第15話「怨霊の館」

1「遠回り」

 ナアザの町への旅が始まった。フルパワーの転移なら一瞬だが、

せっかく向いた注意を、そのままにしておきたいから、転移は使わない。


 さて車での移動であったが、距離は思いのほかあって、

その上、昨晩は急ぎだったから地図を確認せず、車を飛ばした結果、

町と反対方向に進んでいた。更に道も整備されてない上に、先の戦いで、

森が無茶苦茶になって、当然、道も無茶苦茶になったので、遠回りになった上に、

加えて、食糧の買い付けがしたくて、

近場の町に向かった結果、余計に、遠回りになっていた。


 本来なら、食糧には余裕があったのだが、しなければいけない理由があった。

それは昼食時の事、イヴ以外のみんな唖然とした顔で、俺を見ていた。


「ふぅ……ごちそうさま」


食事を食べ終わると、ミズキが


「随分と食べましたね」


どこか、嫌味ったらしく言う。

テーブルには、俺が空にした皿が山の様になっていた。

昨晩は、特に何もなかったが、実は朝から異様に空腹で、

普段なら、満足の行く量の食事をしても、全然満たされない。

初めての街で、ステーキを食べた時と同じだった。


「足りないなら、まだ何か作りましょうか?」


と朝食の際に、ベルは言ってくれたが、

本能的に、残りの食糧を食い尽くしかねないと、思ったので、

食糧の買い付けに行く事になった。


 昼食を、食べ終わると、料理担当のイヴやベルに、


「大食いは、今回だけだから、次からは、いっぱい作らなくていいから」


と言っておいた。前の時と同じ様に、次からは元に、戻る気がしたからで、

実際、そうなった。


「つーか、さあ。何で、急に大食いなわけ?」


とリリアが聞いてきた。更に、俺と記憶の共有をしたベルも


「前にも、二回ほど似たような事が有りましたね。

そのうち一つは、五日ほど飲まず食わずだったからの様ですが」


と言う。


「多分、昨日、長時間、暗黒神の力を使ったから……」


するとベルは


「すいません……」


と謝る。とにかく、デモスゴードやダンジョンの時の様に短時間の使用だと、

何も起きないが、最初の時と昨日の様に、長時間、力を使うと、

どうも大食いになるらしい。


 遠回りなのは、昨日の戦闘と、俺の大食いの所為なので、

文句は言えないのだが、その後、もう一つ、ちょっとした問題が、

発生する事となった。それは、昼からの移動の際に始まっていた。

 

