2「怨霊の館」

 深夜、覚ますミズキ、彼女は急だったので、寝衣を持ってきてはいない。

それはリリアも同様である。


「行かなくては……」


そう呟くと。ベッドから、起き上がり彼女は、メイド服を着用する。

なお和樹は、普段から寝衣を置いてあって、ベルは収納空間に置いてある。


 そのまま、彼女は部屋を出たが、その表情は虚ろで、

足取りもどこか、おぼつかなく、そのまま、ボックスホームから外に出て、

例の廃墟へと向かって行った。







 翌朝、その日は、ベルが朝食を作った。先の町で、手に入れたご飯に、

キラフィシとか言う、魚型魔獣の切り身の塩焼き、見た目も味も、

鮭の塩焼きだな、そしてコカトリス、実質の鶏の卵焼きに、

味噌汁と、和風な朝食で、もちろん美味しい。


 食べる時は、箸を使ったが、俺とベルだけでなく、リリアも難なく、箸を使う。

なおこの世界にも、箸は存在するが、俺のいる国は、食文化の関係上、

箸は一部の異界料理に欠かせないものの、あまり使われないとの事。


「貴女、箸の扱いがうまいですね」


とベルが何処か不機嫌そうな様子で訪ねる。


「ジムが、よく箸を、使ってて……」


リリアの話によると、彼女は、ジムと寝食を共にすることが多く、

そんな中で、ジムに、強制されて、そのまま使い慣れたとの事。

俺は、彼女が箸を使えるのは、一緒に暮らしていて知っていたが、

理由を聞いたのは初めてだった。


 なおベルが不機嫌そうにしている、理由は聞かなかったが、

おそらく、勝手にリリアが、箸を使い慣れてないと思い、

彼女を、困らせてやろうと、思っていたが、

予想に反して、難なく箸が使えるもんだから、悔しいんだろう。

なお俺とベルは、記憶を共有したとは言っても、全てでは、ないから

リリアが箸を使える事までは共有できてなかったと思われる。



 さて、食事を食べ言わる頃、気づいた事が有った。


「あれ?ミズキは?」

「そういえば、まだ起きて来てませんね」

「アイツ、無能の癖に、いつもは朝早いのになあ」


何か企んだのか、リリアは意地の悪そうな笑みを浮かべて、


「アタシ、起こしてくる」


と言って出ていったが、暫くして、落胆した様子で帰って来て、


「アイツ、居なかったよ」

「どういうことだ?」

「ベッドは、もぬけの殻だった」。


思わず、ベルの方を見ていた。


「私は何もしてませんよ。したくても出来ませんよ。絶対命令の所為で」


それもそうである。


「すまん、つい……」


と謝りつつ、その後、クラウの力で、彼女を探したが


《ボックスホーム内には居ないようです。外の方は範囲外なので、分かりませんが》


少なくとも、ボックスホーム内には居ないようだった。


「ちょっと出てくる」。


 俺はそう言って、クラウを抜き身にしたまま、転移で外に出た。


「?」


外に出た俺は、外の風景に違和感を覚えた。昨日と何かが違うのだ。

思わず俺は、周りを見渡し。


「あっ、館!」


昨日まで、ボロボロの廃墟が、すっかり綺麗になっていた。

外れていた窓ガラスは嵌められていて、扉もきちんと取り付けられ

壁にも蔦は無くなっていて、明らかに人が住んでいそうに見える。


「あの女は、見つかりましたか?」


と言ってベルが出てきて、


「何ですか、あの館?」


と館の事に気づき


「昨日まで、廃墟だったはずですよね?」

「ああ……」


この世界には、魔法があるから、


(一晩で、改装が出来る魔法があるかも……)


と思ったが、


《あれは、一種の幻ですよ》

「幻?」


とベルが聞くと


《あれは強力な怨霊の生み出した、実体のある幻です》

「ああ……」


 過去に、大十字絡みで、一見、立派な家が、実は怨霊の住処で

大十字が、その怨霊を倒すと、家が、一瞬で廃墟になったなんて事があった。

そういう奴だろう。


「それにしても、怨霊って……じゃあ、あの廃墟は、いわく付きだったのか」


同時にふと


(まさか、あの館にミズキがいるなんてことは……)


