3「ありふれたチンピラども」

 町に入ると、最初の内は静かだった。「周辺把握」によれば、人が居るのは、

もう少し先に進んだ所であったが、こっちの状況をかぎつけたか、連中はこっちへと向かって来る。なお町中なので、周囲への影響を考え、バーストブレイズは厳禁。

武器による攻撃がメインとなるが、問題があった。


《斬撃を0にするのは、辞めておいた方が良いと思います。魔装の力で、連中は簡単に気絶しないでしょうから》


 相手がろくでなしと分かっていても、人殺しはどうも抵抗があった。


〔私の経験だけどさあ、魔装を使う奴ってのは、武器を壊されたら

戦意を喪失するから、武器だけ狙えば、良いんじゃない〕


俺の心を読んだのか、アドバイスをするミニア。

確かに「習得」を使えば、そういう事も簡単だろうが。

ただ、「習得」を使えば自分が、何やってるか、分からない事が有るから、

殺傷力を無くせない分、不安だった。


<だったらアタシに、おまかせ。『誘導』で武器だけを狙えるわよ>


横から、フレイのアドバイスを受けて、確かにその手が有ると思った俺は

武器をフレイに切り替えた。


 やがて敵が、姿を見せた。以前に、戦った教団の連中と同じ、ローブ姿であったが

なんか着こなせてないと言うか、荒々しい着方と言うか、

あと、フードは被ってないから、顔は丸出しだが、これまた全員、荒っぽい。

そして全員、自慢げに、魔装と思われる武器、長剣や、短剣を見せびらかすように、手にしている。


「なんだぁ~お前ら……って、女じゃねえか!」


全員、下品な笑みを見せ、舌なめずりをする。


「女だ!女だ!」


と声を上げる奴もいる。


(モヒカン刈りじゃないけど、無法地帯のチンピラだな、こいつら)


 俺は、銃を敵に向ける。弾は、通常弾に、「雷撃」を付与させている。

奴らが来る前に準備していた。あと「投擲」も使用できたが、

「雷撃」での強化も同じくらいだし、それに例え、武器が破壊できなくても

電気ショックで、武器を、手放させることもできる。

なお、これもフレイのアドバイス、それと電気は抑えめ。


 敵は、銃にひるむことなく、大きな口を張って、舌を剥き出しにしながら

手には、魔装と思われる短剣を手に


「ヒャッハー!」


とか言う感じの声を上げながら勢いよく襲って来る。そして俺は、フレイの「誘導」を信じて、銃を撃った。


「ギャア!」


男の持っていた短剣は、銃撃で折れ、刃が宙を舞った。あと男も「雷撃」のよる電気ショックで倒れる。


<ショックで気絶してるだけよ>


それは、俺でも分かった。


 俺の攻撃を皮切りに、戦闘モードのイヴによる専用武器の二丁拳銃による銃撃、

ベルは剣戟で、攻撃を開始した。一応二人には、敵を殺さず、武器を破壊するように頼んでいて、両者ともにそれを守ってくれてるようで、二人も、敵の攻撃を、軽々と避けつつも次々と敵の魔装を破壊している。


 魔装を持っているが、敵はあまり強くはなかった。


《武器は、強力ですが、戦い方は素人ですね》


なんせ剣を、適当に振り回してるだけ、剣の少女よりもひどい。

それだけじゃなくて剣相手で、「誘導」百発百中の銃撃と、

戦闘モードのイヴ、こっちも銃撃とかなり卑怯な上、ベルは剣戟で、

本調子ではないとの事だが、そうは思えないほどの手際の良さもあるから、

こっちが有利すぎるだけなのかもしれない。なお銃撃に対しては、

連中は、なぜか文句を言ってこない。


 そして連中は、武器がやられるたびに気絶する。気絶しなくても


「ヒィィィィィィ!」


と声を上げながら逃げていく、言ったら悪いけど、正にザコキャラ。


(やっぱり、コイツらは無法地帯のチンピラだ)


中には、逃げていく際に


「言っとくが俺たちの主人は、七魔装を持ってるんだ。主人の手に掛かりゃ。

お前らは、お終いだ!」


と負け惜しみの様な事を言いながら、逃げて言った奴もいた。


 やがて気絶していた奴も起き上がって、やっぱり悲鳴を上げるか、

負け惜しみを言って逃げて行く。


(何だかベタな奴らだな。それにしても……)


