4「地下一階・死を味わう」

 階段を降りると、


「うわぁ~~~~~」


思わず、声が出た。一階は、まだ綺麗だったが、

地下一階は、酷い状況。建物自体は真新しいが、

あちこちに、死体があって、壁や床は血で染まっていて、

今さっき、ここで殺戮があった様な感じ。死体は見た所、冒険者や、

旅の商人言ったところ。


《ここで、殺されたのは、事実かも知れませんが、

現状は、見せかけの様なものです》。


 「周辺把握」によれば、それらは、人間の死体と言うよりかは、

一階のミイラメイドと、同じで、実体はあるが一応亡霊。

恐らく、近づけば動き出して、襲ってくると思われる。


(さて、どうするか)


バーストブレイズで、ぶっ飛ばすのが良いのだろうが、

そろそろ、疲れが出てきた。ここは、直接攻撃で、体力を回復すべきだろう。

剣を構え、死体に、近づこうとすると


「死体に触れないでください。」


またさっきと同じ声がした。その方を向くと、

ブロンドでロングヘヤーのメイドがいた。

顔を見ると、美人であったが、ミイラではなかった。


「君は?」


と聞いても答えず、代わりに


「魔法は厳禁です」


と言って、すうっと言う感じで消えてしまった。

なお彼女もミイラメイドと同じ反応なので、恐らく幽霊だと思われるが、


《何者でしょうか?》

「さっきも言ったろ。協力者だろうな」


 大十字の話と、俺自身も経験したことであるが

建物に巣ぐらい、特殊な空間を作り出す怨霊には、配下がいる場合がある。

それは、怨霊に取り殺された被害者で、今回の場合は、あのミラーカが

ボスとなる怨霊で、ミイラメイドを含め、一階で襲って来た奴ら、

後この階の死体も、元は、ミラーカの被害者と言う事になる。


 そんな、怨霊の配下の中には、支配されつつも、正気を保ち、

被害に遭おうとしている人を、助けようとする者がいる。

大十字は、そんな人々を、「協力者」と呼んでいた。


 この事を、階段を下りてる時に、クラウに話すと


《初めて知りました。こういう事には、何度か遭遇したことはありますが、

そういう事は、なかったので》

「協力者は、必ずいるとは限らないから、それに、基本的には怨霊の支配下で、

隙を見てだから、助言くらいしかしてくれないけど」


あと、これは遭遇したことが無いが、大十字の話では、

協力者には怨霊の自身の分身と言う場合もあるらしい。


 クラウによれば、敵意を感じないとの事だから、協力者の可能性が高いので、

彼女の助言に、従う感じで、俺は武器を、フレイに切り替えた。

フレイでも「体力吸収」は作用する。ただ、弾丸生成の際に体力は使うが

魔法とは違って常時じゃないし、微々たるもの。


「除霊弾……」


シリンダーが「カチッ」という音立てて動く。


<よく知ってたわね。その弾>

「昔、お前と似た銃を知り合いが持ってて……」


その知り合いは、大十字なのだが、彼女は、フレイとよく似た銃を持っていた。

似てると言っても、見た目じゃなくて性質だ。


 見た目は、SFに出てくるような銃みたいなデザインで

名前は、「DXM」だったかな。この銃はフレイと同じ様に

色んな弾丸、中には、弾丸じゃないものもあったが

とにかくいろんな物を撃ちだした。俺が見たのは、BB弾、煙幕、鳥もちに、

催涙弾、そして、除霊弾。これは、文字通り除霊ができる弾丸との事

もっとも、何発か撃たないと除霊は出来ないらしいが、

とにかくこれを使って、かつて、大十字は怨霊を倒した。


 フレイが、この弾を作れるかは分からなかったが、

DXMに性質が似ていたから、もしかしたらと思い、試してみたのである。


 除霊弾に、切り替えて、倒れている死体に試し撃ちをした。

狙うは頭部、大十字いわく、亡霊でもここは弱いそうだ。

フレイの「誘導」もあって、見事に命中し、死体の頭部が見事に吹き飛んだ。


「………!」


思いのほか見事に吹っ飛んだので、こっちが驚いたが、次の瞬間、


「ヴ……」


