7「決着の時」

 この状況を前に


「ボスラッシュかよ」


と思わず声を上げていた。ミズキが横から


「知ってますよ。貴方の世界の、テレビゲームと言う奴ですね」


これまで戦ってきたボスとの再戦、ゲームじゃよくある展開だが

しかし、これも聞かされてはいなかった。

まあ、これも雨宮の頃に、なかった事なんだろう。


《アステリオスを覆う障壁は四体の魔獣たちによって維持されています》


クラウの見立てによると、本来なら一体で十分な所、

わざわざ四体で行ってるらしい。


《あの障壁を、破壊するには、四体の魔獣すべてを倒すか、

マスターが本気になって、直接破壊する以外になりません》


フルパワーは、障壁どころか、ダンジョンが木っ端微塵なので

ボスとの再戦しかない。


(ほんと、ゲームみたいな展開だな)


 取り敢えず、一体一体、集中して倒そうかと思ったが、


「ミノタウロスは、私一人で十分です」


と言って、彼女はミノタウロスに攻撃を仕掛けた。

彼女に、対抗するわけじゃないが、俺も一人で十分な気がして

結局、三人で手分けをすることにした。フォグタートルを俺が、

残りは、イヴに、まあ二体だが、元々が弱かったから、彼女一人で十分だろう。


 なお魔獣たちは、出現後、身動きしなかったが、

ミズキが、攻撃を始めると、待っていたかのように、ミノタウロスが動き始めた。

俺が、攻撃を始めるとフォグタートルが、イヴの時は、

残りの二体が攻撃を開始した。


 武器を、フレイに切り替え、透過弾を撃ち込む。前と同じく咆哮を上げさせ

開いた口に、今度は力を取り戻したバーストブレイズを叩き込んだ。

更に、ふと思い立って口を閉じかけた際に、透過弾を撃ってみると

その状況から再び口を開けた。そこで、透過弾で、口を開いた状態を維持させ、

攻撃を続けた。

 

 口を開けた状態では、攻撃をしてこないので


(なんかズルいかな)


と思いつつも、攻撃を続け、途中から触手の攻撃が始まる。

これは、口を開けたままでも、行われるので、

回避、或いは、触手の破壊を、しなければならなくなって

面倒にはなったが、それでも、透過弾と魔法による攻撃を続け、

途中から、二体の魔獣を倒したのかイヴも攻撃に加わり

丁度、弾が無くなる頃、


「プオォォォォォォォォォォォォ」


と言う、一段と大きな咆哮を上げて、フォグタートルは消滅した。

時を同じくして、


「グギャオォォォォォォォォォン!!」


と言う咆哮と、大きなものが倒れる音、その方を向くと

ミノタウロスが倒れていて、直ぐに消滅した。


「片付きましたよ。意外と弱かったですね」


と自慢げに言った。その言い方は、少しムカついたが

確かに、フォグタートルも弱く感じた。もちろん以前と状況は異なる。

前は、魔法が制限を受けていたし、透過弾も最初から使ってなかった。

あと俺たちがレベルアップしている事も、あるけど

向こうが、弱くなってると言う可能性もあるが。


(ゲームでも、ボスラッシュのボスって以前に比べ弱く感じるよな)


 さて、ボスとの再戦を制した直後、アステリオスのバリアみたいなものは

消滅し、魔獣は、右手の拳を地面に叩き使える様な

漫画とかでヒーローが上から、落下してきたようなポーズで地面に降り立った。


「グォォォォン!」


と魔獣が咆哮を上げると、両手には長剣を装備し、

更に両肩の上の当たりに浮遊する形で、球体が計二体、現れた。


「何だ、あれ?」


球体は、こっちに向かって光弾を飛ばしてきた。


「!」


俺たちは、回避行動を取った。


《無属性の魔法弾です》


魔法陣は見えなかったが、魔法攻撃らしい。そして魔獣は転移で接近してきて

剣を振るう


「クッ!」


クラウで受け止め、しばし打ち合いになり、

途中、俺に助太刀するためか斬竜刀を装備したクラウも加わり、

二対一であったが、近距離攻撃が、完璧な魔獣相手では押されていて、


《離れた方が、この剣戟を破るには、マスターが本気じゃないと》


との進言もあり、隙を見て、俺とイヴは、間合いを取った。


 しかし、離れても球体からの攻撃がある。


(また、遠近両用か、もう一回、溶岩に……)


