4「宿の女将さん」

 そして、今後の段取りであるが、七魔装の持ち主が、このチンピラどもの、

大ボスで、他は中ボスみたいなもの。頭から潰すとは言え、

いきなり大ボスを倒したら、中ボスたちも逃げてしまう可能性がある。

そうなったら、クラウ達の目的は、果たせないので、ザコは相手にせずとも、

ここは、ゲームの如く、中ボス、大ボスの順に倒していく事となる。


 さてザコは相手にしないので、一旦、路地裏に入って、コソコソと進んでいるわけであるが、


(どういう事だ)


「周辺把握」によれば、敵と思われる反応が、俺たちの方へと、

真っすぐ向かって来る。連中のボスが、奇襲を想定して、

適した場所に人員を送り込んでいるのかもしれないが、

しかし、敵の動きは、俺達を狙いすましたかのようで、まるでこっちの動きが筒抜けになってるように思えた。


「いたぞ!」


遂に見つかった。俺は


「煙幕!」


フレイのシリンダーが「カチッ」という音立てて動き、

そして数発撃って、規模の大きい煙幕を発生させ、その場を逃げる。


(これじゃあ、結局、ザコと戦わなきゃいけないのか……)


別に、連中の命なんて、俺にはどうでもいい事だし、殺されても、

俺が罪に問われる事でもない。


(それでも……)


やっぱり割り切れない。ベルは「お優しい」と言ったが、結局は、腰抜けなだけ。


 その後も、逃げに転じていたが、


《あのもしかしたら、連中も『感知』を持ってるのでは》

「そう言えば、敵の持ってるお前の贋作が、同じ力を持っていてもおかしくないな」

《それだけでありません。奴らが持ってる本物の七魔装も、

持ってる可能性があります》


クラウは、他の七魔装については、噂で聞く程度の事しか知らずにいて、

その噂の中には、感知スキルを持っていると言う話は無かったが、


《これまで、出会った七魔装は全員、感知を持ってるんですよ》


大なり小なりあるものの、フレイもミニアも「感知」を持っている。

だから、「感知」は七魔装すべてに、共通しているのではないかと言う考えに至ったとの事。


 ともかく、感知によってこっち状況が、筒抜けになってる可能性がある。


「どうすれば……」


と思わず口に出してしまうが、ここでベルが


「あの~私のダンジョンで使った「遠見」を妨害する魔法を使えば、

よろしいのでは?」


と言われて


「あっ、そうだった……」


俺は早速、「遠見」を妨害する魔法をつかった。

コイツには感知を妨害する効果もある。

なお、ベルに言われるまですっかり忘れていた。


 その効果はと言うと、


「うまくいってる」


敵の動きが、迷走し始めた。どうやら俺たちの事を見失ったみたいで、

この状況を利用して、俺達は再度、敵の元に移動を開始したのであるが、


「ん?」


「周辺把握」で察知したとある反応が、気になった。


「どうしました?」

「少し行ったところで、弱弱しくて、消えたり現れたりする人の反応が有るんだ」


すると、


《私の方でも、察知してます。この弱弱しさ、怪我をしてるせいですね》

「反応が、おかしいのも、その所為か?」

《いえ、これは、今マスターが使っているのと、同じ様に

感知を妨害する魔法だと思います。ただ効果が切れかけているんです》


ベルが


「どうします?」


と聞いてきた。


《私の見立てですが、奴らの仲間ではないようです》


それを聞いて、


(奴らの仲間じゃないなら、見捨てると、寝覚めが悪そうだ)