と思ったが、クラウに、俺の思ってる事が伝わってか、彼女は申し訳なさげに、


《残念ですが、彼女は、あそこにいるようです》。


その瞬間、脳裏に「最悪」と言う言葉か浮かんだ。


(関わりたくないな)


 怨霊と言うのは、避けようと思えば避けれるものだし、

余り積極的に関わるものじゃない。まあ今の俺は、問題ないかもしれないが、

正直、面倒な事には違いない。


 ここで、ベルが


「何を考えて、あの館に行ったんだか……」


と言ったが、ふとここで、きづいた事があった。


「お前、もしかして、クラウの声が聞こえてるのか?」

「クラウ?さっきから聞こえてる声の事ですか、

誰です?つい普通に返答しちゃいましたけど」


今日、初めての事のようだが、ベルにはクラウの声が聞こえるらしい。


《どういう事でしょうか?》


クラウも何故か分からないらしく、聞いてきたが


「俺が知りたいよ」


と答えるしかなかった。


 ベルには、声の主が、俺が持っている剣である事を伝える。


「その愛用の剣ですか、そう言えば、銃にも変形しますよね」


これまで一緒に仕事をしてきたが、クラウ達の事は話したことが無かったのと、

この事に関しては、記憶を共有してないようなので、これを機会に話した。


「七魔装ですか……私も、似たよう武器を持っています。

喋りはしませんが」


ちなみに、ベルは弱体している関係で、それらを含め多くの武器は使えないとの事。


 武器の事は、ともかく、問題はこの後だ。関わりたくないと思っても、

このまま、放置するわけには、行かない訳で。


「助けに行かなきゃいけないか……」


怨霊の館にいるわけだから、当然、平穏無事のはずがない。

一応、クラウ達は、霊的なものに対応できる。あと鎧も同じく。

そして、俺は「通信」でイヴを呼んだ。彼女も対応できる。

リリアは、分からないので呼ばない。


「では私も、行きます。」


とベルが名乗り出たが、


《先の戦いで弱られてるみたいですから、辞めておいた方が、

今の貴女では、マスターの足手まといですよ》


ベルは、悔しそうな顔はしたが、自覚はあるのか、反論しない。


 取り敢えず、俺とイヴで館に向かう。ベルは居ないけど

イヴの戦闘力は高いし、頼りになる武器もある。

ただ、相手は怨霊だ。かつてその恐怖を目の当たりにした俺としては、

不安を完全にはぬぐえない。


(それに、フルパワーは使いづらいし)


昨日の事を考えても、周辺は、光明教団の関係者だらけだろうから、

正体露見の可能性もある。


(最悪の場合、使わないといけないかも……)


 ここで、ふと思いつき、ベルに


「もし、暗黒神の力を感じたら、車に乗って、直ぐこの場を離れてくれ。

たぶん、人が殺到するから」

「でも、和樹さんは?」

「俺は、『転移』で後を追う」

「分かりました」。


 その後、ベルは、館を一瞥して、


「それにしても、何で、あの館に」


と先と同じことを言うが、ふと思い出して


「何でかは、知らないけど、昨日の夕方、外に出た時に

魅入られたんだろ」

「そう言えば、館の事を気にしてましたね」


 そしてベルは


「ホント、迷惑な女ですね」。


と憤慨するが、


「それじゃあ、俺も同じだな」


と思わず口にした。


「どういう事です?」

「俺も、よく怨霊に捕まった事があって、その度、大十字に助けてもらったもんだ」


俺も、今回のミズキと同じ目にあった事が、何度もあるのだ。

いつも奴らに魅入られた俺は、自分から奴らのもとに出向き捕まった。

木之瀬鈴子がストーキングを始めた頃には、そういう事は、

無くなっていたし、記憶の共有も、その頃からだったから、

ベルは知らないと思われる。


 ともかく、今回のミズキに対しては、複雑な気分。

一方、ベルは、俺の言葉に、バツの悪そうな顔をした。


 取り敢えず、俺は鎧を、今回は漆黒騎士の方であるが身に纏い、

イヴを戦闘モードにして


「じゃあ行ってくる」

「いってらっしゃいませ……」


ベルに見送られ、俺達は、館に向かい、扉を前にして


「ゴメンください」


一応、挨拶して、扉をたたいた。返答はない。


(やっておいて、何だけど、マヌケっぽい)