すると、俺の考えてることが伝わったのか


<意味ないわよ、あの球体と剣は独立してるから>


俺は、あの球体と剣が、一体のものだと思っていた。

彼女の見立てでは、違っていて、たとえ剣を溶岩で、どうにかしても

球体はそのまま。それに球体は浮かんでいるから、

溶岩に落とすのは不可能に思える。


 そして、二つの球体は、魔法弾を乱射、正に弾幕であり

雨あられの様に俺達に、降りかかる。ジェヴォダの、メキドレインと同じ、

ただこっちは無属性であるが。


 もちろん避けるのが大変で、何発か被弾。


「イテテテ!」


鎧の上からなのに、何も着ていない状態で、

デカく硬い石を、思いっきり、ぶつけられたような痛みがした。

ダメージは、「修復」で治ってるようだったが、痛みは残った。


(『自動調整』でこの痛みじゃ、何もなかったら即死だな)


 敵の魔法弾は、狙いを定めず、弾幕を張るように撃っているのだが

こっちの、魔法などの遠距離攻撃は、明らかに狙いを定めで

確実につぶしてきた。


「攻守ともに完璧かよ」


 しかし、ここで朗報が


<読めたわ、アタシを使って!>

「えっ?」

<いいから、アタシで、あの球体を撃って!>


言われるままに、フレイに切りかえ、弾は通常弾して、銃口を球体の方に向けた


<あっ『雷撃』を付与して>


との事だったので、雷撃を付与しつつ、左の方の球体を撃った。


 魔法弾でつぶされるかと思ったが、見事に命中、すると攻撃が止んだ。


<よし、もう片方も>


「分かった」


俺は、敵の攻撃を避けつつも、もう片方の球体を撃った。

こっちも命中し、攻撃が止んだ。


<うまく行ったわね>


彼女によると、あの球体は、魔獣に対する遠距離攻撃は

いかなるものも感知し迎撃する事で塞ぐが、球体自体への攻撃は

魔法は全般であるが、物理やスキルによる攻撃は、

ある程度の大きさの物しか、感知しないので

弾丸は小さいので迎撃されることは無い。


 ただ当てることは出来ても、破壊は容易ではなく、「雷撃」で

一時的に、攻撃を停止させることしかできないとの事。

それでも、停止しているなら、妨害が無いので、魔獣に攻撃が通じる。

しかも今度は、背中だ。武器による防御は、難しいから

楽だと思ったが、攻撃が当たると、転移を使い、瞬時に振り返って

こっちに走って向かって来る。


(何で走って来る?)

 

 振り返る際に転移を使うくせに、接近の時は、走って来る姿は、

ツッコミどころであったが、それよりも、攻撃の度に、

相手の背後に、回らなきゃいけないのは面倒であった。


 その後は、球体が攻撃を再開するたびに、フレイで撃って、攻撃をやめさせつつ、

背中に、一定の攻撃を仕掛けると、次は右の角で、こっちは攻撃が当たっても

特に何もなかったので、楽であったが、魔獣の背中と角への攻撃には

ミズキは、参加せず。ずっと魔法の詠唱をしている。


(また、上位魔法を使う気だな)


今回は、随分長い気がするから、相当強力な物を使う気がする


(次、使われたら、彼女がDMに確定しそうだな)


だからと言って、「絶対命令」で邪魔はしない。

大人げないだけじゃなく、今使ったら負けな気もするからだ。

何というか人として、まあもう人じゃないけどさ。


 とにかく俺は、ひたすら攻撃を続け、角が折れ、

ミノタウロスと同じ


「グギャオォォォォォォォォォン!!」


と言う大きく、これまでとは違う咆哮を上げた。

まだ、攻撃する場所は、三か所残っているものの、

もしかしたらと思ったら


<今なら、アタシの必殺技で倒せるわよ>

《私の必殺技もありますよ》


ここは、ミズキに、先を越されないためにも必殺技で止めを刺す。

その前に、邪魔が入らないよう球体に銃弾を叩き込んでおき、

流れで、フレイの方を使う事にした


「セブンスブレッド……」


そして、フレイは発射準備に入った。


 この後は魔獣が、攻撃しようと接近して来たくらいで、あと転移も使って来ず

何事もなく、事は進み、発射準備は完了し、


(なんだか、順調すぎるな)


