第16話「魔装軍団」

1「足止め」

 館の一件が、尾を引いて、妙に気疲れして、何もする気になれず

午前中は寝室で横になり、昼食後は今のソファーで、寛いだりして

結局移動を再開したのは、昼過ぎだった事もあり、大して、先には進めなかった。


 その日の晩の事である。例の携帯電話型のマジックアイテムが鳴った。

出てみると、当然、相手は雨宮である。


「今、何処にいる!」


と何処か切羽詰まった様子で聞いてきたので、

リモコンであるキーホルダーを手にし、地図を呼び出す。

空中に地図が表示されて、そこから現在位置を確認し、場所を伝えると、


「まだそこにいるのか……」


何処か安堵したような声だった。


「どうしてまだ、その辺に居るんだ?」

「それが、さぁ……」


遠回りの事から、例の館の一件まで話した。


「その館、噂で聞いた事が有る。場所までは知らなかったが、

大変だったな」。


 そして話の流れでミズキの事に


「やっぱり、彼女は、力を持っていたか。」


と言った後


「しかしスキルを、体外に封じ込めるとはな、並大抵じゃできないだぞ」


スキルの場合、切り取るだけで大変との事で、普通だったら、

身体の方に封印を施すとの事。ただこの方法だと、サーチを使うと、

封印している事実は分かるらしい。


「よっぽど、ミズキが力を持っている事自体を、隠したかったんだろうな」

「何のために?」

「それは、分からない。それより……」


雨宮は話を中断させ、別の話を始めた。

この事を話すため、俺に連絡を入れたと言う。


 翌朝、朝食の席で、俺は皆の前で、雨宮から聞いた話をした。


「昨日、雨宮から連絡があって、魔族との戦闘が始まったそうだ」


俺は地図を、表示させ、戦闘となっている場所を具体的な場所を教えた。

そこは、ナアザの町への、道中にあるから、雨宮は心配して連絡を入れてきたのだ。

話を聞いたミズキは、


「いつもながら、急な事ですね。それで、どうなされるつもりですか?」


この時、今後の事は決めていた。戦場を、或いは道なき道をカオスセイバーⅡ、

本来の姿で、突っ切って進むという事も出来るが、それだと目立ってしまい、

後々面倒だ。戦場を避けて、きちんとした道を進むようとすると、

車での移動とは言え、かなり遠回りとなる。


「戦闘が終わるまで、戦場の近場の町で待機しようと思う」


 これは、元は雨宮のアイディアである。アイツの見立てであるが、

戦闘は二、三日で終わるらしい。その後の復旧を考慮しても、

戦場の近場、ギリギリ安全圏にある町で待機した方が、

遠回りするよりも速いらしい。


 ただどちらにせよ、直ぐには帰れないので、皆に話をしておこうと思った。

聞いてきたミズキは


「ご勝手にどうぞ。急ぎで戻る用事もありませんし」


リリアは


「同じく、まあアパートよりも、こっちの生活の方が過ごしやすいから、

もっとゆっくりでもいいけど」


ベルは


「私も、構いませんよ。そこの女じゃありませんが、急ぎの用もないので」


と言うような感じで、3人とも異存は無いようだった。


 そんな訳で、目的の町に向かった。到着すると様子見の為、

町はずれの邪魔にならない場所に車を停め、俺は車を降りた。

あとベルも付いて来る。町は、魔族の話題一色で、かなり騒がしかった。

小耳に挟んだ事であるが、かなり大規模な襲撃で皆、戦火が飛んでこないか、

不安気にしていた。同じく、町の人達の話を小耳に挟んだベルが


「本当に、二、三日で終わるのでしょうか?」


と聞いてきた。


 今回の襲撃が、大規模なのは雨宮から聞いていた。雨宮は国からの使いが来て