奴らが残していった武器の残骸。デザインも不気味だが、破壊されてもなお、

禍々しい気配が、感じ取れた。しかし、長剣は長剣で、短剣は短剣で、

こん棒はこん棒で、デザインが、みんな一緒。


「まるで安物の量産品みたいだな。魔装ってのは大量に作れたりは?」

《魔武じゃあるまいし、魔装は、一品ものですから量産は無理ですよ》




魔武

魔法、或いはスキルの力を宿した武器や装備。

安物なら、ある程度量産化されているが、普通の装備に比べ高価。

魔装とは異なり、使っていても、身体を蝕まれることは無いが、

ただし、長い年月経つと、突然変異を起こし、魔装となることもある。




《これらの武器から感じる気配は、確かに、魔装ですが、力は安物の魔武並ですね。まあ、一般人や、駆け出しの冒険者なら、太刀打ちできないでしょうが、

一般的な冒険者なら、対処できるでしょう》


と言いつつも


《まあ、相手は大人数ですから、気を付けなければいけないでしょうが》


確かに、今のは序の口、「周辺把握」によれば、敵と思える奴らは、まだまだいる。


 あと、ここで思い出したように


《マスターの『創造』なら、私と同じ位の魔装を量産するのは、容易いでしょうが》


確かに、クラウの言う通りだが、それはフルパワーでの事であり、

現状では、イヴの装備の様に大変だ。そもそも、量産化する意義は感じないが

クラウ達は、破壊されても、必ず再生するから、予備は必要ない。

そもそも、七魔装の量産化の危険性は俺にも分かる。


 ここでベルが、


「この武器の、残骸はもらってもいいでしょうか?」

「いいのかな……」

〔どうせゴミだから、いいんじゃない~〕


結局、残骸は、ベルが集めて収納空間に仕舞っていくが


「どうするんだ?」


と聞くと


「装備作成の材料にしようかと……」


カオスティック・ザ・ ワールドには、様々な装備や素材を合成して、

新しい装備を作る機能がある。武器の中には、この方法でしか作れない

武器も存在する。特にゲーム中の、当時の最強武器は、正にそれ。

なお本来は店で行うとの事だが、これも鍛冶師なら自分ででき、

もちろん、魔王もできる。


 ベルが、残骸を集めている間、敵は、逃げていくだけで、

第二波と呼べるものは無かった。ただ、彼女が武器の残骸を集め終えた時、


「!」


逃げていった奴らと思われる反応が、消えたのだ。転移で居なくなったんじゃない。


「殺された……」

「えっ?」


とベルは声を上げる。


「今、『周辺把握』で確認したんだけど。

逃げて行った奴らは、全員殺されたようだ」


するとベルは、


「まあ、そうなるでしょうね」


こうなる事が分かっていたのか、あっさりとした言い方だった。


「私も、暗黒教団の事は聞いた事が有りますが、まともな連中じゃありません」


それは、分かり切った事だ。


「ハッキリ言って、特撮の悪の組織ですよ。特撮ものでは、ヒーローに敗れて、組織の元に逃げ帰った怪人はどうなります?」

「粛清とか言って殺される」

「そういう事ですよ」


つまりあの連中は、殺そうが生かそうが、結果は変わらない。


「和樹さんも、あの洞窟で、経験したはずですよ」


確かに、ミズキに殺された爺さん以外は、全員生きていたが、結局は、ジムに生贄にされて殺された。


「私なら、あの魔法をどうにか出来るかもしれませんけど」


と言いつつも


「でも結果が、どうせ変わらないなら、いっそ……」

「お前、怖い事言うな」


ベルが怖い奴である事は、確かである。


「たとえそうでも、簡単に割り切れる事じゃ無いんだよ」


するとベルは


「お優しいんですね。私、好きですよ。そう言うところ」


ここで、


《でしたら、主人から倒してしまえばよろしいのでは、粛清しているのは、

主人の様ですからね。あと主人が負ければ戦意も削がれるでしょうしその上で、魔装を破壊すれば、後は町の人でも対応できるはずです》


武器を破壊されたら、逃げて行くくらいだから、

武器が無けりゃなにもできない奴らである事はわかる。


《それに、贋作は連中の主人が持ってるものですしね。居所も、

『感知』で分かってますし、いちいちザコを相手にする必要もないでしょう》


 もちろん、町の事を考えれば、ザコをどうにかする必要はあるが

ダンジョンの時の様に、先にザコを倒して進む必要はない。

後回しにすればいいのだ。クラウに指摘されるまで、思いつかなかった。


 「周辺把握」によれば、町にいる奴らの中で、

ひときわ強い奴が丁度四人いる。一人は、三人よりも強い反応なので、

コイツが七魔装の持ち主で、残りは贋作の持ち主と見ていい。


 そして、行動を開始しようとした時、丁度、敵の第二波が、

こっちに向かっているのを察知した。俺達は、そいつらを避けるため、ついでに敵への奇襲も兼ねて一旦、路地裏に入った。

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