 最初、運転は、俺がしていてベルが助手席に座っていた。彼女がここに居るのは、

ボックスホームに彼女を残しておくと、何かを、しでかしそうで不安だったから、

まあ絶対命令で、それはあり得ないとは、わかっていたけれども、

不安はぬぐえない。まあ一緒に居ても不安ではあるが。


 とにかく、車を運転していると


「ふわぁ~~~~~」


と眠気を覚えたので、


「ちょっと、休む」


と言って、車を停めようとすると、


「運転、代わりましょうか?」


とベルが申し出た。

基本的に、カオスセイバーⅡは、俺にしか動かせないが、例外がある。

コイツには、「貸与」と言うスキルが存在する




スキル「貸与」

「契約」によって、使用制限がされている武器やマジックアイテムなどに

付与している事があるスキルで、「契約」している者が、指定した第三者に、

本来なら契約している者にしか使えない物が、使えるようにするスキル。

ただし、使えるものの制限が掛かっている事も多い。



なお、カオスセイバーⅡの場合は、本来の姿以外の形体でのみ、

第三者に、操作を任せること、つまり車の運転を変わることが出来るのだ。


 俺は、「貸与」でベルが、車の運転を出来るようにして、一旦車を停め

彼女が運転席に、俺が、助手席に座って、再度発進した。

ベルは、生前、車の免許を持っていて、運転技術も、悪くは無かったので、

ハッキリ言って快適で、俺は、彼女が、運転する横で、ひと眠りした。

暫くして、目が覚めたので、


「運転、変わろうか」


と言ったが


「大丈夫です。もう少し。休んでいてください」


元来、面倒くさがり屋、基本的、楽がしたい人間である俺は、

その言葉に甘えてしまった。


 そして、夕方近くになったが、


「あれ?」

「どうしました?」

「まだ森の中か……」


俺的には、森を抜けて、夕方には、この世界に来て、

最初に向かった街の辺りに着いていると思っていたからだ。

しかし、地図は、確認していたが、軽く見た程度なので

自分の見違いかとも思った。


 翌日も、


「私、運転しますね」


とベルが申し出たので、楽がしたい俺は、彼女に任せた。

そして、走行中は車窓から、外の景色を眺めていたが

森の中なのか、木々が並ぶだけの代わり映えしない風景が続いていたが


「!」


ふとある時、気づいた事が有った。最初は、偶然かと思ったが

その後も、続いたので、


「ちょっと停めてくれ」

「はい……」


彼女に車を停めさせ、一旦降りて、ある事をした


「どうかしたのですか?」

「ちょっとな」


それから、車に戻った後、移動を再開。しばらく走った後


「停めてくれ」


と再び車を停めさせ、降りて、あるものを確認した。

そして再び車に乗って、暫く走った後、また停めてもらい、同じ事をして、

数回、繰り返した後、同じ様に車を停めてもらい、俺が降りて、

確認をしていると、


「和樹さん……」


と俺の名を呼びながら、心配そうな表情で、今回はベルも車を降りてきた。

さて俺は、というと、折れて朽ちていこうとしている大木の前にいた。


「この木が、どうかしたのですか?」


俺は、単刀直入に聞いた。


「さっきから、同じ場所をグルグルとまわってないか?」


すると彼女は、気まずそうな顔で


「はい……」


と答える。そう彼女は、絶対命令で俺の質問には、正直に答える。


「どうしてだ?」


と聞くと、


「すいません、貴方とちょっとでも、長くドライブしたくて……」


つまり、道に迷ったとかではなく、ワザとである。


「もしかして、昨日、運転を変わってからか?」

「はい……でも、昨日は同じ場所を回っていたわけではないですよ」


彼女曰く、昨日は、遠回りをしていたそうだ。結局のところ足止めには違いない。


「どうして、分かったんですか?もしかして、その木と何か、関係が?」

「これ、見てみろよ」


俺は、木のある場所を指さした


「これって……」


それは、山と波をかたどった。S市の市章である。


「最初に、降りた時に、俺が書いた」


朽ちていた木に、石で傷をつけて、書いたもの。


「さっきから、この折れた木を、何度も見るからさ、

印を残しておいたんだ」


わざわざ、市章を書いたのは、ただ傷を付けたじゃ、分かりにくいのと、

後は思いつき、何か書こうか考えた時に、ふと思いついちゃっただけである。


「同じ木を見つけるたび、車を停めてもらって、印を確認してたんだ」


毎回、同じ印があるから、見間違いじゃないと気づいた。

とは言え、最初は、道に迷ったんじゃないかと思っていた。

まあ、カオスセイバーⅡには、「周辺把握」によるカーナビが付いてはいるが、

それでもお互い、元は別世界の人間だし、彼女の記憶から、

この辺に土地勘が、ないのも知っていたから。


 しかし、彼女の性格を鑑みれば、もしかしたらと言う気持ちがあった。

実際そうであったのだが、


「ここからは、俺が運転する」


