5「好色槍使い」

 宿を出た俺たちは、偽ルインから倒すことにした。

そこは宿の少し離れた場所にある酒場で、他の中ボスの場所に比べて近場で、

位置関係からも、コイツから始めれば、最短距離で、他の中ボス、

更にはボスへの向かうことが出来る。

加えて、侵入して来た俺たちの探索に人員を割いているのか、

共通してボス、中ボス共の周りは手薄なのだが、中でも偽ルインの方は、

中ボスの周辺に、一人しかいない。


(しかしこの動き……)


 その一人と言うのが、中ボスと重なり合っている様な

妙な動きをしていた。そして敵に近づくと


《今は、行ってはいけません!》


と血相を変えたような声を上げるクラウ。


<辞めといたほうが良いわね>


と同意するフレイ


〔良いんじゃない。奇襲には、もってこいだけどなあ〕


とミニアは異論を唱える。


《他を回った方がよろしいかと……》


これに対しては


<それだと、遠回りなるわよ>


フレイは反対し、


〔そうそう、ちょっと待てばいいんだからさ〕


フレイに、同意するミニア。ちょうどこの時、反応に変化が、両者の反応が離れた。


〔ちょうど良いわね。終わったみたい〕


そして俺達は、酒場に向かって、足を進めるが、

何故かクラウ達の声が聞こえるベルは、


「何が起きてるんでしょうね。千里眼が使えればいいのですが……」


俺は、状況から、何が起きていたのか何となく分かっていたけど、


「何だろうな……」


と誤魔化した。


 酒場に着くと、敵が外に出ようとしていたので、一旦物陰に隠れる

そして、出てきたところを、フレイで狙う。

敵は、筋肉質でガタイがデカい男だった。あと髪は短いと言うか、

スポーツ刈りのようで、顔は厳つく、見るからに強さと、

荒々しさを醸し出していた。服はローブである。

そして手には、かつてのミニアこと魔槍ルインを持っていた。偽物ではあるが、

見た目は、ほぼそのままであった。

 

 俺は、銃を撃った。弾は「誘導」のお陰か、確かに槍に当った。

正確には振り払われたと言うべきだろうか。防がれたと言う感じだった。

「雷撃」も付与しているはずだが、効いてる気配が無い

もう一発撃った。これも槍に当るが、同じように防がれたような感じになって、

「電撃」は威力を高めたものの、効いてる様子もなく、手ごたえは感じなかった。


 男は、低く、大きな声で


「そこに隠れてる奴、出てこい!」


こっちの方に、槍を向ける。ばれているなら仕方ないので、

俺達は、物陰から出て奴の前に、身を晒した。


「ほぅ、女が三人、いや一人はオートマトンだな。あとは……」


いやらしい笑みを浮かべつつ、舌なめずりをした

そして俺の持っているフレイに気づいたのか


「ほう、お前も銃を使うか。だが淫欲の力を満たした魔槍ルインの敵ではないわ」


と言って、見せつけるように槍を振り回す。


「淫欲の力?」


とベルが言ったからか、ご丁寧にも説明を始める男


「魔槍ルインは、淫欲を喰らい力を高める槍」


洞窟での爺さんと同じで、自分が有利だと思っているのか、

かなりおしゃべりで、さっきまで何していたかまで話し続ける。


「………」


鎧の所為で、表情は分からないが、ベルは軽蔑の眼差しを向けてるように思えた。


 そして


(なあ、ミニア……)


聞こうとすると、


〔戦いの前に、あんな事しても、何もないわ。アレな夢を見せる事はあっても、

アレで力を高めることは無い〕


ミニアは苛立ってる様な声で言い、


〔私に変わって、直接やり合いたい〕


だが、この時不安を感じた。斬撃、ミニアの場合は突撃だが、

相手は、魔装使いだから0は、あまり意味はない。

加えて、いい気分のしない相手だが、怪我で済めばいいが

うっかり殺してしまうかもしれない。

「習得」は、何をしているか分からなくなる事が有るのだから。


〔練習のいい機会よ、ご主人様。『習得』の制御のね〕

(制御?)