自体を知ったと言う、使いは、何か当たっときの助力を頼みに来たのである。

雨宮に、頼みに来ると言う事は、かなりの事なのであり、

普通なら二、三日で終わらないのだが、今回は、魔族の運が悪かった。


「近場に勇者が、いたらしくてな。あと近場で、魔獣の大規模の討伐とかで、

高ランクの冒険者たちも集まってるらしいから、そいつらも、名を上げるために、

参戦するようだから、」


勇者と高ランクの冒険者たちが揃えば、怖いものなしと言ったところで

雨宮の元への使いも、決まりで伝えに来ただけで、事を楽観視してたと言う。

とは言え、大規模な戦闘には違いないので、俺の事が心配になったとの事。


 その後は、夜は、ボックスホームで過ごし、昼は町に出て、

事の成り行きを見守る。そして雨宮の言う通りで、三日で事は終わった。

二日目の時点で、勝利間近と言う話が、町のいたるところで聞けた。

三日目には、戦いを終えた冒険者たちが、休息の為この町にやって来て、

町は賑わっている。


「どういう風の吹き回しですか、皆で外食とは」

「ホント、ホント」


普段、仲が悪い割には、この時は妙に息ぴったりなミズキとリリア。


「気まぐれだよ。気まぐれ」


と俺は答えた。


 さてこの町には「マキシバーガー」と言う店があった。

雨宮から、町の話を聞いた際に教えてもらった店主が異界人からの

教えを受けて作ったハンバーガーとピザやパスタを出す店で、

雨宮曰く、その味は絶品との事。


 町に来た初日に、ベルと店に行き

俺は、ミノビースバーガーとコカトリスバーガー、

元の世界におけるハンバーガー、チキンバーガーにあたる料理を、

ベルは、マルゲリータピザを頼んだ。もちろんピザは異界料理。

そして彼女は、元はお嬢様だけあって、手づかみなどせず、ナイフとフォークで、

綺麗に食べた。


 雨宮が太鼓判を押すだけあって、味は美味しかった。

だから、もう一度食べたかったのだ。ベルだけじゃなく、二人を誘ったのは、

確かに、気まぐれと言う事もあるが、先に店に来た時に、


「なんだか、デートみたいですね」


とベルに言われて、なんか彼女に恋人面されるのが嫌で、

かと言って、彼女を置いて一人で行くのも、気が引けてしまって、

結局、二人を誘った。


 さて、店は混雑していて、店員から


「2手別れて、相席になりますが、よろしいですか?」

「別にいいですけど……」


どういう組み合わせにするかで、少し悩んだ。

彼女たちは、どの組み合わせでも喧嘩しそうである。

結局、ベルが


「私は、和樹さんと一緒に」


強く推してきたのと、


「その方が良いでしょう」


ミズキも、勝手に了承したこともあって、

結局、俺とベル、ミズキとリリアと言う組み合わせで、別れた。


 俺とベルと、相席になったのは、予想外の二人だった


「ロミオとジュリエット……」

「奇遇ですね。カズキさん」


とロミオが言い、ジュリエットは


「こんにちは、貴女も魔族と戦いに?」

「いや、ちょっと旅行に」


ここでベルが


「ロミオさんと、ジュリエットさんですね。和樹さんから聞いてます。

私は和樹さんとパーティーを組んでいるベルティーナ・ウッドヴィルです。

ベルとお呼びください」


と自己紹介するが、彼女に二人の事を話してない。

記憶の共有で、知ったんだろう。


「二人は、どうしてここに?」


と俺が聞くと、ロミオが


「僕は、行商だよ」


と言った。言われてみれば、彼は行商で、あちこち回ってるわけだから

見知らぬ土地で、会ってもおかしい事じゃない。

 

