2「占拠された町」

 翌朝、早め町を出た。ロミオの言う通り、道は復旧していた。ただ周辺は、

木々が倒れていたり、地面がえぐれていたり、焼け野原なっていたりの

戦闘の傷跡が残っていた。


 それと、三日間通行止めの状態だったからか、早朝であったが人や馬車が殺到し、

渋滞となっていた。


(また足止めだな)


渋滞区間は長く、抜けるのに、昼近くまでかかった。


 その後、途中、食事休憩を挟みつつも、先に進むが、

風景が既視感が有るものになっていった。


《この先は、私とマスターが出会った町ですよ》


まだそんなに経ってないのに、何処か懐かしさを感じた。

だが、この町で厄介ごとに巻き込まれるとは思いもしなかった。


 街に近づくと、テントの様なものが見えてきた。更に近づくと

町の周辺に無数のテントがあり、大勢の人々が行きかっている。


「何かのイベントか?」


ここでクラウが


《マスター、七魔装です》

「えっ?」


俺は思わず、車を停めた。


《町の方から七魔装の気配がするんです》


車は、道の真ん中だったので、一旦、邪魔にならない場所に移動させた。


 その後、クラウを装備し、車を降りる。ベルも後を付いて来る。


「七魔装って、どんなの?」

《私にも、分かりません。ただ気配はします》


フレイの時もそうであるが、分かるのは気配だけで、実物は

実際に、遭遇しないと分からない。


 そして、俺たちが街に近づこうとすると、町の周辺にいる人から、

声を掛けられた。


「その先に、行っちゃいけないよ」


声の主は、年配の男性で


「嬢ちゃん達、見ない顔だね。旅の人かい?」

「そうですけど……」


男性の問いに答えるが、ベルはともかく、俺まで嬢ちゃんと呼ばれるのは、

両性具有とは言え、外観的には、女性だから当然だけど、どうも違和感がする。


「何かあるんですか?」


とこっちも質問した。


 すると男性は、


「今、暗黒教団の連中に、町を占拠されてるんだ」。

「えっ?」


詳しい話を聞くと、先の魔族の襲撃の際、場所は、少し離れてはいるものの

戦火の広がりを、気にして、住民たちは一時、避難をしていた。

そして、戦闘が終わった事を知って、戻って来たのだが、

暗黒教団の、正確には、そう名乗る連中に、町が占拠されていた。


「奴らは皆、異様な雰囲気の武器を持っていて、ありゃ魔装だろう。」




「魔装」

七魔装に代表される禍々しい力を持った装備。

使い手に力をあたえる反面、使い手の体を蝕んでいく存在。




「ホントかどうかはしらんが、奴らの仲間には七魔装を持ってる奴がいるとか……」


クラウが、気配を感じたと聞いていたから、その事には驚かなかったが、


「何でも、ダーインスレイヴとか、ルインとか、後は、何だったかな

奴ら自慢げに話してた」


《えっ?》

〔はぁ~?〕


名前が出たタイミングで、素っ頓狂な声を上げるクラウとミニア、俺も、


「ええっ!」


と声を上げていた。あり得ない話だからだ。どちらも俺の手元にある。


「まあ、連中が勝手に言っとることだがな」


なお、男性は、俺が、本当に驚いている理由を分ってはいないが、

俺にかけてきた言葉は、あながち間違いとはいえない。


 そして男性は、


「衛兵や冒険者たちは魔族の方に、行ってしまって、まだ帰って来てないから、

どうしようもなくてな。残ってた奴らはやられたようだし、

光明教団にも魔信報は送ったが、直ぐには、どうこう出来んだろうし……」


ちなみに魔信報と言うのは、魔法を使った電報みたいな物。


「せっかく来てもらって悪いが、帰った方が良い」


と男性は、すまなそうに言った。


 ここで、何処かで見た事が有るような女性がやって来て、

男性の知り合いの様で、彼に、


「母を知りませんか?朝から見かけないんですけど……」


聞いていた。男性は


「そう言えば、見てないな……」


と言う。そして女性は、俺の方を見ると


「あれ、貴女、以前ウチの宿に泊まってたお客さん?」


と言ったので、そこで、以前、あの町で泊まっていた宿の娘である事を、

思い出した。


「その節は、どうも……」


と俺は返事をする。そして彼女が探している母親と言うのは、

あの女将さんと言う事になる。


 そして彼女も又


「また来てくれたみたいですけど、今、町に入れないんですよ。

理由は……」

「そっちの人からもう聞いてる。お取込み中のようだから、

また今度……」


そう言って、一旦その場を離れる。


 車の近くまで来たところでベルが


「どうします?」


と聞いてきた。大十字なら、首を突っ込んでるだろうが、

俺は、そう言う気にはなれなかった。そもそも、この件をどうにかしないと、

先に進めないと言う訳じゃない。つまりは俺が関わるべき、理由が無い。


「どうって、俺達がどうにかする事じゃないだろ」。


 それに、時間が経てば、地元の冒険者が戻って来るだろうし、

光明教団に連絡を入れたと言う事だから、審問官だってやって来る。

俺が何かしなくたって、時間が、解決してくれるはずだ。

ところが、思いがけないところから催促が来た


《僭越ながら、マスター、私に力を貸してくれませんか》

「力って何を?」

《私の贋作を破壊したいのです。あの町からは、七魔装と一緒に、

似て非なる気配を感じました。初めて感じたものですが、

話が本当ならば、これは贋作の気配で、あの町に、私の贋作が有る》


つまりは、この件に関われと言う事。