と言うような唸り声を上げながら、周りにいた死体が起き上がり始めた。


(こいつらゾンビだな……)。


 しかし、その動きは、物語やベルのダンジョンにいたゾンビとは違い、

動きはしっかりしていて、手練れている。

ただ先の大十字似のゾンビと違って、縁も所縁もない連中だから、

何の躊躇もなく引き金が引けるし、「誘導」のおかげで、

ヘッドショットが成功するから、全員、一撃死で、簡単なゾンビゲームと言うか、

或いは、隠し武器を手に入れた二週目と言う感じで、とにかく楽だった。


 「誘導」のお陰だから、フレイが自慢げにするだろう思った。

実際に、


<敵に当たってるのは、アタシの『誘導』のお陰なんだからね>。


と言ったが、次の一言は


<でも、前に比べたら、確実に腕が上がってるわ……>

「えっ?」

<でも、まだまだなんだからね!調子に乗らないでよ!>


なんだか、素直に褒められないって感じ。

ふと脳裏に「ツンデレ」と言う言葉が浮かんだ。


 とにかく、ゾンビの方は楽できそうだった。


(通路の方も楽そうだ)


今回は「周辺把握」がうまく機能していて、確認できるのは、この階だけであるが、

奥の方に、次の階に進める階段の様なものがある。

ただ、周囲は大勢のゾンビで守りを固めているようだった。


(しかし、敵が多いな)


階段周辺だけでなく、フロア全体を見ても、敵の反応が多かった。


(とにかく、ゾンビを片付けながら行くか)


 俺は、片っ端からゾンビを倒して、先へと進んでいたが、

ある時、転移と言っていいのか、突然、敵と言うかゾンビが背後に現れて


<アンタ、後ろ!>


振り返ると、ソイツは杖で、襲ってきていて、


「!」


間一髪、その攻撃は避けることが出来たが、その際に、そのゾンビ、

魔法使いの女性のようだが、その体に触れてしまった。


 次の瞬間、俺は


「キャア!助けて!いやーーーーーーーーーーーーーー!」


と言う女性の悲鳴と共に亡霊たちのよって、なぶり殺しにされる様を、追体験した。

現実に戻った俺は、


「うわあああああああああああああああああ!」


と声を上げながら、銃を乱射して、女性のゾンビを倒していた。


「今のは……」

《私の方でも、確認しました。『幻惑』だと思います。内容は、

先ほどのアンデッドもどきの、死に際の追体験でしょうか。》


それは、俺でも分かる。それにしてもかなり強烈なもので、

おかげで、腰が抜け、少しの間、動けなかった。


 その後、どうにか起き上がろうとしたが、その際にそばの死体に触れてしまい。


「ギャア!やめろ!やめてくれ」


今度は、男の声と共に、亡霊たちに惨殺される様を追体験した。


「ギャアアアアアアアアアア!」


俺は悲鳴を、上げながら、現実に戻った。


 どうやら、敵に触れる事で、追体験をさせられるらしい。


(触れるなと言うのは、この事か……)


ゾンビは、先の二体といい、どいつも見るからに、

壮絶な死に方をしていそうだから、それを追体験させられるとなると、

精神的ダメージ半端なない。あと、魔法もダメとの事だから、恐らく、魔法攻撃でも同じことが起きると思われる。


 幸いなことに、こっちの武器は銃なので、距離を取って攻撃が出来るから、

戦闘中に、敵に触れることは無いが、ただ、先の様に突然現れる敵には、

上手く対処が出来ず、触れてしまったり、加えて、敵を倒した後、

先に進もうと、倒れている死骸って、言っていいのか、

まあ、そいつらを避けようとして、うっかり踏んづけて、


「!」


ここに記すのも、憚られるほどの、えげつない死様の追体験した挙句、

その時のショックで、パニックを起こして、

複数の死骸に触れてしまい。連続で、同様の追体験をする羽目になる事もあった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 俺は適当な部屋に入りこんで、中にいたゾンビを、銃で倒し、それを手にしたまま

