3「一階・苛立ちと恐怖」

 襲い掛かるミイラメイドを、「習得」による剣戟で、

片っ端から切り裂いていく。大人数ではあったが、はっきり言って雑魚であった。

何度か掴まれたが、簡単に振り払い。更に身体が勝手に、

アクロバティックな動きをし、敵を避けつつ切り裂いていく、

自分で言うのもなんだが、スタイリッシュな戦い方をしている。


 それでも、敵は大人数なので、面倒くささを感じつつ、剣を振るっていくと

何と言っていいか、身体がビクッとするような、そんな感じがした。


(この感じは……)


それは「使えそう」感じだ。俺は素早く


極斬嵐ごくざんらん!」


技名を叫び、剣を振ると、大勢のミイラメイドが、一瞬の内に切り裂かれた。




極斬嵐

剣を振るい周囲に無数の斬撃を発生させる技。

ただし発生場所をコントロールする事は出来ない。




ダンジョン以降、使えるようになり、グリフォンと遭遇した際に初めて使った

ベルの使っていたミサキ切りに似てるが、こっちの方が、斬撃の発生量は多い。


 元は、クラウの持ち主が以前に戦った女性剣士の技、

その女性は、異界人との事だ。あと「習得」の力によるものだから、

原理は、使ってる俺でも分からない。


 あと、これだけ単体で出すことは出来ず。「習得」を発動した状態で

剣を使ってると、偶に先に述べた「使えそう」感じが来て、

技名を叫ぶと、勝手に出る。この感じは、直ぐに消える。

なお最初に、「使えそう」という感じが来た時に、技名を含め、

使い方が頭に入って来た。いつでも使えるわけじゃないが、「習得」を使う中で、

一応任意で発動できる技である。


 極斬嵐は、偶にしか出ないから、


(今日はついてるのかも)


と思いつつも、先の攻撃によって、残り少なくなった敵を、サックリと倒して、

取り敢えず、彼女がさっきまでいた二階を目指して、階段を登ったが


「あれ?」


登りきると、何故か一階にいた。


《一階に『転移』されられたのでしょうか?》。


と自信なさげに言う。移動したのは確かだが、転移と言う感じはしないそうだ。


《まあ怨霊の館は、特殊な場所ですから、説明できない事が

当たり前に起きますね》


その後も、階段を上がったが、同じ結果だった。


《何度試しても、同じようです》。


 するとここで、切り裂かれ、倒れていたミイラメイドたちが、起き上がり始めた。


(もう復活し始めたか……)


戦闘中に、クラウから


《こいつらは、倒しても、時間が経ったら復活しますよ。

あのミラーカと言う怨霊を倒さぬ限りは……》


と聞いていた。まあ似たようなことは、経験済みだ。


 俺は、昔を思い出しながら、敵に手をかざし、


「バーストブレイズ!」


動き出そうとした、或いは、まだ倒れていた敵を燃やした。

灰にしてしまえば、復活はするものの、時間がかかる。つまりは時間稼ぎだ。

まあ最初から、こうしておけば良かったのだが、咄嗟に思いつかなかった。


《これなら、斬殺よりも、良い時間稼ぎになる。良い考えですマスター》

「他人の受け売りだがな」


かつて大十字も、同様に目的で、敵をパイロキネシスで、焼いたのだ。


 ちなみに、館自体は、かなり丈夫で、バーストブレイズは敵だけじゃなく、

館も巻き込んだにもかかわらず。飾ってあった美術品が壊れるくらいで、

館には傷一つない。


 とにかく、二階にはいけないので、一階の奥へと進んでいく。


「イヴが、やられたのは予定外だな」

《彼女も、あのミラーカに捕らわれたのでしょう。怨霊を倒せば、助かりますよ》


それは、解り切った事であるが、ただミラーカの言ってた「おかえりなさい」が

気になっていた。つまり以前、ここに「ハダリー」、つまりはイヴが居たと言う事。

まあ、館の状況から見て、裕福な家庭である事は、間違いないから

家政婦として、自動人形を購入していてもおかしい事じゃない。


(もしかして、『ハダリ―』の所為で、不幸になった家庭なのでは?)