《マスターの手を煩わすのは、悪いとは思っています。

しかしマスターの手を借りなければ、私は戦えません、お願いです》

「どうして?」


と聞くと


《プライドです。自分の偽物が、存在していることが許せないのです》


と言いつつも


《マスター自身が、お作りになる場合は、話は別ですが》


と付け加えた。更に、


〔私からも、お願い〕

「お前もか……」

〔偽物が、いると思うと、どうにも我慢できないのよ。

私もプライドって奴が有るから〕


更に、


<コイツらの肩を持つわけじゃないけど、

アタシもニセモノあるってわかったら許せないかも……>


そして、


《マスター!》

〔ご主人様!〕

《どうか、お願いします!》

〔お願い!〕


彼女たちの声が、何となくだが、土下座して声を出している様に聞こえた。

そして、幻惑を使われてないのに、二人の女性が、土下座している姿が、

目に浮かんだ。


 この状況に俺は、心が揺さぶられるが、よく考えてみると、偽物だけじゃなく、

あの町には、本物の七魔装がいるのだ。別に集めたくて集めているわけじゃないが、

クラウ達を含め、七魔装は「引寄せ」で、いずれ俺の元にやって来る。

だから、ここをやり過ごしてもいいのだが、しかし、やり過ごしたばかりに、

余計に厄介な事を、持ってくる可能性もあった。


「どうしますか?和樹さん」


と催促するように再度ベルが聞いてきた。


「クラウ、ミニア、お前たちに手を貸すよ」

《ありがとうございます!》

〔お礼は、たっぷりするわ〕


一応先に述べた通り、七魔装の件もあるからであって、別に彼女たちの嘆願だけで、動いたわけじゃない。いや、正直な話、彼女たちの嘆願方が強い。

結局、俺は流されたのだ。


 さて俺の返事を聞いたベルは、どこか苛立ってる声で


「それでは、今回は私も同行しましょう。魔王の力は無理ですが

だいぶ力を取りもしてますし、今なら、新しい装備も使える」


彼女の言う新しい装備も気になったが、彼女の様子も気になる。


(まさか、クラウ達に嫉妬しているのか……)


聞けばいい事だが、勇気が無かったので代わりに「絶対命令」で、

俺の武器、クラウ達に手を出さない様にした。契約で、破壊はできないが、

しかしベルは魔王なので、何か、おかしな事をしかねないと思ったからだ。


「そんな事をしなくて、手を出しませんよ」


とは言っているが、信頼できない。かと言って聞き出す勇気もない。


 さて、車が珍しいから、人が集まって来たので、一旦、車に乗って

人気のない場所に移動。イヴを呼びだし、彼女が外に出てきた後、

車は、一旦宝物庫に仕舞った。あと相手が暗黒教団だから、

ややこしくなりそうなので、ミズキとリリアは連れて行かない。


 さて教団とやり合う訳だから、後の報復の事も考えて、普段あまり使わない

「白銀騎士の鎧」を着る事にした。幸いにも修復は終わっていた。

そして鎧を着ようとした時、ベルが


「これ見てください」


と言って、ブレスレットの様なものを見せつけ、それを腕に付けると

彼女は鎧姿になった。


「!」


 確かカオスティック・ザ・ ワールドにも、装飾品に変形する魔法の鎧はあった。

ネットでそれを使って、ヒーローごっこしている奴の事が話題になった事が有る。

鎧の事には、驚かなかったが、問題はそのデザイン、

色は赤で、体型は女性的であったが、「漆黒騎士の鎧」によく似たデザインだった。

これが彼女に言う新装備との事だが


「私が、デザインしたんです」


と自慢げに言うベル。実はゲームでは、武器や鎧の外観を自分好みに、

変えることが出来る。それは、ゲーム内のお店で行うのだが、

鍛冶師と言う職業は、自分で行え、全ての職業の特性を持つ魔王も当然できる。


「どうしてそんなデザインに……」


と聞くと、


「和樹さんと、お揃いになりたくて」

「………」。


 教団と戦うのだから、今後の報復を考えると、鎧で身を隠してくれるのは良い。

ただ、色違い、細部は違うものの、ペアルックっぽくて、嫌だったので、

今回は幸いにも白銀騎士の方を使うが絶対命令で、

今後、彼女の鎧は、「漆黒騎士の鎧」を着ている時は着ない様に言っておいた。


「え~」


と彼女は不満げにしたが、暗黒教団の報復の事を話し


「お前にとっては、たいした事ない連中かも知れないけど、俺として、やり合うのが面倒だから……」

「わかりました。和樹さんに、迷惑が掛かると言うなら……」


と渋々な様子で、同意した。


 とにかく鎧は装備したので、ここからは歩きであるが、町に向かおうとするが


「初めて見た時は、何も感じませんでしたが、よく見るとその鎧も素敵ですね。

今度、その鎧を基にした鎧を作って、それを、貴方が黒騎士の時に、

着てもいいでしょうか?」


とベルが言った。それならペアルックじゃないので


「別にいいけど……」


と答えつつ町へ向かった。そして町に入ろうとして、今度は呼び止められなかった。

単純に、気づかれなかっただけだが、コソコソしてたわけじゃない偶然だ。

まあ、声を掛けられて、説明すると言うわずらわしさを考えれば、幸運と言える。


 とにかく俺たちは、町の中に入った。しかしクラウと、七魔装と出会った町で

またしても、七魔装に関わる事に巻き込まれるのだから、

「引寄せ」の影響も考えられるけど、どうも因縁が感じずにはいられなかった。

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