床に座り込んで、休んでいた。


《マスター……大丈夫ですか?》


身体は、怪我はしてないし、武器による攻撃で、体力も回復している。

ただ精神的なダメージは半端なく、大丈夫とは言えない状況で、

加えてダメージは、そのままミラーカの餌となったはずだ。


(最悪だ)


そして今の感情も又、奴の餌となってるはずだ。


 肉体的なら、ともなく精神的なダメージとなると、

「修復」は機能しないようだった。

とにかく休んで気持ちを落ち着かせる事しかできない。

だが、ここは敵の手中で、休まる場所なんて存在しない。


「ヴ……」


突如として、部屋の中に、複数のゾンビが現れた。


 俺は、立ち上がる気力が無かったので、座ったまま銃を撃った。

フレイの「誘導」のお陰もあって、その姿勢でも、ヘッドショットが

成功したものの、ゾンビの最後の一体を倒した時、

ソイツは俺の方に、覆いかぶさるように倒れて来て、


「えっ!」


俺は避けれず、その体の触れてしまった。


 そして追体験が始まる。今回は亡霊の所為か、見るからに正気を無くした女性が

斧を手に向かって来る。

このまま、襲われるんだろうが、異変が起きた。


「あれ?」


ビデオの一時停止の如く、突然すべてが止まり、ノイズの様なものが走ったと思うと、

場面が変わり、周りは、真っ白い空間となって、

更に目の前には、さっきの女性とは違う女性がいた。


 その女性は、赤毛でストレートのロングヘヤーの美人で、背も高く、

体つきもいいし、その上、露出度が高い服装で、

セクシーという言葉が似合う女性。


 彼女は、妖艶な笑みを浮かべながら、俺の側にやって来て、俺の体に抱き着いた。


「ちょっと、何」


次の瞬間、現実世界に戻り、覆いかぶさってる死体をどかした。

追体験は、最初に触った時だけの様で、何も起きなかったが、

さっきの事が気になった。


(何だ、今の?)


