6「風呂にて語る(2)」

 そして、ジャンヌさんは話を続けた


「神になった私を待っていたのは、堕天使たちとの戦いだった」


ここから、話は白騎士伝説の話に繋がる。


「天使様は、この世界でも同じで、神の使いとなっているわ。

表向きはね。実際は、私と同じ様に聖なる力を持つ者が

その力を高めた状態で、死んだあと復活した姿なの」




「聖なる力」

少数ながらも万物に宿る光属性の力、スキルとは似て非なるもの

万物を癒す力と言うのが有名であるが

それ以外にも、様々な効果を持ち、奇跡を起こす力として有名である。




この力は、善行を積むごとに高まるので、天使になった者たちは

善人であった。


「でも天使になる方法は、他にもあるの。正確には天使もどきだけど」


『神降ろし』で光明神の力を得て、それが一定まで達すると

天使のようになれると言う。

教団上層部の連中の目的も、最終的には天使になる事。


「あの魔法が、成功していたら、一回で天使になっていたかもしれない」


 ただ、この方法で、天使になった奴らは、

多くの人間を犠牲にしてきた上、神の力を、私利私欲で使っていた

ロクでなし、コイツらこそが堕天使で、その後も、私利私欲には変わらなかった。


「奴らは、天使様たちとは違って、定期的に光明神にからの

力の供給が必要だった。ところが、私が神になって

地上に降りた事で、『神降ろし』はおろか力の供給は出来なくなった」


 力の供給を再開するには、彼女の魂を封じ込め、

尚且つ神の領域に封じ込める事。自分たちの力が失われる前に、

それを目的に、ジャンヌさんを襲った。


「堕天使共は、表向きは、光明神に仕える天使だけど、

実際は、神に利用してたのね」


伝承における反逆と言うのは、間違い。そもそも仕えてなどいなかった。


「しかも、奴らは、私の力を封じる術を持っていて、私は本気の力を出せなかった」

そんな私を助けてくれたのは、以前から、連中と対立していた天使様たちだった」


 天使たちは、助けの元、どうにか機能していた「創造」を使い

封じられた力を補う、武器や鎧、更には魔機神を生み出した。

これが、あの白い鎧である。ちなみに、彼女の「創造」は

無生物を生み出すには、材料が必要なので、魔機神がそうであるように

他の鎧や武器も既存の物を元に創造したと言う。


 そして彼女は、天使たちと共に、堕天使に立ち向かった。

なお天使は強かったが、堕天使たちは数では上回っていた。


「『神降ろし』では、生贄一人につき十数人、神の力を得ることが出来るから

それを同じ連中で繰り返せば、堕天使も一度に、十数人、誕生する」


最終的に、多勢に無勢と言う事もあり、どうにか堕天使を皆殺しにしたが

天使たちも全滅し、彼女一人だけとなった。

そして彼女の鎧の神々しさと、華麗な戦い。

更に戦いの中で堕天使たちの醜い本性がさらけ出された事もあって

後世に残る伝承が誕生したとの事。


「事情を知らなかった頃は、堕天使たちも、

神の使いとして信仰してたから、襲ってきた時は衝撃的だったわ。

そして、味方してくれた天使様が死んだこともあって、

戦いの後、私は自暴自棄となった」


そのまま、彼女は長い年月を過ごした。ただそんな中でも

偶に、白騎士として彼女の言うところの「お節介」をした事もあって

白騎士伝説は広く伝わる事となった。


 彼女が、本当の意味で立ち直ったのは、雨宮との出会いを経てからとの事。

しかし、今の彼女を見る限り、完全に元に戻らなかったようである。


「その後の事は、クロニクル卿に聞いてね。彼と、その恋人、

後の奥さんだけど、二人の個人的な事に関わるから、私の口からはちょっとね」


ジャンヌさんの話を、ここまで聞いたならば、

雨宮が教えてくれるだろうとの事だった。



 彼女が話を終えた所で、ベルが、


「ところで貴女の提案に乗っておいて何ですが、

昨日、何であんな事をしたんです?」


ミズキも


「私、気になりますね」


するとジャンヌさんは、冗談めかしたような声で


「好奇心かな」

「えっ!」


思わず俺は、声を上げてしまう。好奇心だけでも、驚きなのに、


「ほら、アシンって上手いらしいじゃない」


その一言で、思わずズッコケそうになった。


「貴女、神様でしょう迷信を信じて、どうするんです!」


と俺が言うと


「でも、私、上手かったでしょう?貴方だって、初めてとは思えないわよ。

むしろ手馴れているっていうか」

「言っときますけど、初めてですよ」


関係あるかは、分からないが俺は、マッサージ師の才能があるらしい。


(昨日の一件、信者が知ったら、卒倒するだろうな)


