6「嘘つき剣士」

 酒場から、少し進んだ所に、広い公園のような場所があり、

その男は、そこのベンチの様な椅子に、鞘に入った剣を杖の様にして、目を閉じ、

鎮座していた。白髪の長髪に、立派な白髪のひげを、携えていて、貫禄はある。

服装は、他の連中と同じでローブ姿。


(何と言うか、年老いた剣豪みたいだな)


横で見ているベルは


「何となくなんですけど、宮本武蔵を持っている佐々木小次郎って

感じがしませんか?」

「どちらかと言うと、晩年の宮本武蔵って感じがするけど……」


さっきとは違い、今回は完全に一人きりである。


《あの人、何処かで見た事あるような気がします》


 少しの間、様子見をしていたが、突然、男が、目をカっと見開くと


「そこの娘ども、姿を見せろ!」


と声を上げた。


「バレたみたいですね。どうします?」

「出てくしかないな」


俺達は、男の前に姿を見せた。


「お前らが、侵入者か、ウチの若い者が世話になったな」


最初に戦ったザコはコイツの部下らしい。まあ剣やナイフを持っていたから

そんな気はしたが、


(そういえば、逃げ帰った奴らは、どうなったんだ)


殺されたのは、分かるが死体が無い。「周辺把握」によると、

この辺で生体反応が消えたはずであった。

まあ、俺にとっては、少し気になる程度で、どうでもいい事だ


 そして男は俺の方を見て


「俺は、ジークハルト、娘、立派な剣を持っているな」


この時、俺は武器をクラウに変更し、しかも鞘から抜いている。

それは相手が、偽のダーインスレイヴを持っているからで、

杖の様にしていたのが、それである。


 ジークハルトは、その剣を鞘に入った状態で、見せびらかしながら、


「俺の魔剣ダーインスレイヴには劣るがな」


その剣のデザインは、かつてのクラウその物で、鍔が黒く、

形がコウモリの羽のようになっている。


 そしてジークハルトは、余裕な奴、特有のおしゃべりで、

聞いてもないのに、自分の過去を話し始める。


「俺がダーインスレイヴに初めて会ったのは、二十の頃

その頃の俺は、暗黒教団に身を置きつつも、既に剣を極めていた。

だが、ダーインスレイヴの力の前に、あと一歩及ばす、逃げるしかなかった」


ジークハルトは剣を持っていない方の手で拳を作り、力の入った口調で


「以来、俺は思った。いつかこの力を手にしてやろうと、

魔剣を追い、戦いを挑んだが、いつもあと一歩及ばなかったが

だが今、俺は、この魔剣を、手に入れた。俺は今、最強となったのだ!」


 その後も、敵の自慢話は続くが、正直つまらない。

剣は抜いてる事だし、ここで、先制攻撃を仕掛けてやろうかと思った時


《あの男の話は嘘ですね》

(どういう事だ?)

《今、思い出しました。あの男は、私の前に、幾度と現れたヘッポコ剣士です》

(ヘッポコ?)