「ジュリエットさんは、その付き添いですか?」


ベルが聞くが、


「いいえ」


ここでロミオが


「そう言えば、どうして君はこの町に居るんだい?」

「えっ?」


俺は思わず声を上げてしまう。


「知らないの?」


ロミオに聞くと


「ええ、さっき店の近くで会って、食事しながら話を聞こうと……」。


 一方のジュリエットは、顔を赤くしながら


「会いたかったの……どうしてもロミオに会いたかったの……」


するとロミオが


「もしかして、手紙かな」


ロミオは、ジュリエットに手紙を送っていた。内容は近況報告と、

彼女への愛の言葉。

近況報告には、この地方を回っている事を書いていた。


「読んだら、居てもたってもいられなくて、それで……」


なお彼女の話では、手紙には、地方の事しか書いてないので

当たりを付けてこの町に来たと言う。


「大丈夫だったかい、途中で、魔族との戦闘があったはずだよ」

「いえ……」


ロミオの言葉に、ジュリエットの言葉が一瞬詰まるが


「到着したのは襲撃前だったから……」


と答えると、


「それは良かった」


とロミオは安堵の表情を浮かべる。


 そして、二人は見つめ合い


「ロミオ……」

「ジュリエット……」


二人の世界を作り始める。二人の周りには、ハートマークの様なものが

見える気がした。


(うわ~~~~~~~~勘弁して~~~~~~~)


恋愛に、縁遠い所為か、自分が場違いな気がして、

物凄く気まずい気持ちになった。なお、横目でベルの方を見ると、

彼女は顔を赤らめ、何かを期待しているかのように、こっちをチラチラと見てくる。


 その後も、気まずい気分を抱えたまま、昼食の時間を過ごすのだか、

そんな中、ロミオから、


「この後は、どうするんですか」


と聞かれ、


「ナアザの町に帰ろうと思うんだけど」

「でしたら……」


もっとも復旧が早い道を教えてもらった。明日には、通行可能らしい。


「ありがとう」

「どういたしまして」


その後も、ロミオとジュリエットは、自分たちの世界を作るので

俺は、気まずい思いを抱いたまま、俺は食事を終えて、ベルもほぼ同時だった

そして二人に別れ言い、俺とベルは、席を立った。


 俺たちは食事を終えたが、ミズキとリリアは、まだ食事中なので、

展示物のコーナーで時間を潰した。そこには店の主人か趣味で自作した

ロボットの、正確には魔機神のフィギュアが名前入りで飾ってある。

店の名前から分かる通り、ここの主人は魔機神マニアである。


 俺は、ロボットアニメは好きな方だから、この手のものは気になってしまい

初めて店を訪れた時は、食い入るように見てしまった。


(これが、オリジナルのカオスセイバーか、最弱と言われるだけあって地味だな。

でも、こんな感じの主役ロボがあったな。しかしコイツが後に……)


そして、カオスセイバーと並ぶ魔機神


(反逆の九機神か、カオスセイバーもその一つなんだな)


それらの魔機神とは別枠のタコ型ロボのダゴン、女性型ロボのヒュドラ。

遮光器土偶型ロボのアラハバキ。

挂甲武人の埴輪を思わせるカッコいいロボ、ヤマトタケル。

そして黒く、どことなく天使を思わせるロボ、ダークエンジェル。

あと騎士を思わせるロボと、

加えてロボと言うより特撮の巨大ヒーローみたいなやつまで居る。


 食い入るように見ていた俺に、どこか呆れたかのように


「和樹さんも、そう言うの、お好きなんですね」


と言われて、他にもロボと言うか魔機神のフィギュアはあったが

その時は、それ以上見るのをやめた。


 そして、今、再びフィギュアを見ているが、ここで、


「カオスセイバーですか、忌々しいですね」


食事を終えたのか、ミズキがいた。彼女は、カオスセイバーのフィギュアを

睨みつけている。


「何かあったのか?」

「かつて私は、このマキシに、煮え湯を飲まされたことが有るんです。」


なんだか、ミズキとカオスセイバーには、因縁のあるようだった。

その後、リリアも食事を終え、俺達は店を出て、車の元に向かった。


 あとは、復旧すると言う翌日まで、ボックスホームで過ごしたのだが

居間で、寛いでいると、一緒に居間にいるベルから、


「それにしても、あの二人、何者でしょう?」

「そりゃ、ロミオは行商人で、ジュリエットは……そういや、あの人、

今何してるんだろう。『interwine』の元店員だけど」

「そういう事じゃなく、あの二人からは、そろって途轍もない力を感じました。

あのカップルは、普通じゃないです」


と何だかとんでもない事を言い出した。


「何となくですが、勇者と言う感じがしました。

あの二人が、勇者なのかもしれませんよ」

「勇者って……」


俺は、この国の勇者については、話は聞いた事が有るが、

詳しくは知らないので、何とも言えなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る