さと言うのが俺の評価らしい。

もちろん、クラウ達や鎧のおかげなのだが、

低難度の仕事でも、依頼人からすれば、切実なのは、以前も述べたが

加えて、法律で定められては無いものの、依頼料にも相場と言う物がある。

当然ながら、低ランクの冒険者の依頼料は安い。


 つまり今の俺は、安いが、仕事の手際のいいお得な存在と言う事だから、

噂を聞きつけて、依頼してくる人も多い。

まあ、低難度専門と言うのも噂になってるから、数としては少ないが、


「内容も、あなた達向きですよ」


確かに低級魔獣退治で、低難度であるが規模が大きく、

二人で丁度いいという感じだろ。特に変わった事はなさそうなので

普通に仕事を引き受けた。


 その事を、雨宮に話すと、村の村長の事を知っていて


「あの村の村長、あまり良い噂は聞かないな」

「そうなのか?」

「別に悪事を働いてるって訳じゃないんだが」


と言いつつ


「あの村の農産物はリートルフ並みに美味しいらしんだ」


リートルフと言うのは、農業分野全般に秀でている小人の種族。

その農産物は美味いらしい。

村には、リートルフはいないが、

それに匹敵するだけの美味しい農産物を作っていて、

その味故に、高額で取引されているらしい。


「俺の所にも売り込みに来たこともある。確かに味は美味しかったけど、

何か、いまいちと言うか、心がこもってないというか」

「心がこもってない?」

「何となくだけどな。とにかく俺の料理には合わない」


それでも美味しい物には違いないらしく、欲しがる人間は多い。


 そして、農産物の取引は、村長が中心になって行っているのだが


「あの村長、そこを付け込むんだよな。料理をする上では、技術と食材が重要だろ」

「お前は技術だけでも十分な気がするけどな」


これは俺の勝手な考えであるが、雨宮なら、どんなに安い食材、

いや残飯からでも、極上の料理が作れそうな気がする。俺の言葉に対し、


「ありがとう」


と言いつつも


「とにかく、あの村長は、良質な農産物を武器に、取引先に対して、

えらく態度がデカくてな。価格を釣り上げてきたり、

料金とは別に、賄賂的な物を要求してきたり、やりたい放題らしい」


あとこの時期だと、娼婦または娼夫を要求してくると言う。


「しかも、娼館に所属していない個人経営の奴ばかり」

「なんで?」

「夜のお相手だろ。まあ取引先に要求する事じゃないよな」


ただ最初の事は、こんなことは無く、徐々にこんな風になってきたと言う。


「確かに、最初から、そんなんだったら、流石に客は付かないよな」


ただすでに取引先になっている相手としては、その村の商品が無ければ

商売か成り立たない人たちも多く、要求に屈せざるをえないという。


「だから、俺たち同業者の間じゃ評判よくないんだ」


と言いつつ


「冒険者関係でのトラブルは聞かないけど、何かあったら、連絡しろよ」

「何かって?」

「そりゃ、報酬の値切りとか踏み倒しとか」


冒険者と依頼者の間でよくあるトラブルである。場合に寄ったら刃傷沙汰もあり得ると言う物。なお俺はこれまで、そう言ったことは無い。


「俺が乗りこんで、文句言ってやるからよ」


確かに、大魔導士で、この国の英雄でもある雨宮が乗り込んで来たら、

向こうだって折れざるを得ないだろう。


「そこまでして、貰わなくていいよ。お金は別にどうでもいいだし」


この時、ベルがいたのだが、俺がそう言うと、


「ダメですよ。こういう事はちゃんとしないと、つけ上がりますから」


更に雨宮も、


「気にするな。お前の事を理由にしたいだけさ。あの村長には腹が立つが、

基本無関係だから何もできない。もう俺は審問官でもないしな。

でも、お前は俺の友人だから、文句を言うには十分だろ?」


との事だった。

 

 ただ雨宮の危惧した通り、今回の依頼は踏み倒される事となるのだった。

しかも、雨宮が出て来てもどうしようもない状況である。


 さて、例の村へは、村で手配してくれた馬車で向かった。いつもの様に、

俺とベルと、イヴも連れて行く。今回の仕事は、訳あって、時間のかかる仕事で、

村には数日滞在する事になっていて、宿も村で用意してくれる事となっていた。

取り敢えず村と到着すると、依頼人である村長と会った。


「私が村長のダドリー・ソラーズです」


年配で、失礼だが、頭が禿げ上がっていて、白いひげを携えた、顔色は悪いが

愛想の良さそうな人だった。彼は、俺たちを丁重に迎えてくれ、

確認のための依頼内容の説明をしてくれたが、その際にベルは、何処か不機嫌そうに黙っていた。なお今日は下見には行くが、仕事は無いので、鎧は着ていなかった。


 そして、その後は、一旦、用意してくれた宿に向かった。

宿はなかなかいい部屋であったが、宿に着くとベルが、


「村長、愛想よさげでしたけど、私には、一癖ありそうに思えましたね

何となく腹黒さがにじみ出てるって言うか」

「そうかな」


俺はそう言うのは感じなかった。ベルはそう思ったらしく、だから彼女は、

終始不機嫌だったのだ。


「雨宮君の言う通りの人物だと思いますよ」


ここでクラウも


《私も、同感です。あの人から腹黒さを感じましたから、

あの人はロクな人間ではありませんよ》


と言った。ベルはともかく、クラウは感知よる物なので、

あの村長が、雨宮の言う通りの人間である事は間違いないようだった。

 