〔自由自在に技を出せるようになれとは言わないけど、

せめて目標を定める事くらいわね。難しい事じゃないわよ

敵の「槍」に集中するの、そうすれば攻撃は槍だけを狙うわ〕

(槍だけを狙う……)


 俺は、彼女に言う様に武器を切り替え、構えた。すると男は、話をやめ、


「ほう、お前も槍を使うか」


男も、槍を構え、


「我が名は、シュウヴィオ、魔槍ルインの使い手、さあまとめて掛かってこい!」


俺だけじゃなく、イヴもベルも、武器を構える。するとミニアが


〔手を出さないで、コイツは私とご主人様だけで倒す!〕


確かに、「掛かってこい」とは言われたが、魔王ベルとは違って、強いかもしれんが

人間の域を出ていなそうな奴を相手に、流石に三対一は卑怯な気がした。


「イヴとベルは、周りの警戒していてくれ。余計な邪魔が入らない様にな」

「和樹さんは?」

「俺は、ミニアの意見を尊重して、コイツと戦う」


するとシュウヴィオは、


「一人で挑むか、良いだろう。」


そしていやらしい目つきで


「安心しろ。負けても殺しはしない。じっくりと楽しみたいからな。

それに、アシンも抱いてみたい」

「!」


奴は舌なめずりする。一応、遠見、感知を妨害する魔法の効果が続いているはずだが


(コイツ、俺が亜神、つまり両性具有だってわかってるのか?)


疑問は感じつつも、俺は、ミニアの言う様に、槍に集中しながら、

シュウヴィオとの戦闘を開始した。


 槍と槍が交差する。偽物とはいえ、槍は丈夫。その上、相手の腕前も、

手練れの様で、こっちの習得による槍術とほぼ互角に渡り合う。

しかし、体格と筋肉質の所為で怖いのと、あとイヤらしい笑みと、

時折、舌なめずりして


「フヘヘヘヘヘヘ」


と笑う様子が、どうにも気持ち悪くて、何度か槍への集中が途切れそうになった。


(中々壊れないな……)


 あくまでも槍の破壊が優先。ただ、ザコどもとは違って、

この男は、筋肉隆々で、槍が無くても強そうで、武器を破壊されても、

逃げるような気がしない。この思いを察知したのか。


〔大丈夫よ。あの槍を壊せば、後は、どうとでもなるから……〕


 とにかく、意識を敵の槍に集中させつつも、戦いを続ける。

この戦いでは、これまでと違って、ミニアはどういう訳か、喘ぎ声を出さないから

悶々とすることは無いが、代わりに、シュウヴィオが、攻撃をしながら、


「気に入ったぞ。必ずお前をものにしてやる。

まずはその鎧を剥ぎ取って……」


この後は、俺にどんな事をするか、延々と語る。

もちろん、性的な内容で、聞いてイライラしてきて、


「いい加減にしろ!このエロオヤジ!」


次の瞬間、技名は、叫ばなかったがインヘル・スティングが発動していた。


「グッ!」


シュウヴィオは、技を受け止め、


「グォォォォォォォ!」


と声を上げつつも、耐え切り、


「ドリャ!」


掛け声で、俺を弾いた。


「!」


俺の体は、宙を舞った気がしたが、「習得」のお陰で、気づくと、

上手い感じに、地面に着地していた。状況を見ていたベル曰く、俺は、特撮ヒーローの如く、回転しながら、体勢を立て直し、格好つけた感じで着地したそうだ。


(ヤバかった……ヤツに当たるとこだった)


 攻撃は、槍ではなく、明らかにシュウヴィオ自身に向いていた。

たぶん奴の言葉に、苛立って、狙いがズレたんだろう。


(まあ、耐えきってくれて良かった……つーか、何であんな奴の心配してるんだろ、俺……)


俺は、意識を改めて槍に集中させ、敵に向かって行った。


 再びと言うか、さっき程よりも激しく槍がぶつかり合うのを感じる。

後にベルから聞いた話では、着地の後から、より激しい攻撃をしていたとの事。

そして槍のぶつかり合いが続く中


「百襲突!」


自然と奥義が出た。高速で何度も相手を突く技。


「レッドランシング!」


向こうも、同様の技で、応対してきて、お互いの槍がこれまで以上に

激しくぶつかり合う。


 暫しその状態が続いた後、更なる奥義が発動する。


「風神突!」


槍に竜巻の様な物を纏わせ、薙ぎ払う。向こうも


「テンペストランシング!」


同様の技を、ぶつけて来て、槍と槍が激突し、鍔迫り合いみたいになり、

やがて相打ちみたいになって、互いに軽く吹き飛んだみたいだった。


 俺は、自然と体制を立て直し、


「流刃突!」


槍を構え高速で突撃する。その速さ故か、避けられなかったのか

インヘル・スティングと同様に、シュウヴィオは槍で技を受け止め、


「グォォォォォォォ!」


と同じ様に声を上げつつ、耐え抜いて


「ドリャ!」


掛け声と共に、俺を弾く、大きく吹き飛ばされた俺は

気づくと着地していて、敵に向かって行ったが、ベル曰く、

弾かれた俺は、先と同様に特撮ヒーローの如く、空中で、回転しながら、

体勢を立て直しカッコよく、着地して、間髪入れずに敵に向かって行ったそうだ。


 再び槍と槍がぶつかり合う。


「絶対に、お前を……」


奥義を使うとき以外は、敵の言葉によるセクハラをしてくるが


(槍、槍、槍、槍、槍……)