そんな事を思ってしまった。

 

 まあ、彼女の口調から、恨みを抱いてるとも思えないから、『ハダリ―』の所為で死んだわけじゃないようだが、しかし、攫って行ったって事は、

執着がある訳だから、あながち無関係でもないのかもしれない。


(まあ、危害は加えないだろうとは思うけど……)


ミズキはともかく、イヴの方は心配だった。


 さて、この後だ。「周辺把握」で、建物の見取り図は分かるが、

時折変化して、どうも不安定だ。その上、廊下を歩いていると、いきなり、


「うわっ!」


突然、背後から首を掴まれた。自動調整が働いて、息苦しさはないが、

それなりに腕力があって、引き離せず、身動きが取れなくて難儀した。


「このっ!」


背後に向かって、クラウを突き刺す


「ぎゃあ!」


と言う悲鳴と共に、首が自由になる。そして、剣を引き抜きつつ振り返ると、

壁に掛けられた絵から、男のスーツ姿の男の上半身が出ていて、

苦しそうに悶えている。なお顔は骸骨であった。


 こいつは、疑似魔獣の様に、突然出現した。クラウの感知でも、

事前に察知することは出来ないとの事。

直ぐに復活するであろうが、取り敢えずトドメを刺しておき、その場を離れた。


 他にも、突然、背後から、ミイラメイドに斧で襲われる。

同じくナイフで、刺してくる。さっきと同じ様に、首を絞められる。

あと顔面に鈍器。

 

 斧やナイフは、鎧を貫かなかったし、首絞めは、絵の男と同じ、

顔面への攻撃は、鎧越しであったが痛かったものの、

どれも、鬱陶しいくてイラっとしたが、大したことじゃない。

ただどれも、事前に察知できない。つまりスキルを掻い潜っての

奇襲だったので、避けられないし、その度に、驚かされる。


「しかし、どうするか……」


「周辺把握」等のスキルが、役に立たない現状ではどう行けば、ミラーカの元に、

たどり着けるか、皆目見当がつかないのだ。


《たどり着けないはずはないのですが……》

「そうだな……」。


 大十字から聞いた彼女の体験談であるのだがこの様な、幻と言うか、

住処を作っている怨霊は、必ず自分の定位置があって、

時折、移動する事はあるが、基本的に、そこに居て、力を、通路を使い、

循環させ、館を維持している。だから、必ず怨霊の居所まで、

通路が存在するという。これは、この世界でも同じらしい。


「当たって砕けろって事だな」


 もちろん、その通路は、大体は隠し扉か、簡単に壊せる薄い壁などで

隠されてる事が多い。強靭な壁でもない限り、塞いでいても力が通るからだ。

たとえ隠されてない場合でも、強力な門番がいる事がある。

とにかく楽は出来ないと言う事。


 さて見当がつかないとなると、総当たりしかない。廊下はおかしな部分は無いかを注意して周り、部屋は、片っ端から開けて、中を探った。


 しかし、部屋の中は、廊下以上に危険に満ちている。部屋に入ると

扉は勝手に閉じて、家具やらが飛んでくるポルダーガイスト、

ミイラメイドの待ち伏せに、ネグリジェを着た幽霊に、

同じくネグリジェを着たミイラ。

 

