7「ただいま」

 その後、ミズキとリリアが回復するとみんなで朝食とした。なお朝食も、

ジャンヌさんが作ってくれた。中々美味しい料理だったが、

ミズキは、ジャンヌさんに介抱されたことがショックなのか、

暗い顔で、拒否する力も無いようで、黙々と料理を食べていた。


「どう、美味しい?」


とジャンヌさんはミズキに言うが、


「………」


ミズキは黙ったままである。

返答が無いので残念そうな顔をするジャンヌさん。


 そんな彼女に、俺は


「今日は、これからどうします?」


と聞くと


「ナアザの町に帰るつもりよ」

「じゃあ、俺たちと同じですから、一緒に行きますか?」

「いいえ、私は、汽車で、まったり帰るわ。もう切符も買ってる」


と言って、彼女は、何処からともなく、電車の切符を取り出した。


「それじゃ、駅まで、送りましょうか?カーマキシで」

「目立つからそれもやめて」


 この後、朝食を終えると


「じゃあ、私はもう行くわ」


と言って去ろうとするので、やっぱり見送らなきゃいけない気がしたので

俺は、彼女を、歩きで駅まで送っていくことにした。

ベルも付いてきた。ただボックスホームを出る際に


「そうだ、今度、神の世界に連れてってあげるわ」

「神の世界……」


俺の脳裏に、雲の上の神々しい世界が思い浮かんだが


「言っておくけど雲の上でもないし、あんまり神々しいも無いわね」

「俺の心を読んだんですか?」

「いえ、私も、存在を知った時に、そんな事を想像したから、もしかしてと思って」


そこに行くには、ジャンヌさんの力がいるらしい。


「貴方達にとっては見慣れた場所かもだけど、楽しいところよ」


俺としては、気になったので、


「機会があれば」


とだけ答えた。


 その後、駅まで彼女を送って行き、その際に例の携帯電話を返そうとしたが、


「それ、貴方にあげるわ。新しいのを手に入れたから」


そう言うと、違う型の携帯電話を取り出した。

携帯電話は、異界人が持ち込むほか、それ自体がよく飛ばされてくるという。

この世界では使い物にならないから、幾つかは、マジックアイテムの素体となるが、捨てられることも多い。俺に貸していたのも、今持っているのも、

捨てられていたものを基に、彼女が、「創造」で作った物との事。


「そうだ、それちょっと貸して」


と言われ、携帯を彼女に渡すと、彼女は、何かの操作をして、


「これで、私とも自由に連絡が取れるから」


と言って返してきた。どうも連絡先の登録の様な物をしたらしい。


 そして、


「それじゃあ、二人とも、またナアザの町で」


そう言って、彼女は駅へと入って行った。残された俺たちは、


「俺達も帰るか」

「はい……」


昨夜の事もあってか、何だか暗いベル、ちなみこの時、カオスセイバーⅡは

宝物庫に入れてあったので、街から出ると、人気のない場所で取り出し、

車に乗り込み走らせた。


(またおかしな事が起きないだろうな)


と思いながら、車を走らせたが、特に問題が起きる事も無く

むしろ不気味なくらい順調に進み、途中昼休憩を入れつつ、

ナアザの町の側までやって来た。

車で街に入ると目立つので、いつもの様に目立たない場所に車を停め、

全員降りた後、車は宝物庫に仕舞い。俺たちは歩きで町に入った。


 数日、町を離れていただけなのに、町がこれまでとは違っている様に見えた。

そのまま、一旦真っすぐ、アパートに戻る。


(ほんの数日、離れていただけなのに、何年も留守にしてたような気分だな)


さて部屋に戻ってくると早速ベルが、例の壁の方に向かった。

思わず俺は、彼女の後を追っていた。そして壁の前に立つと

付いて来ていた俺に、


「ここに入り口を作ってもいいでしょうか?」


と聞いてきたので、


「別にいいけど」


と俺が答えると、彼女は


「ありがとうございます。では……」


と言うと壁に手を当てる。するとそこに扉が出現した。


「!」


突然の事に、少しばかり驚いたが、彼女は扉を開けながら


「中を見て見ますか?」


と言われたので、思わず


「ああ……」


と答え、部屋を覗き込んだ。


 中は寝室で、高級そうな大きなベッドと、

あとアンティーク調なテーブルとイスがあるだけで

他には家具はないが、絨毯や壁紙が、随分と高級そうだった。


(なんだか、金持ちの寝室って感じだな、やっぱりお嬢様だな)


