5「地下二階・パズルと殺人鬼たち(1)」

 階段は、何故か安全地帯。これはここに限った事でなく、

以前、俺が捕まった時の館もそうだったらしいし、

大十字たちと行動を共にした館も、同じ。大十字曰く階段は、安全地帯になる傾向があるらしいが


「絶対じゃないわよ。特に吹き抜けの階段はね」


とも大十字は言っていた。そう言えば、エントランスの二階への階段は、

正に吹き抜けで、攻撃を受けたわけじゃないが、不可解な現象が起きていた。


 階段は、さておき、俺には疑問に感じる事があって、クラウに聞いた


「そう言えば、この館、昨日は何ともなかったみたいなのに

何で、今日はこんな事に……」

《原因は、彼女が捕まった所為だと思いますよ》

「ミズキが?」

《この館と言うか、怨霊は、昨日まで力が枯渇していたんでしょう

まあ、彼女を捕らえるだけの力があったようですが、

そして捕らえた彼女の魔力なりを喰らい、力を取り戻したんですよ。》


 力が枯渇と聞いて、その理由はわかる気がした。


「枯渇って事は、噂が広がって、人が寄り付かなくなったって所か」

《そうでしょうね。取り殺す人が居ないので、力を無くしていった》


以前、ここに来た時の俺は、久々の客だったのかもしれないが、

暗黒神の力の所為で、何もできなかった。


 ただ、ここで大きな問題がある


「ミズキは、俺の『契約』で不老不死だよな。と言う事は、

無限に彼女の力を得ることが出来るんじゃ」

《確かに、力の枯渇は、無いでしょうが、怨霊の力が爆発的に高まってる気配は、

ありませんし、多分、全盛期の力を取り戻し、

維持するだけで精一杯なのかもしれません》


むしろ、俺の恐怖や、苛立ちから得られる力の方が、危ないらしい。


 そしてもう一つ、気になる事が


「なあ、俺は、ミラーカに勝てると思うか?」


もちろん、フルパワーでは勝てるのだろうが、現状ではどうか。


《楽は出来ないでしょうが、本気を出す必要は無いでしょう》


楽が出来ないと言うのは、少し気になったが


《マスターは、お強くなられました。ダンジョンでの戦いのお陰ですね》

「そうなのか……」


変化は、感じなくもないが、いまいち実感が無い。


《今なら、本気を出さぬとも、デモスゴード相手で……》


言葉に詰まるクラウは


《かなり、苦戦はすると思いますが……勝てるかと……》

「無理筋だと思う事は、一々言わなくても……」

《そんな事はありません。僅かでも可能性はあるのですから》


まあ、デモスゴードで苦戦なのだから、それを楽に追い詰める魔王ベルには、

まだまだと言うところ。余談であるが、「能力調整」で最低値が上がると、

自動調整による強さも上がるらしい。





 ベッドと椅子、机、その上には、女性を象った人形。

照明として火の付いた蠟燭を付けた燭台と、家具が最小限の部屋。

そこには、椅子に座っているミラーカ、彼女は手には、ミズキの鉄の箱があって、

弄っている。そしてベッドには、横になってるイヴ。壁に影の様なもので貼り付けになっているミズキの姿。


 ミラーカはミズキに近づき


「貴女って不思議ね。あれだけ命を吸い取ったのに、死なないんですもの」


ミズキは、虚ろな目で、ミラーカを見ている。


「もしかして、貴女、不老不死だったりして?」


ミズキは、答えない。


「ひょっとしてアイツも?」

「………」

「もしそうなら、困りますわね。ハダリーは、奴と契約しているようですし、

奴が死なねば、彼女は私のものにならない」


と言いながら、鉄の箱を弄る。


「なかなか開きませんわね」


ミズキを捕まえた時、彼女は、あの鉄の箱を落とした。

箱自体は幽霊でさえも、すり抜ける事の出来ないもので、加えて箱は秘密箱、

カラクリ箱で、特定の動作を行わないと開かないものであった。


 ミラーカは箱を拾った際に、中身もそうだが、その仕掛けに気づき興味を抱いた。

生前から、彼女はこういうパズルが大好きで、今は仕掛けを解く事に夢中で、

この後、良い感じに解けてきたこともあって、より夢中になっていった。







 階段を降りていると、下から、あのメイドが上がって来た。


「君は……名前は」


俺は自然と、そんな事を聞いていた


「ラウラ」


と答え、この後の階の事細かい説明を始めた。

聞いていて、正直面倒だと思いつつも、今回は長々と話すので、心配になって来て、


「君は、大丈夫なのか?」


と尋ねると彼女は、


「お嬢様は今、カラクリ箱に夢中ですから」


カラクリ箱と聞いて、それがミズキの箱である事に気づかなかった。


「最後は、中央の奥の部屋で……」


と言いかけた所で、彼女の体が薄くなりだし、


「マーカラ……」


と彼女が言った後、姿が消えた。多分、ミラーカに気づかれたのだろう。


 最後の言葉を気にしつつも、俺達は、地下二階へと降り立った。

そこは、地下一階とは異なり、フロアには特に何もなく、

綺麗なものだったが、逆に何もないことが、むしろ不気味さを醸し出していた。

ラウラの話に従い、フロアに入って右奥の部屋を向かった。


 また彼女の話しから、何が起こるか聞いていたので

取り敢えず武器は、フレイに切り替えとある弾丸を、セットし、

「周辺把握」では、反応は無かったが、警戒をしながら部屋に向かい。


「ここかな?」


特に何事の無く、ラウラの言っていた部屋に辿りに着いた

扉には、数字の1と翻訳される異世界の文字が書かれている。


 部屋に入ると、中は寝室の様になっていて、