《ええ、大した腕もないのに、戦いを挑んできて、あっさり負けて、

失禁しながら逃げて行くんです。あまりの情けなさに、当時の使い手は

あえて深追いせず。逃がしたんです》


その後も、幾度と出くわし、その度に、コテンパンにやられては、

漏らしながら逃げて行ったと言う。会うたびにクラウの使い手は変わっていたが、

相手の余りにも情けない姿に、全員、見逃してきたと言う。


《ここ最近は、ずっと会ってなかったので、忘れていましたが》


 要するに、ジークハルトは、ほら吹きで、ダーインスレイヴに執着していたのは

事実かも知れないが、あと一歩どころか全然及んでなかったと言う事らしい。


《ただ、今の奴は、かつてと比べ物にならないくらい強いのは確かです。

まあ、それは、奴の力ではなく、偽物とはいえあの魔装の力でしょう。

ただ『習得』は持っていないようですが》


以前、聞いた話であるが、魔装には、「習得」を持たなくとも、

これまでの、持ち主の戦闘能力を、記憶し後の持ち主、反映させる力はあるらしい。


《マスターの敵では、ないでしょう》


 ここでジークハルトは、話を終え、剣を抜いた。

刀身には、かつてのクラウと同じく、赤い線で描かれた気味の悪い柄が入っていた。


「娘ども、三人まとめて、掛かってこい!ただし容赦はせぬぞ!」


ここでクラウも


《こいつは、私とマスターだけで戦います。他は手出し無用で》


敵は、三人まとめてとは言うけど、さっきと同じで、

人間相手で三対一と言うのは、やっぱり卑怯な気がするのと

もう一つ思う事があって、


「イヴとベルは、周りの警戒を頼む」

「また一対一ですか、分かりました。和樹さんを信じますよ」


イヴは


「了解しました」


と言うだけである。


 ジークハルトは、余裕の笑みを浮かべ、


「俺に、一人で挑むか。良かろう、だが容赦はせぬ」


そう言って、持っていた鞘を投げ捨てた。するとベルが


「ジークハルト、破れたり!」


と叫んだ。すると奴の表情から笑みが消え


「なに……」


と低い声で言った。ベルは更に続ける。


「勝つつもりなら、鞘を捨てる必要はありません」


思わず、


「巌流島の決闘じゃない!」


と思わず声を上げてしまう。向こうはと言うと、ベルの言葉で、

頭に血でも上ったのか顔を真っ赤にして


「捨てたんじゃない、地面に置いたんだ!」


と叫びながら切りかかって来た。最初の一刀は避けつつも、


(何だろう。俺もコイツが、佐々木小次郎みたいに見えてきたな)


そんな事を思いながらも戦いと言うか決闘は始まった。


 ジークハルトは、最初は猛攻で、少し押され気味となったが、

少しすると、落ち着いてきたのか、抑えて来て、互角な戦いとなる

表情も、余裕に満ちてくる。そして槍の時と同じく、剣は丈夫な上

電撃を付与しているが、大した効果はないし、一応「斬撃」も最大で使っているが、


《向こうも、斬撃を使っている様ですから、効果は薄いのでしょう

電撃の方も耐性があるようです》


電撃は、ともかく斬撃は、使わないと余計に手間がかかりそうなので、

引き続き使うとして、あと敵の腕前も、かつてはヘッポコかもしれないが、

クラウの言う通り、中々の手練れの様だった。


(剣、剣、剣、剣、剣……)