顔が熱くなるのを感じた。


(大十字の様に、いきなり扉を蹴り破る勇気は無いな)


扉は普通に開けた。なお鍵は掛かっていなかった。

しかし、中に入ると、当然と言わんばかりに「自動調整」が働き、

精神力が増加した。


 扉の向こう側は、随分と立派の玄関ホールであった。吹き抜けになっていて

立派な階段がある。以前、一夜を過ごしたのがここ、

その時は、何もない殺風景な場所で、階段もボロボロあったが、

今は絨毯が引かれ、壁には、随分と立派そうな絵に、

あと高そうな壺も置かれている。


《すべては幻ですよ》


とクラウは言う。


(しかし、人気は無いな……)


あるはずはない。いるとすれば幽霊だ。


 そして突如として


「ようこそ、我が屋敷へ」

「!」


そいつらは、ダンジョンの疑似魔獣の様に、唐突に現れた。

周りは、大勢のメイド、そして、階段の上、二階の方から、

ブロンドで、縦ロールの髪型、高そうな、ひらひらの、ゴシック&ロリータ的な洋服を着た、可愛らしい少女がいた。見るからにお嬢様って感じ。

この少女が、どうも声の主の様だ。


《見た目に騙されないでください。こいつらはこの世の者ではありません》


とクラウは警告する。確かに「周辺把握」では、こいつらは人間の反応じゃなかった

と言っても、魔獣でもない。何だか分からない存在になっている。

それが亡霊と言う事なんだろうか。


 そんな少女とは初対面のはずであるが


「久しいですね」

「えっ?」

「まあ顔合わせは、初めてですが、私はミラーカ・ファタルと言います」


と名乗った後、意地の悪そうな笑みを浮かべ


「以前は、お休みになれなかったようで……」


この一言で、少女、ミラーカは、俺が、この館で一晩過ごしていたのを、

見ていたであろう事に気づきつつ、


(もしかして、夜中に何度も、目が覚めて、自動調整が発生したのも

ミラーカが、多分、襲おうとしてたんじゃ……)


と思いつつも、


(鎧姿なのに、よく分かったな)


とも感じた。


 そしてクラウに


(ミズキの位置は分かるか?)


俺の方では、察知できなかった。


《この館にいるのは確かですが、具体的な位置は不明です》。


ここは、怨霊が作り出した特殊な空間故らしい。


《あのミラーカと言う少女が、親玉と思われます。彼女を倒せば、

この空間は消滅します》


そうすれば、ミズキの居所も、解るとの事。

俺も経験上、そんな事は分かっていた。


 俺は、先手必勝と思い、奇襲も兼ねて「通信」でイヴに攻撃命令を出した。

だが、直後、イヴが倒れた。


「どうした、イヴ」


さらに次の瞬間、彼女の体は影の様な物に包まれて消えた。

そして、ミラーカは、優し気な口調で言った。


「おかえりなさい。ハダリ―……」

「!」


俺は、彼女の方を向くと、既に、彼女の姿は無く、反応も消えている。

ただ、声だけが響く。


「さあ、皆さんお客様を、もてなしてあげなさい」


次の瞬間、メイドたちが、俺を囲んだ。


「なっ!」


さっきまでは普通だったその顔は、まるでミイラの様なものに変わっていた。

大十字絡みで、似たようなものは見た事が有るが、見慣れてはいない。


 俺は、クラウを構えた。「習得」は既に発動済み。

そして相手は、素手であったが、大人数で、襲いかかかって来た。

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