大きなベッドやクローゼットがあったが、部屋の奥の壁には

これまた大きなスライドパズルがあった。


 ラウラは言っていた


「この階の四方にある部屋には、それぞれパズルがあります。それを決まった順番に完成させてください。」


順番と言うのは、フロアに入って、右奥の部屋から始まって、次は、反対側、

左奥の部屋に入り、次は上、次はその部屋から、右奥にと、4隅を一周し、

最後の部屋に向かう。


 早速、パズルを始めた。完成すれば、絵が完成するみたいであるが


「面倒そうだな……」


大きいから当然ピースも多いし、加えて俺はパズルが苦手である。

その事を、此処に来る前に、クラウ達に伝えると、


《でしたら、私にお任せを……》

〔私も、パズルは得意よ〕

<………>


フレイは、自信が無いのか、無言だった。


 そしてパズルを前にして


《少し、お待ちを……読めました。》


以後、クラウの助言で、パズルを進めた。

しかし、「お任せ」と言われたが、彼女はピースを動かせず、

実際に、動かすのは俺なので、面倒な状況には変わりがない。


 それに、一番の問題がやって来た。


<お客さんよ。ベッドの下にいるわ>


「周辺把握」でも確認できている。転移なのか、ソイツは突然、現れた。

俺は、一旦パズルをやめ、ベッドの方に向けて、銃を構える。

しかし、「お客さん」とやらは、なかなか出てこない。


(下に直接、撃ち込んでみるか……)


すると


<『誘導』の利きが悪い弾から、少し近づいて、しゃがんで……>


と言いかけて


<あっ、止まって、何かしようとしてる>


ベッドの下の奴は、これ以上進むと、襲って来るって感じだな。


「殺傷能力が低くてさあ、『誘導』の利きが良い弾ってある」

<BB弾って奴があるけど>

「じゃあBB弾で」


弾を切り替え、ベッドの下に向けて撃った。


 すると


「キャッ!」


と言う幼い少女の声がしかと思うと、ベッドの下から


「キャハハハハハハハハ!」


と言う、なんとも甲高い笑い声をあげながら、少女が飛び出てきた。

ミラーカと同い年程度で、随分ボロボロな服を着ている。

髪は、ぼさぼさのロングヘヤー、その手には、本人の身の丈よりもずっと大きな

長剣が、握られていた。そして、その表情は笑顔であったが、

狂気じみていて不気味だった。


「キャハハハハハハハハ!」


 少女は、狂気の笑顔で笑いながら、剣を軽々と振り回し、

素早い動きで襲い掛かって来た。


「クッ!」


避けられず、片腕で攻撃を受け止め、そのまま押し返したが、

かなり重たい一撃だった。多分、俺じゃなかったら、真っ二つだろう。


 俺は、銃を構えると


「鳥もち!」


正式には粘着弾だそうだが、鳥もちでも通じていて、

弾を切り替え、BB弾の前は、この弾だったから、正確には戻して彼女に撃った。

着弾と共に粘着性の物体が現れて、少女を拘束した。


 少女は、一階のミイラメイドたちや、さっきの階のゾンビと同じく

この階の敵と言うべき存在で、あと神出鬼没。一応亡霊だが、

ホラー映画に出てくる不死身の殺人鬼と言ったところで、ラウラも


「この先の階には、三人の殺人鬼が居ます」


と言っていた。そして、少女を含めた三人の詳細、

風貌とどんな事をしてくるか等を話し、


「奴らは、致命的な攻撃を与えても、少しの時間で復活します。

ただ、復活の度に、奴らは強くなっていきます」


 あと「魔力吸収」も持っていて、現状でも十分な手練れなので、

戦って倒そうとせずに、逃げた方が賢明との事。


「ある程度、離れたら、追ってきません。そこまで逃げきれればですか……」


要は逃げるのは容易じゃないと言う事、まあ、さっき様子で実感できた。


 鳥もちを使ったのは、足止めの為、今は、パズルの邪魔を防ぐためでもある。

なお、気絶はしないとの事なので、「斬撃」0等は無意味。

相手の動きを、封じたので、パズルの続きを始めたが、少しして、


「キャハハハハハハハハ!」


という彼女の笑い声がしたので、そっちの方を向くと

彼女が、拘束を解き、剣をこっちに向かってきていた。


「ヒィ!」


二度目であるが、狂気に満ちた笑顔で、襲い掛かってくる彼女が、

どうも怖くて、自然とそんな声が出つつ、俺は避けたが、


「しまった!」


俺が避けた事で、彼女の剣がパズルに当たってしまった。

するとパズルは、最初の状態に戻った。

そう彼女たちの攻撃が、パズルに当たると、リセットされて、

最初からやり直しになるのだ。


「キャハハハハハハハハ!」


なおも襲い掛かってくる少女に、鳥もちを撃ち込み拘束。


《マスター、ここはいったん離れて、他のパズルに手を付けられては?》

「でも順番が……」

《順番は、あくまで完成させる順ですから、手を付けるのは問題ないかと、

それに、ここに居ては、また邪魔されますよ》


あとラウラの話では、殺人鬼は、あくまでも俺を狙うのであって

パズルを狙うことは無いそうだ。


 俺は一旦、部屋を出た。そして、ある程度離れ、

「周辺把握」で敵の状況を確認すると、拘束を解いたようで

動きは始めていたようだが、こっち来ることは無く、迷っている様な動きの後、


「消えた……」


その通り、反応が消え失せてしまった。


〔一旦、引いただけね。絶対また来るわよ。私の勘だけど〕


俺もそんな気がしていた。

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