 俺は、剣に集中した。その為、「習得」によって、俺の体は、剣を狙って動くので

ひたすら打ちあいとなり、相手も


「ほう、お前、剣を狙っているのか」


と気づいたようで、敵は、地面を蹴って、間合いを取り、刃をこっちに向け、


「いいだろう、我がダーインスレイヴで、貴様の剣を砕いて見せよう!」

《所詮は、偽物、負けはしません!》


相手に、聞こえるはずの無い返事をするクラウ。

そしてこの後は、再び剣の打ちあいとなる。


 さて「キン、キン、キン……」と言うような金属音を立てながら、

剣と剣はぶつかり合うのだが、シュウヴィオと違ってセクハラはしないが代わりに、


「かつて、俺が二度目にダーインスレイヴに会った時はなあ……」


戦ってる最中、自慢話をしてくるのだ。ダーインスレイヴを含め

自分が、どんな敵と出会い、いかに活躍したかを、延々と語る。

聞いてるだけで、嫌味ったらしくてイラっとするが、

少なくとも、ダーインスレイヴ絡みは、クラウの話から嘘である分かっているが、

他の話も嘘である可能性ある。そう思うと、余計にイライラする。


 イライラで剣への集中が、何度か途切れかけたが、どうにか頑張って

敵の剣に意識を集中させる。しかし奴の自慢話の所為で

イライラ固まっていく、そしてある時、


「ああっ!もううぜぇ!」


と叫びながら、俺は奥義を使っていた。技名は、口にしておらず、

加えて奥義を使ったのは、何となく分かったのだが、

それが何であるか、分からなかった。

見ていたベルによると、それは、巨大な火球を剣に纏わせて叩きつけると言う物、

後に知るが、それは烈火滅煌斬と言う名の技らしい。


「クッ!」


敵はそれを受け止め


「フリズゼロ!」


敵の剣が巨大な冷気を纏う、


「うおおおおおおおおおおお!」


と奴が声を上げる。次の瞬間、目の前が真っ白になって、俺は吹き飛んで

気づくと、地面に片手を突くような形で、着地していた。

ベルの話では、シュウヴィオの時と同じような感じで、

空中で一回転して、体制を立て直して、着地したそうだ。


 あと、シュウヴィオの時と違うのは、今回は相打ちで、

ジークハルトも吹っ飛んだそうである。俺が気づいた時には、

向こうも妙にカッコつけたポーズで着地していた。ベルの話では、向こうも俺と同じ様に体勢を立て直したとの事。


 そして奴は、


「なかなかやるな。かつて俺が戦った奴で……」


何でも、過去に同じ様に、技と技がぶつかり合い。相打ちになりかけたものの

勝利したと、自慢げに話す。相変わらずの自慢話に対し、

俺の体は勝手に、奥義を使う。


「烈火剛煌斬!」


ふるった剣から放たれる三日月様な形をした炎。


「フリズカティ!」


剣を振るう事で。同じような冷気を撃ちだし、打ち消す。


「その技は知っている。あの異界人の女剣士の技だ」


ジークハルトは、どうもクラウやミニアが会ったであろう、

女性剣士と会った事があるよう。


 この後は、烈火剛煌斬とフリズカティの撃ち合いになり、

打ち消し合った。また二発目以降は、お互いに技名を口にしなくなったが

代わりに、ジークハルトが技を出しながら、女性剣士の話を始め

その女性がいかに強かったかを語りつつも、

女性と互角に渡り合った自分がいかに凄いか語る。結局のところは自慢だ。


《嘘ですね。あのヘッポコ剣士が、あの女と渡り合えるはずがない。

かつて私を負かした事のあるあの女と……》


との事で、結局は嘘の様で、俺のイライラは溜まるばかりで

そんな中、俺は、奴の勝手に接近し、その奥義が発動した。


「烈火刃舞!」


スキル「燃焼」を使った時の様に、剣に炎を宿し、敵に切りかかる。

側で見ていたベル曰く、その動きは、単純に敵に切りかかっているのではなく

凄く早くて、それでいて優雅で、舞を踊っているようだったとの事。


「フリズセイズ!」


ジークハルトは、剣に、冷気を宿し、応戦する。

戦っている俺は気づかなかったが、ベル曰く、普通に応戦しただけで

つまらないとの事。


 その後は、剣の打ちあいと、ときおり奥義のぶつかり合い。

合間の、奴の、ホラの疑いありの自慢話。

あと俺は、意識してなかったが、ベル曰く、奴が自慢話をするごとに

俺の攻撃が苛烈になって行ったらしい。

確かに、表情に余裕が、無くなっていくよう思えたが、

自慢話をやめることは無かった。


 加えて、俺の出す奥義も、剣に炎を宿した薙ぎ払い「炎刃薙」

同じく炎を宿した剣を叩きつける「炎龍断」に

同様の突き技、「炎刃突」どれも炎系で、すべて敵の氷系の技で、対応されたが、

「習得」で発動している関係上、勝手に出できた技で

俺自身、考えがあって出している技ではない。


 ただ、俺の怒りが、反映しているようでもあり、あと技のいくつかは、

剣ではなく、ジークハルト狙って発動していた。

それは奴の自慢話の所為で、剣への集中途切れたからだ。


(何なんだよ、コイツは……)