ベルは、バツが悪そうに


「はい……」


とだけ答え、そして俺に運転を変わった。

しかし、これですんなり、先へ進めるかと言うと、そうは問屋が卸さなかった。


「はあ~~~~~しばらく足止めだな」


なんと渋滞に、巻き込まれた。ただ並んでいるのは、俺たち以外、

みんな馬車なので、俺達は、思いっきり目立つ事になり、時折、


「カーマキシか、珍しい」


と見物人が来て、鬱陶しかった。なお、並んでいるのは、馬車だけでなく、

人も同じで、車を降りて、歩いてと言う事は出来ない。

しかも、避けることは出来ない。なぜなら、カーナビによると、

周辺の道は、ほぼすべて渋滞しているからだ。


 原因は、衛兵が検問をしていたからだった。

それを知った時は、不安を感じたが、検問では、衛兵がカーマキシを、

珍しがってはいたが、サーチをされただけで、


「もう行っていいぞ」


とあっさり通してくれたので、不安は杞憂に終わった。


「何だったんでしょうね」

「さあな」


取り敢えず平穏無事に、済んだので、深くは考えたくなかったが、ただ先の戦闘が、影響している様な気がした。


 とにかく、ベルの遠回りと、渋滞のおかげで、森を抜け、

クレーターの辺りに来た時には夕方近くなっていた。

なお、先の戦闘の影響か、大勢の人間が集まって、調査の様な事をしていた。


 巻き添えになって、また足止めになりそうな気がしたので、

その場は素通りしたが、途中、休憩したいと思い。

停車させたのは、かつて一夜を過ごした廃墟の前だった。

そんなに前の事ではないが、ふと、懐かしさを覚えた所為であるが。


「ここは確か、貴方がこの世界に、来たばかりの頃、

一夜を過ごした場所ですね」

「ああ、そんなに前の事じゃないのに、妙に懐かしいよな。」


その廃墟は、ボロボロで、窓はガラスが無く、扉も片側が外れている

壁も蔦だらけ、中は荒れ放題、でもかつての立派さの面影が残る。

石づくりの家だった。

領主か貴族か、まあそれなりに地位のある人間の屋敷と言ったところ。


 ここで、突如背後から


「ちょっと、よろしいですか?」


と声を掛けられて


「「〇△◇×!」」


俺とベル、二人そろって、驚きで訳の分からない声が出た。


「そんなに、驚かなくても……」


声の主は、ミズキであった。後部座席が上に開き、

そこから、彼女が顔を出していた。ボックスホームには、普段使う出入り口とは別に

車内直通の、出入り口がある。いま彼女がいるのがそこ。

オリジンのカオスセイバーも、同じ様になってるらしい。


 ボックスホームへの移動は、転移を使えるし、

そもそも、場所的に、出入りが面倒から、普段は使わない。


「何で、そんな所から?」

「ちょっと、外の空気が吸いたくなったんです」

「普段の出入り口を使えばいいだろ」


ボックスホームの出入り口は、中からは誰でも開けられる


「走行中だと、危ないでしょう」


なお、走行中は開けられない。


「そう言えば、何でその場所、知ってるんだ」

「今日、オートマトンに食事を運ばせていたでしょう。」

 

渋滞中に、お昼になりそうだったので、思い立って、「通信」でイヴに連絡し、俺とベルの昼食、車内で食べやすいように、サンドイッチを作ってもらって、

車内への出入り口を使って届けてもらった。その様子を見たらしい。


「とにかく、外に出たいのですが」

「分かった」


車の構造上、外に出るには、運転席、又は助手席を倒す必要がある。

なので、俺は降りて、運転席を倒した。なお、俺も外の空気が吸いたかった。

俺につられる様に、ベルも外に出た。


 そしてミズキはと言うと、上手く出れなくて、難儀している様子。


「手助けはいりませんよ!」


ときつめの口調で言ってきたので、その通りにした。


 どうにか、外に出てきた彼女は、大きく深呼吸した。

一方、ベルは


「あの廃墟、直に見るのは初めてですが、何でしょう。気になりますね」

「気になる?」

「何と言っていいんだか、分からないのですが……」


気になる事が有ると言えば、あの廃墟で一夜を過ごした時、就寝中、

何度も目が覚め、その度に、能力の自動調整が行われていた位だろうか。

それ以外は、特に何もなかった。


「………」


ミズキも廃墟が気になるのが、黙ったまま、じっと見つめている。

しかし、何処か虚ろな目をして、心ここにあらずって感じで、そっちが気になり、


「ミズキ……」


と声を掛けると、ハッとなったように、


「何でしょう?」

「大丈夫か、さっきから、なんか妙だけど」

「特に何もありませんよ。ただあの館に、引かれてる様な気がしただけです」


 その後、もう夕方なので、そのまま、ここで一夜を過ごすことになった。

もちろん、カオスセイバーⅡのボックスホームでだ。

そして、翌日異変に出くわす事となった。

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