ひたすら俺は、敵の槍の事を考え、とにかく、敵の槍に集中した。


 互いの槍がぶつかり合う中、途中から、相手もセクハラを言わなくなった。

と言うよりも顔から余裕が消えていた。後にベルから聞いた話だが、

俺は、大きく吹き飛ばされるごとに攻撃が、熾烈になって行ったらしい。

一度目は、敵も対応できたようだったが、二度目以降は、

最初の内こそ、上手く対応していたが、途中からは押されていき、

あと防戦状態で、俺の一方的な状態になっていたそうだ。


 俺は、相手に余裕が、無くなって来たことには、気づいていたが

こっちが、一方的になっていた事までは気づかなかった。

「習得」を使うと、何やってるか分からなくなる事が有るのと、

俺自身は、ひたすら槍の事を考えていたからだ。


〔いい感じよ。そろそろ向こう槍は限界ね。ご主人様、ここは一気に決めましょ〕


 彼女の提案に反応するように、俺の体が、地面を蹴って、

一旦間合いを取る。もちろん必殺技は、きつ過ぎるので奥義で決める。


「紫電一突……」





「紫電一突」

紫電一閃の槍バーション、槍の威力を高めるだけの

単純にして初歩的な技。




かつてミニアが出会った女性剣士の技で、この剣士は槍も使えたと言うが

どうも、クラウが出会った極斬嵐の使い手の同じ人物らしい。


 俺は、何か考えがある訳でもなく、自然とこの技を選んでいた。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


と自然と声を上げながら、敵に向かって行った。

向こうも


「ハイパーランシング!」


向こうも、奥義を使い迎え撃って来た。ぶつかり合う槍、

だがすぐに、敵の槍は、砕け散った。本人が手にしている柄だけが残る


「バカな!魔槍ルインが!」


そして、ミニアは


〔所詮は、偽物。今から本物の力を見せてあげるわ〕


次の瞬間、シュウヴィオは、身体が痙攣を始め、

手に握っている柄が地面に落ちた。


「あ……あ……」


と声をあげ、顔を赤らめ、涎をたらし、そして倒れた。

この後、シュウヴィオがどうなったのかは、ここ記すには、憚られることであるが、

言える事としてはミニアが「幻惑」を使った事。途中、


「やめろ!このままじゃ、どうかなっちまう!」


と叫んだ事、そして今は、目から涙を流して、口から泡吹いて、悶絶してる。


「おい大丈夫か、コイツ」

〔大丈夫よ、死にはしないから、まあ二度と使い物にならなくなったろうけど〕


なお、偽のルインは「幻惑」を防ぐ力が有ったとの事で、

破壊した事で、通じるようになったとの事。


 念のため、フレイに切り替え、コイツを、鳥もちで拘束した。


「こっちもお願いします」


と言うベル、彼女の足元には、ローブを着た女性がいた。

彼女は、シュウヴィオの部下の様で、酒場に一緒にいた人物。

魔装の槍で、加勢しようとしていたが、ベルが槍を破壊し、気絶させたとの事。

彼女も鳥もちで、拘束した。


 ここで、ふと思ったのだが


(そういや、他のザコにも鳥もちを使えば……)


そうすれば、逃げかえることはできないから、粛清されることもない。


(でも、弾数がな)


鳥もちの生成時間の事があるから、途中で弾切れを起こして

回復するまで、待つことを考えると、面倒くさくなって、

その考えを打ち消した。


 一方、


「槍の破片は、拾って行ってもいいですよね」


と言ってベルは、偽ルインの破片を集め、収納空間に仕舞った。

俺としては、ご勝手に気分で、それよりも俺は、今後の事が気になっていた。


(残りは三人か……)


ベルが破片を拾い終えると、シュウヴィオの部下が、戻ってくる前に

その場を立ち去り、次の敵のいる場所に向かう。


 途中、ふと気になった事がある


(何でアイツ、俺が両性具有だって分かったんだろう?)


勘か、あの槍の能力か、当の本人は、悶絶して、

まともな回答は期待できないし、もう場を離れていることもある。


(どうでもいい事だな……)


そう思った俺は、それ以上考えなかった。


 それともう一つ


(ミニア、お前、喘ぎ声を上げずに戦えるんだな)


すると彼女は


〔腹が立つだけで、気持ちよくなかったからよ。〕


と言った後


〔使ってくれてありがとうね。お礼は必ずするから〕


何をするかは気になるが、とにかく今は、先に進むことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る