そんな事を思っていた。そしてベルは、


「ここは、私のダンジョンの寝室です」


と説明する。なお部屋の奥には、更に扉があって、

そこから、あのダンジョンに通じている模様。


 さて、彼女の部屋を見せてもらった後は


「ちょっと出かけて来る」


と言って、俺は出かけた。なおベルは、まだ力が戻っていない上で、

扉を作っただけでなく、それに伴うダンジョンの改編も必要だったとの事で

力を消費して疲れたので、一休みすると言う事で、付いてこなかった。


 出かけた俺の行き先は、もちろんinterwine、店の前に来ると、

最後に来た日にはなかった張り紙があった。

もちろんこの世界の文字で、翻訳すると「従業員募集」と書かれていた。


(そう言えば、電話で話をした時、従業員が辞めたんで、

募集しなけりゃいけないって言ってたな)


そして、店に入ると、雨宮の姿があって、アイツは俺の事に気付くと、嬉しそうに


「戻って来たんだな。おかえり」


と言ってきたので、思わず。


「ただいま」


と返した。電話で話はしていたものの、数日会っていないだけで

もう何年も、会っていないような気がした。


 今はすいている時間帯で、俺は、カウンター席に座って、

夕食には早い時間なので、おやつ的な物を注文した。

そして注文したものを、持ってきた際に、


「そう言えば、いつ戻って来たんだ?」

「今さっき、一旦アパートに戻って、そのまま、ここに来たから」


その後は。昨夜の事は、話さず、ただジャンヌさんと会って、

彼女の過去の事を、聞いたとだけ話したが、


「もしかして、ボックスホームに、あの人を泊めたか?」

「どうして、そう思うんだ。確かにそうだけど」


雨宮によると、車での移動を考慮して、途中で昼休憩をしたとしても

この時間に帰ってきたと言う事は、距離的に、

あの町を朝に出たと言う事になるとの事。


「本来なら、昨日の夜には、この街に着いてるはずだから

途中で、宿泊した事になるだろ。あの町を朝に出たと言う事は、

宿泊したのは、あの町か、その近隣になる」


そして雨宮は、ジャンヌさんが白騎士である事を知っていて、

白騎士が、昨日、あの町に現れた事が伝え聞いていたので、

ジャンヌさんが、あの町にいる事を知った


「それで、町で会って、そのままボックスホームに招いて

一晩過ごしたんじゃないかなって、それに彼女の過去は、

人前じゃ話せないし……」


確かに、あの話は、人前ではできない。


「お前、何か雰囲気変わったな。もしかしてジャンヌさんと……」


と言いかけて、


「いや別にいい……」


と言って、それ以上、何も言わなかった。


(もしかして、昨夜の事が、見透かされてるのか?)


と思ったが、俺も話したくない事なので、俺もそれ以上、聞くことは無かった。


(でも、ミズキたちの事まで、分からないだろう)


とは思ったが、後にミズキたちの事も含めて見透かしていた事を知る。


 その後は、客がいないので、雨宮の手が空いていると言う事もあって、

色々と雑談したいたが、そこに、


「カズキさんじゃないですか」

「君は……」


やって来たのは、馴染みの受付嬢だった。今は休憩時間で、

軽くお茶をしに来たとの事。彼女は俺の横に座り、注文をした後、


「最近ずっとギルドに来ないから、心配してたんですよ。どうしたんですか?」

「ちょっと、旅行かな」

「そう言えば、ベルさんも、来てませんでしたけど、

もしかしてご一緒でしたか?」

「ああ……」


と思わず答えていた。すると彼女はニヤニヤ笑いながら


「お二人で旅行とは、仲がよろしいんですね」

「二人きりじゃないから、イヴもいたし、他にもいたから」


妙な勘違いをされても困るから、釈明はした。もちろん、二人きりでないのは、

事実である。受付嬢は


「そうですか」


と答えたものの、ニヤニヤ笑っているので、信じてくれているかは疑問である。


 ここで受付嬢は、思い出したように


「そう言えば、魔族の襲撃がありましたが、大丈夫でしたか?」

「離れた場所だったから、巻き込まれず済んだ」

「それは良かったです。でも奴らは突然やってきますからね。気を付けないと」


更に思い出したように


「そうそう、最近になってまた暗黒神復活の噂が、広がってるんですよね

この前は、この地方でしたけど、今度はログエスの森の方ですね。

しかも、森が吹っ飛んだとか、そう言えば、前にもあの辺に、現れたって

噂でしたから、もしかしたら、あそこにいるのかも」


と言いつつも


「まあ、正式発表が無いから、どうこう言えないんですけど、

まあ魔族の事と言い、これからは気を付けた方が良いかもしれませんね」


その後は、特に会話も無く、出てきた料理を食べ終わると、料金を払い


「またギルドで会いましょう」


と言って去っていった。


 また冒険者としての日常に戻る。でも昨夜の事もあってか、


(これまでとは、違うものになるかもな)


そんな気持ちも抱えていた。

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