 このミイラは、素手で襲い掛かって来て、バーストブレイズで燃やしたが、

最初、コイツはベッドに寝ていて、部屋を見渡していて、丁度、ベッドを見た瞬間、起き上がって来たのだその起き上がり方と言うのが、ホラー作品特有の

直立状態での起き上がりで、死体がカっと目を開けるシーンと同じく、

これが苦手で思わず


「ギャアアアアアアアアアアアアア!」


悲鳴が上げてしまい、腰も抜けた。そしてバーストブレイズを使った時も

半ば、パニックの中だった。そんな中で、敵は倒したが、


<まったく情けない>


とフレイから言われてしまった。


 そして触手。こいつは、ある部屋に入った時、奇襲で、上から襲ってきて

体に絡みついた。触手自体は柔らかく「自動調整」で腕力が上がってるからか、

自由には動けるが、ただ柔らかいものの丈夫で、引きちぎれず移動は出来ない。


 俺は、根元と思える天井に向けてバーストブレイズを撃った。

天井は、爆発したが、魔法耐性でもあるのか触手には、効果が無いようだった。

もちろん、剣も試したが、柔らかすぎて刃が入って行かない


「この!この!この!」


俺は、魔法も剣も駄目なら力ずくで思い、もがいたが、先も述べた通り丈夫で、

かなり難儀していた。おかげでイライラする。

あと触手は何でか、俺の鎧を脱がそうとしてくる。

まあ、この鎧は、他者に簡単に脱がせれるものじゃないので、

向こうも難儀してるようだった。


《あの……僭越ながら『燃焼』を使ってみては?》

「!」。


 スキルの事は、思いつかなかった。剣に炎を宿し、触手の一つに充てると

黒焦げになって、千切れる。同様に、巻き付いている触手を次々と燃やして、

俺は、触手から解放された。


《魔法は駄目でも、スキルならと言うのはありますからね》

「助言、ありがとう……」


正直なところ、もう少し、早く教えて欲しかったと思った。

すると、心が読まれ


《すいません。私もすぐに思いつかなかったもので……》


と申し訳なさげに言われると、悪い気がしてきて、


「こっちこそ、すまん。」


と謝る。


 その後、隠し通路があるかもと、時折、壁を叩きつつ、進んでいた。

すると


「ミズキ……」


彼女は、廊下に突っ立っていたが、俺たちの姿を見ると、走り去る。


《マスター、騙されないで、あれは偽物です》

「分かってる」


鎧の「周辺把握」でも、あれが人間のものじゃない事を確認している。


 怨霊は、知ってる人間に化けて、人をだますことは、よくあるらしく、

俺の経験ではクラスメイト、大十字によると、過去に俺が捕らえられた時は、

俺に化けていたという。


 俺は、偽物の走って行った方を確認し、


(騙されねえよ)


と思いながら、反対方向に向かう。さっきの様子だと偽物を使って、

おびき出そうとしている様に、思えたので、

恐らく反対方向に、来て欲しくない理由があると思った。


(自分の元に通じている通路とか)


まあ罠に誘導しているだけで、こっちには、何もない可能性があるが。


 少しして、ものすごい音がしてくる。


《前方から、岩が転がってきます!》


こっちでも、確認していた。急いで引き返そうとするが


「ゲッ!」


反対側からも、岩が転がって来て、挟み撃ち、逃げ場なし。

バーストブレイズを撃ったが、岩は破壊できず。そのまま、岩と岩に挟まれた


「止まった……」。


 「自動調整」のおかげか、岩は、俺の体に触れた瞬間、動きを止め

圧死は、免れた。あと岩は押せば動くので、大玉転がしの様な感じで

移動は出来た。


(狭い……)


前に進むと、後ろの岩も、後を追って動くので、

結果、狭苦しい状態での移動を余儀なくされた。


(クソ、こっちも外れだったとは……)。


 とにかく、この狭苦しい状況で、引き続き廊下を進んだが


「あ~~~もう、イライラする」


思わずそんな事を口にしていた。


《このままじゃ、敵の思うつぼですね》


怨霊と言うのは、人の命だけでなく、苛立ちや恐怖と言った感情を喰らっても、

力を得るらしい。だから、ネグリジェのミイラ時の恐怖や、

触手を含めたこれまでの襲撃や、現状は敵に餌を与えているに等しい。


《何か面白い事が言えればいいんですが》。


 逆に、奴らにとって毒となるのが、笑い、享楽と言ったものである。

もちろん、薬とかそんなものに頼らない。心からの笑い。

それが最大の武器との事。しかしこの状況では、なかなか笑えない。


〔それじゃあ、私が面白い事、言ってあげる~〕


とミニアが名乗りを上げ、ギャグ言ったが


〔どう、面白いでしょう〕


確かに面白かったが、それ以上の変な気持ちになってしまった。


《ちょっと、貴女、なんて、いやらしい事を!》


ミニアのギャグは下ネタであった。


《逆効果ですよ。淫靡な気持ちも奴らの餌ですからね。引っ込んでてください!》

〔え~~~~~~~~〕


と声を上げつつもミニアは黙り込んだ。


 取り敢えず、先に進むと


「こっちです」


と言う声が聞こえた。


「今のは、」


その声は、ちょうど今から、確かめようとした壁の辺りから聞こえた。

壁を叩いてみると、他の壁と叩いた時の音が異なった。


(もしかしたら)


俺は、壁に向かって、バーストブレイズを撃つと、壁は壊れ、

その先に通路があった。俺は窮屈さから解放されたいと

言う事もあったので、奥に進んだ。


 奥には、地下に進む階段があった。


「上じゃないのか」


敵は、二階に消えたから上に進む階段があると思った。


《この先から、彼女たちの反応があります》


との事なので、俺は進むことにした。


《それにしても、さっきの声は一体?敵意は感じませんでしたが……》

「協力者かもな、こういう場所には、偶にいるらしい」


俺も、出会った事がある。


 とにかく、俺は、階段を下りていく、

そして奈落の底に向かっている様な気分を感じていた。

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