 ただ俺が気になる事と言えば、


「なんかさ、あの村長を含め、みんな顔色悪くなかったか?」


村長の家の前までは馬車だったが、村長にあった後、

宿に移動は、近場なので歩きだったが、村の人達を見たのだが、

みんな村長と同じ様に、顔色が悪かった。


「確かに、具合がよさそうにありませんでしたね。流行り病でしょうか?」


ベルが言うが、クラウは


《そう言った気配は感じませんでしたが……》


病気とかそう言うことは無いらしい


「でも子供たちは、そうでもないでしたけど」


宿に向かう途中、村の子供たちを見かけたが、顔色が悪いという感じは無かった。

するとベルが


「この村の大人たちって、危ない薬でもやってるんじゃ、ありませんか」


なおファンタテーラの少なくともこの国では、元の世界同じく、

薬物乱用はご法度である。しかし、これに関してもクラウが


《そう言うのも感じませんでしたよ》


との事なので、村人の顔色の悪さの謎は不明であるが、

後に大きな意味を持つこととなる。







 村長の家には、甲冑の冒険者こと、ナナシがいた。ナナシは、ペンダントを手に


「どうも、上手く行かないなあ。完全に隠すことができても

偽装が難しい、まあ村長だけだけどさあ。

でも連中には村長の腹黒さが伝わっちゃったかな」


そんな事を愚痴っていた。するとそこに、若者がやって来た。


「本当にあの女がアシンなのか?」

「そう、あの時、人形を拾ってた方だよ。残りは普通の女とオートマトンだからね」

「本当なんだろうな?」

「まだが疑ってるんだ。人形の件を手伝ってあげただけじゃ、ダメかな」


若者は気まずそうに、


「その件は感謝してるが……」

「だったらさあ、信用してくれないかな」

「でも、なんでエビルフォレスト・シードなどを……」

「君らが、確認の時間が欲しいって言ったからだよ。低難度依頼で、

長期滞在が必要となると、あの魔獣くらいしか」

「だけど……」

「大丈夫だよ。君らには、守ってくれる奴がいるじゃないか」


その後若者は去っていく。一人残されたナナシは、


「しかし、滑稽だね。アシンを生贄にしたところで、何にもならないのにさあ」


兜の所為で表情は分からないが、笑っているようである。


「まあいいさ、上手く立ち回って、楽しませておくれよ」


何時ものことながら、ナナシは良からぬことを考えているようであった。





 さて、俺たちは仕事の下見の為、村はずれの森にある

開けた場所に来ていた。俺は、剣を抜き

「それじゃあ、クラウ頼む」

《分かりました、マスター》

彼女の力で討伐対象の状況を確認するのである。

《確認しました。これは、私の見立てですが、エビルフォレスト・シードが定着期に入るまでは、あと二、三日でしょうか、確実ではありません。

明日も知れませんし、ただ一週間以内は確実です》



「エビルフォレスト・シード」

大木の様な見た目をした植物型魔獣エビルフォレストの変異種

エビルフォレストよりも強力だが、

基本的な部分は同じで、地面を移動する移動期と

地面に根を張る定着期があるが、それに加え地面に潜り、

殻を纏う休眠期を持つ。そして定着期と休眠期を幾度か繰り返し、

再度移動期に移る。なおエビルフォレストは根を張って養分を得るものの

それとは別に、人や動物、植物性以外の魔獣を襲って食べてしまうという、

性質を持つ。


エビルフォレストが根を張ると、

森とかでは木々が枯れるなんてことは無いが、

畑などでは、養分が吸われて、作物の育ちが悪くなったり

最悪、枯れてしまう。ここは、村はずれであるが、

根は畑辺りまで到達しているという。

くわえて、エビルフォレスト・シードは、広く根を張る


 あとエビルフォレスト・シードの殻は強力で、

いかなる方法を持っても割れないという。

今回の依頼を話した時に聞いた雨宮の予測では

フルパワーでも、割るのは容易ではないとの事、

従って討伐のためには再度定着期になるのを待たねばならない。

あと、休眠期でも根は張れて養分は吸われている。


 ここでクラウは


《しかし変ですね》

「どうかしたのか」

《いえ周囲の土なのですが、どうも人為的に埋められたようなのです》

「人為的?」


とベルが聞くと、


《はい、魔獣が潜ったような感じじゃないんです》

「じゃあ誰かが人為的に埋めたって事か」

《そうなりますね》

「そんな事は可能なのか?」


クラウによると、エビルフォレスト・シードは何だかの理由で、

根が張れない状態が続くと、休眠期の様に殻を張って仮死状態になると言う

この時、根は張ってないので、殻は壊せずとも持ち運びは出来る。


「それを埋めたって事か。何のために?」


するとベルが


「村長は評判が悪い人ですからね。恨みを買う事もあるでしょう」


つまりは村への嫌がらせである。


《だとしても変ですね。埋められてから一度も出た痕跡がありません。

どうやって村人たちは知ったんでしょうか?》


言われてみればそうだが


「でもサーチとかは」


クラウはスキルでやっているが、サーチを使えば可能なはずである。


《状況から見て、魔獣は根を張って、そんなに経ってないようですから

農作物等への被害はまったく無いと思います。

だとしたらどうして気付いたのでしょうか?》


するとベルが


「確かに変ですね」


とクラウに同意する。確かに、言われてみれば、前兆が無ければ調べる必要はない。


 疑念の様な物が出てきた辺りでクラウが


《誰かがこっちに使づいてきます》


やがて一人の老人がやって来た。ふさふさの白髪で立派なひげを携え

歳の割にはガタイがよさそうで、険しい顔立ちはしていたが、

その顔色は、よかった。

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