加えて、奇襲の為に近くを通ると言う事もある。


「放っては置けないな」


その人物の元に行く事にした。


 やがて、路地裏で、蹲り身を隠している女性を見つけた。

そして女性に近づくと、俺たちは、


「《「あっ!」》」


と思わず声を上げてしまい。向こうはこっちに気づく、そして警戒し、短剣を構え


「誰だい。アンタら……」


こっちの姿をじっと見つめた後、


「アイツらの仲間じゃなさそうだね」


と言って、短剣をおろし、警戒は解く。一方の俺は思わず


「女将さん……」


と言っていた。

そこに居たのは、この町に来た時泊まっていた宿屋の女将さんであった。


「アンタ、ウチの宿の客かい?」


女将さんは俺の方をじっと見つめ、


「その鎧、そうかアンタは……」


女将さんは、穏やかな笑みを浮かべると、


「白騎士様だね……」


確かに俺の鎧は、白騎士って感じだけど、

この人は、何かを勘違いしてる様な気がした。


 それよりも、気にある事が


「怪我されてますよね」

「アタシしたことが、下手を打ってね。回復魔法を使っても、

止血しか出来なくて……」


ここでベルが


「でしたら私の回復魔法を……」


すると、ある程度は、治ったようであるが


「完全には無理の様です。何なんでしょうか、この傷は」


すると


《傷口の辺りから、瘴気を感じます。》




「瘴気」

スキルや魔法の他、自然発生もしている毒を帯びた気体。

毒とはいえ、致死量は、多いので、それだけで死に至らしめる事は出来ないが

身体に様々な不調をもたらせ、病気を誘発させることもある。

土地が汚染されると、長きにわたって住むことはできない。

瘴気を帯びた武器で付いた傷は

治りが悪く、回復系の魔法やスキルの効果も軽減させてしまう。



《マスターの、状態異常回復の魔法なら、瘴気を消せます》


俺は、早速、それを使い、その上でベルに回復魔法を使ってもらい

傷を治した。


「今度は、完璧に治りましたよ」


余談であるが、瘴気と言うのは、土地が汚染されるなど大規模なものを以外では

クラウの様に、分る人もいるが少数で、大抵は、魔法、スキルを持っても

分からないらしい。


 傷が治ったので、女将さんは、


「ありがとう」


とお礼を言いつつ、


「白騎士様とその従者……もしかして、奴らを倒しに……」

「はい」


と答えると、彼女は、イヴの方を見て


「ところで、そこのメイドさん、そんな格好で大丈夫かい?」

「彼女は、こんな身なりですけど、戦闘用の自動人形で、十分強いんです」


と説明する。ちなみに、身なりとは言うが、女将さんも、シャツにスカートで

エプロンが無いだけで、以前に宿で会った、つまり普段の格好で、

短剣は持っていたが、明らかに戦闘向けの格好じゃない。


 そんな事よりも、敵の接近に気づいたので


「ちょっと、ここは危ないんで、移動しましょう」

「だったら、アタシの宿に行こう」


言われてみれば、ここは、彼女の宿の近くである。

女将さんも宿に逃げこもうとして、途中で動けなくなっていたと言う。

その後、裏口から、彼女の宿へと入った。


 「周辺把握」で中に人が居ないのは確認したが、女将さんは


「戸締りは、魔法で、きちんとしてたからねえ、

七魔装でも破って入ることはできないと思うよ」


と言った。


《強力な結界を張ってますね。張ったのはこの人の様ですが、何者でしょうか?》


関係あるかは分からないが、以前、ダーインスレイヴを持っていた時も

警告めいた事を言われた。

なお結界は、建物に入るためにか、女将さんが一旦解いていて、

中に入ると、再び結界を張りなおした。


 建物に入ると、一階のエントランスに来たところで一息ついた。

魔法で相手の「感知」を妨害してるせいか、宿の方に敵が来る気配はないし、

エントランスは、戸締りをしている関係で、外からは様子が分からない。

ここで女将さんに


「あの、何で貴女はここに?娘さんが探してましたよ」


と聞くと、


「相手が、暗黒教団と分かると、どうも黙ってられなくてね。

アタシ、元審問官だから」

「えっ、女将さん、異端審問官だったんですか」

「と言っても、捜査と、戦闘は補助専門でね。

まあ審問官は、ただでさえ表立ってない所、余計に目立たない仕事さ」


と謙遜したような言い方をした。


(女将さんが、勘が鋭いのは、その所為なんだろうか……)

《補助専門で、そのまま極めた結果、あれだけの結界が張れるんでしょうね》


結界は、補助魔法に分類される。


 更に話を続ける女将さん


「もちろん、アタシ一人で、連中をどうにかしようと思ってないさ、

ただ、対処に当たってくれる冒険者や、現役の審問官たちの、

手助けになればって、思ってね」


昔取った杵柄で、単身で、突入して、敵の状況を調べ上げた後、

脱出して、後からやって来た冒険者なり、衛兵なり、審問官なりに

情報を伝えるつもりだったらしい。


「情報は、あらかた集めたんだけど、いざ帰る時に、ドジを踏んじまってね。

アンタら、珍しい武器なんだけど、銃は……」


俺の、腰についているフレイを見たのか


「知ってるね……」


と言った後


「それで、撃たれちまってねえ」


ここで、ベルが


「確かに、貴女の傷は銃創でしたね。弾は貫通してるみたいでしたけど」


銃と聞いて、いやな予感がした。


「連中の何人かには、銃を持ってる奴がいるから、気を付けた方が良いよ

それと、ちょっと待ってて」


 この後、女将さんはカウンターの奥に行って、筒の様な物を持って戻って来て、

床に広げ、彼女はしゃがんで文字を書き入れる。

それは、彼女が集めてきた情報であった。


「奴らと戦う役に立ってくれればいいけど」


内容は敵の位置で、俺も「周辺把握」等で知っている事であったが

中には、俺たちの知らない事が有った。それは、連中の持っている武器の事だ。

七魔装とその贋作を持っている事は分かっていたが、

誰がどんな武器を持っているかは分からなかった。


「敵は、ボスに、三人の部下、更にそいつらが、各自部下を従えてる」


三人の部下、要は中ボスの各自の部下、ようは下っ端たちは、

各自中ボスに、合わせた魔装を持っている。俺達が、最初に戦ったチンピラは、

刃物を持っていたので偽ダーインスレイヴの持ち主の部下と言う事になる。

鈍器の方は、分からないが。


 女将さんは、メモだけでなく地図を指さしながら

だれがどの武器を持ってるかを教えてくれた。


「アタシは、七魔装は聞いてはいるけど、実物は見たことが無いから、

奴らが勝手に言ってるだけで、本当に七魔装かは、分からないんだけどね」


町の前で、声を掛けてきた男性と同じような事を言ったが

彼女は、実物を見ていて、見るからに、ヤバい武器だったらしい。


「そういやダーインスレイヴっぽい剣は、前に客の一人が持ってた剣に似てたねぇ、

手放したって話だけど……」


鎧の所為で、女将さんは、その客が俺だとは気づいていない。

あと実際は、手放してはいないわけだが。


 そして、地図のとある場所を、指さしながら


「そういや、ここに居る奴は、銃を持ってるんだよね。アタシを撃ったのは、

コイツの部下だと思うけど、七魔装に銃なんて有ったかねぇ……」


銃が出てきた段階で、まさかとは思ったが、

どうやらフレイの贋作もいるようだった。


 そして、情報を得た俺達、


「情報を教えてくれて、ありがとうございます」

「さっき助けてくれた礼だよ。まだ足りないくらいだから

事が終わったら、きちんとした礼をするつもりさ」


なお外は危ないので、女将さんには、ここに居てもらって、「周辺把握」で、建物の周囲に、敵がいない事を確認し、一時的に結界を解いてもらい俺達は外に出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る