と思いつつも、イヴとミズキが、魔獣から十分離れてることを確認すると

俺は、フレイを魔獣に向け、引き金を引いた。

今回はひっくり返らなかったものの、直後、世の中甘くない事を知る。


 撃った直後、「周辺把握」で人の反応が現れたような気がした。

同時に


<しまった!>


と言うフレイの声、その後、周りは真っ白になるが、視界が戻ると


「そんな!」


アステリオスは健在だった。ただし無事ではなく、右半身は酷い状態で

右腕は右胸ごと吹き飛び、脇腹もげぐれている。右足も所々、抉れて

ボロボロの状態。顔も右は半分が焼けただれている。

そして左半身も、右ほどではないが無事ではなく、あちこち傷だらけ

疑似魔獣だから、血は流れてないが。

そして、右手の剣と、球体は、何故か二つとも、地面に落ちていた。


 アステリオスは、左側の剣を支えに、地面に膝をつき、動かなくなったが

消えないので、まだ生きてるようだった。


(おい、どういう事だ、倒せるんじゃなかったのか)

<そうだけど、誰か邪魔してきたの!>


何者かの邪魔が入って、軌道が逸れて、直撃とはいかず

大ダメージは与えたものの、倒すには至らなかったとの事。


(誰かって?)

《先ほど一瞬ですか。第三者の反応がありました》


確かに、俺も感じていた。


《他の二人とも、何もしていませんから、その者仕業かと》

(でも、ソイツはどこ?)

《分かりません、今はもう気配を感じませんが……》


ここで、突然ミズキが、詠唱を中断して


「残念でしたね。直撃していれば、貴方で決まっていたでしょう。

でもこれで、私が、ダンジョンマスターになれる」


と人を嘲るように話し、詠唱を再開する。


《防御スキルは、まだ生きています。倒すには、あと2か所ほど、

攻撃は必要です。場所は……》


場所を教えてくれたが、ミズキの魔法発動には間に合わない気がした。


(イヴの切り札が使えれば、彼女をDMにできるかもだが)


と思っていたら、


《まだ、私の必殺技が残っていますよ。》


七魔装の必殺技は、一回使うと以後、24時間は使えない。

ただクラウの言葉で思い出したが、回数は武器ごとに決まっているので

武器を切り替えれば、別の必殺技が使える。ただ


《生体タンクが空ですから、体力をかなり消費してしまいますが》


本来、必殺技は体力消費が半端なく、普通なら武器を切り替えて

必殺技を連続で使うこと難しい。


 これまでは、事前と言うか勝手に生体タンクに溜まっていた体力を

消費していたが、空なので、俺自身の体力を消費する事になる。

体力消費は、修復では治らないし、必殺技で倒すと

相手から体力を吸収できない。


 こんな状況であるが、疲れるのが嫌で、どうしようかと一瞬、思ったが


(もうこれで終わりだし、後は休むだけだ)


と思い、ミズキじゃないが、出し惜しみはなしで、行く事にした。

そして、武器をクラウに変更し、


「光刃絶斬……」


発動準備に入ったが


(そう言えば、必殺技使っても壊れないのか、このダンジョン)


フレイのを使った後であるが、ここで、急にダンジョンの事が気になった。

それに、前とは違って、技の威力が戻ってるかもしれない。

すると、俺の思いが伝わったのか


《大丈夫ですよ、この区画は丈夫ですから。》


とクラウが安心させるように言い


《マスターが、本気になられたら、一溜まりもありませんが》


と付け加えた。


 発動準備に入り、刀身は輝きを発し、重みを感じ、俺は剣を両手で持つ。

そして、剣から発せられる強い力を感じつつ、

更に身体全体に、活力の様なものを湧いてくる。


《魔獣のどこを切り裂いても、倒せますよ》


クラウの言葉の後、完全に発動状態に入り、気分が高揚し


「いくぞおおおおおおおおおおお!」


と自然と声をあげながら、俺は、アステリオスに向かっていった。

相手は、動かず防御もしない


「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


俺は魔獣を切り裂いた。すると目の前が真っ白になって、ものすごい轟音と


「グオォォォォォォォォォォォン!」


と言う咆哮が聞こえた気がした。


 そして視界が戻ると、剣は輝きを失い、アステリオスの姿は無かった。


「やっ……た……か?」


急に、疲れが襲ってきて、倒れそうになるが、剣で体を支えた。

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