思わずそんな事を思っていた。


 するとジャンヌさんは、


「そうだ、神の掟の事話してなかったわね」

「そんな物があるんですか」


すると彼女は、何処か軽い口調で


「掟と言っても、一つだけよ。それは他の神に直接間接問わず、意図を持って、

他の神に危害を加えない事。破ったら死刑よ」

「随分厳しいんですね」

「でも、問答無用って訳じゃないわ。正当防衛なら、無罪放免だしね」


それを聞いて思わず


「じゃあ、ナナシはこの掟を破ってるんですか?」

「ナナシ?もしかしてヤツの事?」

「あっ、すいません。俺が勝手に呼んでるんで、分からなかったですよね」

「でも、悪くないわね。私も、ナナシって呼ばせてもらうわ」


と言った後、


「確かに、ナナシは、掟を破っているわ。しかも大勢の神に危害を加えているから

ヤツに危害を加えても、掟に抵触しないわ。

もし貴方が、奴と戦っても、罪に問われることは無い」


ここでふと思い立って


「あの表向き、光明神と暗黒神は、争ってますよね。それって掟破りなんじゃ」

「光明神と暗黒神は、表裏一体と言うか。他の神たちからは

二柱で、一柱の神と言う扱いだから、例え揉めたとして、内輪の話って事で、

掟破りって事にはならないの。まあ睨まれはするけど」

「睨まれる?」

「そう、掟破りをする神によくあるのが内輪もめと、人類への過干渉」


なお、神々における人類と言うのは、

人間だけじゃなく知的生命体全般を指すらしい。


「特に暗黒大戦なんかいい例ね」


暗黒大戦の話を持ちだされた所為か


「何がいけないんですか、この世界を正すための戦いですよ」


とミズキが言うが


「理由はどうあれ、人間に手を出すことが、問題とされるの」


とジャンヌさんは真面目な口調で返した。


 その言葉を聞いて、不安を感じた。そう俺は既に人間に手を出しているからだ。


「あの俺、もう手を出しちゃいましたけど……」

「どんな事したの?」


俺は、これまでに人間に手を出した出来事をすべて話した。


「それくらい許容範囲よ。種自体に手を出さない限り問題は無いわ」


確かに暗黒大戦は、全人類の抹殺を掲げていたわけだから、

人類と言う種に、干渉した事になる。

あと彼女の行った教団上層部の件や、堕天使の事も、許容範囲との事。


「人類への過干渉が、高じると、神々に手を出すようになる。

実際、掟破りを多くが、人類に過干渉していたそうよ。ナナシもそうだしね。

正直、内輪もめ以上に、危険視されているわ」


それは、小動物殺しが、エスカレートして、人間を殺しだすような物らしい。

かつての暗黒神がそうであるように、神話や、フィクションでも、

人間全体を粛清する神が出て来るけど、他の神から見ると、

そう言うのは、危険な神として見なされるらしい。


「実際、封印されていたとはいえ、暗黒神は、粛清官の監視下にあったしね」

「粛清官?」

「そう言えば、貴方は知らないわね。神々の粛清官と言うのがいるのよ」




「神々の粛清官」

神が、掟を破った時にその神を処断する神々で、

他にも、掟を破りそうな神の監視や、神が関わるトラブルの解決を行う

全員、世界を自在に移動する力を持ち、まさしく世界を股にかけて、活動している。




「それじゃ、俺も監視対象なんですか」

「最初の内はね、でも代替わりして、問題ないって事で、

もう解かれてるわ。いま連中は、ナナシの件で忙しいみたいよ

まあ、粛清官の主たる目的は、そっちだから」


俺の知らない所で、色んな事があるようだった。


 その後も、色々な話を聞いたが、

のぼせてきたので、俺は湯船から、風呂を出ようとすると、


「ご主人様、お体を洗う準備が出来ていますが、洗われないのですか」


と言うイヴの声がした。彼女は、身体の洗浄は終えたようで、

俺の体を、洗おうと待っていたらしい。


「いや、いい」


と言って、今度こそ風呂から出た。


 さて風呂を出て、身体を拭いて、服を着て、居間にて風呂上がりのいい気分で

事前に買って保管していたコーヒー牛乳を飲んでいた。

なおイヴも俺に付いて来る形で風呂を出て、今はメイド服姿で、側に居る。

そして湯上りと言う感じで、もちろん服を着たベルが、呆れ顔で、やって来て、

俺が、コーヒー牛乳を飲んでいるのを見ると、


「私も、貰っていいですか」

「どうぞ冷蔵庫に入っているから」


このボックスホームには、冷蔵庫があって、一部の食料品を入れてある。

それと、俺の飲んでいるコーヒー牛乳は、

異界人直伝と言う触れ込みなので、味は美味しかった。


 冷蔵庫からコーヒー牛乳を飲むベルに、


「どうしたんだ呆れたような顔をして」


すると彼女は


「聞いてくださいよ、あの二人が……」


あの後、ベルは湯船から出で、サウナで、汗を流していたそうだが、

サウナから出ると、ミズキとリリアが倒れていて、


「手を貸してくれない?」


とジャンヌさんに言われて、二人で両人を脱衣場に運んだらしい。

なんでもミズキは、のぼせていたにもかかわらず、

ジャンヌさんが湯船から出ない事に、対抗意識を燃やして、

出ようとせず、するとリリアも、そんなミズキに対抗意識を燃やして、

湯船から出ず。

ジャンヌさんが湯船から出た時には、二人ともダウンしたとの事。


「今、ジャンヌさんが、魔法で介抱してますよ」

「なにやってんだか……」


話を聞いて俺も呆れてしまった。

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