先も述べたが、表情に余裕はなくなっているようだが、

自慢話は止めない。イライラが溜まって行き、最高潮に達した時

俺は、ヤツに向かって、叫んでいた。


「いい加減にしろ、ホラ吹き野郎!」


俺がいきなり大声を上げた所為で、少したじろぐが。


「知ってんだぞ!てめえがダーインスレイヴに、コテンパンにされて、

小便ちびりながら、逃げてたって事をな!」

「なっ!」


と声を上げたかと思うと、顔を真っ赤にして、物凄く怖い顔で


「貴様!」


と奇声に近いような怒号をあげて、襲い掛かって来る。

その姿に恐怖よりも怒りが、勝った。

火に油どころか、ガソリンを注がれたような気がした。


「うるせえ!このホラ吹き野郎が!」


後の事は、「習得」と言うだけではなく、頭に血が上ってよく覚えていない。

これもベルの話であるが、


「凄まじいというか、貴方に、こんな事言うのも、気が引けると言いますが、

かなり醜い戦いでしたね。アレは、もはや殺し合いですよ」


お互い、奇声を上げながら、剣を振りまわし合っていたと言う

また片方が、押してたと思うと、もう片方が押し返すを繰り返し、

この時は、俺の意識は、剣ではなくジークハルトに向いていたようで、

ベルの話では、攻撃は、ジークハルトを向いていたとの事。


 そして最後の方は、奥義のぶつかり合いに


「烈火破砕斬!」

「フリズアブソロ!」


俺自身も、奥義を使っていたのは、覚えているが、概要は覚えておらず、

ベルによると、俺は全身が、炎に包まれ、相手は冷気に包まれ、ぶつかり合った後

周りが真っ白になって、元に戻ると、二人そろって離れた位置に立っていたらしい

恐らく、最初の時と同じで、相打ちになって吹き飛ばされたお互いに、

体勢を立て直したようだと言う。


 俺が、気が付いたのは、この辺で、冷静さを取り戻したからと思われる。


《マスター、敵の剣が壊れかけています。ここは一気に畳みかけましょう》


向こうは、まだ怒りが収まってないのか、剣を手に


「うおおおおおおおおおおおおおお!」


と声を上げながら猪突猛進に突っ込んでくる。

俺は、剣に集中しつつ、奥義を繰り出す


「紫電一閃!」


その技は、奥義を使いたいと思ったら、勝手に出たようなものだが、

これまでとは違って、冷静さを取り戻したからか、炎系の奥義ではなかった。


 剣を大きく振り上げながら、向かって来たジークハルトの、

その振り上げている剣を狙って、こっちも踏み出しながら、斬撃を繰り出す。

「キン!」と言う音を鳴らして、剣がぶつかり、

そのまま偽のダーインスレイヴの刃は、砕け散った。


 するとジークハルト、大きく目を見開きながら


「あ……ああ……」


と声を出したと思うと、残りの剣を手放し、地面に膝を突いた。


「おい……」


と声を掛けると


「ひぃ!」


と声を上げ、地面に尻を付き、後ずさる。さっきまでの貫禄は何処へやら


「命だけはお助けを~」


と情けない声を出し、地面が濡れてきたので失禁したようだ。


《また昔に戻ってみたいですね。あの状況はおおかた、

あの贋作のお陰だったのでしょう》。


この後は、フレイに切り替え、念のため鳥もちで拘束した。


 その後は、ベルが


「おつかれさまでした。破片は拾って行っていいですよね」


と言って、剣の破片を拾う、その間に


《私のわがままに、付き合わせてしまってすいません。三人掛の方が楽でしたよね》

「勝てた事だし、別にいいだよ。あの男相手じゃあ三人掛だと、

いい気分はしないし、それに、クラウの力があれば一人でも大丈夫な気がしたし」

《マスター……》


この後、ベルが破片を拾い終え、拘束され震えてるジークハルトを置いたまま、

次へ向かった。


(残りは二人か)


だがこの後、思いもしない人物と会う事となった。

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