すると、ミニアが


〔間に合ったようね〕

「えっ、今のはお前の仕業なの?」

〔私もスキル『幻惑』を持ってる事をお忘れ?〕






スキル「幻惑」

特定の対象に幻を見せ、相手を惑わせるスキル。

場合によっては、生命力の吸収も可能。







 なおミニアの「幻惑」は、敵だけでなく使い手にも作用する。

そもそも、ミニアこと、魔槍ルインは、使い手に力を与える反面、

淫らな幻を見せ、精根尽き果てさせる存在として有名であった。

彼女の「幻惑」は書き換えで弄ってあるから、俺から生命力を奪うことは無い。


 ちなみに使い手に、淫らな幻を見せていたのは、彼女曰く


「相手の望む事をしてあげてただけよ」


との事。


 今回彼女が、何をしたのかと言うと


〔相手の幻惑を、私の幻惑で上書きしたの、準備に、手間取ったわ。ご主人様が私を使ってくれないから〕


準備と言うのは、具体的には、相手の幻惑を分析したらしい。

とにかく、これによって、追体験を防いだとの事だが、


《だからと言って、何なんですか、あれは!》

〔あいにく、あの内容じゃないと防げないのよ。あれでも軽い方よ〕

「えっ?」

〔相手の、内容に合わせて、強いのを使わなきゃいけないの。

例えば、最初の時のだったら……〕


彼女は、どういう幻惑を見せるか話し、


〔あと、さっきみたいに連続で死体に触れる様な事が有ったら……〕


その後、彼女が言った内容に対しクラウは、


《なっ、なんて破廉恥な!》


と声を上げた。まあ内容は、両性具有とは言え、心が男の俺としては、嬉しいかなと思うが


《さっきも言ったでしょう淫靡なものも、奴らの餌です》

〔でも、追体験するよりかは、マシでしょう〕

《それは……》


そして、ミニアは俺に、


〔ご主人さま、私を使ってくれれば、今なら、幻惑を見せる事無く、

追体験そのものを完全に無力化できるわ〕

「それはそれで、ちょっと……」


ここでクラウは


《私からも進言します。彼女を使った方が、まだマシかと……》


との事なので、俺は武器を、ミニアに変更した。


〔そうそう、魔法は使わないでね。今の私が無力化できるのは

身体の触れた時のだけだから〕


つまりバーストブレイズや回復魔法は、使わない方が良いと言う事だ。


 次の瞬間、扉が、大きな音を立てて揺れた。ゾンビ共が、入ってこようとしているようだ


(転移を使えばいいのに)


さっきは、転移を使った割には、今回は、扉を開けようとしている。


(つーか、鍵はかけてないけどな)


そんな事を考えながら、俺は、槍を構えた。その際に、死体を踏んでしまい


「うわっ!」


思わず声を上げたが、ミニアの言う通り追体験は起きなかった。


 そして、扉が大きな音を立てて開き、ゾンビ共が入って来た。


「うおおおおおおおおおおおお!」


俺は自然と、声を上げながら、敵に向かって行った。

以前にも述べた事があるが、ミニアの使い勝手は決して悪くなく、

「習得」で、使用できる槍術も中々の物で、

ゾンビ共を、次々と突き殺し、時に薙ぎ払っていく。

時には、


「トリャ!」


槍を投げつけ、複数のゾンビを、しかも頭部を串刺しにすることも。


 なおミニアも、「転移」が使えるので、投げた槍は、即座に手元に戻って来たし

加えて、ミニアには「透過」と言うスキルがあって、

それにより壁を、すり抜けるので、狭い空間でも槍を振り回すことが出来た。


 戦ってる間、ミニアは


〔もっと強く!力を入れて!〕


とか


〔いいわ、その調子よ。もっと強く突いて!〕


と叱咤激励を言い、更に敵を突き殺していると


〔突いて!突いて!突きまくって!〕


と声を上げた。


 やがてフロアの奥にたどり着いた。奥の方に階段が見えたが、

立ちふさがる様に、ゾンビではあるがこれまでよりも強そうな

まさに猛者と言ってよさそうな男女がいた。


〔ご主人様、ここはアーツで、一気……〕

「ああ、そうだな。」


アーツとは、体術や剣術いったもの全般を指す言葉だが、人によっては、

それらの奥義、或いは大技の事も、アーツと呼ぶ場合もある。

ここで彼女の言う「アーツ」とは、奥義の方で、まあ格ゲーの必殺技みたいなもの。

ただ武器自体の必殺技とは異なる。

この時、俺は一刻も早く、戦いを終わらしたかったので、使う事にした。


〔必殺技でも……〕


必殺技は、今後、取っておきたいので、


「インヘル・スティング……」





インヘル・スティング

とある槍術の奥義で、槍に炎を宿らせ、更に体術を加える事で

敵を倒す。




 俺は、奥義を使いたいと思っただけで、自然と、技名を口にし、この技が出た。

なお。この瞬間初めて知った技でもある。

技の前に、猛者のゾンビ共は、次々と黒焦げになって、倒されていった。


(自分が、自分じゃないような)


 「習得」で奥義を使うと、時々、何をしてるのか分からない事が有るが

強力なものになると、それが謙虚に現れるから、ふと、そんな事を思った。

今、俺に分かるのは、炎を宿した槍を振るっているのと、

敵が黒焦げになってる事だけ、気が付くと敵が全滅していて、

その事に対して感じる事はなかったが、


〔よかったわ……ご主人様〕


とミニアが言うが、言葉の語尾に、ハートマークがついてる気がした。


 俺は悶々としていた。言うまでもないが、ここまでの戦闘中、

ミニアはずっと喘ぎ声を上げていた。

先の彼女の言葉は、その中で出た物。最後の言葉だって事後にしか思えない。


(結局、ヤツに淫靡と言う餌をあげたようだな)。


 この後、俺は武器をクラウに切り替え、何とも言えない気持ちを抱えたまま、

先へ進んだ。

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